転生したら殺人鬼ポジだった件   作:クリーニング黒兎

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前知識。
原作側はみんな前向きポジティブだけど、こっちの方はみなどこか内包した闇を抱えている。


73話 しもしも〜?ボックスー!③

 広瀬康一にとって吉良吉影という男は、あまり接点がない人間だ。

 

 実際に面と向かって話したのは、逃げ出した康一の愛犬を吉良が交番へ届けようとしていた時である。

 露伴の「星ノ桜花」探しでも一応会ったが、ゴタゴタのせいで会話はしなかった。

 

 ゆえに康一の中の「吉良吉影」という男の像は、伝え聞いた情報で構成されている。

 

 

 男の古い知人である岸辺露伴は、吉良を「いけ好かない奴」だと語っていた。

 

 嫌う理由については、子供の頃によく()()()()されたからだ…と本人は話していた。だが、別の理由もあると康一は思っている。

 

 時折エゴイストな一面とはかけ離れた暗い一面を、漫画家の男は見せることがある。

 

 恐らくその“影”の部分が、露伴が吉良に複雑な感情を抱く理由の一つなのだろう。

 

 

 対し、異なる考えを持つのが東方仗助だ。

 

 仗助は幼少期に吉良と遊んでもらっていたらしく、近所のお兄さん、という印象が強いそうだ。初期は「おじさん」と呼んでいたらしいが、失礼だから──と、母親に言い直すよう注意されたという。食事を共にすることもあったようだ。

 

 仗助と露伴の違いはいったい何だろうか。

 まぁ、単純に気が合う・合わないの問題だろう。

 

 ただ両方の視点から見て、吉良へ抱く同じ印象がある。

 犬猿の仲(と言っても、露伴が一方的に仗助を毛嫌いしているだけのような気がする)な二人の意見が合わさるのだから、相当なものだ。

 

 

 露伴曰く────、人間として欠けている。

 

 仗助曰く────、繊細で壊れそう。

 

 

 少し異なった意見の気もするが、欠けているということはつまり壊れやすく、壊れそうということはつまり、既に欠けた部分があるかもしれない──と、康一は考えた。

 

 実際に小説を読み、繊細さと脆さのようなものは感じ取れた。

 

 

 

 そして、現在。

 

 嘔吐感がようやく治った男は、ソファーに座り死んだ目で水分を摂っていた。その後、見かねた露伴がスタンドを使って眠らせた。

 吐いた拍子に落ちた眼鏡の奥。そこにあった深い隈が、この世界に来て十分に眠れていないことを証明していた。

 

 精神に()がある──とは自分の世界の岸辺露伴から聞いていたが、ここまでひどいものだとは思わなかった。

 由花子の件もあり、精神に少し問題がある人間について理解した気でいたが、彼の考えは甘かったと言える。

 

 康一の友人は暗い過去を持つ人間が多い。仗助だったり、億泰だったり。

 しかしみな持ち前の性格で前向きに生きていて、自身の弱さを見せることが少ない。

 だからこそ人間の脆さというのを、彼はあまり身近に感じたことがなかった。

 

 しかし今、目の前に「死にたい」と考えている人間がいる。

 康一はそんな男に対し、何もすることができない。

 スタンドを手に入れ、杜王町で起きた数々の()()()事件を経て、強くなれたはずなのにだ。

 

「生きてください」と、言えばいいのか。

 だが喉元まで出かかったその言葉は、ついぞ出ることはなかった。

 

 

 そんな、そんな軽はずみな言葉を、言えるわけがない。

「生きろ」だなんて。順風満帆な日常の中で生きている自分が、言っていいわけがない。

 

 そしてその判断は、正解だった。

 

 

 仮に康一が言っていたら、殺意と共に絶対零度の視線を向けられていた。

 

 吉良の「殺意」は、こちらの世界の吉良吉影と違い、溜まりに溜まっている。

 本気でその視線を向けられようものなら、呼吸さえままならなくなるだろう。

 

 見え透いた「偽善」など要らない。

 吉良が求めているのは「生」きる理由か、もしくは「死」神だけだ。

 

 

「僕は何も…できないのか?」

 

 

 己の無力さを嘆く広瀬康一。

 その姿は成長し、そして立ち塞がった困難に悩むような──まさしく漫画の主人公のようである。

 

 

「フン…本当に地で「主人公」の道を歩む男だな」

 

 漫画本を手に取り、露伴は康一の様子を見つめていた。

 

 仮に彼ならば、「死にたい」と考えている男の思考をスタンドで書き換えることができるし、人を殺せぬよう制限しておくこともできる。

 

 だが実際に書いたのは『岸辺露伴、広瀬康一に危害を加えることができない』と、先程書き加えた『朝までぐっすり眠れる』というものだけだ。

 

 

 前者の内容については、吐きそうな男が吉良吉影だとわかったタイミングですぐに書き加えた。

 

 ある意味向こうの吉良吉影も悪運が強いのだろう。

 

 会っていたのが露伴ではなく仗助や億泰だったら、問答無用でボコボコにされていたはずだ。康一だったら立ち回り次第で話ができるチャンスはある…かもしれない。

 

 ちなみに吐きそうな男が「吉良吉影」とわかった時点で、能力を使うのは確定だった。

 

 家に連れて来たのは隠すためと、じっくり本の内容を読みたかったからだ。

 

「……」

 

 吉良が眠っている今なら抵抗なく読めるだろう。しかし露伴はまだ、行動に移せていない。

 

 

『わたしは人を殺さない』

 

『「普通」に暮らしたい』

 

『鈴美、ぼくは────』

 

 

 

「君を愛してる……か」

 

 

 少なくとも吉良吉影と杉本鈴美は、向こうでは全く異なる関係らしい。

 あちらの自分と吉良の関係がどのようにして生まれたのか疑問であったが、「鈴美」という仲介になる存在がいたならば納得もいく。

 

 流石に今眠っている男が一方的に彼女へ好意を抱いているとは思いたくない。

 

「彼女を傷つけた」という発言が、「ストーカーをして傷つけた」という意味合いを持っているだろうか。

 

 いや、ストーカーは基本自己中だ。

 吉良に「()()()()()()()」という認識があるからこそ、一方通行な恋愛ではなかった。

 

 そもそもあちらの岸辺露伴が付き合いを続けている。

 それだけで、ストーカーの線は薄れるだろう。

 

「そう言えば、露伴先生」

 

「何だい、康一くん。……あぁ、自殺志願の内容を書き換えろ、ってのならナシだぜ」

 

「それは…どうしてですか?」

 

「どうして、ねぇ」

 

 露伴の「ヘブンズ・ドアー」は使い方によって強力な力を発揮する。

 

 

「僕は、尊重しているのだよ。ソイツの「殺人鬼」のサガに抗う生き方を」

 

 

「運命」に抗おうとする人間が、岸辺露伴は好きだ。人間として好感が持てる。

 

 例えば広瀬康一や、ジャンケン小僧だ。

 

 双方追い詰められた時こそ、その内側にある「覚悟」を決め、彼に打ち勝とうとした。

 その結果康一には負かされて、その人間性に魅かれた。一方ジャンケン小僧には、勝ったもののその成長力に目を見張った。

 

 逆に「運命」を「命を運んでくる」と称した吉良吉影の生き方は心底反吐が出る。

 

 だが殺人鬼としてのサガに抗い、生きようとする男だからこそ、岸辺露伴は「敬意」を抱かざるを得なかった。

 

 

「そんな奴の生き方を、ぽっと出の僕が書き換えるなど言語道断だ。ただ人を殺さないように、制限だけはかけておいた方がいいのかもしれない」

 

 だがそれをすれば確実にフラストレーションが溜まり、精神バランスが崩れる。その最悪の結果は自死の道だ。

 

 あまりに繊細で、かえって頭が痛くなる。

 ここまで精神が脆い人間は露伴も中々見たことがない。まぁだからこそ、吉良への配慮が欠けていた。

 

 彼の周囲はみな、強い意志を持つ者ばかりで。

 何故あの「吉良吉影」がここまでぶっ壊れているのか、今すぐに読みたい。読みたい──が、露伴は疼く欲求を抑えている。

 

 

「微妙なバランスの精神──いや、既に崩れかかっているが、その状態で僕が見たら、何だか恐ろしいことになりそうだと思えてね。向こうの僕の「読まなかった」という選択が、少しわかった気がするよ」

 

 

 ジェンガでいう、あと一手で崩れる状態で自分の番が回ってきた感覚だ。

 

 露伴の取った行動で向こうの吉良吉影がどうなろうと構わないが、康一や、その他の人間に被害が出たら困る。

 

「……まぁ、そういうわけだ。放置しておく方が、賢明な手段だろ。──おっと、これだこれ」

 

「え、何ですか?」

 

 露伴の手にあるのは、青狸が表紙に描かれた漫画だ。

 

 

「藤子・F・不二雄で有名なのは言わずとも知れた『ドラえもん』だ。ギャグやコメディーが特徴的だが、あまり知られていないSF作品も作者を語るなら外せない。昔はデフォルメ傾向が強くて『AKIRA』が出るまではあまり写実的な──リアルな絵柄は少なかったが、それでもこれはこれで良さがある。デフォルメされていようが写実的であろうが、リアリティを感じさせる作品はあるからね。それで藤子・F・不二雄の話に戻るが、SF作品だと特に当時にしては前衛的な『ミノタウロスの皿』が──」

 

「ちょ、ちょ、ちょっとぉ!!」

 

「何だい、康一くん?」

 

「話が逸れてません…?作者の話をするために僕を呼んだんじゃないですよね?」

 

「おっと、そうだった。これを見てくれ」

 

 露伴が指したのは、暴君(ジャイアン)にいじめられて泣きつく少年に、やれやれだぜ、と青狸先生が出した秘密道具である。

 

 

「もしもボックス……?」

 

「そう、もしもボックスだ」

 

 

 康一と吉良の話で分かった共通点。それこそが、“公衆電話”。

 

 

「漫画だと『もしもこんなことがあったら、どんな世界になるか』を体験することができる道具だ。願った内容と多少差異が生じる場合もあるけれどね」

 

「つまり…どういうことですか?」

 

「おいおい、君の記憶にもあっただろ、似たような内容が。確か願いを叶える犬……だったよな。似ているとは思わないかい?」

 

「ッ…でも、影犬はもう消えたはず…!」

 

「違う。注目して欲しいのは「願いを叶える」部分ってだけで、犬の方は例を挙げるために出しただけだ」

 

 露伴曰く、公衆電話は「スタンド」とは違う()()なのではないかと言う。

 スタンドでは一概に片付けられない非現実的な体験をしてきたことがあるからこその、漫画家の意見である。

 

 そういったものは、何かしら「意味」があって存在している。

 その存在する意図を探ることが、戻るきっかけになる可能性があると、露伴は語った。

 

 

「なるほど…」

 

「君が何か頼んで、何かしらの力が働いた──ってわけじゃないのは、確かだよな?無意識に人の心理を読み取って、働きかけてるんじゃないかと思うよ。公衆電話がね」

 

「それって幽霊なんですか?」

 

「それはわからん。ただもう一度、こちらの世界に来た時のことを思い出してみる価値はあるんじゃないか?」

 

 それに康一は、唸るような声を出す。

 眠る男の横でちょこんと腰かけ、室内の蛍光灯をじっと見つめた。

 

 

「何かって言っても、週末にデートに行く服を考えてたくらいだし…」

 

「随分と呑気だな。もう少し違うことはなかったのか?例えばその日食ったものが違うとか、犬の散歩道を変えたとか。あとは……」

 

「あっ」

 

「……何だよ、その「あっ」は」

 

「道……!道ですよ!!ポリスがねだるから、その日はいつもとは違う散歩コースを通ったんです!!」

 

「ハァー……何でそれをもっと早く言ってくれないんだ…」

 

「え、えへへ…すみません」

 

 露伴は額に手を当てた。

 

 頼もしい男ではあるが、広瀬康一は抜けているところがあった。

 その欠点すら、露伴には漫画の主人公の魅力を引き立たせる「キャラ」のように感じられるのだが。

 

 

「おい、ちょっと起きろ、確認したいことがある」

 

「ん……?」

 

 露伴は自身が書き加えた内容を消し、吉良の頬を軽く叩いた。

 

 ゆっくりと開いた重い瞼。その瞳の奥底に沈んだ色は、不機嫌を露わにしている。

 

「康一くんは普段とは違う散歩コースを通って、公衆電話に行き当たったそうなんだが、貴様はどうなんだ?いつもと同じコースを通ったのか?」

 

「………仕事が遅くなったから、近道を通った」

 

「そうか、わかった」

 

「何かわかったの──」

 

 吉良の言葉は続かず、強制的に彼はまた眠りの世界へ旅立った。

 

 お互い普段とは別の道を通り、電話ボックスに行き着いた。

 次に露伴は杜王町の地図を取り出す。そしてこちらの康一が学校に行っている間に、あちらの康一と共に行った、公衆電話の場所をみる。

 

 大通りから外れた細道は周囲に住宅街がある。車も通れなくはないが、すれ違う際は片方が止まらなければならない狭さだ。

 

 まだ大通りにあるのならわかるが、改めて地図で公衆電話がある場所を確認すると、設置されている場所が不自然である。

 この場所に公衆電話を設置する必要があったのか?この疑問は、現場に行った際も一度脳裏によぎった。

 

 

 別段、一般人に見えていない──というわけでもない。

 

 ただ吉良と康一が通った時はそれぞれ周囲が静まりかえっていたり、電話ボックスの中に入ったのちに閉じ込められて、外の世界が真っ暗くなったりした。

 

 

 もしかしたら電話ボックスに問題があるのではなく、その()()()に何かあるのではないか?

 小道の件もある。あり得なくはない。

 

 

「奇妙な事象が起こるには、相応の理由がある。……なぁ、康一くん」

 

「はい?」

 

「本当に、デートの件で悩んでいただけか?他に何かなかったかい?」

 

「他にって、いうと……?」

 

「他にだよ、他に。不可思議な現象に君が巻き込まれたリアリティのある「原因」が知りたいんだ。薄っぺらいと言っちゃ失礼だが、服以外で何か悩んでたことは本当にないのか?」

 

「………」

 

 康一は俯き、黙り込んだ。

 

「…ちょっとテストで、悪い点を取っちゃって……」

 

「……あぁ、君は確か勉強が苦手な方だったね」

 

「それで、母さんと姉さんは割と何でもいいって感じなんですけど…父さんはちょっと、成績に厳しくて……」

 

 

 優秀な大学に入って、いい企業に就職する。父親のそんな考えは康一としてもかまわない。

 厳しいとは言っても息子のプライベートを尊重しているし、勉強も苦痛なほど強いられているわけではない。

 

 ただこれまでの事件もあり、成績がかなり落ちてしまった。

 

 さらにヤンキーの見た目な仗助と億泰の付き合いが知られ、それがさらに父を怒らせる要因となった。彼女に現を抜かしているのではないか?…とも言われた。

 

 確かに忙しさを理由に、勉強をサボっていた自覚はある。

 しかし自分はまだしも、友人や彼女のことを悪く言われるのは許せなかった。

 

 その結果が父との大喧嘩だ。そのせいで父と母の関係も最近悪くなってしまった。

 

 姉は「そのうち仲直りするわよ」と楽観的に言っていたが、負い目もあり、康一は悩んでいた。

 

 家族の悩み。それを仗助や億泰にはなかなか相談できず。

 

 かと言って由花子の場合は過剰に心配された挙句、「康一くんが困ってるのよ!?仲直りしなさいよォ!!このッ、(自主規制(ピー))」と家に乗り込んでくる未来が見えたため、話さなかった。

 

 

「──なるほどね」

 

 

 康一から本当の悩みを聞いた露伴は腕を組む。

 

 電話ボックスが恐らく「強い悩み」を持つ人間を、引き寄せるのだ。

 そしてこちらとあちらの世界を繋いでしまうのだろう。

 

 電話を取らなければきっと普通に出られ、取っても自身の名前を言わなければ、別世界へ誘われることはないのではなかろうか。あくまでこれは推測に過ぎないものの。

 

 露伴も試してみたくなったが、やめておいた方が賢明だろう。

 

「で、康一くん」

 

「はい?」

 

「何で向こうの僕が相談する対象に入ってないんだ!!?」

 

「え?だって解決しなさそうだし…面倒なことにしかならなさそうだし……」

 

「僕ら友人だろ?ツレないこと言うなよ。こういう時こそ歳上を頼るもんだろう」

 

「……どの道、根本的な解決にはならないと思うんだけどなぁ…」

 

 漫画家に凄まじく肩を揺すられていた少年は、遠い目をする。

 岸辺露伴は頼りになる時はなるが、基本的に康一に面倒ごとばかり持ち込む。それは向こうでもこちらでも、同じだろう。

 

「まぁ、確かに僕じゃあ家族云々の話は、解決できないだろうね」

 

 でもと、彼は続ける。

 

 

「クソッタレ仗助でもアホの億泰でも、頼ったって別に問題ないと思うぜ」

 

 

 仗助はジョセフとの問題があり、億泰は父親しかいないから、「家族」の問題を相談するべきではない?

 否、違う。

 

「「友人」が真剣に悩んでいるなら、どんなことでもしっかり受け止めてくれるさ。それに、難しい家庭事情を持っている奴らだからこそ、康一くんじゃ得られない「答え」を持っていると思うよ」

 

「露伴先生……」

 

「友だちって、そんなもんだろ?僕らのように」

 

 最後の「僕ら〜」からは、ちょっと疑問だったが、漫画家の言葉は康一の胸に刺さった。

 

 時には頼ってこそ、主人公というものは成長する。

 本当にカッコいい奴である──と、岸辺露伴は思わずにはいられなかった。

 

「でも、戻れるんですかね?元の世界に…」

 

「こういうのは悩みを解決すれば戻れるってのがお決まりなんだが…君は戻っていないね。案外『もしもボックス』みたいに、電話で「元の世界に戻してくれ」って言えば、戻れるんじゃないか?物は試しだ」

 

「そんな単純な方法で戻れるのかなぁ…。もし戻れなかったら……」

 

「ネガティブに考えてもしょうがないだろ。もっと気楽に考えろよ」

 

「……そうですね!」

 

 考えたって、どうしようもないのだ。

 だったら肩の力を抜くくらいが丁度いいのかもしれない。

 

「でも、僕の悩みは大丈夫ですけど、吉良さんは…」

 

「重すぎる悩みはそれこそ、君が背負うべきものじゃない」

 

「…けど、何か力になりたいんです」

 

「………いいかい、康一くん。少し厳しいことを言うけど」

 

 

 ────誰でも救えると、思わない方がいい。傲慢が過ぎる。「人」は所詮、人でしかないんだ。

 

 

「欲を求め過ぎれば、いずれその欲は自分に返ってくる。僕だってコイツに本当の意味で……「生」きるって意味で、何かをしてやることはできないだろうし、君にだって難しいよ」

 

「………」

 

 人が救えるラインを、とうに越してしまった男。

 

 救われるのは「殺人」に身を染めた時か、死んだ時くらいだろう。

 しかし「死にたい」と思えども、きっと生きる。自分で勝手に解決してしまうに違いない。

 

 露伴にはその生き方がこの上なく気色が悪く、哀れに見えた。

 

 

「……明日、吉良さんと公衆電話に行ってみますね」

 

「あぁ、人目には気をつけてくれよ。君もそうだが、この男もね」

 

 

 

 そして翌日、素性がわかりにくいよう変装した二人は岸辺邸を後にし────そして、戻ってくることはなかった。

 露伴も向かいたかったが、生憎仕事があった。

 

 果たして二人がきちんと元の世界に戻れたかは、彼にはわからない。

 もしかしたら束の間の夢だったのかもしれないが、後日川尻早人から情報を得たのだろう、康一たちから「吉良吉影が生きていたらしい」と、話が来た。

 

 彼はそれを「死人が生き返るわけがない」と鼻で笑った。

 結局、時間が経ち吉良吉影らしい人物は見つからず、「本当に気のせいだったのでは?」と意見が出て終わった。

 

 

 それから露伴も電話ボックスがあった場所へ向かった。

 だがそこに、公衆電話はなかった。

 

 あったのは、電柱のみ。近所の人間に聞けども、「公衆電話などあったか?」という反応しか帰ってこない。確かに一度訪れた時はあり、近所の人間にも見えていた。

 その時は一同「いつからあったかはわからないが──」と述べていた。

 

 人の「認識」とは、ひどく曖昧なものである。

 普段見慣れている道でも注視しなければ、存外見逃していることが多いのだ。

 

 

「本当に…頭が痛くなる話だな」

 

 

 これは漫画家、岸辺露伴が体験した、実に奇妙な話である。




・「赤い電話ボックス」

 気付けばそこにある。不思議な道の中。悩むあなたの前に現れる。取ってはならない。取っても、訪れたその世界のあなたに、名前を言ってはならない。もし言ってしまったのなら、あなたはあなたの場所でないところへ()()()()。もし迷ってしまったのなら、公衆電話を探さなければならない。電話を探して、元の世界へ戻してもらうよう頼まなければならない。公衆電話がなくなった時は、その時は、あなたは絶望するしかない。悩み続けるしかない。

 あなたが入っている時、電話の外は紅く染まっている。まるで血のようだ。


・崖の上

 吉良が目にしたのは、崖の下に臨く美しい海。それと、そこから伸びる無数の白い手。その手がゆっくり動き、崖に来たものをあの世へと招いている。その中に彼女と似た手があった。その後の吉良の記憶はなく、気づけば崖へと続く道の前にいた。

 キラークイーンに感謝しないといけない案件。相棒が止めなければ、そのまま海へ行っていた。だって、彼女がいるんだなも(たぬき◯)


 そして元の世界に戻れた吉良は、普通に暮らし始めると思う。
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