転生したら殺人鬼ポジだった件   作:クリーニング黒兎

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誤字脱字報告ありがとうございました!前回……多いね(白目)


80話 流浪に幽霊

 わたしの名前は吉良吉影。仕事をしながらフラフラとこの世を彷徨っている。

 わたしは俗に言う「幽霊」という存在である。

 

 生憎それ以上自分の生前ついて覚えていることはないので、自己紹介はここまでにさせてもらう。

 

 

 ただ名前以外の記憶はないものの、一般常識は不思議なことに持っている。

 

 何故自分が死んだのかはわからない。気付けば道路の中央線に足を揃えるようにして突っ立っていて、ぼんやりと空を眺めていた。

 

 生と死がある人間とは違い、「魂」だけのこの体は厄介だ。

 己が着ていた三高帽やネクタイ(シャツは着ていない)、胸元のはだけた深緑のスーツはわたしの魂のイメージが反映されているのだろう。しかし自分がこのファッションが好きかどうかと聞かれれば、「わからない」としか言いようがない。

 本当に頭からわたしの趣味嗜好、記憶などの情報がすっぽりと抜けている。

 

 

 しかしそんなわたしにも、己の指針とする生き方──否、()()()がある。

 

 わたしは、心の「平穏」を求めている。

「普通」の人間なら、当たり前に享受できる平穏たる生活をだ。

 

 

 幽霊ってのは人間が思っているように、自由にあちこち存在しているわけじゃない。

 大体は死んだらそのまま成仏する。この世に残るヤツは何か現世に未練を残しているヤツか、成仏したくても生きている奴らの「執念」に引っ張られて、上へ上れないパターンが多い。

 

 ならば何故わたしがあの世に逝かないのか疑問に思うだろう。実際これは、以前フラリと訪れた神社の尼僧に聞かれている。

 理由は単純に、あの世が本当にあるのか懐疑的であるから……と言いたいが、本当の理由は別にある。

 

 

 ────わたしは、()()()()()()()()のだ。

 

 

 ()()がこの世に本当にあるのかはわからないし、どこにあるのかもわからない。むしろ何を探しているのかもわからない。

 曖昧な考えはしかし、わたしの平穏を求める信念と同レベルで存在している。

 

 あの女坊主はこの話を聞くと、「そうですか」と、難しそうな表情を浮かべた。

 わたしの話が奴の道徳心に触れたらしいが、それは別にどうでもよい。

 探しものが何か分からずとも、今のわたしは特に困っていないのだから。ゆえに、協力を申し出た女の話を断った。

 

 自分の悩みや試練は、己で乗り越えたい気持ちがある。他人に頼ってしまえばラクではあるが、それでは面白くない。

 

 何より普通の人間と違い()()()()()()()わたしには、膨大な時間がある。そんなヒマな時間を潰すには、何か目標がなければやっていけない。

 

 

 わたしは“探しもの”と、平穏に死にながら己が存在する「価値」を見出すため、仕事をし、現在(いま)を過ごしている。

 

 言っておくが、死んでいるのも社会を生きる人間と同じでかなり大変だ。

 

 

 理由としては、幽霊に存在する多くの制約が挙げられる。

 

 例えば人間が住まう家の中に入るには、その家主の「魂」の許可が必須である。また生きている人間や動物にこちらから触れるのはいいが、向こうが触れてくると、接触した部分からバラバラになる。

 

 一応くっ付ければすぐに戻るので、問題はない。

 

 

 だがわたしは普通の幽霊とは違うのか、誤って生きている連中に触れられても、身体がバラバラになることはない。ない……が、極端に精神が疲れる。

 

 もし人通りの多い場所にいた場合、地獄の目に遭う。

 

 あと畜生の中でも、特に犬は人間より()える奴らが多い。最悪無理やり体の一部を引きちぎられて持っていかれる。

 

 

 また幽霊がバラバラになる理由だが、恐らく死者(こちら)の「魂」が、生者の「魂」に耐えられないからだと推測している。

 当たり前だが、生きている連中は死んでいる我々より「魂」のパワーが強い。

 

 その上で、なぜ幽霊のわたしが他の幽霊のように「制約(ルール)」が適用されないかについてだが、原因は多分()()()にある。

 

 

『ニャー』

 

 

 自分の背後を見つめると、()()()は現れた。

 

 例えるなら、二足歩行を習得した人間のような猫だ。

 ゴムの質感を想起させるピンクの肌が、不気味さを助長させる。

 

 たまに玉砕覚悟で人間の後ろをストーカーするアホな幽霊はいる。しかし幽霊をストーキングするなど聞いたことがない。

 そもそもコイツが幽霊ではないことは感覚でわかる。

 

 しかもコイツの存在は、幽霊が視えるあの尼僧にも認識されなかった。

 人間でも幽霊でもない存在。まさか神じゃあないだろ。そんな目に見えぬ存在などいるわけがない(盛大なブーメラン)。

 

 

 

 まぁそうして、わたしは幽霊の日常を送っている。

 

 しかし幽霊生活にも金はいる。そんな時は「仕事」で稼いだ金をあらかじめ壁の隙間などに隠し、必要になったら使う。

 無賃乗車はこの身体なら簡単だが、やはり()()()を守ることは重要だ。

 

 ちなみに仕事は、「何でも屋」をしている。

 

 

 見える奴らで、尚且つこちらと話が通じる連中の依頼を聞き、対価として金を受け取る。

 

 商売の対象は子供が多い。幼い奴らの方が幽霊が視える人間が多いからだ。それに大人だと、金を払わずに逃げる場合が多い。

 はじめはそのケースが多かったので、上手いやり方を覚えた。

 

 狙うのは主に神社や寺など。こちらが意識すれば、その声を人間に聞かせることもできる。そうやって神様になりすまし、悩みを聞くのだ。

 

 

 肝心なのは、それとなく子供に『願いを叶える神様がいるらしい』と噂話を流すこと。そこから軽い依頼から引き受けていく。

 

 子供でよく多い「テストの点数が良くなりたい」という願いには、テスト前に夜の学校(公共機関や施設には不特定多数の人間が出入りするので、「魂」の許可が生じない場合が多い)に忍び込み、答えを移す。

 

 それを『オレオレ、神様(意訳)』で聞き出しておいた子供の情報と重ねて、該当する席に忍び込ませておくのだ。この時神の仕業だと信じやすくするように、達筆で書くとよい。最後に「神より」と書くのは少しマヌケな気がするが、この方が子供は信じる。

 

 同様にこれまた多い恋愛は、好きになってもらいたい相手が依頼人に意識が向くよう計画を立てる。子供ならば感情を操作するのは容易い。

 

 最初のうちは金銭のリターンは諦める。

 

 一応、“賽銭=願いを聞く”──という流れにしているが、子供ではたかが知れている。

 

 

 しかして噂話がいずれ子供づてに高校生や大人に伝わると、金額が跳ね上がる。

 金を多く積む奴らの願いは「アイツと別れたい」やら、「復讐したい」やら、暗いものが多い。そして()()の願いであるからこそ、金を先に賽銭箱に入れる。

 

 基本的にそういった人間は夜に訪れる。ほら、丑三つ時に五寸釘と藁人形で人を呪うのと同じ心理だ。賽銭ドロボーについても心配ない。大金を積まれても、その一部しか持っていかないからな。

 依頼に関しては、殺人以外であれば引き受ける。

 

 不意に思い出すのは、あの女坊主の言葉だ。

 

 

『死者が死者を生み出すなど、神が許しません』

 

 

 幽霊に成り立てで、わたしがこの世での過ごし方を考えていた時。

 金を稼ぐ方法を語った後で、殺人を行う可能性を話した。

 

 あの女坊主の言葉は、それはそれは胸に響いた。自国の選手が相手と接戦を繰り広げ、ようやく金メダルを勝ち取る光景よりも感動を、感銘をわたしに与えたのである。

 

 

 無論ウソだが。感動も感銘も受けるわけがない。人の不条理に憤り、生きる人間の魂を救うには時に人殺しも必要であると考え始めていた女が語るにしては、矛盾にもほどがある。

 しかし死者が死者を作るなんて、そんなバカバカしい話があってたまるかと、わたしが思ったことも事実だ。

 

 人間が法で厳重に罰する「殺人」を、人間ではない、幽霊のわたしが行う。

 

 その姿は、滑稽に他ならない。

 

 

 

 ────ころしちゃだめ。おねがい……人を、ころさないで

 

 

 

 脳内に浮かぶその言葉。誰が呟いたのかは分からない。恐らくはその言葉は、わたしに残るかつての記憶の残骸なのかもしれない。

 人を殺すのは別にいい。しかしそう思った時に、この言葉が浮かぶ。

 

 だからこそ、わたしは人を殺さないのだ。

 

 

 以前図書館に侵入し、自分の名前を新聞で調べていた時期もあったが、関連するものはなかった。

 パソコンで調べても『吉良吉影』は該当しなかったのだから、情報に頼るのは諦めた方がいい。

 

 ただでさえ、人の多い図書館で行動するのは大変なのだ。新聞一つ見るだけで、フルマラソンぐらいの労力を使う。

 

 

 結局色々と試し、自分の足を使うことが最適解だと結論づけた。ゆえにわたしは全国各地をフラフラしている。

 いずれ自分の探すものが、見つかるかもしれないと信じて。

 

 記憶はないがきっと探しものを見れば、わたしは絶対に気付くだろう。

 何せ魂に刻まれた、「吉良吉影」の情報なのだから。

 

 

 

 そして今現在わたしがいるのは、M県S市。

 自分が気づいた時にいた街である。山もあるし海もある、実にいい街だ。

 

 当初街を適当にぶらついたが、自分の手がかりになりそうなものはなかった。

 

 むしろこの街全体から感じられる何か()()()()()()()()が恐ろしく、早々に別の街へと逃げた。

 それでもいつの間にかこの街に戻っているのだから、奇妙だ。

 

 

 願わくば金が貯まり自分の家が持てたその時は、眺めのいい場所に住みたい。

 早く空を眺めるこの虚しさから卒業したいものだ。

 

 想像してみよう。有名な作曲家の音楽を聴きながら、優雅に読書する。読むのは宮沢賢治でも、江戸川乱歩でもいい。

 もちろん「幽霊が出ます」なんて騒がれたらたまったものじゃないから、そこは苦労がいる。自分で乗り越えるのが不可能なこともあるため、その時は幽霊が視える人間の手助けが必要だ。尼僧にでも頼んでみるか。

 

 欲しいのはひとまず、わたしだけの「結界」がある場所だ。

 

 他の幽霊のように、ぶつかるのを恐れてビクビク怯える生活はまっぴらゴメンである。

 

 それで、もし“探しもの”を見つけたら、ソレと共に暮らすのもいいのかもしれない。このわたしが探し求めてやまないのだ、相当ステキなものなんだろう。

 

 

 

 思考に耽りながら拠点にしている神社の社の上で寝転がっていれば、女が来た。

 ()()()なのは認めるが、少々目付きがきつい。

 

『……おっ?』

 

 こちらを見て、女の表情が驚いたものに変わった。

 

 わたしが視えているようだ。興味本位で近づくと、露骨に警戒された。

 

 

『そう怖がるなよ。オレは確かに幽霊だが、アンタに害をなそうって気はない。望むならここから一歩だって動かないさ』

 

 

 幽霊生活で重要なのはイメージだ。さらに想像するだけじゃなく、自分の魂も操作しなければならない。

 

 それができるようになれば、わざわざ階段を上らずとも体を浮かして屋上に行くことができる。

 

 しかし東京タワーでそれをしろと言ったら無理だし、精々十数階を上がるのが限度だ。それ以上は魂に負担がかかる。

 

 また立ち寄った古本屋で読んだ悟空のように、瞬間移動をすることはできないし、人の域を超えた速さで動くこともできない。

 

 幽霊の特権はすり抜けたり、睡眠やメシ要らずだったり、先ほど述べたくらいしか利点がない気がする。

 

「……一歩でも近付いたら、その肢体をバラバラに刻んでやるから」

 

『あぁ、約束する。その不思議な髪じゃ本当にできちまいそうだしな』

 

 よくよく見ればこの女、他の人間よりも魂のエネルギーが強い。偶に似たような奴を見かけたことがあるが、この街は異様に多過ぎる。土地自体が呪われてるのか?

 

 

 して、女はどうやらわたしが流した噂話……ではなく、「恋愛成就」の場所だと聞いて来たらしい。

 やたらと今回は恋愛話が多いと思ったが、噂話が人の語りによってかなり変えられていたみたいだ。

 

 隠す必要はないと判断し、願いを叶えていたのが自分であることを告げると、女の眉がさらに吊り上がった。

 

「願い……ね。見たところアンタ、犬って見た目じゃないし、色も黒くないけど…」

 

『犬ゥ?…何で犬の話になるんだ?人を狛犬と勘違いしてるなら、全然違うからな』

 

「じゃあ何なのよ」

 

『だから、幽霊だ、って言ってるだろ。不思議なパワーで願いを叶えてるわけじゃない。物理的にオレが動いて解決してるんだ』

 

 金を稼いでいる理由も聞かれたので、「自分の家を買うためだ」と答えれば、深いため息を吐かれた。

 今猛烈に殺意が湧いている。

 

 

「幽霊が家を買うって、何よそのフィクションみたいな話」

 

『別にオレが何をしようが構わないだろ。幽霊だとしても』

 

「でもそれで人に迷惑をかけているなら、康一くんがきっと許さないわ」

 

『そのコウイチくんって、君の彼氏か?何かを悩んでいるようには見えないが…』

 

「悩みはないわよ、もうね。それで、本当に悪さはしてないんでしょうね?」

 

『あぁ、してないよ。神に誓ってもいいさ』

 

 神社の前で平然と嘘を吐くわたしは、天国に逝かせてもらえずあの世に送られちまいそうだ。

 再三言うが、あの世なんてないだろうが。

 

「……まぁいいわ、今日は一先ず帰る。そろそろ暗くなりそうだし」

 

『その方がいい。あんたみたいな美人を狙う輩はきっと多いだろうからな』

 

「ねらう?愚問ね」

 

 

 葉を散らして、ゴゥと、一際大きな風が吹く。人がいつの間にかいなくなった境内には、沈みかけの紅い世界ばかりが広がる。

 その中心で()()()のように蠢く女の黒髪は、心臓を凍らすような恐ろしさがある。振り向きざまの女の冷えた笑顔が、それを助長していた。

 

 思わず一歩後ずさった瞬間、女の瞳が丸くなる。視界の先はわたしの背後のようで、つられて振り向いたが何もいない。

 

「さっき、そこに頭蓋骨?……が、浮かんだ気がしたんだけど…」

 

『…おいおい、まさか死神なんて言わないよな?やめてくれよ』

 

 静まり返った場。それから硬直が解けた女は、少し駆け足気味で境内を後にした。

 

 

『ニャー』

 

 

 女をビビらせた犯人は完全に人がいなくなってから現れ、呑気に毛繕いをし出す。

 手の甲をヤツが舐めると、自分も同じ場所に舐められた感覚がする。その不快さにあちらを睨みつけた。

 

『ニャー』

 

 心なしか寂しげな声を出し、ソイツは消えた。

 わたしの背後を陣取るヤツが何者なのか、わからないままだ。まぁこちらに危害を加えず、むしろ守るように動くから、様子見のままにしている。

 

『……取り敢えず、多少被害が出てるってのがバレる前にこの街を去るか』

 

 いずれはまたこの街に引き寄せられるのだろうが、今を乗り越えられれば現状はいい。

 

 わたしは自分の「平穏」を求めて、そして己の探しものを見つけるために、これからも全国各地を放浪するだろう。

 

 

 そうすればきっと、己の「幸福」を得られるはずだと信じて。

 

 

 今日もわたしは、死に続ける。




(補足的なもの)

吉良と由花子の面識はなし。由花子は康一から吉良の名前を聞いたことはあるが、幽霊から名前を言われたとしても思い出せないくらいには、覚える必要性を感じていなかったので忘れている。吉良の容姿についても同様。伝え聞いた大まかなイメージしか知らない。


吉良の生き方ならぬ「死に方」に、エモさを感じて欲しい今話でした。
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