転生したら殺人鬼ポジだった件 作:クリーニング黒兎
70話で物語は終結予定です。最後までよろしくナス!
もう何度目か数えるのも億劫な白い天井。
繋がれた点滴の管を引きぬき起き上がった吉良は周囲を見渡す。
場所は病院で、陽も高い時間だった。
「いったいわたしが倒れてから何日経ってるんだ…?」
吉良はフラつきながら立ち上がり、廊下に向かう。
ちょうどその時、病室の扉が開いた。
花を持った女と、学ランリーゼントの少年が瞳を丸くする。リアクションがソックリだ。
ちなみにこの男が脱走の常習犯であることは二人とも知っている。
吉良の見舞いにきた東方親子は見事に固まった。
そして、脱獄を知らすサイレンが鳴る。
「「脱走犯だ(よ)!!」」
哀れ男はベッドに戻された。仗助は母親に理由をつけ退室させた後、吉良が気を失っていた間の出来事を話した。
⚪︎⚪︎⚪︎
話は数日前に戻る。
『影犬』は吉良の影に潜った後、承太郎と康一が吉良邸に駆けつけた時に彼の影から首だけ出した。そしてそのまま声にならない声をあげ、消滅したのだと言う。
これに関して仗助は「何があったんスか?」と尋ねた。吉良は隠す必要がなくなった川尻浩作の日記について、影犬の正体や「人に取り憑く」という詳細を含めて語った。
影犬が消えた理由に関しては、「自身の夢の中で始末した」と付け加えて。
犬に取り憑かれた彼の精神に異常がないか、詳しく検査する必要がある。そのためしばらくは退院できない。
検査はSPW財団が手厚く行ってくれるそうだ。吉良の目が死んだ。
「何故オヤジはジョースター氏と知り合いだったんだ? 吉良吉廣は戦時中に徴兵され、英語が堪能なこともあって翻訳をしていたが、それで出会っていたとも考えにくい。第一ジョースター氏は左手を10代の頃に切断したと聞いた。ならば兵役を免れているはずだ」
「あぁ、それについてなんスけど、吉良さんがこの間入院していた時に立ち寄って、その時偶然会ったらしいんですよ」
吉良が栄養失調でぶっ倒れた時、家の戸締りは救急車を呼んだ泉がカギを貸りて行った。
しかし吉良が入院したことを知らなかったジョセフは、いつものように吉良邸に訪れた。しかもタイミングがいいのか悪いのか、ちょうど一騒動が終わった夕方ごろに。
この時忙しかった泉は、
『ニャー! ニャーンッ!! アニャニャー!』
そう、猫草である。
縁側に放置されていた猫草は、空腹から叫んでいた。
そのまま放置されていれば、確実に事件が起きていただろう。
これに気づいたジョセフは不法侵入し、庭に足を踏み入れた。
その途中で聞こえたのは「カラカラ」という音。
「んん?」
「ばぶぅ?」
それは猫なのか、草なのか────。珍妙な生き物が老人からキャットフードをもらい、アニャニャ、と上機嫌に食べている。
ただ、老人の体は上半身しかなく、下半身は宙に浮く写真の中に吸い込まれていた。
【!!】
わずかに透けた老人の体などから、ジョセフは目の前の存在がスタンド使いであること、そしてゴーストの類であると見抜いた。
流石にここまでガッツリと物を掴み、動かす幽霊は見たことがなかったが。
「オーオー、ゴーストなんて久しぶりに見たわい。この家の家主に会いに来たんじゃが、今はいないようじゃの」
【吉影は病院に運ばれた………貴様のことは影から見ておったぞ、ジョセフ・ジョースター!
「フム…似ていると思ったが、やはり10年以上前に亡くなったと聞く彼の父親か。そして次にお主は、「し、しまった……口が滑ってしまったわい…!!」と言う!」
【し、しまった……口が滑ってしまったわい…!! ──ッハ!】
これがジョセフと吉廣の出会いである。
年齢的にはジョセフが上だが、“死亡年齢+幽霊期間”を含めると吉廣の方が歳上だ。
ただそこはお互い歳をとった者同士。数歳の差は些細なものだった。
当初は空条承太郎の祖父ということもあって、吉廣はジョセフに気を許すことはなかった。
しかし二人の性格がイイ意味でも悪い意味でも違うと感じ始め、茶は出さないものの、軽い会話はするようになった。
それから息子や娘、孫自慢を通し、それなりに関係が深まった。
これ即ち敵同士が戦いを通じて、最終的に仲間になる理論だろうか。
まぁ、ジョセフが吉良に対して、“放置”の態度をみせていたのが最も大きい理由だろう。
普通に暮らしたいという息子の意志を尊重しているのだ。吉廣にとっては概ね好意的な意見だった。
しかし今後もしも吉良が人を手にかけることがあれば、ジョセフや承太郎は動かなければならない。
「彼の今のサガを含め、過去に様々なことがあったんじゃろう」
【………わしは、あの子に何もしてやれんかった】
「…まぁ、深入りはせんよ。ワシも似たようなものじゃ。だがそれでも
母親というものが、吉良少年にとっておそらく一番歪む原因となった存在だ。
皮肉なことに、その母親の潔癖が今の吉良にもある。
その事実が吉廣には悲しく感じられるのだ。
「お主がこの世に留まっている理由も含め、もっときちんと考えるといいじゃろう。子供は女の子なら過保護なくらいがちょうどいいが、男なら少し放っておくくらいでいい』
流石に高校生になるまで一度も会うことなく放っておけ、とは言わない。
これを言ったら絶対に侮蔑の目を向けられる。
かくあれ、こうして二人の接点は生まれた。
仗助から話を聞いた吉良は、一番気になっていたことを尋ねる。
それは仗助と億泰が彼の家にいた理由だ。
「えっと、それはっスねぇ…」
「空条承太郎と広瀬康一が駅付近にいたのは見た。『影犬』を追いかけていたのだろうと思っていたが、貴様ら二人がわたしの家にいたことで違和感を覚えた。あまりにもタイミングが良すぎるとね。誰か手引きした奴がいたと考えて当然だ」
「おぉ…マジに作家っぽいっスね」
「……………貴様、人の家にあがり込んだ挙句、室内まで調べたのか」
キラークイーンが殺意をまじえて吉良の背後に現れた。
夢の時とは違い、顔は元に戻っている。
「ち、違うんですよ! 億泰が勝手に中に入っちまうから…! それで、何か本がいっぱいある部屋を見つけて、机の上の原稿用紙を発見しちまった? みたいな………ほんとッ、中身は読んでないんで!!」
「オヤジは止めなかったのか? …いや、単細胞で筋肉にしか栄養の行き届いていないような貴様らの力に敵わなかっただけか。……わたしの部屋には入ってないだろうな」
返答次第では殺すこともやむなし。そんなレベルで吉良の表情は歪んでいる。
仗助も流石にプライバシーがあると、「ニジムラバクシンオークヤス(☆1)」を止めた。ちなみにオークヤスの育成はとても簡単である。
「っていうか、メチャクチャ言葉が辛辣…」
「それで、理由について早く話せ」
「わ、わかりました…」
仗助はポツリポツリと話し出した。
といっても彼も康一から伝え聞いた内容なので、多少の正確性には欠けるかもしれない──と、先に述べられた。
「岸辺露伴が──」
「…わかった。大体話はわかったからもういい」
「えっ?」
岸辺露伴…岸辺露伴……。
吉良がその存在の面倒臭さに、種子島に置き去りにした男である。
入神島のまだ解けていなかった部分を話すと言いながら、吉良が勝手に帰ったことに怒るだろうとは思っていた。
案の定、ホテルで起きた露伴はバチクソにキレた。そして自分が一服盛られたことにも気づき、さらにキレた。
鈴美への想いを聞いた件で、吉良に多少の信頼を抱いた直後に睡眠薬だ。築いた信頼を一瞬にしてブチ壊された。
こうなることを察しながら意図的に露伴を眠らせたのだから、吉良も相当なワルだ。
本人には罪悪感などこれっぽっちもなく、「帰りたかったから」という気持ちしかなかったが。
置いていかれた漫画家は怒りを越して、冷静になった。
寝不足と精神的な疲労で疲れきっていた頭は、ぐっすりと眠ったことでよく回った。
そうしてこれまでの入神島の件に思考を巡らせ、ある違和感にたどり着いた。
露伴の尊敬するに値する「星ノ桜花」という作家で、「吉良吉影」という男であるからこそ、先手を取られていたのだと思っていた。
しかしあまりにも、先回りされ過ぎている。
これは他人の記憶を読める露伴だからこそ、できてしまった罠だ。
他者は「人の記憶を読む」ことができないため、彼より後手に回らざるを得ない。
つまりだ。他人が自分より先に知ることはできない──という潜在意識が生まれている。
吉良は露伴が同行していた時にこれに気づき、逆手に取ったのだ。
岸辺露伴は完全に出し抜かれたと言えよう。
無得点のまま試合を終えた選手の気分だ。屈辱的である。
その屈辱と怒りを糧にし、彼は相手の意表を突いてやろうと考えた。
吉良はおそらく事前情報があった上で調べていたのだろう。
睡眠薬で露伴を眠らせたのも、何か知られたくないことが向こうにあったからだ。
吉良が帰った以上、すでに何らかの結論は得られたのだというのも分かった。
吉良吉影の異常性を間近で見てしまったからこそ、露伴は嫌な予感が拭えなかった。こういう時の彼の勘はよく当たる。
だがこの時点で、台風によりフライトや船が次々と休航になっていた。
露伴はその場で立ち往生するしかなくなったわけだ。
ならば、と彼は康一に連絡し、杜王町に向かっているであろう男を捕まえるように頼んだ。
理由は「奴が影犬についての情報を知っている」で十分だった。
露伴と違い吉良は飛行機の予約をしていなかったので、地上を乗り継いで帰ると予測できた。期間としては早くとも丸一日かかる。
また向こうの体力から考えて、杜王町に着くのは翌日と推測した。
それから情報を得た康一は承太郎に相談し、彼ら二人が駅で待ち伏せ、逃した時のために仗助と億泰が吉良邸に配置されたというわけである。
「ッハ、わたしはあの小僧に一杯食わされたわけか…」
「まぁ、どんまいっスよ。あの性格の悪いヤローに捕まっちまったんですから」
言っておくと、仗助は吉良と露伴が顔見知りだったことを知らない。
「あ、俺そろそろ行くっスね。ちゃんと安静にしててくださいよ」
「わかってるよ、多分」
「多分じゃねぇよ!! …ったくよォ、本当に………そんじゃ失礼しました」
吉良は誰もいなくなった部屋で、深く息を吐く。
「しかし影犬がいなくなったことで、川尻浩作の身体だけが残されたか…」
川尻は今、植物状態ということで入院しているらしい。入院先はSPW財団である。
夫が原因不明で倒れたことで、しのぶはショックを受けただろう。仮にも妻であるのだ。
そこは早人が母親を上手く支えるだろう。
支援についても財団から送られるはずなので、問題はない。
「まぁ、正義のヒーローは遅れてやってくるというしな」
川尻浩作の人格はなくなった。
だが正義を求めた男ならば、戻ってくることくらい造作ないはずだ。
それができなければ、「正義」ヅラしていただけの男だったということだ。
ジャンプで言う『努力・友情・勝利』を、吉良は信じていない。
それでももし川尻が意識を取り戻すことがあれば、人間の運命というものを鼻で笑ってやる気になるだろう。
吉良では変えられなかった運命。
その本流に逆らえないまま流されてきた彼は、襲ってきた睡魔に意識を預けた。
日の明るい中で見たのは、朧げな夢。
しかし途中で白い悪魔の声や老人、赤ん坊の泣き声に溌剌とした少女の声で、意識が浮上した。
すでに人はいなかったが、先ほどまで誰かがいた気配はある。ちょうど外から微かに声が聞こえる。
「寝とったの。仗助くんから起きたと聞いてたんじゃが…」
「I know. At times like this, kissing will wake him up!」
(あたししってるよ。こういうときはね、キスをするとおきるの!)
「………」
「承太郎、気持ちはわかるが拳を押さえなさい」
「ばぶばぶぅ!」
賑やかな声だ。だが吉良は睡魔には勝てず、また意識を手放そうとする。
惰眠を貪るタイプではないが、今はそれ以上に体が疲れている。
「『小道』の
「…あぁ、そうだ。すっかり康一くんから聞き忘れていた」
「What what? The story of the ghost you were talking about the other day? Jolyne also wants to see it〜!」
(なになに? このあいだはなしてたユーレイのはなし? ジョリーンもゴーストみてみたいな〜!)
それから一時間後。
友人に「おねがい」され、渋々──本当に渋々、康一と共に病院を訪れた岸辺露伴。
その時既に、吉良の姿はなかった。