転生したら殺人鬼ポジだった件   作:クリーニング黒兎

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爆笑しながら書いたシーンがある64話です、どぞ。
あと三章長くなりすぎてるので、犬神編を区切りに四章付け加えました。


64話 ぼくのパパはパパじゃない

「あなたどうしたの、その怪我ッ…!?」

 

 その日は、川尻家にとって代わり映えのない一日で終わるはずだった。

 一波乱が起きたのは、夕方ごろ。川尻浩作が帰宅してから始まる。

 

 

 夫を心配するしのぶの声に、二階の自室で宿題をしていた早人は気づいた。

 

「玄関からママの大声が聞こえたけど…どうしたんだろ?」

 

 早人は部屋を出て、階段の上から顔を覗かせた。

 

 しのぶは革靴を脱ぐ夫の後ろに立ち、顔を青ざめさせている。

 

 

「…!」

 

 

 浩作の白スーツに所々血が滲んでいる。

 

 腕や足など怪我は複数に及んでいて、いつも無表情な男の顔も血の気が失せていた。

 つまり、それだけ血を流しているということだ。

 

 ただ、思ったよりもしっかりとした足取りで川尻はリビングに向かった。

 

 

「…パパ、どうしたんだろ?」

 

 

 

 川尻は病院には行かず、しのぶに手当てしてもらっていた。

 

 夫に愛想を尽かしていた女も、流石にちょっとどころではないケガを見れば心配もするようだ。

 

 早人は嫁の視線も気にせずロボットのように夕食を食べ始めた父親に、例えようのない不気味さを感じた。

 

 

 今日起きたこの出来事が、少年に「何かがおかしい」と思わせるきっかけになったのだ。

 

 

 

 思い返せば早人の物心が付き始めた頃から、父親は家族に関心を持たなくなった。

 

 彼がまだピカピカの新入生だった当時、学校の授業で描いた家族の絵を見せたこともある。

 

 だが浩作は一瞥しただけで、何の反応もなかった。

 

 

 

 それからは早人は父親に愛情を求めなくなった。

 

 夫の冷たさを受けて同様に家族に関心を持たなくなった母親にも、愛情を求めなくなった。

 

 愛情を求める分だけ自分が辛くなってしまうからだ。

 

 だが、両親の大学の同級生である「吉良」という男から二人の学生時代の話を聞き、彼は自分が「両親に愛されて生まれた子供なのだ」と知ることができた。

 

 それは吉良が川尻宅に襲来した後、不器用ながら早人が作った料理をしのぶが食べたことで、より強固となる。

 

 

 ────あんたヘタね、みてくれも悪いし。まぁでも…初めてにしては、頑張った方なんじゃない?

 

 

 そう言い微笑んだ彼女の顔は確かに、「母親」だった。

 

 自分がずっと希求し、諦め、遠ざけていた理想。それが叶った時、早人は自分が「愛されている」のだと自覚することができた。

 

 

 彼はその時、()()()()()になれたのだ。

 

 

 

 だからこそ川尻早人は幸福な日々のためならば、自分が危険になることを惜しまない。

 それは両親の過去を知った上で、()()()()()姿()()()()()()()()()()()()()()()姿()も相まって、より強く決意させる。

 

 父は何か隠している。それも世間にバレればかなりまずいことだ。でなければ病院を拒まないだろう。

 しかし隠し事がどういった類なのか、それが犯罪に関わるものなのかはまだわからない。

 

 

(ママは、ぼくが守る────)

 

 

 川尻早人の精神はこの時、黄金色に輝いた。

 

 食事が終わった後風呂に向かった父の背を見つめ、彼は早速行動に移した。

 その前にまず皿洗いを手伝って、洗濯物を畳むしのぶを確認してから下着を持ち、浴室に向かう。

 

 

 最初は父親の行動を探り、その秘密を探っていくべきだろう。

 

 その一歩として臨んだのが親子風呂である。

 

「あっ」

 

 服を脱いだ早人は意を決して、曇りガラスの扉を開こうとした。

 

 しかし「父親と一緒に風呂」という初めての体験(少なくとも自分が覚えている限りでは)を前にして、緊張からちょっとだけしか扉が開かなかった。

 

「………?」

 

 浴室に浸かっている浩作が、ジッと早人を見ている。

 

 サラリーマンになってから十年以上。しかしその体は筋肉で引き締まっている。

 低身長ショタボディ、さらに顔も声も中性的な息子とはえらい違いだ。

 

 だが見逃してはならない。

 

 

 浩作の体にある、()()()()()()()()()()()()()()()()を。

 

 

「「………」」

 

 

 両者無言。今の早人は絵面だけ見たら覗き魔だ。

 

 

(だ……大丈夫だ。落ち着け、僕……)

 

 

 早人は深く深呼吸し、扉を押しやる

 

 浴室には風呂から沸き立つ湯気が内部に漂っている。

 その煙が開けられた扉から外へと逃げるように漏れ出た。

 

 

 

「お、お風呂いっしょに……入っても……

 

 

 ……いいかなぁ〜〜っ? 『パパ』!? 偶には親子水入らずで……」

 

 

 

 カコォーンと聞こえた、ししおどしの幻聴。

 

 無言で湯から上ろうとした父に、早人は慌てて背中を流すことを提案する。

 

「ほ、ほら、座ってよパパ! ぼくが洗ってあげるから!!」

 

「大じょ──」

 

「いやぁお客さん、いい体してますねェ〜〜ッ!!」

 

 結局浩作はなすがまま背中を洗われた。早人は父の身体にある傷に気をつけながら、記憶に焼き付けるように広い背を見つめた。

 

 

 

 

 

 

 

 ⚪︎⚪︎⚪︎

 

 

 それから数日間、早人は父親の部屋に監視カメラを仕掛けたり、日頃のちょっとした行動──革靴の履き方や食事を取るとき先にナイフを取るのか、フォークを取るのかなど──に至るまで、細かに観察した。

 時折感じる視線に浩作が首を傾けることもあったが、そこは「パパともっと仲良くなりたくて」と誤魔化した。

 

 

 また父の体にあった傷についても調べた。平日の午後、訪れたのは図書館である。

 小学校は夏休みに入っていたこともあり、人も多かった。

 

「動物の本は…」

 

 浩作の傷は人間に負わされたものではなく、動物に噛まれたような傷だった。

 

 傷口は小さい割に鋭くエグられていて、犯人はかなり小さな生き物だと考えられる。それもおそらく硬貨より少し大きいくらいのサイズだ。

 

「いないよなぁ…そんな動物」

 

 

 分厚い本を閉じ、早人は新たな本を取りに行くがてら、読んでいた本を戻しに向かった。

 

 彼の腕に積み重なるブックタワーは不安定に揺れる。そしてちょうど曲がり角に差しかかった時。

 

 

「「あっ」」

 

 

 宙に本が舞う。

 

 尻餅をついた早人は思わず、投げ出された本から身を守るように体を縮こまらせた。

 

 しかし痛みは襲って来ず、気づけば床に積み重なるようにして本が置かれている。

 

 早人が呆然としていると、ぶつかった人物から声がかけられた。

 

「ごめんね! 君、大丈夫?」

 

「…あ、う、うん。ごめんなさい」

 

 高校生に手を引かれ、早人は立ち上がる。

 

 目の前の高校生の身長は彼よりは大きいが、平均からすればかなり低い。

 

 髪の色は銀か、クリーム色に近い。逆立った髪は紛うことなきスーパーなS人。

 まさかブリーザによって滅ぼされたS人の生き残りがいたのは、よもやよもやだ。この男もまた、ズルズルボールを集める旅をしているのだろう。

 

 

「あの、怪我は大丈夫ですか?」

 

「えっ? あぁ、僕は大丈夫だよ。夏休みの自由研究かな? 本を運ぶ時は気をつけてね」

 

 

 そう言い、高校生は去っていった。

 不思議な雰囲気の男だった。そこで早人は本来の目的を思い出すと、本を戻しに向かう。

 

 その後も調べたが結局該当しそうな動物は見つからず、日が過ぎていった。

 

 

 

 

 

 そして、父親が怪我をしてから一週間以上経った、ある日の夕方。

 

 

 友人と遊んでくる──と母に告げ、早人は駅の方向へ向かった。その近くには浩作の勤めるカメユーがある。

 

 ここ最近はずっとこうして父の動向を探っている。

 

 今のところ変わった様子はない。だが早人が監視するようになってから、浩作の帰りが早くなった。

 

 他人との付き合いがないような川尻だが、大人の付き合いがあるのだとこれまでは考えていた。

 

 

 だが、違う。

 川尻浩作は帰宅するまでの間、()()()()()()()がゆえに、帰りが遅かったのだ。

 

 

 だからこそ早人は敢えて、その日は途中で帰ることにした。

 

 しかし本当に帰るわけではない。あくまで“フリ”だ。カメラ片手にカメユーのすぐ近くにあるカフェで身を潜め、父親が出てくるのを待つ。

 

 

「あ!」

 

 

 仕事が終わった浩作が同僚らしき男と共に出てきた。

 同僚の方は何か声をかけているが、首を振って川尻は歩いて行く。

 

 このまま家に帰るのだろうか? 早人がそう考えた矢先だ。

 

「え…?」

 

 川尻は何故か、駅の方に向かう。まさか電車でどこかへ行く気だろうか。

 

 父親の視界に入りそうになり、咄嗟にテーブルの下に隠れた彼の心臓が不規則に脈打つ。それに伴い「ヒュウ」と、細い息が漏れる。

 

 やはり川尻浩作は、何か隠している。

 

 

 早人は急く気持ちを抑え、会計を済まして駅に向かう。しかし学生が先に並んでいたため会計に時間がかかってしまい、店を出た時にはすでに父の姿はなかった。

 

 駅に着いたものの、浩作らしき人物は見当たらない。

 

 もう電車に乗ってしまったのか。

 行き先を知らない以上、どこへ向かったかはわからない。今日は諦めるしかないだろう。

 

 

「仕方、ないか…」

 

 

 重い足取りで、早人は駅を後にしようとした。

 だがその前に紅茶を二杯も飲んだせいで膀胱に限界がきた。緊張の糸が解けたこともあり、余計に尿意が襲う。

 

「と、トイレッ!」

 

 彼は慌てて男子トイレに駆け込んだ。

 

 そして開放感の余韻に浸りながらズボンのチャックを上げ後ろを向いた時、ふいに洋式の扉に視線が向かった。

 

 トイレの造りは中に入って少し進み、右に曲がったところに広めの空間がある。

 

 手前には洗面台と鏡が複数あり、その奥の左手側に四つの小便器。右手側に個室が二つある。

 

 尿意で気づかなかったが、個室に誰かが入っている。

 下の数センチの隙間からは、男の靴と白いスラックスの裾が見えた。

 

 

「……!!」

 

 

 革靴だけでは人物の特定には至るまい。しかしそのスーツは普段見ているため、覚えがある。

 

 浩作だ。早人は小さく息を呑み、汚れを気にせず緩慢な動きで両手と頭を地面につけ、おそるおそる覗いた。

 

 見れば見るほどやはり、父のものとしか思えない。

 

 何故、こんなところにいるのか。スラックスが下げられているわけではないので、用を足しているわけでもない。

 そもそもトイレに行くならデパートではダメなのだろうか。

 

 ぐるぐると脳内で疑問が回り、少年は突如血相を変える。

 

 

「……! ………!!!」

 

 

 思わず出そうになる悲鳴を堪える。何故、何故、何故と、大声で叫びたい気持ちだ。

 

 なるべく音を立てないよう、早人はゆっくりとその場から離れた。

 そして外へ出た瞬間、一気に駆け出す。

 

 川尻早人はいったい、トイレの下を覗いた時、何を見たのだろう。

 

 いや──何に、気付いてしまったのだろうか。

 

 

 

「ない、ない、ないッ────!! ()()()()()()()ッッ!!!」

 

 

 

 早人が駆けていく一方、トイレの中で()()()()()()()()男の焦点が戻る。

 同時に電光灯の光を浴びても存在しなかった影が個室の中へと入り、男の足元にくっついた。

 

『………?』

 

 スンと、影から現れた犬が鼻を鳴らす。

 ソレは左右に口元を伸ばし、不気味に笑った。

 

 

 最近ついて回っていた早人の匂いがなくなり、今宵の願いを叶える獲物を探すべく動いていた犬。

 今日はどうやらエモノの方から、こちらへやって来たらしかった。

 

 

『じゃまもの いらない』

 

 

 それから浩作が追ってきたことに気づいた早人は、駅を出て階段を駆け降りたところで派手に転び、十段以上残したまま地面へと投げ出された。

 

 

「うわぁぁぁぁ!!!」

 

 

 だが、衝撃が来ない。

 

 何かに身体を支えられる感触と共に、そのまま宙を一回転する。

 早人はさながらオリンピックの選手よろしく着地した。周囲からは呆けたように口を開けていた人物たちの拍手が上がる。

 

「えっ…??」

 

 混乱した彼に影が差す。

 

 早人が顔を上げると、そこには二メートル近いバカでかい男がいた。

 

 大丈夫か、と声をかけた大男の隣には、以前見た小柄な高校生と美人な女性もいる。

 

「何か慌てていた様子だったが…大丈夫か?」

 

「あ、いや、えっと……パパが…」

 

「…パパ? 君の父親がどうかしたのか?」

 

 父親の影がなかったから発狂した──などと言えるはずもなく、早人は口を閉ざしてしまう。

 それに何かあると勘づいた承太郎が彼を落ち着かせようとしたところで、こちらに向かってきた一人の男に気づいた。

 

「!」

 

 その男はスタンド使いである彼らを見るなり、人通りのない場所へ走り出した。

 とっさに後を追い始めた承太郎に、康一も続く。

 

「由花子さん、その子のことお願い! 僕と承太郎さんはあの人を追うよ!!」

 

「わかったわ、康一くん! ……気をつけてね!!」

 

「ありがとう!」

 

 嵐のようなひとときに、目を丸くさせる早人。そんな少年を立たせた由花子は、近くのカフェへ避難させることにした。

 

 

「ぼくのパパは…パパじゃない?」

 

 

 早人の口から出たのは、そんな言葉だった。

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