転生したら殺人鬼ポジだった件   作:クリーニング黒兎

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多分本編時空の回。出したいとは思いつつ、出さずに終わったスタンドの話です。主人公と「罪悪感」の話を書きたかったんだけども、書き終えて少し逸れた感じはある。

玉美の性格のクズさが++目なので、苦手な方はご注意ください。


81話 わるいこ

 四月某日。日和もよく、満開の桜が花びらを落としている。

 新学期、あるいは新生活が始まる季節だ。人々の心に新しい風が吹く。

 

 そんなとある日の午後、カフェ・ドゥ・マゴのテラス席に二人の男女の姿があった。客もまばらな中、男は時折カップを口につけながら空を眺める。その一方で、女は茶封筒から出した紙の束に目を通していた。

 

「先生、大丈夫ですか?なんだか心ここに在らずな感じですけど」

 

 眼鏡の奥に秘された男の瞳は、空に浮かぶ青空を掴んでやまないようだ。

 

「……空が青いと思いましてね。知人に瞳の青い少年がいるから、少し思い出していました」

 

「青って…外国の方ですか?」

 

「いえ、母親は日本人です。父親の方はわからないですが」

 

 男の知人である少年は、青い瞳を持っている。かく言う彼も紫の瞳を持っていた。

 

 目は人の感情をよく表す。男は白衣を着た悪魔(リリス)にそう教えられた。

 

 

「時に泉編集。たまにぼくは思うんですが、ヒトが目を閉じている時っていつも真っ暗ですよね」

 

「そんなの当たり前のことじゃないですか」

 

「えぇ、当たり前のことですね。目を閉じれば視界にあるのは闇。でも何も見えていないようで、実際は()()()を見ているじゃないですか」

 

「え?…あぁ、確かに」

 

 実際に見ているはずのものが、見えていない。これは人間にも当てはまると、男は言う。

 

「まぁ、人は見た目で判断しがちですもの。仕方ないですよ」

 

「逆に()()()()()()()()()()()()フリをするのが得意でもありますがね」

 

 

 仮に他人が困っているとして、手を差し伸べられる人間はどれだけいるだろうか。

 それにこれは国民性によっても大きく変わる。

 

 

「…で、先生は結局何がおっしゃりたいんですか?」

 

「簡単なことですよ。ぼくの編集になったばかりのあなたに、気をつけていただきたいことです」

 

 要は、見極める“目”を持て──とのこと。

 

 作家のプライベートに踏み込みすぎないように、という忠告だ。

 

 

「任せてくださいよ先生!私って口固いですしぃ」

 

「不安です」

 

「大船に乗ったつもりでドンと来てください!」

 

「不安しかない」

 

 まだわずかな付き合いながら、「泉飛鳥」という人間のヌケ具合を見ている男にとって、圧倒的に信頼ができない。

 

「適当に流してもかまいませんが、ぼくの親切心の言葉ですから」

 

「わかりました、先生」

 

 此度の編集の手が美しいからこそ、出た男の発言だ。まだ編集との距離感を模索している段階でもある。

 男の秘密を考えても、慎重になりすぎるくらいがちょうど良い。

 

 しかして彼女に向けたアドバイスには、少し足りない説明もある。

 

 

 それは“見えたもの”が、人が()()()()()()ものであった場合である。

 

 ────忘れてはならない。彼の、吉良吉影の本質を。

 

 それは彼に歩み寄り、その面倒な()()を理解しようとした杉本鈴美でさえ、「理解した」という表現に至ることがなかったのだから。

 

 

 

 

 

 

 

 ◻︎◻︎◻︎

 

 

 最近爪の伸びがまた早くなっている。

 

 

 まだ今年に入って三ヶ月程だというのに、10cm以上は伸びていた。

 

 あまりピンと来ないかもしれないが、成人の大人であれば一日で約0.08~0.12mm伸びる。間を取り0.1mmと考えて、一ヶ月で約3mm、一年では約3.6cm伸びることになる。

 

 年にもよるが、爪の伸びの速さは年々早くなっている。わたしの場合、爪の伸び=殺人欲求の表れだ。美しい手の女を殺せば収まるとは思うが、生憎人を殺す予定は今後もない。

 

 そろそろ女を引っ掛けようかと思い、休日の午後、S市の繁華街に車を走らせた。

 

 メガネはそのままに髪は上げ、白シャツに黒のスキニーパンツ、また少し肌寒いので下が長めの薄手のカーディガンを羽織っている。靴は黒のスニーカーだ。

 

 

「…ん?」

 

 

 信号で止まっていた時、数十メートル先で男に絡まれている少女の後ろ姿を見つけた。

 

 少し汚れたジャージを見るに、ぶどうヶ丘高校の生徒か。部活動の帰りらしい少女は倒れた自転車もそのままに、地面に座り込んでいる。

 

 カップル…というわけではないだろう。男は紫のシャツにボンタンという不良の出立ちであるし、女生徒に詰め寄っている様子だ。状況がイマイチ掴めないな。

 

 

「まぁ、わたしには関係ないが」

 

 

 少女を助けたところで何の得にもならない。

 信号が変わりアクセルを踏んで二人の横を通り過ぎた時、急に車が止まった。

 

「っ!」

 

 体が勢いよく飛び出し、シートベルトが胸元に食い込んだ。直後後続車からクラクションを鳴らされ、さらに通りすがりに「危ねぇだろクソ野郎!」と暴言まで吐かれた。

 殺意が湧いたが、それよりも急に車が止まったこの状況をどうにかしなければならない。

 

『ニャー』

 

「………はぁ」

 

 どうやら犯人である我が相棒は、例の少女を助けたいらしい。

 仕方なく車を傍に止め、ハザードを出してから件の場所に向かう。

 

 

『ニャー』

 

 

 人の背後から、いつものように手を絡ますキラークイーン。普段表情を変えない我が相棒は、今日は何故か男の方を見て、目を細くしていた。

 

 それに少し肝が冷えたのは、気のせいだったのかもしれない。

 

 

 

 

 

 

 

 ⚪︎⚪︎⚪︎

 

 

 何故こうなってしまったのだろう。

 

 一人の女生徒は、真っ赤になった袋を見ながら顔を青ざめさせた。

 

 

 午前中の部活が終わり、友人とカフェでランチを過ごした後の帰宅途中のこと。彼女はほんの少しよそ見をした時に、いきなり横から飛び出してきた袋を轢いてしまった。

 

 避けようとした勢いは止まらず、そのまま体は地面へ投げ出された。幸い頭へのケガはなかったが、体の至るところがズキズキと痛む。

 

 そして転倒した原因に視線を向けた時、血の気が引いた。

 

 

「ミ、ゃ……ァ」

 

 

 前輪に潰された袋から血が染み出している。その中身が鳴き声から、猫であることがわかった。それもサイズからして子猫だ。

 おそらく袋に入れられ、道端に捨てられていたのだろう。

 

 

「あれれ、キミ大丈夫ですかぁ?」

 

 

 その時声をかけてきたのは、彼女の高校の卒業生を名乗る「小林玉美」という男だった。

 

 玉美は動揺する彼女のケガを気にかけ、袋の中身を確認した。袋に入っていたのはやはり子猫である。

 

 女生徒が袋から覗いた血まみれの小さな前足を見てしまったその時、彼女の胸に錠が出現した。

 しかしそれは彼女には見えず、玉美には見えていた。

 

「あぁ、なんてかわいそうに…。捨てられた挙句に、こんな形で殺されるだなんて…!!」

 

「わ、私はそんなつもりじゃ……」

 

「でも、アナタが轢いたのは事実じゃあないですか」

 

「う、うぅ……」

 

 責めるような言葉を玉美が投げかけるたびに、どんどん女生徒の錠が肥大化していく。

 それを見た男は内心口角を上げた。

 

 

 

 何を隠そう、この状況を作り出したのがこの男である。

 

 

 小林玉美は春に虹村形兆の矢で射られて以来、不思議な力を手に入れた。本人が『ザ・ロック』と呼ぶこの能力は、普通の人間には見えない。

 

 ザ・ロックは人が抱く“罪悪感”に応じて、錠をかけた人間の心に「重圧」を与える。

 罪悪感が大きければ大きいほど、彼に優位に働くのだ。

 

 方法はまず、山から捨てられた子猫や子犬を拾ってくる。

 

 小さな命を利用することに少しの()()()はあったが、所詮は消えかけの命だ。

 

 それに本物の動物を仕組んだ方が、死体を見た人間の罪悪感が大きくなり、より稼ぐことができる。色々と思考錯誤をする中で、彼はこの方法に行き着いた。

 

 そうして袋に詰めて、学生の通りが多い道端に置いておく。

 

 

 それから遺体を埋める代わりに、相手から金を巻き上げる。

 

 普通ならば偶然居合わせた人間に金を渡すわけがない。しかしザ・ロックの能力がかけられた人間は、“罪悪感”のせいで正常な判断ができなくなる。

 

 だからこそ、玉美に金を渡してしまうのだ。

 そしてさらに轢き殺してしまったことをネタにして、「学校にバラされたくなければ──」とゆする。

 

 初めは数万で、要求する額は回を追うごとに大きくする。大金を持たぬ学生は家の金を盗むことで、さらに“罪悪感”が大きくなっていく。

 

 本当に良い能力を手に入れたものだと、玉美は思っていた。

 

 被害に遭った者からすれば、たまった話ではないが。

 

 

 

 

 

「どうし、よう……」

 

 

 そんな哀れな被害者となった女生徒は、子猫を埋める代わりに金を要求されてしまった。

 

 カフェで崩した金が、男の手に渡る。それだけでなく、この一件を学校を引き合いに出し、さらに金を要求される。

 

 男の話す内容がおかしい、というのは分かっている。

 しかし息さえままならない“重圧”が、この苦しさを抜け出すためには、この男に金を払う以外方法はない──と、彼女に訴えている。

 

「バイトとかしてないわけ?」

 

「し、してます…」

 

「轢いたことへの「誠意」を見せるなら、分かってるよねェ?」

 

「………」

 

 女生徒は黙り込む。

 

 お金は持っていた。小さい頃から貯めた分と、高校に入ってからコツコツバイトをして貯金しているお金が。しかしそれは、彼女が夢のために努力して貯めたものだ。

 

 その心がギリギリで彼女に「NO」と言わせる。

 

 

「────ッハ、夢がシンガーだって?なるほどねぇ。キミ、現実を見れてないかわいそうな子だったのね」

 

「っ………!」

 

 

 “罪悪感”ではない別の()()()が、彼女の中でバラバラと崩れていく。

 込み上げる感情は荒い呼吸を引き起こし、暑くもないのに汗がいくつも地面に落ちた。

 

 

 

「大丈夫ですか?」

 

 

 

 その時、少し甘めの声が聞こえた。

 今にも倒れそうな彼女が顔を上げれば、黒髪を後ろに撫でつけた三十代ほどの痩身の男が立っていた。

 

「ぁ……」

 

「おや、怪我してるね」

 

 その、メガネの奥の血と空を混ぜたような妖しい瞳が見えてしまった瞬間、彼女の思考が停止する。

 誰も気づいていなかったが、男の視線は一瞬だけ女生徒の胸元に止まった。

 

 

「ッチ……いえね、そこの彼女が捨てられていた子猫を自転車で轢いたんですよ」

 

 状況を説明する玉美を無視し、男は少女の元へ歩み寄る。

 そして許可を得てからジャージの袖をまくり、ケガの具合を見た。微かな香水の匂いを感じた少女は、さらに体を小さくする。

 

「ジャージのおかげで血は出ていないが、ひどいアザになりそうだな。えぇと……足の方も見ていいかい?」

 

「は、はい…いたっ!」

 

 足は特に右膝のケガがひどく、患部は赤くなっていた。打撲だろう、と吉良は判断する。

 

「なるべく早く病院に行くべき…」

 

「ちょっとちょっと、待ってくださいよ!まだ私の方は彼女に話があるんですがね?」

 

「……話とは?そちらはただの目撃者のようにお見受けするが」

 

「えぇまぁ、通りすがっただけですけど、小さな命でも殺したことには変わりない。私が見ていた限り、彼女はよそ見をして轢いていましたから。これが仮に歩行者だったら大きな事故になっていたかもしれない。だからこそ、今大人として叱っている最中で……」

 

「不注意は悪いことだと思うが、それよりも先にケガの方を優先すべきだと思いますよ、普通」

 

 女の子なんだから余計に、と続いた言葉はかなりおっさん臭かった。しかし男の見目の良さもあり、不快さはない。

 

「帰宅はできそうかい?」

 

「できな、くは……でも、自転車に乗るのはちょっと無理かも…」

 

「家の人はいないかな?」

 

「両親とも仕事だから、今の時間はいないです」

 

「そうか、困ったな…。わたしが送ってあげることもできるが、流石に赤の他人の車に乗るのは嫌だろうしね」

 

「いや、割と平──」

 

「タクシーを呼ぶから、少し待っていなさい」

 

 彼女の言葉を遮って、男が立ち上がる。近くに公衆電話があったのは幸いだ。

 

 

「クソッ、せっかくイイとこだったのによぉ…邪魔すんなよオッサン!!」

 

 

 声を荒げたのは玉美だ。歩き出した男の肩を掴み、噛み付くように睨めつける。

 それを吉良が振りはらった瞬間、「うわぁ!」とわざとらしい声が上がった。

 

「うぅ、うぅ……いてぇ、いてぇよぉ…!!」

 

 肘で押された程度の玉美は、腹にかめはめ波でも食らったように勢いよく吹っ飛んだ。

 

 そのままガードレールに身体を打ちつけ、縁石に顔をぶつける。その衝撃に前歯が一本抜けた。

 この歯はあらかじめ抜けやすいように細工してある入れ歯なのだが、他人がそれを知る由はない。

 

「おっと、そんなに強く振りはらったつもりはなかったんだが…」

 

「どうしてくれんだ……歯ァ入れんのって保険利かねぇのによぉ〜!」

 

 下を向き、ぶつけた頰を押さえながら苦痛に叫ぶ玉美の芝居。見事な演技はもはや「玉美劇場ここに開演!」と言っていい。

 

 邪魔をされたのはアンラッキーだったが、結構金を持っていそうな男を捕まえられた。何せ相手が乗っているのは外国製、それも高級車だ。

 あとはザ・ロックの能力で錠をつけてしまえば、玉美の独壇場である。

 

 

「…へ?」

 

 

 男の白シャツの胸元には、何もない。

 

 

 ────何も、ない?

 

 

「えっ?錠が……な、何でぇ………?」

 

「すまない。手持ちで悪いがこれでいいかな」

 

「あ、え……」

 

 渡されたのは、量の指では余裕で足りない数の諭吉紙幣。

 

 

 いや、いやいや、それよりももっと恐ろしい事実があるではないか。

 玉美が混乱する原因が、今、目の前に。

 

 

「な、何で、錠がねぇんだよ…!?」

 

「……錠?何を言っているんだい?」

 

「だから、錠だよ!!なん、なんで、人が自分(テメェ)のせいでケガして、歯まで折ったってのに……!!なん、で────」

 

 

 その時、玉美は見てしまった。否、()()()しまった。男のメガネの奥に隠れ、見えなかった瞳を。

 

 

 どこまでも深い色が、彼を捉えている。底の見えぬその色に背筋が凍った。

 しかして瞳以外のパーツは、本当に心から申し訳なく思っているような表情を浮かべていて、そのチグハグさが心底気色悪い。

 悍ましさを感じさせる端正な顔が、玉美のすぐ近くに迫る。

 

 

 

()()()()ね」

 

 

 

 それは果たして、ケガをさせた自分が悪かった、という意味で呟かれたものなのか。

 はたまた女生徒をこの状況に追い込んだ────玉美が、なのか。

 

 

「失礼したね」

 

 

 吉良は玉美から離れ、公衆電話へと向かった。

 

 するとどっと、一気に汗が吹き出す。この時女生徒に付けられていたザ・ロックは、能力者の無意識によって外された。

 

 ────悪い、悪い、悪い。

 

 その言葉が頭の中で回りながら、玉美は札束を持ったまま立ち上がり、そのままフラフラと立ち去る。

 女生徒は呆然としつつ、突如軽くなった身体と思考に首を傾げた。

 

「……あの、ちょっといいかい」

 

「え?」

 

 男が再び戻ってきた。何か不備があったのだろうかと、少女はまた反対に首を傾げる。

 

 思えばタクシーを呼ぶとは言ったが、普通タクシー会社の電話番号を覚えているだろうか。よほど使う機会がなければ、なかなか覚えていなさそうなものだが。

 

 

 

「………その、テレフォンカードって持ってるかい?」

 

 

 

 吉良は女を引っかける際、一般人にとってかなりの大金を持ち歩く。ただ財布が嵩張るため、極力小銭は入れないようにしていた。それが仇となった。今彼は羞恥心とともに、心の底から己のスタンドに呪詛を吐いている。

 

「も、持ってます…」

 

 頰をかく男に、少女は胸がぎゅうと締まる感覚を受けた。そして頰を真っ赤にさせながら、転がっていたカバンからカードを取り出す。

 

 

 それから男は現在地を電話で伝え、袋に入った猫の遺体を車に乗せる。予定を変えて埋めに行くらしい。

 

「君も災難だったね。ケガした上にお金も取られたんだろう?」

 

「えぇ、まぁ…数千円くらいですよ」

 

 あの札束に比べたら、かわいいくらいだ。男はそのままタクシー代だと、彼女に金を手渡し去って行く。見れば、分裂した諭吉がいる。

 

 彼女は痛む身体ながら、慌てて後を追った。

 

 

「こ、こんなに受け取れません!!」

 

 

 男は車の窓から顔を出し、「投資だ」と告げる。

 

 

「音楽は好きだからね」

 

「き、聞いてたんですか、夢の話のところ!?」

 

「あぁ、正確には聞こえた、が正しいが。堅実的な将来ではないかもしれない。──が、わたしもそんな堅実的には入らない職種なこともある。歌うジャンルは何かな?」

 

「え、あっ………じゃ、ジャズです」

 

「ジャズか。クラシックが一番好きだが、ジャズも好みだよ」

 

 頑張ってね────と言い残し、男は去っていった。発言した男にとっては、熱のない言葉である。

 

 ただ彼女にとっては誰かに認めてもらい、そして応援される行為だけでも、魂を揺さぶられるのには十分だった。

 

 

「────私絶対、歌手になります!!」

 

 

 

 

 

 それから数年後、日本で一人の女性歌手がデビューし、のちに日本を代表するジャズミュージシャンとなるのはまた別の話である。

 

 彼女は尊敬する人物として、歌手を目指すきっかけとなった“空条貞夫”ともう一人、名前も知らない一般人の男性をあげていたそうだ。

 

 


 

【車の中】

 

 

『ニャー』

 

「押すなよ、絶対に押すなよ」

 

『ニャー』

 

 親指でボタンを押そうとするキラークイーンを、運転しながらどうにか宥める吉良。

 予定は完全に総崩れ、このまま家に帰って相棒の望みのため子猫を埋める予定である。

 

「あの男に金を渡す前、人の手に重ねてこっそりと紙幣を爆弾に変えたのは気づいてるからな」

 

『ニャー』

 

 雰囲気からしてこの『ニャー』は、ずっと「コロス」と言っているのを、本体の吉良は感じ取っている。

 

 その後スイッチが押されることはなかったが、その日一日キラークイーンは子猫の墓から離れることはなく、ひたすら吉良の精神が削られたのだった。




(補足的なもの)

 玉美は以後悪さをしなくなる。よって生じる康一くん成長への一つのピースが消えることになるが、「運命」様が別途で用意してくれる。
 チンチロリンは通りすがりのジョセフがニッコリしながら止めてくれるどころか、本当のイカサマってヤツを見せつけて、二人をシビアコさせると思う。

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