転生したら殺人鬼ポジだった件   作:クリーニング黒兎

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エニグマの少年の過去捏造があるので、苦手な方は注意。私的にサイコパス認定。
15000千字行きそうだったので前後編に分かれてます。
まだ書きたいのはあるけど、やる気の問題でまた当分先になると思います。


86話 読者とは何たるか【前編】

 褐色肌に、白い髪。頭部で左右にクロスするように分かれた長い前髪。

 

 高校生ほどの少年。しかしただの少年ではわかりにくいため、ここは「少年E」と呼ぶことにしよう。

 

 この「E」は彼の名が「え」から始まるから、「E」を使っているわけではない。

 

 少年が春先に身につけた奇妙な能力の名が「エ」から始まるため、それを採用して「少年E」と呼ぶのだ。

 

 その特殊な力とはスタンドである。一人の男が放った矢に射抜かれ、少年はこの力を手に入れ「エニグマ」と名付けた。

 

 

 

 元々彼は一般的な少年であった。

 

 少し他人と違うところがあるならば、少々()な癖を持っていたこと。

 

 小学生の時から、好きな女の子にチョッカイばかりかけていた少年。

 その行動は日増しにエスカレートし、ある日彼は同級生の少女に大ケガを負わせてしまった。

 

 担任が朝の会に行う健康観察。

 

 それが終わった後に、担任の記した健康観察板を保健室にまで届けるのが“ほけんがかり”の役目で、少年と少女は同じ係だった。

 

 いつもどおり保健室にまで健康観察板を運び、二階にあるクラスに戻る途中。

 少年は廊下を走り少女を残して三階に上る階段の裏に隠れ、息を潜めた。少女が階段を上ってきたあと、驚かせようと。

 

 

 結論として、驚かせることには成功した。

 

 少女も、彼自身も、同じクラスの人間も、担任の先生も。

 

 おろか学校中の生徒がその日、その事件に驚愕した。

 

 

 突然飛び出てきた少年に驚き、少女は足を踏み外して階段から落ちた。

 そして死にはしなかったものの、体の複数を骨折する重傷を負った。

 

 少年はこの事件を機に転校することになる。周囲の目を逃れてのものだった。

 

 ケガを負わせてしまった少女への罪悪感に、少年が塞ぎ込んでしまった────なんてことはなく、むしろ彼は生き生きとした。

 

 

 なぜなら少年は、少女が階段から落ちて行く様子を見て、理解したのである。

 

 生き物が魅せる、「()()」という表情の甘美さを。

 

 

 少年が少女にイジワルばかりしていたのも、その子のことが好きだったというのもあるが、怖がる姿に彼は胸をときめかせていたのだ。

 

 親や教師に叱られて、叱られて──。そうして自分を顧みた時に、ようやくたどり着いた真実。

 

 以来少年は大事にならない程度で、ヒトの「恐怖」を観察した。

 それは両親や新しい場所でできた友人に、好きな女の子、同級生や担任に留まらず、猫や犬など多岐にわたった。

 

 他人を怖がらせ、それを観察することに精を出す少年は間違いなくサイコパスの部類。

 現に少女を大ケガさせたにも関わらず、「悪いことをした」と思うことはなかった。

 むしろやり過ぎては、周囲の目が厳しくなり行動しにくくなるのだと、学んだ。

 

 だがしかし、抱えた性癖に頭を悩ませることはあったのである。

 

 人が恐怖する姿に興奮を抱く異常な性癖。

 

 他人を怖がらせるためならどんな変態的な方法でも取れると思う一方で、このままでは社会に馴染むことができないと懊悩した。

 

 

 そんな悩みを抱えて小学高学年になった時、少年が出会ったものこそ一冊の本。

 

 作家名は『星ノ桜花』。作家がデビューを果たした作品だった。

 

 元来彼は本が好きということもあり、図書室だけでなく、図書館を利用することも多かった。

 

 明らかに子どもが読んではならない内容。

 まぁ学校はともかく、図書館は探せば官能本も置かれている。

 

『星ノ』の静かでありながら滲み出る熱く狂気的な部分が、少年にとってはドストライクな内容で。

 出ているすべての作家の作品も読んだが、言うまでもなく、狂気的な作品の方が好みだった。

 

 少年はその作品を読んで、異常な性癖を持った己が肯定されているような感覚を抱いたのである。

 

 そして次第にその気持ちは膨らみ、自身の理解者は『星ノ』先生だけであると思うまでに至った。

 

 

 それから少年は自分の性癖を肯定し、前向きに人間の「恐怖」を観察するようになった。

 

 無論、生活に支障がでない範囲でひっそりと。

 

 さらに奇妙な力を得た「少年E」の悪質な手口は加速した。

 

 

 高校生になった彼は通り魔的犯行で、休日に出かけ、その場のキブンでターゲットを決める。

 

 その日のターゲットは書店。

 あわれ彼の被害者となる人物は、新刊が出た『星ノ桜花』のコーナーを怪訝な表情をして横ぎった男だった。

 

 彼が敬愛する『星ノ』に対する侮辱。そう受け取った少年は、男の跡を追った。

 

 ラフな装いで、黒髪に丸渕メガネをかけた細身の男を。

 

 

 

 

 

 

 

 ◻︎◻︎◻︎

 

 

 参考にしたい資料が図書館になかったため、本屋に向かったわたし。

 

 目当ての本が見つかり会計を済ませようとレジに向かっている最中、デカデカと設置されていた自分のコーナーを見つけて気分が悪くなりつつ、本屋を出た。

 

 自分──吉良吉影と、作家『星ノ桜花』は切り離して物事を考えているが、やはり自身の作家名が目立っているのは気に障る。

 名がすでに知れていて、今更だろ、という話なんだが。

 

 そして帰ろうとしていたところ、本屋の隣にあるゲームセンターで、見覚えのある顔が店内に見えた。

 

 店自体はドアが開いたままで、入ってすぐ手前にはクレーンゲームなどがる。

 今時本格リーゼントなど一人しかいない。杜王町でその髪型を見かけた時は、確定演出でその男だとわかる。

 

 

 店にいたのは東方仗助、虹村億泰、広瀬康一の三人。時間帯は夕方であり、学校帰りだろう。

 

 後ろ姿しか見えないが、背を丸くして、かじり付くように中央でクレーンゲームをプレイしているのは仗助。その左側にいるのが億泰で、右側にいるのが康一少年。

 

「…ん?」

 

 青春だな、と適当な感想を抱きつつ自身の車に向かおうとするが、体が動かない。

 

 むしろゲーセン側へと横向きで一歩、二歩と、まるでパントマイムでもしているように目的地から逸れて行く。

 スタンド攻撃か?と思いながらゲーセンに視線を移した時、我がスタンドが見えた。

 

「き、キラークイーン…!?」

 

 勝手に発現しているキラークイーンは、本体の意思など無視して突き進んでいく。

 制止をしようにもまったく歯が立たず、結局わたしは三人並ぶ高校生に突っ込むようにぶつかった。

 

 驚くそれぞれの顔が、わたしを捉える。格闘した末に体力を失ったため、ゼェゼェと、無様な姿をさらすことになった。

 

「吉良さんじゃないっスか」

 

「おっ、ドーモっす」

 

「こんにちは、吉良さん」

 

「………やぁ」

 

 キラークイーンが顔を突っ込みながら見ていたのは、クレーンゲームの景品。

 そこそこの数がある手のひらサイズのぬいぐるみである。猫の形をしたソレに、我が相棒の真意を悟った。欲しいのだろう。

 

 

「なんか意外ですね、吉良さんがこーいうの好きなんて」

 

「わたしじゃない、キラークイーンが欲しいらしい」

 

「またまたぁ〜。それとも俺たちを見かけて、普通に話しかけるのが気恥ずかしくて、スタンド使ったんじゃないんスかぁ?」

 

 ニヤニヤと笑う仗助。億泰はさらに人を煽るような笑みを浮かべており、康一少年は苦笑いを浮かべている。

 

 その間もクレーンゲーム内に侵入したキラークイーンは手で取って、穴の中へとホイホイと投げ始めた。

 高校生三人はその行動に慌て、わたしも止めようとするがまったく制御が利かない。何なんだコイツは。

 

 結局クレイジー・ダイヤモンドに取り押さえられ、中から外へ引っ張り出される我がスタンド。

 瞳孔を小さくさせて暴れる分身の姿に、頭が痛くなった。

 

「欲しいならお金入れてプレイしないとダメですよ、吉良さん」

 

「違う。だから、キラークイーンが……」

 

 三人から送られる、大人の尊厳を疑う視線。

 

 そもそも聞けば、コイツらはたまたま遊びに来て、康一少年がこのぬいぐるみを彼女にプレゼントしたい──というところから始まり、プレイしているらしい。

 

 しかし数千円かけても一向に取れず、もはや是が非でも取れるまで帰らない、という風な状態になっている。

 

 金の使い方に呆れたが、所詮は他人の金。どう使おうが、わたしが口出しするものでもない。

 一応仗助の方は朋子婦人と既知な間柄のため、注意はしておくが。

 

『………』

 

 我がスタンドが、完全にエモノを狩る時のネコの目で、こちらを見てくる。

 無言の圧力と、取らない限り帰れないことを察したわたしは、早々に抵抗を諦め財布を取り出した。

 

 

 

 して、ゲーセンと縁のない人間のわたしがクレーンゲームをした事があるかと問われれば、ない。

 

 操作は単純で、右(→)と上(↑)の順で矢印のボタンを使って操作し、最後に[決定]のボタンを押すとアームが動く。値段は一回100円。制限時間あり。

 

 流石にはじめから取れるとは思っていない。

 数回プレイして感覚を掴んでからでないと、取るのは難しいだろう。

 

 

 一回目、当然のことながら失敗。

 

 二回目、アームがねらったぬいぐるみの腹に食い込む。

 

 三回目、ネコの首元についた輪っかにアームの先を引っかけようとして、失敗。

 

 四回目、小銭がないため札を崩してトライ、失敗。

 

 五回目──────、

 

 

 

 

 

「やっぱこの台簡単そうに見えて、チョームズイって…」

 

「………」

 

「ムリしなくていいんだぜ?吉良さんよォ」

 

「………」

 

「あの…大丈夫ですか、吉良さん?」

 

「……ちょっと黙ってろ、貴様ら」

 

 

 わたしは静かに、シャツの袖をまくった。

 

 

 

 

 

 

 

 ⚪︎⚪︎⚪︎

 

 

 吉良がクレーンゲームを始めてから2時間。

 

 数々の苦難を経て一つ目のぬいぐるみをゲットした男に、そばで見ていた三人は胴上げ…はせず、むしろ心境的に引いていた。

 

 シャツの袖をひじまでまくった辺りから雰囲気が変わり、メガネを外し、長い前髪を後ろに撫でつけてプレイし続けた吉良。

 

 高校生が見守る中で、クレーンゲームにガチになった大のオトナの姿が、そこにできあがった。

 台の横や後ろに移動し、ぬいぐるみとの正確な距離を測る様は、完全にハンターのソレである。

 

 最初取られたぬいぐるみの後、キラークイーンに所望され、男は次々にネコを下に落として行った。

 完全にコツをつかんでからは、失敗することもほとんどなくなった。

 

 結果、無慈悲な乱獲者によって台はカラに。また途中でぬいぐるみをお裾分けしてもらった学生組も、1時間を越えた辺りで飽き出し、帰路に就いた。

 

 すべて取り終えた吉良は床に置かれたネコたちを真顔で見て、いくつかは本屋のレジ袋に入れ、残りは店員に頼み往復しながらぬいぐるみを車の後部座席に乗せる。

 

 店員は悟った表情の客に、どう声をかけていいかわからなかった。

 

 そして車を走らせ始めた男は、バックミラーに映るぬいぐるみを視界に入れ、振り返った時に「( ˘ω˘ )」の顔を浮かべる分身を見た。

 

 

「何をしているんだ、わたしは………」

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