転生したら殺人鬼ポジだった件   作:クリーニング黒兎

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次回で最終回です。

ただし番外編で色々書きたい気持ちはあるので、ネタが続けば何かしら書くと思います。またネタ募集もあればしたいので、次回の後書きに概要は載せる予定です(全部が全部答えられるわけじゃないので、そこらへんはスマンネ)。あと物語の補足も載せるかもしれない。

誤字多かったりガバってたり色々ございましたが、最後までお付き合いいただけると幸いです。
終わるの結構寂しい…な69話です、ドゾ。


69話 「吉良吉影」は平穏に暮らしたい

『Good morning! おはようございます、杜王町radio。お相手は(わたくし)──あなたの隣人、カイ原田。清々しい朝ですねぇ。そんな一日の始まりに相応しい曲です。今朝の一曲はこちらから、1980年代にリリースされた「queen」の曲で────』

 

 

 日付は8月13日。高校生や大学生も休みに入り、夏を満喫している時期。

 

 吉良は朝の静かなひと時を過ごしていた。

 

 財団に精密な検査を受けたが特に異常はなく、病院で男を昏倒させた件も見逃された。

 入院生活は相変わらず苦痛のひと言だったが。

 

 ちなみに承太郎やジョセフも8月頭にアメリカへと帰国している。

 結局赤ん坊の母親は見つからず、ジョセフの養子になったらしい。名は「(しずか)」にしたそうだ。「()か=平穏」を連想でき、実にいい名前をつけてもらったと吉良は感じている。

 

 しかし、傘寿(80歳)間近であるにも関わらず義理でも娘を取るとは、流石はジョースターの血統である。彼らが帰ると知った後、彼が思わず拳を握ったのは仕方ないだろう。二度とこの杜王町に来てほしくない。

 

 仗助はなんだかんだ言いつつ、親戚の子供のように思っているので大目に見ている。

 

 

【吉影や、どこかに行くのかい?】

 

「あぁ、鈴美の命日だからね。本当にギリギリ退院できてよかったよ」

 

【…そうかい。猫草の面倒はわしが見ておくから、ゆっくりして来るといい】

 

「元からそのつもりさ」

 

 

 吉良は朝食を口に運び、左手で弄んでいた小さな物体を見た。リングに紅い宝石がついたそれが、ぼんやりと視界に映る。

 

 時が経った今でも不思議と、その煌めきは衰えない。

 燻ることのない──言い換えればそれは、「変わらない」ということ。

 

 まるで、死者のように。

 

 小道から脱出できた後、吉良は広瀬康一と岸辺露伴に捕まり大変だった。

 漫画家とは種子島以来なので、カツアゲしてくるヤンキーのように絡まれた。

 

 タクシーの車内でも露伴はわざわざ吉良の隣に座り、延々とグチを続けていた。

 

 疲弊していた吉良は「へぇ」とか「ふぅん」とか、適当に相槌を打っていた。その態度がさらに漫画家に火をつけ、あわやスタンドバトルになりかけた。

 これを止めた康一は流石だ。ダテに巻き込まれ体質ではない。

 

 

「……オヤジはどうしてこの世に残れたんだ?現世に留まる魂とそうでないものの魂の違いは、いったいなんなんだ?」

 

【それはわしにもよくはわからんよ。お前が心配で心配で、気づけば幽霊の姿となりこの世に残っておった。残れたのは「執念」もあるが、きっとスタンドの力もあったと思うんじゃ】

 

「…そうか」

 

【急にそんなことを聞いてどうしたんじゃ?無形のものを信じぬお前らしくもない。…何かあったのかい?】

 

「いや、単純な疑問だよ。確かにわたしは幽霊だのなんだの、信じちゃいない。存在の定義が難しい『影犬』も、アレが幽霊だとは思っちゃいないからね」

 

 だが、と彼は続ける。

 

「場合によってはオヤジの存在を………幽霊の存在を、認めようと思っただけだ」

 

 吉良は佐藤の話を信じたわけではない。むしろあの崖に残っているのは、杉本鈴美ではなく片桐の可能性もある。

 

 佐藤安希恵という女の本質は嘘つきなのだ。彼女と関係のあった吉良は、それを重々に知っている。

 

 

 だが、それでも信じてみようと思った。

 

 彼は自らが思う「愚か」な行為を取ることにした。

 

 吉良吉影(自分)らしくないと、理解した上で。

 

 

「そうだ。わたしが家を出ている間、机の上に置いてある封筒を投函しておいてくれないか」

 

【最後の作品じゃったな】

 

「あぁ、入院中に書き終わってね。といっても原稿じゃああからさま過ぎるから、病院じゃノートに書いていたが…。オヤジが勝手に出したのが原因なんだ。終わりのケジメはあんたがつけてくれ」

 

【もったいないのう……】

 

「世間の評価なんてどうでもいいんだよ。普通に、平穏に暮らすんだ、今度こそね。一つの区切りみたいなものさ」

 

【だが30代で職はないと思うぞ、吉影?じゃから作家をな…】

 

「すでに出版社のコネを使って市内で働くツテは得ている。サラリーマン、実にいい響きだ」

 

【吉影ェ!せっかくの天職を……!!】

 

「じゃあ出かけるから。帰ってくるまでに投函されてなかったら、悲しいがあんたともお別れだ」

 

【よ、吉影ェ────!!】

 

 号泣する父を無視し、吉良はさっさと革靴を履いて家を出た。もし帰って投函されていない場合は自分で郵便受けに入れに行くし、父親を爆破させる気もない。

 

 やめる機会は元より考えていた。それが泉の件を一つのきっかけとして、仕事の調整をし始めた。

 イリガミ調査のため種子島に訪れる前に、出版側とも話を進めていたのだ。

 

 露伴を置き去りにした後に一度出版社を訪れたのも、最終原稿などの予定を話し合うためだった。

 作家引退については、出版される本の後書きで出される。

 

 これを読んだ読者は、いったいどうなることやら。特に漫画家については、「星ノ桜花=吉良」であることを知っているので、自宅に押し入りそうである。

 しかしすでに決めたことであり、吉良の中では“終わった”ことだ。

 

 

「行ってきます、父さん」

 

【……あぁ、いってらっしゃい】

 

 

 一歩、踏み出すことを決めた男の顔は、吉廣が今まで見たことがないほどに穏やかだった。

 

 ストン、と吉廣の胸に落ちたのは、「きっともう大丈夫だ」という感情。

 奇妙な安心感に老人の瞳から、涙が一滴零れた。

 

 もちろん、今後も息子に付き添う(嫁ができて孫ができれば、あの世に行ってもいいかもしれない)気でいるが、それでもこの安心感に気を抜けば、今にも成仏しそうだった。

 

 いつの間にか小さかった子の背は伸び、父を追い越した。

 広い背中を、吉廣は名残惜しげに眺める。

 

 

 人は成長するのだ。それは子供でも、大人でも。

 

 

 

 

 

 

 

 ◻︎◻︎◻︎

 

 

 そのまま崖に向かいたかったが、手ぶらなのもどうかと思い、花屋に寄った。

 車を道路脇に止め、店内へと入る。美しい()()を持つ女店員に思考が奪われてしまったが、気を取り直し花を見繕ってもらった。

 

 途中誰へ贈るものか、何か伝えたい思いがあるのかなど親切に聞かれ、適当に答えた。白い手が花を紡ぐ様は可憐で、とてもかわいらしい。

 

「…ピンクだな」

 

「「コチョウラン」っていう花ですよ。今は温室栽培が一般的ですので、どの花も基本的に揃えることができるんです」

 

「そうか…あぁ、会計を済まそう」

 

 

 花を渡された後、店を出た。

 

 しかし自転車に乗った子供が突如通りすがり、ぶつかりそうになった。

 

 とっくにサマーシーズンに入っているのだ。ガキ共だけでなく各地からキャンプやら海水浴やらで、観光客の数も増えている。

 

 煩わしいことこの上ないが、美しい自然や海、それがこの杜王町の魅力でもある。魔境でもあるが。

 

「………」

 

 ふと、視界の先に見覚えのある公園が目に入った。

 

 ガキ共が向かったそこは、周囲の建物こそ大きく変わってしまったが、そこだけかつてと変わらない。

 

 鈴美と出会った場所だ。

 

 

 急ぐこともないゆえ──というより、自分の気持ちの整理をもう少しつけるためにも、足を踏み入れた。

 

 公園には先ほどのガキ共しかいない。

 

 真顔のこちらを見るなり、奴らは蜘蛛の子を散らすように逃げて行った。少々殺気が漏れていたらしい。

 

「………」

 

 花束を持ったまま、端のブランコに座る。

 

 そのままぼんやりと空を眺め、時間を過ごし、気づけば小一時間ほど過ぎていた。

 

 思考が上手くまとまらず、過るのは過去の記憶ばかりだ。

 

 

 ────彼女と出会った時のこと。

 

 ────かつて自身で関係を終わらせようとし、彼女がわたしの手を握ったこと。

 

 

 その他にも、色々あった。

 

 古い記憶であるにも関わらず、鮮明にその時の情景を思い出せる。

 大事な記憶だからこそ、色褪せないように頭が保存してるんだろう。

 

 

 

 結局わたしの存在は、人生は、「杉本鈴美」という存在なしでは成り立たなかった。

 

 鈴美に依存し、どこまでも重いぼくを支えてくれた彼女。

 保健医が悪魔(リリス)であったのなら、彼女はわたしの聖母(マリア)だった。

 

 どちらも今のわたしを形成する存在だ。

 

 既に死んでいようと、心に彼女たちから受けたものが息づいている。

 不思議だな。本人たちはもういないのに。

 

 

 よく二度目の死は、他者に忘れられた時という。

 

 それを考えれば、魂の形でしかないオヤジや保健医も、誰かに完全に忘れられた場合は強制的に消えるのかもしれない。

 

「そろそろ行くか…」

 

 立ち上がり、公園を出る。

 

 その時ふいに親子連れが目に入った。

 少女はチョウを追いかけ一目散に駆けていて、父親はそんな娘を苦笑いしながら後方で見つめている。

 

 父親の方は眠る赤ん坊が入ったベビーカーも押していた。

 

 

「鈴美…」

 

 

 肩まである桃色がかった茶髪やカチューシャをつけた姿が、彼女とよく似ている。

 わたしが持つ花と同じ色のワンピースが、少女が走る度に揺れた。

 

 既視感のある光景に、思わず頬が緩む。

 

 前方から来たチョウは花束に止まり、後方へと飛び出す。

 そのまま少女から視線を移し、通り過ぎた。

 

 

 

 

 

「────ッ!!」

 

 

 

 

 

 瞬間、声にならない音が聞こえた。

 

 

 声の主は前方にいる男のようで、顔を蒼白させている。

 

 何が、と振り返った矢先に見たのは、カゲロウの中を飛ぶ白いチョウと、それを追いかける少女の姿。

 

 アスファルトの色が、こうも生々しく感じることがあるとは思わなかった。

 

 

 花を投げ捨て、両手を伸ばす。

 

 触れた手は少女の背を突き飛ばし、直後襲ったのは今までに感じたことない衝撃だった。

 

 

「  」

 

 

 悲鳴にならない声が漏れ、気づけば背中に感じたのは焼けるような熱さ。

 

 あぁ、なんて馬鹿なことをしてしまったんだろう。キラークイーンを使えばよかったのに。

 本当に、こういう時にいつも失敗する自分が憎い。

 

「……あ、ああっ……!!」

 

 視界の先で地面に座り込んだ少女が、歪んだ顔でこちらを見ていた。

 

 やはり似てるなと、ぼんやりと思う。

 

 

 背中の他に、全身の節々が痛い。内臓の焼けるような熱さに、今まで体験したものよりよっぽど重傷であることを思い知らされる。

 

 ついで耳に聞こえたのは、事態に気づいた周囲の悲鳴。

 それと何か自分の頭が向いてる方から、大きな音が聞こえる。

 

 

「あ……ガハッ!」

 

 

 口から漏れたのは大量の血で、ゴポッと、聞こえてはならない音が一瞬聞こえた。

 

 

 彼女に、会いにいかなければならないのに。

 

 

 だが、思考が鈍るどころか遠くへ引っ張られていく感覚に、これはもう無理だと残った頭が結論を出す。

 

 

 

 ────本当に、平穏に暮らせないものだな、わたしは。

 

 

 

 地響きのような音が地面を通して頭に伝わったのが、最期の感覚だった。

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