転生したら殺人鬼ポジだった件   作:クリーニング黒兎

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いただきましたリクから、【if泉ルート】なお話です。
辻綾のいざこざがなく、影犬の件が終わった後で、また小道に保健医がおらず、吉良は死なぬまま作家を続けている世界線。

正直言うと「泉」は京香?それともオリジナルの飛鳥チャンか?ーーと迷ったところもあったので、間違ってたら………ごめんナス!(土下寝の鑑)
そして泉√を書いたら保健医√も書きたくなってしまうのよなぁ…。


74話 IF泉飛鳥√

 S英社の有名な漫画家と言えば、あなたならば誰を挙げるだろうか。

 

 今回挙げるのはS英社の中でもトップの売り上げを誇る、某週刊誌の売れっ子漫画家────岸辺露伴にするとしよう。

 

 デビューは人にもよるが、基本は20代が多い。

 

 その点、岸辺露伴は異例の16歳という若さでデビューし、それからデビュー作の『ピンクダークの少年』を長期にわたって連載している。

 

 長らく人気であり続ける理由の一つは、やはり彼の才能ゆえだろう。

 週刊連載を一人でこなしているのだから、もはや人外である。

 

 彼は「リアリティ」を求め、常に面白い漫画を描くためにネタを探している。

 

 その姿は漫画家としての理想像である──と、彼が原作の作画を手がけたこともある荒木氏は語っている。

 

 

 しかしてこの男には、性格面で非常に()があった。

 

 彼が週刊連載を一人で行っていることは先ほど話したが、単にこれはアシスタントを雇っていないからである。

 

 ネタのため、また己の好奇心のためなら、降りかかる火の粉の中に躊躇せず飛び込んでしまう男。

 

 そんな姿に周囲が引くのは仕方のないもので。

 

 さらに生来の傲慢不遜、傍若無人とも取れる振る舞いの数々だ。

 

 

 しかしそんな男でも歳を重ねれば、必然と人との付き合いが上手くなる。

 

 若さがなりを潜め、角が取れて少しは丸くなった。

 

 

 

 

 

「新しい編集ねぇ…」

 

 

 平日の午後。カフェ・ドゥ・マゴに、特徴的なヘアバンドをつけた一人の男の姿がある。

 

 両耳に漫画のペン先をモチーフにした紐ピアスを付け、男は気怠げに頬杖をついていた。

 

 電線の上に止まる鳥のチュンチュンとかしましい声や、周囲の人間の話し声に、車の騒音。

 

 その一つ一つが、岸辺露伴の機嫌を逆立てる。

 

 単なる打ち合わせであれば、彼もここまで苛立つことはなかった。

 

 

 露伴がここにいる理由は、新しい編集との顔合わせのためだ。

 前の担当だった貝森(かいがもり)という男は、自分から希望して編集を下りた。

 

 貝森が担当を辞退した理由を露伴は知らない。さして興味もなかった。

 おぼろげな記憶では、彼が破産した理由を聞いた後から様子がおかしかったようにも思う。

 

 そりゃあ岸辺露伴が()()()()になった原因が、取材の延長線上にあるのだと知れば、「コイツ正気か…!?」と思いたくもなるだろう。

 

 そしてこの出来事を「イイ経験になった」で昇華するのだから、下手なホラーより怖い。

 露伴も流石にこの時は参ったが。

 

 そも待ち合わせに編集が6分早く着き、それを「()()()()()」と言うほど気難しい性格な岸辺露伴は、貝森にの手に余りすぎた。

 

 果たして、この漫画家に合う編集者などいるのであろうか。

 

 担当だった男は真摯に思ったに違いない。

 

 

 

「あっ、遅れちゃってすみませ〜ん!」

 

 

 間伸びした声と共に、露伴の席の前に現れた一人の女性。

 

 明るい髪とアップにした前髪が印象的である。

 長めの髪は肩先でカタツムリの殻のように内側に向かって巻いていた。

 

 初日から堂々と遅刻した女になんと言うべきか、漫画家の男は思考を巡らせるはずだった。

 しかし、思考が先に進まない。

 

「あれぇ、どうされたんですか、露伴先生?」

 

「いや…」

 

「あ、遅刻したのは申し訳ありません!ちょっと電車を寝過………道に迷っちゃってぇ〜…」

 

「おい、今「寝過ごした」って言おうとしただろ」

 

「いえ、全然言おうとしてませんよ!気のせいです、気のせい!!」

 

「ハァ……」

 

 

 岸辺露伴はいったい何に思考を奪われたのだろうか?

 

 答えは女の容姿と、彼女の名字にある。

 

「確かに名前は……「泉京香」だったよな、君」

 

「はいッ!本日から先生の担当になりました、泉京香です。よろしくお願いしますねェ、先生。…あ、コレ伊勢丹で買ったお土産です。今OLに人気のお菓子らしくてェ〜〜」

 

「あ、あぁ…いただいておくよ」

 

 露伴は紙袋を受け取り、テーブルの端に置く。

 

 彼の脳内で「泉」の名がグルグルと回る。前にKO談社に赴き「星ノ桜花」について調べた時、その担当をしていた女の名が「()飛鳥」であった。

 その容姿については、星ノ桜花と編集が打ち合わせしていたところを目撃したので覚えている。

 

 

 似ている────。

 

「泉飛鳥」との血縁関係を疑わざるを得ないほど、泉京香は彼女に似ていた。

 

 

「なぁ、ちょっといいか?」

 

 挨拶から打ち合わせの話となり、店員にドリンクを頼んだ女に彼は話しかける。

 

「はい、なんでしょう」

 

「君さぁ、もしかして“()”とかいないか?いとことかでもいいんだが…」

 

「姉ならいますけど……どうして急に?」

 

「いや、随分前にKO談社に仕事の都合で向かうことがあって、その時君と似た女を見たんだ。名前も「泉」だったから、気になったんだよ」

 

「あぁ、なるほど。あたしはS英社に勤めてるんですけど、姉はKO談社に勤めてるんです」

 

 彼女は「コレはほんとは内緒な話なんですけどォ」と前置きし、姉があの星ノ桜花の担当をしていた経験があることを話した。

 それに露伴は「へぇ」と、軽いリアクションを返す。

 

「えっ、驚かれないんですか!?あの星ノ桜花先生ですよ!!」

 

「だって知ってたからね、君の姉が星ノ桜花の担当をやっていたこと」

 

「えっ!!?」

 

「ついでに星ノ桜花に会ったこともあるからなぁ、僕は」

 

「ええっ!!!?」

 

 店員の持ってきた紅茶が、彼女が身を乗り出したことにより揺れて溢れる。

 お互いの顔の距離が鼻先近くまで近づいたところで、露伴が舌打ちして椅子ごと身体を後ろに下げた。

 

 京香のリアクションから察するに、彼女は星ノ桜花の相当なファンのようだ。

 

 

「ウソッ…星ノ先生の性別ってやっぱり女性なんですか?それとも男性?歳は?住まいは?血液型とか誕生日は?」

 

「個人情報を教えるわけがな……ちょっとストーカーくさいぞ。君が知らないってことは、姉は教えてくれなかったのか」

 

「担当する作家の情報を口外するわけにはいきませんからね。あたしだって、姉の立場だったら言いませんもの」

 

「自分が矛盾したことを言ってるのに気づいてるのか…?」

 

「はい。それでもファンとして知りたいんですよぉぉン……!!」

 

「まぁ、その気持ちもわからなくはないが」

 

 若かりし頃に露伴も同じ行動を取った。そして、星ノ桜花本人に行き着いた。

 

 仮に相手が東方仗助と同レベルに嫌いな相手でなければ、岸辺露伴のキャラが完全に崩れていたかもしれない。

 

 逆に言うと、()()()崩れてしまっていた。

 

「星ノ桜花」の名を知らぬ人間の方が、今は少ないだろう。新刊を出したらすぐにメディア化される。

 しかしそれは恋愛ものに限った話で、作家の本領が発揮されるダークな作品については、未だ映像や漫画化などはされていない。

 

 ある時その理由について、映画の試写会で行われた質問コメントで、作者の意見が述べられている。

 

 

 

 

 

 “深淵をのぞく時、深淵もまたこちらをのぞいているのだ”という言葉を『善悪の彼岸』の著書で残したのは、ドイツの哲学者「フリードリヒ・ニーチェ」でしたね。

 

  (わたし)の暗い作品は、完全なる自己満足の産物なんです。

 

 ありがたいことに映画化させていただいた今作とは違い、読者を意識して書いているわけではありません。調理されないまま、私の内側が解体されて、そのまま皿の上に並べられている感じですかね。

 それを食べる人間は──えぇ、ごく少数でしょう。分かっています。万人受けするとは思っていませんので。

 

 それで、最初のニーチェの言葉を借りますが、私の内面を覗いている方々は、私にその内面を覗かれているのでしょうか?

 いえ、覗けませんよね。

 

 私の内面が作品に昇華されていると言っても、読んでいるだけで、()()までには至っていないと思います。

 

 例えるなら私が映った写真を見ているだけで、実物の私がどんな人間かを知っているわけではない。

 

 好きな食べ物ですとか、趣味ですとか、想像するしかないんです。

 

 人見知りなので、私が今後も表舞台に出ることはないと思いますが……。

 

 

 しかし、ただ読んでいるだけ、というわけでもないでしょう。

 

 何度も言う通り、作品には私の内面が反映されています。そしてあなた方はそれを読む立場です。

 

 そうして物語に没入し主人公と自分を重ねた時、同時にあなたは無意識に己の内面と向き合っているはずです。

 

  ────つまりあなたは、その時自分の内側を覗いている。

 

 私が言いたいのは、この一言に尽きます。

 

 

 まぁ、恐れ多いですが、私の自己満足の作品を好きで読んでくださる方もいらっしゃるでしょう。

 

 それで──長くなりましたが結局、メディア化のお話をいただくこともございますが、自己満足で書いた作品を出したくないわけです。

 

 本音を言いますと、恥ずかしいんです。

 メディア化されたら爆発する自信まであります。

 

 そんな斯様な、私の首を振る態度に、「ならば誰であればよいのか」と聞かれたこともございます。

 

 「この人間ならばかまわない」と思える人物が一人おりますが、そこはご想像にお任せします。

 

 

 長々と書くと悪感情ばかり連ねてしまいそうなので、このくらいにしておきます。

 

 私が後書きを書かないのも、これが理由です。

 

 それと単純に何を書けばよいのか悩み、その末、その日の眠りが浅くなっては嫌だからです。

 

 そもそも後書きを書いても読む読者は少な………おっと、これ以上は黙った方がいいですね。

 

 

 最後に、映画制作に関わった方々、またご覧になる皆様方に感謝の意を述べます。

 

 どうぞ家族や恋人、あるいは友人と、今作を楽しんでいただけましたら幸いです。

 

 かく言う私は「おひとり様」で行くでしょう。

 

(「()()()()()()()」とは書かれていない)

 

 

 

 

 

 これが、試写会で読まれたコメントの全文である。

 

 

 実際に現場で聞いた者の中には「先生らしい」と笑ったり、苦笑いする者もいた。

 

 京香はこの時いたらしく、珍しい作者のコメントに歓喜していた。

 星ノのコメントが出るだけで、「おぉっ!?」と会場から声が上がるのだから、相当である。

 

 

「露伴先生は見に行ってなさそうですよね。私は行きましたけど」

 

「行くわけないだろ、興味ない」

 

 露伴は一応、星ノの作品全てに目は通す。

 だがやはり恋愛系は読者を意識して、ウケるように描かれているのが面白みに欠ける。

 

 彼ほど「リアリティ」を求め過ぎていると、虚構の作品に心がときめかない。

 

 しかしこれが読者を意識せず書かれた、人間心理のドロドロ狂気本だと「面白い」と思えるのだから、チグハグである。

 

 

「メディア化させてもいい“一人の人間”ってのは、誰なんだろうなぁ…」

 

「えぇ〜〜っ、意外に露伴先生だったりして!」

 

「ハァ?何で僕が?ありえないね」

 

「そうですか?()()売れっ子漫画家岸辺露伴で、しかも星ノ先生と面識があるなら、可能性があると思いますけどォ」

 

「ないない。ほら、とっとと打ち合わせを続けるぞ」

 

「はぁーい、わかりました」

 

 

 それから、小一時間たった後。

 話も終わり露伴が席を立ったところで、ふと彼は、かつてKO談社で聞いたことを思い出した。

 

「なぁ、ちょっといいか」

 

「どうしました?」

 

 そう言えば、KO談社で星ノの情報を探していた時、「星ノ桜花」について詳しい情報を知る人間はいなかった。

 

 作家の担当事情は詳しく知らないが、漫画の編集は定期的に代わる。長いこと連載を続ける彼も、何度か代わっている。

 途中で岸辺露伴にギブアップした者も含めて、泉京香が何人目かは覚えていない。

 

 作家もおそらくずっと同じ人物…というわけではあるまい。星ノの方が、露伴よりも経歴は長いのだ。

 

 その点を踏まえ、7年前の当時、星ノ桜花を知る編集者はいなかった。

 泉飛鳥の前に何人か担当が代わっており、その人物たちは諸事情で辞めた。

 

 その他、編集長が代わる前の担当については不明である。

 恐らくは前編集長が代わる時に、星ノの身バレを避けるため、別の出版に移らせるなどの対処を取ったのだろうと考えていた。

 

 

 だが吉良吉影の素性を知っている露伴は、どうにも嫌な予感が拭えない。

 

 身バレを避ける男が、今まで担当していた編集に何かしら手を打っていてもおかしくない。

 泉飛鳥が五体満足──そして精神健やかに過ごせているか、一抹の不安しかなかった。

 

「君の姉ってさ、今もKO談社で働いてるんだよな?」

 

「はい?さっきも言いましたけど…」

 

「ビョーキとか、してないよな?作家の担当はきっと大変だろ?」

 

「あたしの姉が病気?ハハハ!やだなぁ〜あり得ませんって!」

 

 なんなら写真見ます?──と、ガラケーを出した京香は鼻歌混じりに携帯を操作する。

 そしてさほど時間もかからず、画面を露伴に見せた。

 

「これこれ、私の隣で笑ってるのがお姉ちゃんです。今年の春に姉妹で初詣に行った時撮ったんですよ」

 

「………」

 

「お姉ちゃん美人なんですよね〜。でもカワイイって感じもあって……露伴先生?」

 

「……お、おいおいおいおいおい、おい」

 

「な、何ですか、そんなに画面を見つめて?……あっ、ダメですよ!お姉ちゃん婚約はしてないけど、彼氏がいるんですから!!」

 

「違うよ君、そうじゃあない!よく見てみろよ、この写真!!君の姉の腕の方をさッ!!!」

 

「え?腕の方…?あぁ」

 

 

 コートを羽織った二人の女性。京香の左にいる女性の腕の中。

 

 そこには紅いニット帽をかぶり、厚手のジャンパーとジーンズを着た、6歳ほどの子供が抱っこされている。左手を飛鳥の首に回し、視線はガッツリとカメラ目線だ。

 

 髪は長めのストレートで、肩にかかっている。顔は前髪に隠れ見えにくいが、性別の判断がつかぬほど中性的な見目をしている。どちらにせよ、容姿端麗であることは確かだ。丸いくりくりとした目がどことなく、飛鳥と似ていた。

 

 

「お姉ちゃんの息子です、女の子に見えるほど愛らしいんですけど、男の子なんですよ!」

 

「ハ、ハハ……」

 

 

 見覚えのある幼児の金髪と、薄い紫の瞳に、露伴の思考は止まった。

 

「名前は吉照(よしてる)くんって言って……」

 

「グハッ」

 

 そしてオーバーキルの情報に、漫画家は完全にトドメを刺されたのである。

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