転生したら殺人鬼ポジだった件   作:クリーニング黒兎

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リクエストありがとナス!(クソデカボイス)
というわけで、初めていただいたお題から「正史(原作)軸に飛ぶ主人公+@」なお話しです。主人公の方は死なずに墓参りに行ったものの、彼女がいなかった(崖で死んだ他の亡者たちにあの世へ引きずり込まれた)世界線で、「普通」に働き始めた設定。

ちなみに番外編はかなり話が前後するので、ご注意ください。続きものでも途中、別の話を書く可能性もアリ。基本的に前書きに話の概要を載せるので、読まれる際はそちらを参考にしてください。

(全部が全部、「幸せ」な内容では)ないです。


番外編
71話 しもしも〜?ボックスー!①


 時期は夏も過ぎ秋。

 落ち葉が色づき始め、世界──と言っても日本の中の話だが──は鮮やかに彩られている。

 

 吉良もまた一部例外を除き、「静かなる人生」を送っていた。

 

 サラリーマンとして働き始めてから二ヶ月ほど経ったが、持ち前の要領の良さで順調に過ごせている。人間関係はこれといった友人を作らず、幼少期から培った地味キャラを生かしていた。

 

 ちなみにスーツは「ヴァレンチノ」──と行きたいところだが、中途採用を受けた新人がブランドスーツなど絶対に目立つため、市内の紳士服で買った安めのものを着用している。

 

 唯一ネクタイだけ相棒が選んだものをつけている。豚をやたらといぢめることでお馴染みな猫が描かれたものだ。

 

 これ──または、猫のモチーフのネクタイを付けないと犠牲が出る。完成原稿を爆破された経験がある男としては、相棒の要求を飲まざるを得ないのだ。

 

 

 そして、時刻は流れ夕方。

 

 満員電車に揺られた後、自宅まで歩く。

 作家の頃に運動していた分の時間を、この徒歩通勤で健康維持に使っている。

 最初はゼェハァ言っていたが、続けていれば流石に体力もつく。

 

 

 ────ピリリリリ。

 

 

 電柱の脇にある街灯がポツポツと夜に染まった世界を照らす中、吉良がいる200m先にある公衆電話が鳴った。辺りには彼以外、誰もいない。

 

「………」

 

 さながらホラー映画のワンシーンだ。

 

 一応公衆電話にも固定電話や近年普及してきた携帯電話と同様に、電話番号が割り振られている。

 ゆえに誰かが誤って番号を打ち、公衆電話に繋がってしまった──というケースはある。

 ただし一般公開されていないものが多いため、意図的にかけるのは難しい。

 

 

 “幽霊などいない”精神に磨きがかかった男としては、ビクつく要素などない。

 

 だが連日家に来る電話(暫く無言ののち、「なぜだ……なぜ引退したんだ、星ノ先生…」という不気味な青年の声が聞こえる)の件があったため、「まさかな…?」と顔が引きつった。

 電話をかけてくる主がどこのバランを付けた人間なのかはわからないが、ヤツならば吉良が通ったタイミングで公衆電話にかけることも不可能ではなさそうだと、冷静な頭が導き出す。

 

 ちなみに静かなる人生の、()()()()()に入るのがこいつである。

 

「まぁ、間違い電話だろう」

 

 そう吉良が通り過ぎた瞬間、また電話が鳴った。

 静寂な世界に、その音が異様に響き渡る。

 

「………」

 

 面倒だ。内心舌打ちをし、公衆電話に入った彼は受話器を取る。

 

 

『──ザッ──ザザッ──』

 

 

 時折ノイズ音が聞こえるものの、人の声はしない。

 

 何かの機械トラブルだと判断した男は、受話器を戻そうとした。そのタイミングで「バタン」と大きな音が鳴る。音の発生源は電話からではない、外からだ。

 

 見れば、開けっぱなしだったボックスの扉が閉まっている。

 風は吹いておらず、誰かが故意に押しでもしなければ扉は閉まらないはずだ。

 

「…開かないな」

 

 内側から押せども、扉はびくともしない。キラークイーンで爆破させようにも、距離の問題で本体にまで被害が出てしまう。

 

 それ以上に奇怪であるのは、先程まで街灯や月明かりにより薄らぼんやりではあるが「光」のあった周囲が、ガラス越しに真っ黒く染め上げられていることだ。

 

 まるで公衆ボックスの周囲だけ、墨で覆われているかのような。

 にも関わらず中の状況が視認できるのは、内側の明かりが生きているため。

 

「クソッ…!!8時までには帰りたいというのに…」

 

 常人ならばパニックになってもおかしくない状況で、しかしこの男は別のことに動じていた。

 

 

 ────ピリリリリ。

 

 

 再度、電話が鳴る。受話器が宙にぶら下がったまま鳴る異質さを無視し、吉良は電話を取る。

 

『──ウシ──ァ──レ』

 

「は?」

 

 今度はノイズ音ではなく、抑揚のない人間の声が聞こえた。

 聞き取りにくい言葉に吉良が耳を澄ます中、今度こそその声を読み取れた。

 

 

 

『後ロノ正面ダァレ?』

 

 

 

 コンコンと、後ろの扉からノックが響く。

 

 冷や汗を流し、ゆっくりと振り返る──ことはなく、普通に振り向いた吉良の先にいたのは一人の男。

 

 白スーツは血で汚れており、シャツは彼が好みそうなストライプのものを着ている。ドクロ柄のネクタイも然り。

 身長もそっくりで、唯一違うのは白髪にワカメを添えたような髪であろうか。

 

 

「わたし……なのか?」

 

 

 完全に「自分である」と断言できないのは、その容姿が原因だ。

 

 顔は上から圧力をかけられたように、見事に潰れている。吉良の脳裏に浮かんだのは車に轢死された動物の死体だ。中身のはみ出し方が似ている。

 割れた頭蓋骨からは脳みそが漏れていて、肩や首元にこびりついていた。顔面で無事なのは口元だけだ。

 

「当分肉は食いたくないな…」

 

 相変わらず真っ黒な中で、その男だけ浮かび上がって見える。

 

 

『オ前ハ誰ダ』

 

「…?わたしは、吉良吉影────」

 

 

 その直後、吉良の意識は暗闇へと引っ張られるようにして落ちて行った。

 

 

 

 

 

 

 

 ◻︎◻︎◻︎

 

 

 目が覚めれば、わたしがいたのは病院──ではなく、公衆ボックスの中だった。

 

 異常な暗闇はなく、ガラス越しに街灯の明かりと窓から光の漏れる民家が広がっている。

 

 よくよく考えれば電話が鳴る前、周囲の家に明かりは一切なかった。夜といっても過言ではない時間帯に、どの家も電気を点けていないというのはおかしいだろう。

 

「本当に、奇妙な体験はこりごりだ…」

 

 一応ガラスにうっすら映る自分を見たが、特に変わりはない。さらに念のため出した我がスタンドも、変わりな『ニャー』──い様子であ『ニャー』……。

 

「ちょっと黙ってろ」

 

『ニッ』

 

 時計を見れば時刻は7時半。少し仕事の終わりが長引いたため今日は遅めの帰宅となったが、8時までには帰れるだろう。

 

 

 して、家に着いたまではよかった。

 

 家の門を開け、庭を見てまず違和感を抱く。週末にきちんと手入れしているはずの地面に草が生い茂っている。

 まさか──と思い玄関を開け中に入ってまず、電気がつかない。仕方なく探したライトで光源を確保する。そしてそこで、埃の溜まった床の上を歩いていた事実に鳥肌がたった。妙に埃臭いと思っていたが……。わたしが掃除をしていなかった?いや、そんなはずはない。

 

 そもそも、自分のもの以外で埃の上を歩いた形跡がない。

 

 さらに障子は長らく風通しがないように立て付けが悪いし、どの場所も埃が尋常じゃない。スリッパが命綱だ。

 

「オヤジも猫草もいないのか…?」

 

 

 キラークイーンが(本人にとっては友猫(ゆうじん)らしい)猫草を求め室内を探し回っているが、見つからないようだ。

 

 わたしも父を探したがいなかった。

 仏壇が閉じられているのも奇妙で、冷蔵庫の中身は一部腐っていた。日付はかなり前だ。

 

「………」

 

 他にも風呂の扉や押し入れなど、普段閉めているはずの場所が開けたままになっているのもおかしい。

 自分以外の誰かが入ったとしか思えない。カレンダーについては「6月」から進んでいないときた。

 

 書斎にしていた部屋はないものの、使っている──例えば歯磨き粉やシャンプーなどは同じだ。ただし染料材はなく、眼鏡置き場もない。

 

 服もわたしの趣味であるが、シャツの枚数やサスペンダーなど、微妙に違う箇所がある。

 自室の日記やアルバム、集めている爪などはなかった。

 

「わたしの家で間違いはないが、違う。……ハハッ、これじゃあまるで何ヶ月も…「人」が住んでいないようじゃあないか」

 

 否が応にも思い出すのは、電話ボックスで見た「生気」のない自身の姿。

 

 

「……違う…次元?いや、そんなSF染みた話があるわけ…」

 

 

 一応身分証明書や財布は持っているが、ここの家主が不在の理由を考えれば、身分証は使うのを避けた方がいいだろう。口座も恐らくは停止されている。

 仮に、もし仮にわたしのいた世界線と違う時空ならば、ここの吉良吉影(わたし)は死んでいる可能性が高い。

 

 ただあくまで、まだ可能性の話でしかない。

 

「調べるにもまず、衛生が先だ」

 

 一先ず無難なシャツ数枚とスラックスを持ち出し、出張用のカバンに入れる。

 そして万が一の時に備えて隠してある金(幸い場所は同じで、盗られてもいなかった)を取り、家を出た。

 

「気味が悪いな…」

 

 

 家を物色し見つけた、リビングの写真立てや賞状の品。

 

 社内で撮られたであろう写真のわたしは地毛で、目立たない位置に映っている。確かに自分らしいが、それ以上に頭が目立つだろ、染めろ。

 賞状の『3位』もよくわかるが、全部3位なのもいかがなものか。入賞程度に留めてもよかったのではないか?

 1位を取れる己のプライドが、譲歩しての「3位」ならば仕方ないとも思うが。

 

 やはり調べれば調べるほど、この世界がわたしのいた世界ではないと思い知らされる。

 ちなみに仏壇の位牌にわたしの名はなかった。単純に作られていないだけかもしれないので、正確にはわからない。

 

 

 その後家を出て、周囲に人がいないことを確認してからリゾート近くのホテルに泊まった。

 

 約一ヶ月はホテル暮らしも可能な金銭はある。だがなるべく早くこの世界の実情を調べ、帰る方法を見つけなければならない。

 

 初めに必要なのは情報である。

 わたしが家にいられない原因は何か。もしくは本当に死んでおり、いないだけなのか。

 

 

 まずこの世の自分の安否についてだが、翌日霊園を訪れ『吉良家』の墓を確認し、己の名が刻まれていることを確認した。

 死んだのは今から二ヶ月ほど前の日にちである。

 

 やはりあの顔の潰れた男はわたしで、その死に方も轢死か何かだったのだろう。

 

 オヤジがいないということはつまり、成仏したのか。

 猫草についてはわからない。

 

 そのままその足で図書館で墓に刻まれていた日にちの新聞を調べ、自分の名を発見した。

「お前はもう既に死んでいる」な、オーバーブローを食らった気分だ。別にこの世界の己が死んでいようがわたしではないので、極論構わない。

 

 

 ついで人物についてだ。

 

 一人で調べるにも限度があるため、知り合いに助けを求めたい。

 なるべくならわたしが別世界の人間であると理解させた上で、協力を仰ぎたいな。それも全て、この世界の吉良吉影が取っていた行動次第だ。

 

 ──鈴美(彼女)と関わりがなかったのは、家の私物を見て判断できた。彼女に関連するものが一切ないのだ。

 爪や日記などがなかったので第三者に押収された可能性もあるが、それでも彼女の映った写真一枚残っていないのはおかしい。

 

 ゆえに、「この世界のわたしと杉本鈴美は他人である」と判断できる。

 

 

 その事実に至り、妙な安心感を覚えてしまった。

 勝手に目頭が熱くなる。

 

『S一家殺人事件』について記事を探してもなかったゆえ、やはり死んではいないと考えられた。

 

 生きているのだ?彼女が。そう、生きて──生きている。

 

 逆に言えば、わたしと関わらなければ「幸福」に過ごせたことの裏付けのようで滑稽でもある。

 この場合「滑稽」はわたしで、その被害者が彼女か。

 

 

 それから数日間、一応その他様々な本を漁り政治や社会を調べたが、やはりわたしの世界と同じだった。

 大まかな情勢はわかったので、そろそろ戻り方を考えねばならない。

 

 何度か原因たる公衆電話にも行ったが、大きな変化はなかった。

 今は猫の手も借りたい。ネコ(相棒)の手が役に立たないから殊更に。

 

 そろそろ日も暮れ始めホテルに戻ろうと、席を立った。

 連日訪れる見知らぬ男に、司書の視線が少し刺さり始めた気がしてならない。今後訪れる回数は減らした方が賢明だろう。

 

 

 しかして接触を図るなら、誰にしたらよいものか。

 

「鈴美」という繋がりがないわたしは、この世界でどのように生きて死んだのか。というか何で救急車に轢かれたんだ。

 思った以上に天然キャラだったのか?三十路の天然キャラ?…気持ち悪いな。

 

「……ハァ…」

 

 持っていた薬が尽き、かなり、事は急いている。

 病院には行きたくはないが、行かなければならないものの、しかし行けない。

 

 身分証はこういう時に大きな力を持つ。仮に使って死んだ人間が生きていました──なんて知られてみろ、大きなニュースになるぞ。

 

 長引くほど精神が不安定になる。既にキャラではないことを言った気しかしないのだ。

 

 頼むから、平穏に暮らさせてくれ。

 

 

「おっと…」

 

「わっ!」

 

 

 図書館から出ようとして、不意に誰かとぶつかった。完全なるわたしの不注意である。

 

 返却用のバッグを提げていた少年は尻餅をつき、呻き声を上げている。濃い緑のランドセルを背負った子供の顔は、しのぶくんと似た容姿で。

 中性的な顔立ちは変わらぬものの、以前より身長が伸びたように感じた。

 

「すまな……かった」

 

「…別に、大丈夫です」

 

 まさかこんなところで、川尻早人と遭遇できるとは思わなかった。

 

 昔からやたら「図書」がつく場所で人と出会うのはさておき、この機会を逃すわけにはいかない。

 少年がずっと俯き気味のせいでこちらに気づいていないが、顔見知りの可能性は大いにある。

 

 転んだ拍子に地面に散らばった本を拾い手渡してやれば、向こうは小さくお礼を言った。

 

 そしてようやくこちらの顔を視界に入れる。瞬間、少年の瞳が大きく見開かれた。その視線が向かうのは、わたしの瞳の位置。

 

「……え」

 

「…?何かな」

 

 喉仏も出ていない細い喉元が、ゴクリ、と音を立てる。

「写真で、そんな、嘘、だって」と呟き、ついでこちらの全体を見るようにして、一歩後ろへと下がった。

 

「…失礼だが、君の知り合いだったかな?」

 

 相手の出方を待つ。急変した相手の様子を見て、暑さも和らいだはずなのにじっとりとした汗が頰を伝う。

 こういった時の嫌な予感は当たってほしくないものだ、切実に。

 

 

 

「どうして、吉良吉影────()()()()()()が、生きてるんだ………ッ!!!」

 

 

 

 あぁ、なるほど。そういうことか。

 

 どうやらこちらのわたしは、()()()しまっているらしい。

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