転生したら殺人鬼ポジだった件 作:クリーニング黒兎
作家「星ノ桜花」の死は、世間に大きな衝撃を与えた。
この作家は若い女性を中心に、純愛ものに人気があった。
しかし星ノ桜花の真骨頂は、やはり人間のドロドロとした部分を浮き彫りにするダークな作品にある。
無機質ながらどこか熱が垣間見えるそこには、作家の精神性が現れている。
星ノの訃報はニュースでも大々的に取り上げられた。
死因については出版社側から明らかにされていない。しかし『平成の太宰』とまで謳われた人物であったため、真っ先に考えられたのは自殺だ。
死因の考察がなされたり、これまで映像化された作品が追悼の形で放映された。
そして9月に「KO談社」から出版された星ノ桜花の遺作は、純愛ものでないにも関わらず、その年のベストセラーになった。
さらに単行本で発表された作品は、後日『N賞』を受賞している。
また、滅多に後書きを書かないことで知られる作者が、遺作ではコメントを残している。
『
そんな中、星ノ桜花の
「………」
ここ最近モヤモヤとした感情が晴れず、漫画を描く手が鈍っている。
星ノが「自殺した」と騒ぐ世間が鬱陶しく、テレビも見ていない。
うっかりテレビをつけ、作品をろくに読んだこともなさそうな芸能人が星ノについて語っているのを見たら最後、はらわたが煮えくり返ってしまうだろう。
────あの作品の中に詰まった、人間のドロドロとした本性を暴き出すグロテスクさが。
────触れただけで壊れてしまいそうな、繊細な感情を浮かび上がらせる美しい表現が。
理解する頭の足りぬ連中の目に留まり、あることないこと噂されている。これで不機嫌になるなと言われる方が無理だ。
何を知ったかぶったことを。星ノ桜花の真の良さを理解できない連中が────!
「星ノ桜花は自分で死ぬような人間じゃあない。そんなの読めばわかることだろ? だのに、「うつ暗い作者らしい終わり方」だの、「死に方はどのようなものだったのか」だの……その考えこそ、作家本人を侮辱する行為に他ならない」
星ノは『平成の太宰』と呼ばれることもあり、影ではいつ死んでもおかしくないと思われていた。
かの太宰もまた何度も自殺未遂を図り、最期は女性と心中を遂げている。
その思考に至るのはやはり純愛ものしか読まないような輩で、露伴のような狂気度マックスな作品の愛読者たちならばこぞって別の印象を抱く。
「生」きようとしている、と。
星ノのダークサイドな作品は、作者の闇が注ぎ込まれているのだ。
人が社会を生きる上で、ストレスは切っても切り離せぬものだ。
そうなるとよりよく生きるために、自分のストレスを発散させる方法を見つける必要がある。
星ノ桜花のダークな作品も、本人にとって生きるために有効な発散場所だったのだ。
主にそれは「殺人欲求」を紛らわせるためだったり、精神の毒を抜くためだったり。
その時々の社会風刺が出ることもあるが、一番には作者の私欲がくる。純愛ものと違って、読者側の気持ちなどこれっぽっちも慮っちゃいない。
例えば星ノの作品を見て感化された者が自殺したとしても、「自分には全く関係ない」というスタンスだ。
その、投げるだけ投げて読者をデッドボールにさせる姿勢がいい。さすがホシノ! そこにシビれる! あこがれるゥ! ──とは、狂気愛読者たちの考えだ。
そんな私欲にまみれた小説でも人の気持ちを掴むことができる。
露伴にとっての「漫画家」のように、吉良にとっての「作家」とは本当に天職だったのだろう。
「ハァ……」
露伴は作業机から立ち上がり、ソファーに寝転がる。その隅に置いてあった一冊の本を手に取ると、睨むように表紙を見つめた。
そのタイトルは『』
発売日まで非公開にされていた本の題名だ。
露伴がこれを本屋で買った時、ふと思い出したのは星ノのデビュー作。例の「わたし」から始まる作品だ。
ドロドロとした愛の中でティーン時代を過ごした主人公。そして“わたし”が出会った女は最後、自殺する──というのが大まかな内容である。
その後は異常だった生活が一転して、取り留めもない普通な日常に戻るのだ。
作品の最後の一文は何故か「」が書かれていなかったが、それが今作の『』のタイトルで伏線が回収された。
当時は誤字だと考えられていて、出版社へ読者側からクレームがあったにも関わらず訂正されたことがなかった。そのため何か意味があるのではないかと推測されていた。
そして、『』の内容は露伴の思ったとおり、「“わたし”」の続きだった。
────大人になった“わたし”は、平穏な日常を過ごしていた。しかしとある殺人事件をきっかけに、“わたし”はまた非日常に誘われていく。
今回はミステリー要素が含まれていて、「殺人事件の犯人は誰なのか?」という謎が一つの魅力になっている。
しかしあくまでメインはミステリーではなく、“わたし”が堕落していく様子だ。
主人公は事件に関わっているものの、巻き込まれているわけではない。“わたし”と事件の関係者たちとの関わり合いが話の中心となっている。
主人公が人の形を失うがごとく少しずつ闇へ堕ちる様は、思わず直視できぬほど壮絶なものである。
だが、やはりどこか人間の壊れる過程の中にある美しさ。それが繊細な文を伴い、より読者の胸の奥底に沈み込む。
欠けたものに対する美しさというのは、美術に通ずるところがある。
「トルソー(頭や手足のない胴体だけの彫像)」である『ミロのヴィーナス』や『サモトラケのニケ』がいい例だろう。
この欠損した、即ち壊れたものに対しエクスタシーを見出すところが、手フェチである作者の内面を表している。
つまり一言で言ってしまうと、星ノ桜花は「
物語は終盤まで犯人がわからない。
しかし最後に犯人を知る“わたし”からその名が告げられて終わる。
よく言えばありきたりなネタであるが、作者の手腕により最後まで「わからない」と思わせられる。
だが犯人を知りもう一度読み返すと、確かに辻褄が合う。
露伴は本を購入してから、もう何回も読み返している。
これが最後であると信じたくはなかった。原稿の時期から考えても、種子島で共にした時点で辞めることは決めていたはずだ。
「星ノ桜花先生……いや、吉良吉影」
露伴は吉良が車に轢かれて死んだことを、事故があった数日後に仗助から連絡を受けて知った。
最初は向こうの声を聞いて「ハ? 何であのクソッタレ仗助が?」と思ったが、電話の内容を聞いた瞬間に思わず持っていたGペンを落とした。
彼に連絡が来たのは、康一に吉良が古い知り合いだ──と話していたことがきっかけだ。その情報を知った仗助が電話を回したのである。
吉良が車に轢かれた理由については、道路に飛び出した少女を助けようとしたかららしい。少女の方は軽傷で済んだ。
その後、反対車線に吹っ飛ばされたところまでは吉良に意識があった。しかし今度は前方から来たトラックに轢かれて亡くなった。即死だった。
タイヤに巻き込まれる形で頭部を破損しており、遺体は凄惨なものだったという。
遺体をエンバーミング(修復・保存)する業者側でもお手上げだったそうだ。
トラックが吉良に気づかなかった理由は、彼よりも前方にいた少女に気を取られていて、気づいた時にはもう避けられなかったらしい。
葬儀は親戚でひっそりと行われ、仗助も参加した。火葬する前、仗助はこっそりとスタンドで吉良の肉体だけ治している。
これに露伴は参加しなかった。
彼には週刊連載があるし、友人でも家族でもない、ただの知り合いの葬式に出る理由がない。
たとえ星ノ桜花先生であっても、中身が吉良吉影であれば譲れない複雑な心がある。第一まだ、その死に対して心の整理がついていない。
「あの男が少女を救って死ぬだと? ──ッハ! それこそ……それこそ、あり得ないだろ………!!」
自分の平穏のためならば他者を罪悪感もなく使い捨てにできるような男が、まさか他人のために死ぬなどあり得ない。
露伴がヒーロー視する広瀬康一のような「主人公」タイプならまだしも、吉良吉影という男は「悪」だ。
ダークサイド(露伴のエゴから生じる部分)を持つ彼がそう言うのだから、よっぽどのことだ。
そもそもスタンドを使えば、無傷で救うことなど簡単だったはずだ。
「………あるいは…」
吉良の亡くなった8月13日は、杉本鈴美が亡くなった日付と同じである。
現場に花束が散乱していたことからも、墓参りに向かっていたのだろう。場所は恐らく鈴美が殺された崖の場所だ。
スタンドを使わなかったことや、杉本鈴美の命日という偶然性は正しく自殺したようにしか見えない。
露伴も信じられないと思いながら、心のどこかでは疑わざるを得なかった。
しかし仗助はそれに、電話越しで「否」と答えたのである。
────あの人は、自殺するような人じゃないっスよ。
どんな根拠があって言えるのか。露伴は甚だ疑問だった。
東方仗助は朧げな記憶ながら、吉良が病院の屋上から
幼い頃はわからずとも成長するにつれて、あれは「自分で死のうとしていたのだ」と理解できるようになった。
だからこそ、死ぬことはない。
何故、断言できるのだろう。
『「生」きようとしている人間が、自分から死ぬなんて矛盾してるだろ』
仗助は露伴と違い、星ノの小説を読んでいるわけではない。むしろ漫画を含め滅多に本など読まず、日頃見るのはバイク雑誌くらいだ。
ただクレイジーダイヤモンドの使い手であるからこそ、人とは違う見方がある。
より間近で多くの人のケガを見て治してきた仗助は、自分でも直せないものがあることを理解している。
それは病気だったり、死んだものの魂であったり、壊れた精神だったり。
ある意味で彼は「生」と「死」に近い場所にいる。幼少期からそんな状態であったからこそ培われた感性とも言えよう。
かような仗助が、吉良の自殺の可能性を「否」というのだ。ならば、やはり違うのだろう。
「────「運命」か」
彼女が亡くなった同じ日に、死んだ男。
スタンドを使わなかったことを含め、全てが「運命」によって操作されているとしか思えない。
ならばいったいその運命を決めているのは誰なのか。
まさか神がいるわけないだろう。
しかし、人間の理解の範囲外にある「運命」というものは確実に存在する。
背筋に走った寒気に露伴は唇を噛む。運命とは他人に左右されるものであってはならない。自身で切り開き、進む道こそ「運命」だ。
「まぁ、墓参りくらいは…してやらんこともない」
杜王町には変わらず、
⚪︎⚪︎⚪︎
これは、一人の男の「罪」の話だ。
愛する息子が死に、それでも待ち続けることを決めた、一人の幽霊の話である。
アメリカの不動産王のコネを使って誰もいなくなった屋敷を残すことに成功した後も、吉廣はずっと待ち続けている。
息子の、「ただいま」を聞くために。
全ては片桐安十郎が起こした『S一家殺人事件』にまで遡る。
吉廣は警察に連絡した後、現場に残された『空がよく見える』という言葉や片桐の復讐を踏まえ、鈴美が攫われた場所を導き出した。
息子から残っているように言われていたが、どうも嫌な予感が拭えなかった。
敵が自分たちと同じ能力者の可能性があったため、殊更に心配だったのである。
吉影がやられるとは思えない。しかし詰めの甘さというか、肝心な時にやらかすことがあるのを吉廣は知っていた。
ゆえに彼は崖へ向かおうとした。
ただ彼は幽体で、魂が写真の中に縛りつけられている。これは現世にその魂を“固定する”役割を持つ。
例えば家の中であれば慣れもあり、小さな空気の流れに乗って思うままに移動できる。だが外となると話は別で、吹き込む風の強さが違う。自然の流れに身を任せたとして、果たして崖まで行けるかはわからない。
そんな吉廣に残されたのは写真から出て幽体で移動する方法だけだった。そうすれば崖にたどり着くだろう。しかし同時に危険も伴う。写真に魂が固定されている彼は、その固定から外れると強制的に成仏する。
これは戦いだった。成仏の力が勝るのか、息子への思いが勝るのか。
結果勝ったのは吉廣の愛情だった。
彼はそして、目にする。
血溜まりの中、冷たくなった杉本鈴美を抱きしめ地面に倒れていた、吉影の姿を。
月明かりに照らされ朧げではあるが、遠くからでもすでに彼女が死んでいることが窺えた。覗いた瞳に生気がなかったのだ。
吉廣は片桐の遺体がないことに疑問を抱いたが、キラークイーンの能力を知っていたので息子が爆破させたのだとすぐに思い至った。
【吉影……?】
体は特に四肢からの出血がひどく、顔は青白かった。
恐る恐る触れた時に感じたのは冷えた感触。
吉影は幼い頃から低体温だった。それを踏まえても冷たすぎる。
明らかにその冷たさは「死人」に近い。
吉廣は慌てて脈をみたがその音は今にも消えそうで、彼はそこで、もう息子が助からないことを悟った。
【よし……かげっ…】
普通に暮らすことを望み、どこまでも平穏から程遠い場所にいた息子。
彼が愛した女も死に、残された彼はその後を追いかけとしている。
仮にこの状況から奇跡的に助かったとしても、その後の吉影の将来を思うと、吉廣はただただ
ようやく「人」としての生を歩めそうになったと思った仕打ちがこれだ。
吉影がいったい何をしたというのか。
神を信じてはいない。しかしもしいるのだとしたら、何故神は息子にだけ過酷な試練をお与えになるのだろうか。
【………】
吉廣は静かに息子を見つめる。
瞳からは止めどなく涙が溢れていた。幽霊なのに何故泣けるのか、彼にもわからなかった。
吉廣は息子の「幸福」を願い、死後もこの世に留まり続けてきた。
きっと杉本鈴美が死んでも、吉影は時間が経てば「普通」に生きていくのだろう。そんな自分がどれほど「異常」で滑稽であるかを理解し、さらに殺人欲求に苦しみながら生きていくしかない。
ならばここで杉本鈴美と共に死ねた方が、幸せではないだろうか──。
頭によぎった考えは、その時の吉廣にとっては最も相応しい回答だった。
これ以上、息子が苦しむ姿を見たくなかった。
その感情は息子の「幸福」を願うというより、吉廣自身のエゴが働いた結果である。
息子を苦しめ続けた一番の原因は結局
【ごめんよ……ごめんよ、吉影………】
吉廣はトラックに向かった。
片桐が使用していた車なら他に凶器があるだろう、と考えて。
しかし見つけたのはタオルに包まれた一本の矢だけだった。
それは吉良邸から盗まれたものである。
他にはペットボトルなどしかなく、凶器になりそうなものは吉廣が手に取った物くらいしかない。
それでも心臓を狙えば命を奪えるだろう。
【う、うぅ……ゔぅ゛ぅ────!!】
やはり、ムリだ。愛する息子を殺せるわけがない。だがこのままでも死んでしまう。
地面に置かれた矢はその間、皺の目立つ手を離れゆっくりと
その場は潮風が吹いていたとはいえ、矢を動かすほどの強風ではなかった。
しかしまるで引力が働いているように、ズルズルと、地面を這ったのだ。
【………!!】
吉廣が気づいた時には遅く、矢が吉影の腕に侵入した。それは内側から皮膚を押し上げるようにしているため、傍目でもよくわかる。矢は吉良の体内を移動していき、やがて心臓にたどり着いた。
そして一瞬吉良の彼が痙攣した瞬間、キラークイーンが現れた。
筋肉質でありながら、どこかゴムっぽさを感じさせる身体に、人工的なピンクの肌。しかしてその顔だけは普段と違った。
ガイコツのような顔は、以前の『G爆殺事件』で発現したシアーハートアタックのごとく。
不気味な頭はむき出しの歯を開け、一言喋った。
『ニャー』
直後キラークイーンは消え、何故か吉良の脈も回復をみせた。
あり得ないことばかりであるが、吉廣は「矢」によって息子やその分身であるキラークイーンに何か変化があったのだろう、と推測した。
その後は訪れた警察により吉良が保護され、ついでにパトカーに侵入した吉廣も警察署にあったカメラを使い、ギリギリ成仏せずに済んだ。
あの時以来、キラークイーンに自我が芽生え始めた。
吉廣はそのことを息子には言わなかった。
「矢」が吉影の体内に取り込まれてしまったという事実が、恐ろしかったからである。
この事実を、彼はジョセフにも伝えていない。
息子を一瞬でも手にかけようとした罪の意識と共に、その秘密を隠し続けている。
吉廣が息子の帰りを待ち続ける限り、その罪の意識が消えることはないだろう。
吉廣は結局、知らないのだ。
「矢」が起こした、吉良吉影──否、キラークイーンの変化を。
その能力は吉良でも知らない。
キラークイーン自身が「本能」により知り得ている情報なのだ。
第三の爆弾「
これを本体が意図的にセットすることはできず、解除することもできない。ただしキラークイーンが爆弾化されている間も、第一の爆弾やシアーハートアタックを使うことは可能である。そもそも自分のスタンドが新しい力を得たことさえ吉良本人は知らない。
ならばそのトリガーはどうやって引かれ、どのような効果をもたらすのだろうか。
時はさらに流れ、2012年。
彼らの意志を受け継いだのが、エンポリオ少年であった。しかしここでイレギュラーが起こる。
本来ならば徐倫の仲間であるウェザーのスタンドを宿すディスクを使い、エンポリオがプッチを倒すはずだった。
しかし、少年はプッチにより倒されてしまったのだ。
これにて、プッチの『全ての人間がこれから起こる事を全て知っている』世界が作られようとした。
時の加速が進み、そして世界が一巡する
まるであるべき姿へと、世界を修正するように。
いや、この場合エンポリオ少年が倒されてしまったゆえに働いた、「運命」への導きと言えようか。
「………!?」
今、この時、存在する者は、プッチのみのはずだった。
しかし彼の前に、ガイコツの顔をした────獣人型の物体が佇んでいる。
プッチは殺したはずの徐倫たちのスタンドを思い出したが、やはりコイツとは出会ったことはない。
そもそも本体がない状態で動いていることが疑問である。
本体が死んでも、存在し続けるスタンドはいる。
だがそれを考えても、現在世界の頂点に君臨する(「神」と言ってもいいかもしれない)プッチの影響を免れているなど、あり得ない。あり得るはずがない。
彼がその存在を倒す前に、ソイツは二つの窪みんだ奥底で怪しげな光を浮かばせ、ニタリ────と笑った。
この時、プッチは理解した。
目の前にいる存在は、確かにスタンドである。
しかし、
──────「バイツァ・ダスト」は、本体の“
そして本体が真の「幸福」を得ることを目的として、
頭が潰れたことで記憶をなくし彷徨っていた幽霊たる本体が、プッチの能力により強制的に一巡させられたことで“完全なる死”が今ここに完了した。
よって既に、
『ヨシカゲ マイ フレンド』
直後キラークイーンが爆発し、
正しく言い換えると、世界もろとも爆破させ、再構築していく──といった感じだ。
しかし爆発の影響によりプッチは倒されたものの、残っていたプッチのスタンド「メイド・イン・ヘブン」の残骸も乗せて巻き戻っていく。
正史でも本体が死んでも、頑固に残っていた厄介でしかないスタンドである。
そのためかキラークイーンの能力だけでなく、粉々になった「メイド・イン・ヘブン」の能力が合わさった力が世界に影響をもたらすことになる。
これにより人類は、「自身の運命を知っている」──ということはないものの、メイド・イン・ヘブンの特性が僅かながら残された。
人々は一度一巡した世界の自分の記憶を受けて、生まれながらにし、些細な違和感を抱く場合がある。
ある者は出会ったことがない人間に既視感を覚えたり、ある者は災害が起こる前のタイミングで予知のように「地震が起きる」と察知する。
一応個人差はあり、この力が作用するものはごく少数といっていい。
極端に小さな変化はそれでも、元の人間たちの「運命」を変えるには大きな力となる。
この引力はキラークイーンが本体を「幸福」に導くため発動させたからか、「不幸」へとは繋がらない。
ゆえにディオやカーズを筆頭とした悪側の人間たちは、さらなる苦戦を強いられることになる。
ならば、いつも正義が勝つ?
いや、それでもなお図太く悪役は頭を働かせ、己が「幸福」へとより強い渇望を抱き生きるのだ。
この時点で
しかし人間たちに未だ強く影響をもたらす「運命」の修正力に、ジョースターの一族もまた苦しめられることになる──とは、言っておくことにしよう。
それぞれ、人々は進むのだ。
────
世界は、変化する。
◼︎◼︎◼︎
“わたし”には幼い頃から不思議な感覚がある。
それは漠然としたもので、出会わなければいけない人がいる、というものだ。
母親に話しても「気のせいじゃないの?」と言われるだけで、悶々とした感情が胸の内でわだかまっている。
本当に小さい時は自分の感情に折り合いがつけられず、無闇に泣いてしまうことも多かった。
いやはや……泣き虫だったあの頃は黒歴史だ。
そんな、何かと手のかかったわたしも春から高校生になった。
元々違う場所に住んでいたんだけど、父親の転勤の都合でM県のS市にある『ぶどうヶ丘高校』に通っている。
正直言って、最初は小中と仲の良かった友だちと離れてしまったことに気分が重かった。
父の仕事の関係上、仕方のないことだとはわかってるんだけど。
地元には実家があるから、そこから通えば行けなくはない。
でもそれより両親と離れるのが嫌だったから、どの道残る選択肢はなかった。
わたし、こんなに甘い心で大丈夫なのかな? 都会の大学に入ったとして、一人で生きていける気がしない。
まあ色々不安はあるけど、慣れてしまえばどうってことはないと思う。
今日もまた鏡の前に立ち、真新しい制服に袖を通した。
(それにしても緑の制服に紫のスカーフっていうのは、ちょっと派手すぎない?)
前の中学校だと男女制服は紺色だったから、妙に落ち着かない。
「かわいい……かなぁ?」
クルクルと回って見せる。色は可もなく不可もなくな感じ。
「ふふっ…」
「ねぇ、アンタいつまで着替え──」
「きゃああああっ!?」
自分の姿を眺めていたらお母さんが入ってきて、今の状況を見られてしまった。
「どうしていつもノックをしないで開けるのよ!!」
「何よアンタ、その歳で一人白雪姫なんかやってたの?」
「それ追い討ちだからねッ!!!」
「はいはい。遅れるから早く支度しなさいよ」
闘牛の如く怒れるわたしなど何のその、母親はさっさと部屋を出て行く。
残されたわたしは深いため息をついた。
それから台所へ行き、先に会社に向かった父に手を振る。
そしてわたしもご飯を食べて、自転車で学校に向かう。
「じゃあ行ってきます!」
「はい、いってらっしゃい。もう高校生なんだから、いい恋の一つでも見つけてきなさいよ」
「そんなひどいこと言うと反抗期になっちゃうから」
「どうせパパ限定でしょ」
「パパには一生反抗期〜!!」
そんなやり取りを終えて、自転車を漕ぎ出す。
わたしはまあ、それなりにモテる方だとは思う。でも容姿目当てで告白されてばかりだったから、いつの間にか「恋」なんてバカバカしいと思うようになってしまった。
結局男の人は女の顔しか見ないのよ。内側なんて見ずに。
もういっそのこと、わたしが男の子だったらよかったのかな?
母にもよく「あなたが男の子だったらまだ…」と言われる始末だし。
実際にお母さんのお腹の中にいた時男の子だと思われていたわたしは、生まれてから「ん?」となったらしい。
性別を間違うことは滅多にないらしいけど、その珍しい中に自分が入った。
「イイ天気だなぁ…」
春の穏やかな日差しを受け、桜吹雪に呑まれる。
そして学校に着けば、変わり映えのない一日が始まる。
まだ入学したばかりで授業も少ない。
身体を動かすことは結構好きだから、部活動勧誘期間に入ったらスポーツ系を中心に回ってみようと思う。
その前により良い学校生活を送るために、友人を作らなくちゃあね。
ここは中高一貫課程の者と、高校から入ってくる者の二つのパターンがある。
両者のクラスは別となっていて、わたしは後者の人間だ。
それとなくクラス内で話をする女子はできたけど、今後部活動や学校行事で別のクラスの人たちとも関わる機会が出てくるだろう。
行く行くは一貫課程の女の子たちとも関係を持てたらベストだ。
「ハァ…」
長い一日も終わり、ようやく放課後。
上級生や中学から続けて部活動に入っている一年生などを除く、他の生徒は家路に就く。
ちなみにわたしは【趣味:読書】を頑なとしてプロフィールに連ねてきた女子です。
そんな自分が向かう場所は………もちろん図書室!
ぶどうヶ丘高校の図書室は、市内の図書館と比肩するほどの大きさを誇る。いずれは市内の図書館にも行きたいけど、当分はここで事足りるだろう。
最近のわたしの流行りは海外ミステリーものだ。
本をじっくりと見ながら、何を読もうか考える。「アガサ・クリスティ」など有名どころもいいけど、マイナーな作品も捨てがたい。
「あっ」
高い位置にある本を背伸びして取ろうとしたところ、フラついて隣にいた男子とぶつかってしまった。
向こうは立ち読みしていたらしく、顔はこちらに向けないものの露骨に嫌悪感を露わにする。
その雰囲気に少し怖くなってしまい、謝れぬまま後方でたじろいでいると、男子生徒は左手に持った本から視線を逸らさぬまま右手でわたしが取ろうとしていた本を取った。
「はい」
「え? …あ、ありがとう」
相変わらずこちらに視線を向けない。そこまでしていったい何を読んでいるのか、正直気になる。
「ねぇ、何読んでるの?」
「………ん?」
男子生徒はようやくわたしを見た。
「……ッ!」
パサッ、と相手の手から落ちた本。
向こうはわたしの顔をじっと見つめて固まった。どうしたのだろう?
その時ふと、長い黒髪と丸眼鏡に隠されている瞳の奥が気になった。
手を伸ばせば相手は一歩、後ろへと下がった。
それが気に食わずそのままわたしも一歩踏み出し、壁際に追い込む。
自分よりもかなり背の高い男子生徒は、今更ながら上級生ということに気づいた。
目立たなく少しおどついた雰囲気だったから同級生かと思ったけど、学年別の首元にある校章の色が違う。三年生だ。
つまりわたしは今、三年生を壁際に追い込んでいるということになる。
わたしもいよいよヤンチャデビュウってわけかな。
「………」
抵抗もしない相手の顔に手を伸ばして、その眼鏡を取る。
何故こんな行動を取っているのか、自分にもわからない。しかし
「………あ」
眼鏡の奥にあった瞳は、綺麗な紫色の瞳だった。確か何かの本で読んだけれど、紫目って珍しいんだっけ。
いや、そうじゃなくて、違う。もっと他に考えることがある。いや、それも違う。
────わたしはこの人に、言わなければならないことがある。
「れい、み……」
震えた声が聞こえた。ガラス玉のような瞳から一滴、雫が溢れた。
そんなことを考えている自分の視界も、やけに熱くなっていく。
胸が、苦しい。心臓を手で握り締められているみたいだ。
どうしてわたしの名前をこの人が知っているかなんて、わからない。
でもわたしも彼の名前が喉から何の違和感もなく出たんだから、きっとおかしなことじゃあないのよ。寧ろもっと、喜ばしいこと。
「吉影、くんッ……!!」
ずっと、わたしが探していた人。
出会わなければならないと、いつかわたしの元へ来てくれると信じ、待ち続けていた存在。
彼に抱きつき、背中に手を回す。
触れることができる、懐かしい匂いだ────どうしてわたしはこの感覚を知っているんだろう?
痛いほど抱きしめ返してくれた彼の体温が冷たくて、その温度がひどく心地よかった。
「あったかいね」と、言われる。
そう。わたしの体温は高いんだよ、吉影くん。
「君が、いない世界だと思っていた……いてもぼくが、出会ってはいけないのだと思っていた…」
「何、言ってるか……よくわからないよ。わたしはずっといたよ? ずっと、ずっと待ってた──あなたを」
「……ぼくは、君をきっとまた、不幸に…」
彼が話しているのはもしかしたら、「前世」の話なのかもしれない。
わたしもずっと自分のこの感情が、あり得ない前の人生での“
でも今は全てがどうでもいい。
彼が今ここにいるのだから、それが全てで。
それ以上望むことなんて、何もないでしょ?
「愛してる、吉影くん……吉影くん………ッ!!」
わたしはもうどこにも行かないよ。目の前の瞳を見ながら呟く。
彼は優しくわたしの涙を拭い、微笑む。
「ぼくも、愛してる」と言って。
今、この時────わたしの止まっていた世界が、再び動き出した。
他ならない、二人への「幸福」に向かって。
–END−
【補足的なもの】
⚪︎キラークイーン(バイツァ・ダスト)⚪︎
この姿になった際は、能力値はジョルノの「GER」と同じ測定不能。見た目はキラークイーンの身体を持ち、頭部だけシアハの顔を持つ。ただし鼻はない。
元はエンヤの一族に受け継がれていたスタンドの「矢」であり、それが体内に入り「第三の爆弾」に目覚めた。
「矢」については、スタンドの覚醒をもたらす。一方で他の矢とは異なる波長を持っており、スタンド使いの波長と合致すると、磁気の引力のように引かれ合う性質がある。仮に波長があった者は、ジョルノのGERのように「進化」──あるいは、新たな能力を発現させる。
吉良の場合片桐戦の後、本人が知らないうちに体内に入りバイツァが覚醒するに至った。
KQの『ニャー』は、さらなる進化を果たし「自我」を得た象徴でもある。
「メイド・イン・ヘブン」の能力を反故にできたのは、最果て(特異点)に至り世界を一巡させる前に、「第三の爆弾」の発動条件である幽霊の吉良(デッドマンQ)が消されたため、身体だけでなく魂の消滅が成立し、「完全なる死」の条件が揃った。
つまりプッチは、セーブの途中で強制的に母親に電源を切られて、さらにゲーム機をバラバラにぶっ壊されたようなもの。
戻った世界では彼のスタンドは爆破に巻き込まれているので、「なかった」ことにされる。オラ親子生存の活路が見出せる案件である(勝利のポーズ)。
第三の爆弾の能力は吉良が『セット・解除』できないが、キラークイーンもできない。吉良についてはバイツァ・ダストの能力があることさえ知らないが、自分だけ以前の記憶が残っているので、「おかしいぞ?」とはなっている。幽霊時代は朧げにしかない。
また本体が「幸福」に至れるまで続くバイツァ・ダストは、逆に考えれば、本体が「幸福」を得られなければ延々続くということ。
仮に幸せになれず何度も人生を繰り返した場合、本体にはその間の記憶が残っているので、精神的に廃人になり得る。バルスの「死に戻り」と似た感じ。
こうなった場合、吉良が「死んだ方がマシ」と思えば死ねる、多分。
⚪︎吉良が幽霊期間となっていた世界について⚪︎
概ね原作通り。デッドマンQな彼については、都合上、人間に触れられても身体がバラバラにはならない設定とする。ただ人の家に侵入する際もルールなどは適用される。
幽霊の間は、適当に日本各地を彷徨っている。“浮遊霊=自我の喪失”があるが、キラークイーンの影響か特に異常はない。
ちなみにKQにダメージが入ると、幽霊の彼にはダメージが入るどころが受けた部位が吹っ飛ぶが、容易にくっつけらるのであまり心配はない。
記憶については自分の名前以外は覚えていない。キラークイーンは、自分につきまとう「ナニカ」な認識。多少生きていた頃と性格が変わっている。頭を潰された影響。
そんな彼は動かない岸辺と関わったり、その他の人間と関わることもないような、あるような。仮にこの状態で父と出会っても、思い出すことはない。
ただ誰か、何か大切なことを忘れている──という意識はある。KISIBEがそのことを言及する前にさすらいの旅へ。
人は殺していないので、割と平穏に暮らしている。
⚪︎お犬様⚪︎
「うちの子、犬みたいな耳が生えてて、尻尾もあるんです…!!」な母親と、露伴が出会う。『DNA』に近い話。ケモショタな少年は普通の人間と変わりない、記憶は精神についても異常なし。
ただ漫画家的には、嫌な汗が拭えない案件となる。
母親はちなみに処女懐胎。ジャパニーズマリア様かもしれない。
⚪︎幽霊たち⚪︎
吉廣はずっと息子を待ち続け、鈴美ちゃんもずっと待ち続けたと思う。
保健医はあの世とこの世の案内人を続けたそうな。
⚫︎あとがき的なもの⚫︎
約五ヶ月ほど、当シリーズにお付き合いいただきありがとうございました!
途中精神的に折れつつ続けられたのは、ひとえに見てくださる方がいらっしゃったからだと感じております。お気に入りや感想、評価、誤字報告等も本当にありがとうございました。
今後の活動については、以前話していた加筆修正をやりつつ、気力が続く限りで番外編を書くと思います。今のところ書きたいのは「動かない」とデッドマンな彼の話です。
投稿頻度についてはかなり下がるので、そこはよしなに。
では、またの機会にお会いできればと思います。
クリーニング黒兎だったなも(たぬきち)。