転生したら殺人鬼ポジだった件   作:クリーニング黒兎

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夏に上げたかったホラー話。

今年も露伴のドラマあってしかもジョジョ六部なう。ドラマに合わせて何か書きたい……って去年と同じこと言いつつ、書けないオチだァーーッ。
そろそろ番外長くなってきたので、別で分けたほうがいいのか考えてます。


88話 てテ手ハーレム

 青から深い闇色へと変化する。眼前には大量の気泡があった。細かい粒は浮上していく。白い光の放射線が目に刺さるようだ。

 

 ぼくの目に映ったのは美しい、白い手。暗い水底から白く伸びるその手は、目も眩むようだった。

 

 

 

 

 

 

 

 ⚪︎⚪︎⚪︎

 

 

「吉影くん、起きてよ吉影くん!」

 

 

 体を揺り起こされ、目が覚めた。人間の騒がしい声に唸りながら固いベッドから身を起こす。

 もう使うこともあるまいと、特に品質も気にせず安いビーチベッドを買ったが、きちんと選んでおいた方が良かったかもしれない。体がバキバキと、異様な音を立てる。

 

 そもそも、わたしはこの場所に来るのに乗り気ではなかった。

 

「フーン……。かわいいかわいい私といるっていうのに、そんなつまらなそうな顔しちゃうんだ」

 

三十路(イイ年)した女性が自分を「かわいい」とか────グハッ!」

 

 彼女の持っていた二つのうちの一つのペットボトルが、中途半端に上体を起こしているわたしの腹に向けて落とされた。冷たいソレは跳ね返って砂の上に転がる。自販機で飲み物を買いに行ってくれる優しさとは裏腹に、彼女はわたしを殺す非道さも持っているのだ。

 

 

「いいですよーうだ。吉影くんが暑さでへばっている間に知り合いと会ったから、そっちに行かせていただきます」

 

「知り合いだって?」

 

「旦那様はどうぞ、ゆっくりビーチパラソルの下でへばっててください」

 

「ちょ、……鈴美!」

 

 影の下から日向に手を伸ばした瞬間、灼熱の暑さが腕を焼いた。紫外線は人を殺すってこの事なんだな。一気に体から汗が噴き出た気がする。

 

「………」

 

 無理だ。朝来て、ただでさえ人の多さと暑さ。そして小一時間鈴美との遊びに付き合わされ、体力がほぼ残っていない。嫁より体力がないのは何故なんだ?

 

 …いや、当然かもしれない。彼女は常日頃、仕事ではしゃぎ回る子どもを相手にしている。対し、わたしは家が仕事場。これは由々しき問題だ。

 

「何だか吐き気もしてきた…」

 

 キャッキャと騒ぐ周りの音が耳につく。

 

 どうして人間は海に来るのか。そんな言葉が哲学的に思えてきてしまうわたしは、いよいよ家に帰りたい。

 

 ちなみに今来ているのは杜王町のビーチではない。地元の海など、それこそ地元の人間なら幼い頃に何度も訪れている。

 わたしも歳が一桁の頃は親に連れられ行った覚えがある。あの頃はろくに泳げなかったが。

 

 

 独身なら絶対に訪れないランキング上位に入る場所にしかし、わたしは来ている。ひとえに鈴美が所望したからだ。こちらも向こうも仕事のスケジュールを調整して来たのだから、別の日に変えることはできない。“その日”が夏一番の猛暑日と謳われるほどの暑さである。天候に呪われている。

 果たして、帰るまでに車を運転する力が回復できるのか。

 

「ハァ……」

 

 少しペットボトルの中身を飲んでから、タオルを目隠しにして光を遮断する。それでもうっすらと瞼の裏が明るい。

 

 悪くはないのだ。プロポーションがまったく変わらぬ(本人曰く「努力の賜物」らしい)鈴美の水着姿を見て、率直に綺麗だ、などと感想を述べてしまったし。

 

 ラッシュガードのトップス・レギンス・ボードショーツの3点セットで、肌をほとんど出していないわたしとは対照的である。でも紐はどうなんだ、紐は。露出をもう少しだな、控えるべきだろう。何せ彼女を見る男連中が………。

 

 いや、彼女の薬指に付けてある物を見て、わざわざナンパする愚か者なんぞいないはずだ。

 

「………」

 

 しかし脳裏には、若い、いかにも軽薄そうな男連中のイメージが張り付く。

 

 知り合いに会いに行っているみたいだが、本当に大丈夫なのか。彼女の手に他の男が触れでもしたら、殺してしまうかもしれない。

 

「……仕方ない、起きるか」

 

 さながら吸血鬼の心境で、ペットボトルを片手に彼女の向かった方角へ足を進める。多少ふらつきながら人混みを縫うように彼女の姿を探していれば、存外すぐに見つかった。わたしが元いた場所とはかなり距離がある。

 

 そこで案の定、髪を茶や金に染めた男数人に囲まれていた。彼女は毅然とした態度で断っている。過去に色々体験すれば、今目の前に立っている男共など仔猫のようなものだろう。

 

 

「さて、どう懲らしめてやるか」

 

 THE文系のこの見た目だ。その上で煽れば拳の一発はもらえるだろうな。そうすればこちらも手を出す理由ができる。

 

「ん?」

 

 こちらがたどり着く前に、彼女と男たちの間に入り込んだ青年がいた。

 普段着ている服よりは薄手だが、それでも水着の多い場所では浮いている服装の男。特徴的なヘアバンドと手に持たれたスケッチブックで、遠目からでも一瞬で誰かわかった。何故ここにいる。

 

「おや?そこの死にそうな顔をしている男は、吉良吉影じゃあないか」

 

「吉影くん?………えっ、大丈夫!?顔青白いよ!!」

 

 たしか、ほんの少し前に杜王町に現れたあの白い悪魔が言っていたが、「スタンド使いは引かれ合う」……だったか。

 

 確かに引かれあったさ。ぶどうヶ丘高校の学生連中に、小生意気な漫画家やその他諸々。

 

 虹村形兆が持っていた矢と、形兆を殺しそれを盗んだ音石明。

 件の一件を調べた中で、過去の事件を洗った空条承太郎がたどり着いた一つの答え。それこそ、もう一本矢はあったのではないか?────というもの。

 

 我が家に訪れた奴とわたしで、危うく殺し合いに発展しかけた。片桐安十郎の死因を探るなら、殺すしかないのだ。止めに入った鈴美のお陰で殺さずには済んだが。

 

 

 少し過去のことを思い出しながら、ゆっくり自分の体が傾いていく。

 

 ──と、わたしが感じているだけで、実際はそれなりのスピードで倒れた。貧血である。

 

 こうしてわたしは、漫画家の男に格好の“ネタ”を提供することになってしまった。

 ついでに、笑いの種の方でも。

 

 岸辺露伴、いつか必ず殺してやる。

 

 そう、社会的に。

 

 

 

 

 

 

 

 ⚪︎⚪︎⚪︎

 

 

 ゆっくりと我が身が沈んでいく。冷たい温度だ。

 息ができない。

 

 息が。

 

 

 

 

 

「────ッ!!」

 

 

 飛び起きれば、そこはビーチベッドの上だった。パラソルの下で簡易的な避暑地になっているその場で、呆然とする。

 

「大丈夫、吉影くん?」

 

 隣には鈴美がいて、ズズズと、太いストローで飲み物を飲んでいる。君のその、黒い豆が大量に入っている物は何だ。

 

「これはタピオカって言うの!台湾発祥の飲み物なんだって。前に東京に行った時に偶然見かけてね、売ってたから思わず買っちゃった」

 

「カエルの卵みた、グエッ」

 

 電光石火の如く、彼女の指がわたしの横腹に刺さる。

 その結果、盛大にカエルのような呻き声を出すハメになった。

 

「…さっき倒れちゃったけど、体調は大丈夫?」

 

「あぁ、問題ないよ。わたしをここまで運んだのは岸辺露伴か?」

 

「うん。露伴ちゃんは漫画の取材の一環で今日このビーチに来てたんだって。吉影くんを運んだらどこかに行っちゃった」

 

「お邪魔虫が消えてよかったじゃないか」

 

「もう!どうしてそういう意地悪なこと言うかなぁ…」

 

「わたしと奴は合わんのだよ、性格がね」

 

 腕時計を確認すると、時刻は昼を回った辺り。食欲はないが何も食わないと体力が保たないゆえ、軽い物でも食べよう。

 

 ふいに立った時、海に視線が吸い込まれた。

 視界の先では若い男女や親子連れにサーファーなど、様々な人間が海の中を楽しんでいる。

 

 その中で、手がある。

 

 白い手が水面から生えるように伸びて、指の先がゆっくりと上下する。

 まるでそれは、こちらを。

 

 

「吉影くん?」

 

 

 その声と共に、腕を掴まれた。

 

 白く細い女の手が、わたしの腕に触れている。バクバクとやけに煩い心音を宥めるように、白い手を握って自分の頬を擦り寄せる。わたしの温度より冷たくて、美しい手だ。口の中で唾液が溜まる。

 

「よ、よよよ、吉影くんっ」

 

「……何だい?」

 

「ここ、ここ人がいるから!」

 

「………そうだね」

 

 顔を真っ赤にして、口をパクパクと動かす鈴美。

 相も変わらず美しい手だ。だが海の中から見えた生白い手もやけに脳裏にこびり付く。あの手も美しかった。触れてみたい。指を絡ませたら、肌に吸い付くのだろうか。

 

「…行くよ、吉影くん」

 

 わたしの手を引き、鈴美は歩き出した。

 

 

 あの手はきっと、とても綺麗だと思うんだ。

 

 

 

 

 

 

 

 ⚪︎⚪︎⚪︎

 

 

 時刻は夕方。海に来ていた人間たちも減り、浜辺や海にはまばらにしかいない。

 

 昼食を食べ、午後は過度にならない程度で遊んだ。童心に戻って砂の山を作ったり、電車を乗り継ぎ遊びに来ていた学生連中に出会したり。

 

 スタンド使いが引かれ合い過ぎだ。魔境でもある我が杜王町から出ているというのに、なぜ一日に何度も知り合いの顔を拝まなければならないのか。

 

 仗助と虹村億泰、それと広瀬康一とその彼女の面々。カップルは二人で海を満喫し、男二人も全力で遊んでいた。

 

 

 そして学生たちも帰り、日も暮れ始めた頃。

 

 地平線の上には真っ赤な夕日がある。それを持ってきた道具を片付けながら、鈴美と眺めた。

 

「遊びに来て良かったね、吉影くん」

 

「……まぁ、一夏のいい思い出にはなったよ」

 

「ふふ、結構焼けちゃうと思ったけど、吉影くんがしつこく日焼け止め塗ってきたから大丈夫そうかも」

 

「焼けたら大変だからね、綺麗な肌が」

 

「女子力高い旦那さんですこと」

 

 女子力じゃない。わたしはただ美しい手の維持のために万全を尽くしているだけだ。パーツモデルでも余裕でやっていけるだろう、鈴美の手なら。…いや、他人にこの手を見せびらかしたくないな。わたしのものだ。彼女も、彼女の手も。

 

「ねぇねぇ、吉影くん」

 

「何だい?」

 

「えい!」

 

 片付けを終えて荷物を持とうとした背後から、彼女が飛びついてきた。

 そこまで鈴美が重いわけではないが、今日の疲れもあって足がもつれる。そのまま砂の上に倒れた。

 

 仰向けになったわたしの上に彼女が乗ってくる。

 重い、と冗談で言えば両頬を遠慮なしにつねられた。

 

「ほんっと、肉がないね」

 

「おかしいね、手料理を食べているはずなのに。君がわたしの」

 

「そうそう。旦那さんの手料理を食べて、すっかり私の体重も増えて──って、叩いていいかな?」

 

 そう心の中で思ったその時にはすでに、彼女の行動が終わっているんだが。

 要するにもう、わたしの腹が叩かれているんだが。

 

 

「ふふ、何だか寒くなってきたね」

 

「夏でもここらじゃ夜は肌寒くなるさ」

 

「吉影くんはあったかいね」

 

「そうかい?君の、方が……」

 

 抱きついてくる彼女の背に手を回す。まだまばらに残っている人間に見られるかもしれないが、周辺にはいない。

 それにここは海。男女が抱き合う情熱的な光景があってもおかしくはない。

 

「…吉影くんさ、お昼辺りから様子が変だったよ?何かあったの?」

 

「何もないよ。ちょっと綺麗な手に目が移ってしまっただけだ」

 

「フーン…」

 

「安心してくれ。わたしの一番は君だよ、鈴美」

 

「本当に?」

 

「あぁ、本当だ」

 

「よかった」

 

 起き上がった鈴美は、わたしの手を引いて歩き出す。真っ赤に染まった海へ向かって、一歩一歩と。

 

 血のような色だ。冷たい。彼女の手を払いたい。

 

 彼女が振り返る。真っ直ぐ前を向いていた、鈴美の顔が。

 

 

「そう言えば文豪の太宰治も、こうやって女性と心中を何度も図ったんだっけ」

 

 ねぇ、平成の太宰さん?などと、彼女は続ける。

 

 わたしは女性と心中を企てたことはないぞ。共に死んでもいいと思った事は、人生で何度かあるが。

 

「フフ、まさか一緒に死んでくれ──なんて、ロマンチックなこと言ってくれるのかい、鈴美?」

 

「………」

 

「鈴美?」

 

 もう腰ほどまで水に浸かった。彼女の方は胸より少し下辺りまで浸かっている。

 

 いつの間にかわたしたちの周囲では、無数の白い手が生えていた。遠目で見た海の中にあったものだ。それらがゆっくり上下に手を振る。まるで誘うかのように。暗い水底へと、わたしたちを。

 

 ギュウと、わたしに手を握る彼女の手に力がこもる。

 

 

「そんな泣きそうな顔しないでくれ、鈴美」

 

「……本ッ当に、吉影くんはバカだよ!!」

 

 

 そうだな。確かにわたしは愚かかもしれない。君の冷たい温度を感じてから、夢が覚めてしまったような気持ちになってしまったんだから。

 

 いよいよ全身が水の中に浸かった。そのまま歩く動作をやめ、水の流れに身を任す。

 だというのに彼女は変わらず進む。暗い水底へと向かう。

 

「ガハッ!」

 

 大量の気泡が自分の口から溢れた。息ができない。

 異様なほどに白い彼女の手が視界に入る。目も眩むような手である。美しい、杉本鈴美の手。

 

 

 

 ──────今は、私だけを見てて。

 

 

 

 意識が遠のいた時、彼女のそんな声が聞こえた。

 

 

 

 

 

 ⚪︎

 

 

 

 

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 ⚪︎⚪︎⚪︎

 

 

 

 目覚めたのは病院だった。

 

 起きた後に医者から説明を受けたのは、自分が溺れたこと。

 

 そうだ。わたしはこのクソ暑い夏に、これまた人間まみれのビーチに来ていた。仕事の取材がてら来ていたが、なぜ溺れるハメに────。

 

「……あぁ、そうだ。岸辺露伴と学生連中に会って、それで………」

 

 わざわざ杜王町から離れた場所に来たというのに、出会ってしまった。

 

 そこで学生たちに泳ぎの勝負を吹っかけられ、入念に準備運動をしてから水泳に臨んだ。さすがに「吉良さんまさか泳げないんスか?」と煽るような笑みを浮かべ言われてしまえば、断れない。ここは大人として、奴らを文字どおりギャフンと言わせねばならなかった。

 

 で、溺れたんだな。

 

 

「…………フゥー…」

 

 

 大人の尊厳もクソもないじゃあないか。いや、泳げなかったのは小学時代の話で、その内泳げるようになった。

 水泳の授業は苦手だったゆえ、いつも適当な理由を作って休むことが多かったものの。

 

 一人冷静になっていたところ、病室に学生たちが入って来て謝罪を受けた。そうだな、元はと言えば貴様らがわたしを挑発しなければ今の事態に陥っていなかったさ。

 

 最初に溺れたわたしを引き上げたのは仗助で、わたしたちが泳いでいた近くでビーチボールでカノジョと遊んでいた広瀬康一も、一部始終を見ていたらしい。

 

 

「……まぁ、足が付く場所で溺れたわたしが一番原因アリか…」

 

 

 泳げたはずなんだがな、高校時代は。

 

 落ち込んでいた仗助と億泰に気にしないように言う。わたしは念のため一日入院になっている。対し他の奴らは帰りだ。時間的に電車は難しい。

 

「俺はお袋が迎えに来て、億泰も乗せてきます。家ちけーし」

 

「僕の方は母さんが迎えに。由花子さんも一緒にね」

 

「スタンド使いの仕業、とかじゃあなくてよかったわね」

 

 そう言うのは、「山岸由花子」という綺麗な()()を持っている女。

 

 この女もまたスタンド使いのようだ。普通溺れるはずのない場所でわたしが溺れたことと、さらにスタンド使いが集まった(元々仗助&億泰と、康一&由花子はビーチで偶然出会った)ことを受け、必然とスタンド使いの仕業かもしれない、という考えが彼らの内に過ぎった。これは少し前に虹村形兆の矢から始まった杜王町の件があったことも原因だろう。

 

 彼らの中で、“不可思議なこと=スタンド使い”という先入観が育まれてしまったのだ。

 

 だがスタンド使いはおらず、単純にわたしが溺れただけだった。

 

 

「とりあえず無事でよかったス………本当に申し訳ありませんでした…」

 

「俺も悪かったぜ……」

 

「もういいと言ってるだろ。そろそろ君たちは帰りの支度でもして来なさい」

 

 タッパのデカいはずの男二人の背が、非常に小さく見える。仗助と億泰に続き広瀬康一も病室を出て、その後に山岸由花子も続く。

 

 そこでふと彼女が振り返った。

 

「そう言えば、吉良さん…でしたよね」

 

「あぁ」

 

「突然突拍子もないお話をしますけど、貴方は俗に言う“幽霊”とかって信じてますか?」

 

「幽霊かい?まぁ、存在するかもしれないね。かと言って「いる・いない」の議論をする程興味もないが」

 

「あたし昔から結構そういうのが“視”えるんです。それでこれは、康一くんにも言ってないんですけど……」

 

 一瞬言いづらそうに口籠った山岸由花子。

 

 

「あたし視たの。あの時、康一くんとビーチボールをやっていた時に、貴方の足に無数の白い手が絡みついていたのを。その手はまるで引きずり込むみたいに、貴方を沖の方へ引っ張ろうとしていた。すぐに仗助がスタンドで助けて事なきを得たけど……」

 

 

 白い、手か。

 

 泳ぐ前から、招き猫のように手を動かしてたんだがな。

 

 

「そうか。それは考えると……恐ろしいな。いやはや、本当に助かってよかったよ」

 

「けれど一本だけ、一本だけよ。他の手とは違う動きを──」

 

「山岸、由花子くん」

 

「…ッ、はい?」

 

 殺気は抑えなければならないが、少し漏れてしまったかもしれない。そんな美しい手で二人きりにされると、今は特に滅入ってしまうよ。

 本能的な怯えと警戒が覗く黒い二つの目は、それでもしっかりとわたしを見ている。意思の強そうな女だ。

 

「助かった。それでいいだろう。悪いが疲れているんだ、出て行ってくれ」

 

「……でも、あの手は貴方を」

 

「キラークイーン」

 

 出てきた我が相棒を使い、無理やり病室から追い出す。精神的にキている状態でスタンドを使うのはまずかったかもしれない。一気に疲れがドッと来た。

 

『ニャー』

 

 しかしこういう時、本体を気遣わないのがこのスタンドである。

 

 

 

「あぁ、覚えてるさ。目も眩むような美しい手が、ぼくの手を浜辺の方へ引っ張ろうとしたんだ」

 

 

 

 わたしは手に招かれていた。

 それを知った上で海に入った。ふいに思ったんだ、居ないはずの君がいるかもしれないって。

 

 だって君はあの崖の上で、幽霊とも似つかない存在になっていたからね。でも君は君のままだった。ただ、人を招くようになってしまっただけで。招くエサになってしまっただけで。

 

 

 だからそう。だからぼくがこの手で。君が望んだから、消したんだ。

 

 

 だから時折、コンビニへ行くくらいの感覚で、自分の命を軽んじてしまいたくなるんだ。

 

 

 

 あぁでも、消えてもぼくの側にいるのだね、君は。

 

 確かにどうしようもなくバカだ、ぼくは………鈴美。

 

 

 

 暫くシーツに顔を埋めて、呼吸をして、思考が限りなく鈍って。

 

 そんな中で見た夜空はとても、綺麗だった。




*幽霊でもない存在になった鈴美ちゃんを爆破させたルート。鬱。
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