転生したら殺人鬼ポジだった件 作:クリーニング黒兎
吉良が川尻浩作と遭遇した一方その頃、『影犬』を探していた仗助たちにフォーカスを当てよう。
その前にまずは彼らが「川尻浩作=影犬」だと知った経緯を話すために、時を遡る必要がある。
偶発的に生まれた
二人はそこで、一人の女と出会った。
綺麗な、と一概に片付けられない女の美しさは、辻綾に「こんな美しい人がこの杜王町にいるなんて…」と言われた由花子でさえ、思わず息を呑んでしまうほどだった。
対し康一は怖いカノジョがいるにも関わらず、一瞬でもその女に見惚れてしまった。
それに気づいた由花子は女にキレ、相手と一切話さなかった。
『私、幽霊なの』
女にはしかし足があって、普通の人間と変わらない。
そんなまさか──と思った康一に、女はイタズラっぽい笑みを浮かべた。
『死ぬ前の姿は見られたものじゃないから、いつもこの姿でいるの。人と話すのなんて久しぶりだわ…』
幽霊の女は、小道に
曰くこの道は、あの世とこの世の狭間。
行方不明者が多い杜王町では、亡くなった者の魂がこの道の頭上をよく飛ぶのだという。
「…あの、ちょっといいですか?」
康一は重ちーの話を切り出した。
この小道は正規のルートを通らなければ抜け出せない、と幽霊から教えられたため、もしや…と考えた。
果たして出た返答は、「YES」。
暗い表情を浮かべた女に、二人に緊張が走る。
『その重ちーくんって子は…
聞けば、三日前の日も更けてきた頃のこと。
ひどい形相をした少年が、この小道に迷い込んだのだという。少年は暗闇から迫る何かから逃げている最中で、
重ちーは錯乱気味に、大声で言った。
「犬ッ……犬だどォ──!!」
重ちーは学校帰り、例の如くスタンドを使って小銭を集めていた。
それだけ見れば、普段と変わらない日常だった。
ただ彼は欲を出し、いつも帰る時間を過ぎて小銭集めをした。
夏休みも間近で、欲しいゲームを前に欲を出してしまったのだ。
重ちーのスタンドの一体が公園の自販機に落ちていた小銭を拾っていた時、
ソレは影と影を移動するように、赤いランドセルを背負った一人の少女を追っていた。
影の移動は一定以上距離があるとできないらしく、時に遠回りをする。
必死に走る少女の前に、ソレは影から顔を出した。
真っ黒な犬の口から発せられたのは、
走っていた少女は驚き、誰かの名前を呟いた。その声は彼女の友だちのものだった。
【○○ちゃんなんか死んじゃえ!! 私の好きな男の子を奪った罰だ!!!】
その「○○」とは逃げている子供の名前だった。「何で、どうして」と少女は混乱する。その拍子に足をもつれさせて転倒した。
とうとう少女に追いついた黒い犬はガパッと、口を大きく開ける。
【○○ちゃんなんか死んじゃえ!! 私の好きな男の子を奪った罰だ!!!】
「い……いやああああっ!!!」
また同じ声が流れ、少女の顔は絶望に染まったまま頭からすっぽりと喰われた。
直後、耳を塞ぎたくなるような咀嚼音が静寂な世界に響く。
その様子をハーヴェストは自販機の下から見ていた。
しかして群体型のハーヴェストは、一体一体の感覚を本体の重ちーにフィードバックしているわけではない。
ハーヴェストの行動原理は、「本体が命令したとおりに行動する」ことである。
悍ましい惨状をその一体は目撃したが、そのことを重ちーは知らない。10円玉を抱えたハーヴェストはそのまま本体の元に戻った。カサッと茂みの音を鳴らしながら。
『?』
そしてその音に、犬は気づいてしまった。
「……あれ? 何だど?」
それから重ちーが金を回収している中、追ってきた犬が現れた。
だがすぐに重ちーは犬がスタンドだと判断し、ハーヴェストで応戦した。
『キャンッ!!』
鋭い歯で噛まれた犬は影へと沈んだ。
それでも影と影を移動しながら隙を見て、重ちーの腕へと食らいついたのである。
そこから分が悪いと判断した少年は逃げた。仲間に助けを求めて。
きっと仗助たちならば犬を倒してくれる、と。
だが犬の執念は恐ろしかった。
どうにかハーヴェストを使って逃げきった重ちーは、気づけば『小道』の中にいた。
安堵のしたのも束の間、犬は追ってきた。
「く、来るなだど……こっちに来るなだどォ────ッ!!」
こうして、彼は捕まってしまったのだ。
『これ…その子が落とした物よ』
あの犬に襲われれば、幽霊でもひとたまりもない。
ゆえにゴーストの女は身を隠した後、
それは小銭が入った小袋だ。重ちーのものと思しき血痕がべったりと付着し、赤黒い色をしている。
それを受け取った康一の表情が歪む。
「……絶対に許さない」
康一は重ちーととりわけ仲が深かったわけではない。
しかし仗助や億泰から話を聞くことはあった。守銭奴なところはあるが──、どこか放って置けないというか、まあ悪い奴ではないのだと。
「…聞いてたんだ、仗助くんたちから。重ちーくんは、両親想いの子だったって」
憎いようで、憎めない後輩。
宝くじの一件で痛い目に遭った仗助と億泰だが、それなりに重ちーを可愛がっていた。
それこそ、昼食を共にするくらいには。
「僕が、その犬を見つけ出すよ」
幽霊の女は力になれないことを詫びた後、二人を出口まで導いた。
『ここから先は振り返っちゃあダメよ。
女は手本を見せるように先に歩いてみせた。
そして二人が無事に出られた後、彼女は消えていった。一つの「お願い」を残して。
『君たちに頼みがあるの。もし「吉良吉影」という男に出会ったら、私がここにいることを伝えて』
「吉良…吉影? それって……」
康一は一度、その名を聞いたことがある。カフェで激情した露伴が、「吉良、吉影…!!」と親の仇のように言っていた。
星ノ桜花の本名であるそれは、作家本人に迷惑をかけてはならないからと、ひっそりと心の奥にしまったものだ。
先生の純愛ものを読んだ康一はその後ファンになり、サインを得なかったことをかなり後悔した。ちなみに由花子も星ノのファンだと判明し、最近は休日に二人で映画やドラマを鑑賞している。
『おねがいね』
微笑し、女は消えていった。
女の名前を聞き逃した──と思うと同時に、そこで康一は本当に彼女が幽霊だったのだと自覚し、阿鼻叫喚とした。
⚪︎⚪︎⚪︎
康一と由佳子が小道で幽霊の女と出会った翌日。『影犬』の情報が仲間内で共有された。
この場にはジョセフもおり、離れた隅の方で徐倫や赤ん坊と遊んでいる
話し合いの中では影犬の能力について意見が飛び交い、考察がなされる。
また昨日得た重ちーの目撃情報についても、承太郎の口頭で伝えられた。
目撃情報の入手が遅かったのは、ハーヴェストを使って逃げた重ちーが壁や屋根など、人目のつきにくい場所を移動していたからだ。
そのため目撃者を探すのに手間取った。
「
能力については噂を元に、「人の願いを叶える」ものだと考えられた。
もしその力が本当の場合、影犬はどうやって人の願いを受けているのか?
スタンドを飛ばし人の──例えば「金が欲しい」という話を聞き、叶えているのだろうか。
ただ噂の中には、『人を不幸にする』という部分がある。
「……もしかしたら願いを叶える代わりに、何か頼んだヤツからもらってんじゃねェのか? 金とかよォ」
そう言ったのは虹村億泰で、承太郎はこれに一理あると判断した。
代価として何かを受け取っている可能性は大いにある。等価交換というやつだ。
でなければ、「人の願いを叶える」というのはあまりにも都合が良すぎるし、能力が強すぎる。
また叶えられる願いの“限度”も存在するはずだ。
重ちーが襲われたことにもきっと理由がある。
今までその
「願い」の中には、誰かを殺害することを頼んだ者もいたはずで。
重ちーは
「……私、恐ろしいわ」
静寂となった場に、顔を青白くした由花子の声が響いた。
重要な影犬の捜索に関してであるが──。
幽霊の女の証言から、犬は影と影を移動するらしい。
しかしなぜスタンド使いではない幽霊の女が、スタンドである『影犬』を見えたのだろうか。これは由花子の髪と同じ、「物質同化型」の一面があるからかもしれない。
「物質同化型」は対象の物体を本体が操っているだけで、普通の人間でも視認することができる。
影犬も影と同化しているからこそ、人に見えるのだろう。
影の中に入られては攻撃ができない。しかし、向こうも攻撃する時は影から出てこないといけない。
今回の戦いは接近戦となり得る。
ただ、数の多い仗助側が有利か──と思われそうだが、そう簡単な話でもない。
何せスタンドを影犬に食われてしまうと、深刻なダメージを受ける。
スタープラチナやクレイジー・ダイヤモンドが有する【スピード-A】並がなければ、いざという時反撃も難しいかもしれない。
とまぁ、遠距離型で戦えば有利であるが、間合いに入られてしまうと防御手段がなく殺られる。
逆に近距離でも、相手よりスピードがなければ殺られる。
戦闘には細心の注意が要求されるだろう。
「オレのこのザ・ハンドで、必ずテメェの仇はとってやっからよォ、重ちー……」
「「「………」」」
「……エッ? 何でみんなしてオレのこと見てんだよ…」
意気込みは十分でよろしいのだが、脳筋過ぎるせいでひとしおに心配を抱かせる男である。
一先ず影犬は制圧可能だと判断された。
相手は人の「願い」が発生すれば驚異的な存在となる。
だが逆に言えば、「願い」ありきでしか、その恐ろしい力を発揮することができない。
「各自捜索する場合は、複数人で行動するように。見つけたらなるべく俺か仗助を呼べ。また幽霊の女の情報から、敵にはハーヴェストによって負った傷がある。身体の複数の部分に怪我をしている人間や、影がない人物を見た場合は本体の可能性があると考えて欲しい」
その承太郎の言葉に皆うなずき合い、場は解散となった。
それぞれ決意、あるいは暗い面持ちで去っていく中、仗助は小銭袋を握りしめた。
父親譲りの蒼い瞳の奥に潜む、黄金の精神。震える仗助の肩に、彼より大きな手が触れる。
怒りに震えているのか? ──と、承太郎は仗助の表情を窺った。
「…俺、守るって……じいちゃんと約束したのに…」
仗助の心に重くのしかかるのは、かつて承太郎やジョセフが通った道だ。
大切な仲間を失う。
しかし皮肉にも、その喪失を経て
「許せねェ……」
呟かれたその言葉は敵に向けたものであり、彼自身に向けられたものでもあった。
仗助は視線を上げ、自分より上背のある男を見つめる。
「俺が絶対に犯人を見つけます。この杜王町を、守るためにも」
承太郎はその時初めて、ジョセフが口うるさく言っていた言葉の意味を理解した。
強い正義心は人々の心を星明かりのように照らし、彼らの影を地に刻ませる。
だがその美しさは同時に、危うくもある。黒い海に映る月の影法師のごとく、水面が揺れる度にその姿が崩れてしまう。
「お前には仲間がいる。くれぐれも無理するんじゃあないぜ」
そう言った承太郎に、赤ん坊をあやしていたジョセフから「お前もじゃがの」と冷静なツッコミが入る。
しかしてこの三人が三人、それなりに無茶をしてしまう人間の集まりだった。
そして、仗助が去った後。
残ったのは学者と老人、それと赤ん坊に、遊び疲れて寝落ちした少女だ。
「それにしても康一くんが言っていた女性の幽霊とは、誰だったんじゃろうな。聞き逃してしまったが…」
「それは後ででいいだろ、ジジイ。今は犬の方を探すことが優先だ」
「まぁ、それもそうじゃな」
承太郎は「ムニャムニャ……ダディ…」と呟く娘を抱っこしながら、一つの可能性を考える。
『小道』が存在するその場所。
そして────「吉良吉影」に、自分がその場にいることを伝えて欲しいと、幽霊の女が頼んだこと。
名前については康一が聞き損ねたため不明のままだ。
容姿についても承太郎は聞き忘れていたが、その女の幽霊が誰なのか、吉良吉影を調べていた彼ならば想像がつく。
今あの男がこの杜王町にいない情報は入っている。
何か、調べている。それはこの場にはいない(康一から旅行に行ったらしいと聞いた)岸辺露伴も同様だろう。
白学ランの下にベストと黒のタートルネックという夏にケンカを売る男の頰から、汗が伝う。
地面に落ちた水滴は、アスファルトへと吸い込まれていった。