転生したら殺人鬼ポジだった件   作:クリーニング黒兎

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億泰が少女に告白されて……!?から始まる番外編。視点がちょいコロコロと変わります。

ルーブルの映画楽しみ過ぎてヤバい。映画館あまり行かないけどコイツだけは絶対観に行きたい。


92話 純情ボーイズと、BLACKアダルツ

 暫く道端の隅で溜まっていた桜の花びらが無くなった時期。春の陽気と初夏に挟まれ、ぶどうヶ丘高校に入った新入生も学校生活に慣れ始めていた。

 一部進級の危うかったメンバー含め、仗助たちも二年生に上がった。

 その中で進級が危ぶまれた組筆頭の強面な男は、一人帰路についていた。

 

「ハァ〜、康一の奴はいいよなぁー…」

 

 普段は男三人で帰ることが多いが、今日は珍しく億泰一人。康一が恋人の由花子と帰るのはままある事だとして、仗助が所用でいないのは珍しい方だ。

 

「仗助の野郎…抜け駆けしたら()ッテェタダじゃおかねぇぞ!」

 

 仗助の用事とは、体育館裏イベントである。不良どもに面を貸せ、と言うならば億泰もメンチを切りに参加したが、二年ともなれば上背があり、しかも厳つい野郎ども二人に絡む先輩というのもいない。そもそも一年の夏休みに入る手前で億泰と仗助コンビに喧嘩を売る輩などいなくなった。イキった一年坊も二人を一度見れば戦意を喪失する。

 

 話を戻し、仗助は現在告白を受けている。それも四月に入ってからほぼ毎日、場所を変え時を変え、後輩のラブコールが舞い込んでいる。

 これには億泰も面白くないというもの。唯一の救いは仗助が恋人を作る様子がないことである。

 

 

「一回アイツがホモなんじゃねぇかと疑った時もあったがよォ、あの女たちの絡まれ具合を見ちゃあなァ〜…」

 

 仗助をアイドルに例えて、特定の女子と付き合ったとしよう。するとファンである女子たちは当然相手の彼女に反感を持つ。仗助にも非難の矛先が向くだろう。

 

 そんな様々な理由もあり、仗助は本気で「好き」と思う女子が現れるまでは純情を貫くつもりでいる。しかし普通にナイスバディなねーちゃんの尻を追っかけてしまう心はある。

 

「…おっ?」

 

 校門を出て、歩くこと数分。空をボォーと見ていた億泰の視界に、一人の少女の姿が目に入った。

 電柱の後ろに並ぶようにして、道路の方を見つめている。背は小動物といった感じで小さく、愛らしい顔立ちだ。

 

「……あっ!」

 

 少女は億泰に気がつくと、駆けてきて鞄から何かを取り出す。

 

 そして「あ、あのっ、コレ、をっ……!!」と、吃りながら手紙を億泰の胸に押し付け、逃げるように去って行った。嵐のような少女だ。

 近づいてわかったが、校章から一年生というのも分かった。となると。

 

「…………」

 

 億泰は押し付けられた手紙を見る。名前は書かれていない白い封筒。糊付けするように貼られたハートのシールが、この封筒が何であるのかを示している。これが漫画だったらきっと億泰は血涙を流していたに違いない。

 

「クッソォ!!仗助め、羨ましいぞォ──!!」

 

 もう両の手ではとうに足りない億泰から仗助へ渡すため託されたラブレター。

 この封筒を粉微塵に破り去ってしまいたい。しかし乙女の愛の告白を無碍に出来る人間でもなかった。億泰という男は。

 

「ハァ、明日仗助に渡してやるか」

 

 

 

 そして翌日の朝。いつものメンバー三人で登校している最中、億泰は仗助に昨日受け取ったラブレターを渡した。

 

「っけ、モテる男は何トカカントカってやつだな」

 

「相変わらず仗助くんは女子に人気だねぇ」

 

 我関せずな康一もしかし、可愛さと凛々しさを両立させた姿に魅かれる女子も少なからずいる。だが由花子ガードが強烈かつ凶悪なため、誰も近寄る事ができない。

 

「お、おお、億泰!」

 

「あ?何だよ」

 

 手紙に目を通していた仗助は、億泰の肩を遠慮なく叩いた。その表情は未確認生物でも見つけたような驚愕の色に染まっている。

 

 

「このラブレター、オメー宛だよ!!」

 

 

 直後、仲良くそろった康一と億泰の「エェ──!!?」という声が、朝の杜王町にこだました。

 

 

 

 

 

 して、放課後。

 

 待ち合わせの場所を指定された億泰は、緊張のし過ぎて人殺しさながらの顔で校舎裏にいる。

 少し前の時期なら桜の下ということもあり、格好の告白スポットだったこの場所。

 

 友人の一大事だと駆けつけている仗助と康一は、校舎裏の様子が見える建物内で窓にへばり付くようにして見守っている。

 

「億泰くんが告白されるのって、僕初めて見たよ」

 

「それを言ったら俺もだぜ、康一。アイツ大丈夫かな…」

 

「女の子の罰ゲームとかじゃなかったらいいね…」

 

「その可能性もあると思ったから、余計心配なんだよ」

 

 億泰の顔は十人中十人が恐れる程には怖い。さらに平生は物腰柔らかい仗助と違い、年がら年中「ア゛ァン?」な男である。

 友人として接していれば表情豊かで飽きない奴だと分かるのだが。

 

「おっ、来たようだぜ」

 

「結構可愛い女の子だね」

 

 桜の木の下、直立不動の男の元に小柄な女子生徒が近づいてきた。

 

 少し開けてある窓から聞こえてくる外界の音に、二人は意識を集中させた。スタンドを使えばもっとハッキリ外の音を聞き取れるはずだが、そこまで頭が回っていない。

 

 少女は暫しモジモジとして、意を決したように顔を上げる。

 

 

「わた──と、────い!!」

 

 

 風の音に紛れ、正確な声までは聞き取れなかった。

 

 

「────」

 

 

 少女に億泰は何か言葉を返す。すると少女は口元を両手で隠すようにし走り去ってから、立ち止まってまた振り返り、右手をブンブンと振った。

 

「これは……成功か?」

 

「いや、まだ分からないよ。「騙されてやんのー!」って手を振ってた可能性もある」

 

 緊張が残る二人は突っ立ったままの男の元へ向かった。

 告白現場に着くと、億泰が口を呆然と開けたまま間抜けな面を晒している。

 

「結果はどうだったんだ、億泰!!」

 

「大丈夫!たとえ恋が儚くても、僕らの友情は砕けないから!!」

 

「…………ってよ」

 

「「え?」」

 

 

 ──────デートしてくれ、ってよ。

 

 

 虹村億泰の少し遅れた春が、始まろうとしていた。

 

 

 

 

 

 

 

 ⚪︎⚪︎⚪︎

 

 

「で、来てやったが話とは何だ?」

 

 

 先日、東方仗助から「相談したい事がある」と電話先で告げられ、週末の午後、東方宅にお邪魔することになった。

 朋子婦人は留守にしており、リビングにいるのはわたしと仗助、それと虹村億泰と広瀬康一の四人であった。

 

 今回仗助の頼みを断らなかったのは、過去に幾つか恩があるからだ。

 

「おっ、美味そうだぜ!」

 

 手土産に持ってきたケーキに一番最初に億泰が食いついた。行列のできる店の甘物だ。味は保証する。

 買ってきた…というより、金だけ渡して編集に買って来させたものであるが。

 ちゃんと編集の分も、何なら朋子婦人の分も用意したから異論はないだろう。

 

「吉良さんは食わないんスか?」

 

「結構だ。甘い物は好きじゃない。それより本題に入ってくれ」

 

「ウッス」

 

 まず初めに聞かされたのは、虹村億泰が後輩の女子生徒に告白された、というものだった。

 正確に言うと「好きです」をすっ飛ばして、「私とデートしてください!」と言われたらしい。

 

「うん。それで、わたしが呼ばれる理由がどこにある?」

 

「いやほら、恋愛の専門家じゃないッスか、吉良サン。いっぱいそういう本書いてるでしょ」

 

「専門家じゃないが?」

 

 この場に彼女がいるのは広瀬康一のみ。なら彼の体験談を参考にすればいいとも思うが、広瀬少年の彼女は当初、それは独占欲丸出しな女性だったらしい。

 というか恋人にもなっていない少年を拉致監禁したらしい。ソレ普通に犯罪じゃないか?

 

「仗助はどうなんだ。飢えた魚群に食い漁られる釣り餌のような有様だろ」

 

「俺は恋愛経験がほぼゼロなんで。つーか人の例え方ッ!」

 

「恋愛の知識を付けたいんだったら本でも読め。わたしを呼ぶな」

 

「最初は億泰に読ませようと思ったんスけどぉ〜…」

 

「オレ、本とか読むとすぐ寝ちまうからよ!」

 

 わざわざ親指を立てて笑う億泰の口元には、見事にクリームが付着していた。

 

 要するにコイツらは恋愛指南役としてわたしを呼んだ。主にデート当日に向けての先生として。

 例えばデートにはどのような服を着て行ったら良いか。女子を不快にさせないよう気をつけるべき事は何か、など。

 

 

「……百歩譲ってわたしが手伝ってやるとして、アドバイスを貰うなら同性から得た方がいいだろう。朋子婦人とかな」

 

「考えてもみてくださいよ、億泰だってダチの母親から意見もらうの恥ずかしいでしょうよ」

 

「吉良さんなら百戦錬磨ですよ!何てったって、あの大先生ですからね!」

 

「作品で描く恋愛模様と実際の恋愛は、似て非なるものだよ康一少年」

 

 過剰な期待痛み入るが、本当に過剰だ。

 

 デートは来週の日曜で、杜王駅で待ち合わせてから遊園地に行くことになっているようだ。

 そこに広瀬康一は彼女とデートのついでに様子を見、仗助も行くらしい。その構図だと一番見目の良い男が彼女ナシという愉快な図が出来上がる。

 

「そこは吉良さんも行きましょうよ」

 

「貴様と、だと……?」

 

「露骨に嫌そうな顔やめてもらっていいスか。俺が小学校低学年くらいの頃までは、市民プールとか連れてってくれたでしょ」

 

「へー、本当に仗助くんと吉良さんって親戚の子供とおじさ……お兄さんって感じだね」

 

「年齢的にはもはや親子って感じじゃねぇか?」

 

 コイツらとわたしの年齢差は十八だ。十は………じゅうは、ち……!?

 

 まぁこの歳だったら、子供の一人や二人いておかしくはないか。しかし現実で年齢を直視させられると結構くるな、精神的に。

 そう言えば年下のあの海洋学者──いや、確か博士になったんだか?──にも娘がいたくらいだしな。

 

「……………」

 

「吉良さん、急に死んだ顔してどうしたんスか?」

 

「仗助くん、僕らが不躾な話しちゃったからだよ」

 

「康一けどよォ、歳とってんのは事実だろ」

 

「もう、億泰くんまで!」

 

 全員その個性的な頭を爆破させてやろうか。

 そんな物騒な考えが脳裏に過ぎりつつ、一人紅茶を黙々と飲み進めた。

 

 

 恋愛指南については結局引き受けることにした。

 

 と言っても、デートで引かれない服を見繕ったり、そのコワモテな面で相手を萎縮させないための立ち振る舞いだったり、最低限のマナーを教えたくらいだ。

 

 

 一旦亀ユーデパートに行ってから再び仗助の家に戻ってきた現在は、三人が座って人の話を聞いている。うち二人はいらない気もする。

 

 遅刻は当然厳禁であるし、紳士然とした男の方が好まれやすい。仗助なんかが良い例だな。

 奴は頭に触れさえしなければ誰に対しても基本紳士に接する。不用意に敵を作らない処世術を知っている。

 

 まぁ相手の女子生徒が虹村億泰のどこを好きになったかで、話は変わるだろうがな。もしかしたら厳つい姿に好意を抱いた可能性もある。

 

「一番重要なのは自分本位に動かず、常に相手を慮って行動することだ」

 

「おもん()()る?……誰が「バカ」だとコラァ!」

 

「ちょ、億泰!」

 

「バカじゃない、「ぱか」だ。胸倉を掴むんじゃあない。人を思いやれ、と言ってるんだ。そうだな、今のわたしの状況じゃ君に他人を「慮る」のは無理な気がするがね」

 

「………すんません」

 

 多少煽ってみたものの、存外大人しく億泰は頭を下げた。この分だったら大丈夫だろう。

 …多分、だが。後のことまでわたしが保証する気はない。

 

「オレすぐ頭に上っちまうからよォ…」

 

「一度我に返れる理性を持っているからそこまで重く考える必要はない。さらに煽られた場合は…そのまま手を出すだろうが」

 

 アレコレとしているうちに、時刻は夕方を回った。

 解散になった手前帰宅した朋子婦人と出会し、土産のケーキが冷蔵庫にあることを告げる。

 

「なになに、男四人が揃って話し合いなんて怪しいわね」

 

「お、お袋お帰りぃ…」

 

「ふーん、へぇー…」

 

 仗助の上から下を見て何か考え込むようにしていた婦人は、指を鳴らす。ズバリ恋の話ね、と。

 

「アンタにも春が来たって事かしら?」

 

「お、俺じゃねぇよ!………あっ」

 

「「俺じゃねぇ」ってことは、康一くんか億泰ってことになるけど、康一くんには可愛らしい彼女いたじゃない?ってことは……」

 

 婦人がニヤニヤと億泰へ視線を向けた瞬間、「うぉぉおおお!!」と叫びながら億泰が家を出て行った。

 自宅がある方に向かわず、夕陽に向かって走っている。アホか?

 

「ふふ、康一くんも仗助と遊んでくれてありがとね!またいつでもうちに遊びに来ていいわよ!」

 

「は、はい」

 

 相変わらずエネルギッシュな母親だ。若者三人の気力を合わせても婦人には敵わない気さえする。

 

「吉良さんもいつも悪いわね」

 

「いえ…」

 

 日が明るいほど影を色濃くするように。自分の暗闇が際立って感ぜられるようになった辺りで、形骸的な笑みを返して東方宅を後にする。

 

 

「あんまし変な事は、仗助たちに吹き込まないでやってよ!」

 

 

 わたしが振り返ると婦人は肩を竦めてみせる。仗助は「変なコト?」と首を傾げた様子。

 彼女の発言はまだ未成年である彼らに18歳以上の知識を与えるな、という訳ではなく、もっとわたしの本質に即して言っている。

 

「ピュアな奴らに、大人の話はまだ早いですよ」

 

「大人な話ってまさか……!!え、エロいはな」

 

「仗助、扉閉めるから邪魔」

 

 最後まで言い終わらず、母親に耳を引っ張られながら仗助は扉の奥に消えて行った。

 とある一家の様子を観察するのも悪くないが、ドッと肩に乗った疲れに溜息が出た。

 

 

 

 

 

 

 

 ◻︎◻︎◻︎

 

 

 星ノ大先生の恋愛講座が終わった夜の事。

 

 夕食を取る仗助は、エロい話の方に頭が引っ張られていた。

 それに目ざとく気づいた朋子が息子に呆れた様子を見せる。

 

「アンタね、鼻の下伸びてるわよ」

 

「エッ」

 

「これだから思春期ボーイは…」

 

 数日前から何やら仗助がコソコソとしていることには朋子も気付いていた。露骨に「週末出かけて来たらどうかなぁ〜〜って……ハハ!」などと、意味深な発言をする息子。

 

 コレはついに女でもできたかと勘繰りつつ話に乗ったが、蓋を開けてみると仗助ではなく億泰だったらしい。

 

 虹村億泰が近所な事と、不良だからこそ抱く可愛がりたい精神、それとその複雑な家庭事情も相まって、朋子は億泰を目にかけている。

 偶に食事に呼んでやることもあった。すると「美人のカーチャンの飯はやっぱうめェ!!」と涙ながらに食べるものだから、殊更可愛いというものだった。

 

 

「アンタももうちょっと億泰の素直さを見習いなさい。じゃないといつまで経ってもカノジョできないから」

 

「お、俺には俺のペースがあんだよ」

 

「別に私は「カノジョ作るな」とは言ってないわよ。学生の恋愛以上の行為はするな、って言ってるだけで」

 

「学生以上の、こと…」

 

「責任の取れないセックスはするなってこと」

 

「ゴフォッ!!」

 

 味噌汁を飲んでいた仗助は、気道に入ったそれに咽せた。そしてそのままテーブルに額をつけ、プルプル震えた。ちいかわのように。

 

「つーか、母さんが吉良さんに言ってた「変なコト」ってよォ、どーゆう意味だったんだ?」

 

「あぁ、あれねぇー…」

 

 朋子はリモコンを取り、息子が見ていた番組から変える。非難の声が上がったが、どこ吹く風だ。

 

「………ほら、あの人、昔色々とあったじゃない」

 

「ん?……そうだな」

 

『S一家殺人事件』。その事件があった前後で、東方家も良平の死や一時危篤状態にまでなった仗助の件があり落ち着く間がなかった。

 その事件の渦中に吉良がいたのは仗助も何となくだが知っている。だが男の自殺未遂の件は朋子も知らない。仗助だけが、知っている。

 

「お父さんと関わりがあったのも一つの縁だったから、気にかけるようにしてたけど、見る度死にそうな顔してたでしょ?というか、よく死にたいのを我慢したと思うわ」

 

「……まぁな」

 

「当時ね、心配だってのもあったから、新しい恋を勧めたのよ」

 

「母さんが?」

 

「そう。それから徐々に回復してったのは覚えてる。けど、うーん……」

 

「何だよ、歯切れがわりぃな」

 

「子供だったアンタは気づかなかったでしょうけど、吉良さんって纏う香水の匂いがちょくちょく違ったのよ」

 

「香水?単純に付けるもんを毎日変えてたんじゃねぇの?」

 

「明らかに女の物の香水を、男の人が好きで付けると思う?」

 

「アッ…………」

 

「それとこれは女の勘でしかないけどね、あの人危ないわよ。死にそうって意味じゃなくて、近づいた方が危ない目に遭うってこと」

 

「そうか?怒ると怖いだけの平凡な人…って俺は思うけど」

 

「だからぁ!女の勘、って言ったでしょ。明確な根拠は香水の匂いくらいよ」

 

「つまり母さんが言いてぇのは、吉良さんが遊び人ってことか?」

 

「……まぁ、そんな所ね。女を弄んだら夜道にグサッとイかれるかもしれないでしょ」

 

 朋子は持っていたフォークで、グサグサと息子の腕を刺す素振りを見せる。

 一方母の言った「変なコト」の意味を理解した仗助は、へぇーと、ため息ともつかぬ声を漏らす。

 

「人は見かけによらねぇなァ…」

 

「女の子にモテモテなアンタが純情なみたいに?」

 

「そこは「ギャップ」って言えよォ〜〜!」

 

 

 東方家の食卓は、今日も賑やかであった。

 

 

 

 

 

 

 

 ⚪︎⚪︎⚪︎

 

 

 当日。目立たない服装に身を包み、遊園地に召喚されたわたしは早速グロッキーになっていた。

 

「メリーゴーランドで酔う人間がいたんスね」

 

「わたしもノリノリで馬に跨る高校生がいるとは思わなかったよ」

 

「いやぁ、はは、ちょっちテンション上がっちまって。何せ遊園地って久しぶりなもんで」

 

 電車や飛行機など一定の方向に進むの乗り物は平気だが、不規則に動くものはダメなんだ。

 ジェットコースターなど過激なアトラクションに乗らなければ大丈夫と高を括っていたが、全くダメだった。

 

 空いているからと乗ったあの馬畜生は、上下にも揺れやがったのだ。

 ……いや、アレくらい大丈夫だろうと判断した自分にも落ち度がある。

 

「わたしはいいから、貴様は行け」

 

「わかったッス。──おしっ、全部のアトラクションを制覇してやるぜ!」

 

 すでに億泰を見守る会は存在せず、広瀬康一も普通に彼女とのデートを楽しみ、仗助も童心に帰って遊んでいる。

 序盤だけしか億泰の様子は見られていなかったが、緊張し過ぎず話も普通に交わしていたし、あまり心配いらないような気がした。

 

「気持ち悪い…」

 

 薬は飲んだがまだ吐き気が治らない。

 

 日陰になっているベンチを丸々一個占領し、シャツの上に羽織っていた上着を顔にかけて眠りの体勢に入った。貴重品は財布から抜いた数枚のお札を除いて仗助に預けてある。

 

 

 そして、そのまま眠りに入ったわたしが起きたのは、夕方頃だった。

 途中心配した係員に声をかけられたが、問題ない、と返した。

 

 お昼に到着してすぐにダウンしたので、かれこれ数時間は寝ている。伸びをすると体がパキパキと鳴った。吐き気はほとんど治っている。

 

「虹村億泰はどうなったんだ…?」

 

 確か、事前の予定ではそろそろ観覧車に乗るんだったか。暗くなり始めるとここではライトアップして、それを観覧車から眺めるのがカップルの定番なんだとか。

 調べた学生連中が語っていた。

 

「そう言えば鈴美と遊園地に来たことはなかったな…」

 

 主に、わたしが酔うからという理由で。情けない話である。

 

『ニャー』

 

 懐古の念に浸っていれば、キラークイーンが突如現れた。

 呆然とする主を他所に、観覧車に向かって行く。するとあら不思議、わたしの体も引きずられて行く。

 

「おい、何が悲しくてカップルばかりが並ぶ場所にお一人様で乗らねばならんのだ」

 

『ニャー』

 

 おれがいるやろ、な雰囲気を纏わす我がスタンド。お前は実質わたしだから一人だ。

 いや、そうなるとわたしが本当は観覧車に乗りたいと思っていたことになるな…?断じて乗る気などない。

 

 つまり、一応お二人様になるのか…?

 

 

「ハァ…わかった、乗るよ」

 

『ニャー!』

 

 そうして乗り込んだわけだが、まさかの前列に億泰と女子生徒がいた。妙にしんみりとした空気で、カップルにしては距離が離れている。

 順番を待つ間、双方の話を盗み聞いた。億泰の方は後ろにわたしがいると気づいていない。

 

「……そっか、お前転校しちまうのか」

 

「…うん」

 

 どうやら少女の方は、転校するため想いを寄せていた億泰に思い切ってデートを申し込んだようだ。

 

 告白が「付き合ってください」ではなかったのも、すぐに離れてしまうからこその内容。

 もし億泰がデートを渋れば事前に転校の話をして、思い出作りの上でお願いするつもりだったらしい。

 

 しかし即億泰がOKしたため、喜びで舞い上がってしまいその時は話すのを忘れ、その後も話を切り出しにくくなり今日に至った。

 

「ごめんね、言えなくて」

 

「気にすんな。今日はオレも楽しかったからよ!」

 

「……!!あ、ありがとっ!」

 

 二人が観覧車に乗り込む。わたしの隣では今か今かと相棒が瞳孔を細くさせている。その顔は獲物を狙う表情だぞ。

 

 

 

「わたしには眩し過ぎるな」

 

 

 自分の番が来て、眼下に広がる景色にチラリと視線を向ける。幸い吐き気は襲って来ない。

 

 広瀬康一とその彼女も、億泰とその相手も、仗助も、皆純朴で真っ直ぐだ。

 真っ直ぐであるからこそ、歪みを知らぬ。正確には歪みそうになっても、持ち前の正義感によって正しく修正される。

 

 穢れを知らぬ若者は文字通り“眩しい”。

 

 自分とは違う生き物のようにさえ感じられる。

 でも腹を裂いてみれば同じ臓物があって、赤い血が流れているとわかる。

 

「………フゥー」

 

 ギギギと、爪が伸びた。そろそろ欲求が抑えきれなくなる。

 今夜にでもどこぞの女を引っ掛けるか。

 

「と、その前に猫草がじゃれつく用の土産でも買ってくか」

 

『ニャッ!』

 

 わたしの言葉に、キラークイーンはご満悦そうだった。

 

 

 

 

 

 

 

 ⚪︎⚪︎⚪︎

 

 

 杜王駅に帰って来た。

 億泰は迎えに来た少女の車に手を振り、デートは終わった。

 

「ふわぁ…眠ッ」

 

「貴様は友人そっちのけで遊びおって…」

 

「へへへ、まぁいいでしょ。俺だけ悲しい人間だったんスから」

 

 閉園ギリギリまで遊び、本当に全てのアトラクションを制覇した少年は、電車内で熟睡していた。

 

 車が見えなくなるまで手を振っていた億泰は、突っ立ったままである。

 彼女を送り届けるため康一少年はすでに帰路に就いており、残ったコイツらはコイツらで、二人つるんで帰るだろう。

 

「何だかんだ文句言いつつ、おれたちに付き合った吉良さんは優しいッスね」

 

「お前らというか、お前には個人的な貸しがあったからね」

 

「そんな優しい大人は俺たちを家まで送ってくれたりとかは──」

 

「歩け。嫌なら母親に泣きつけ。「全力で遊んだせいでもう歩けません」ってな」

 

「トホホ……」

 

「…おっ、仗助に吉良さん!」

 

 ねだる少年を振り払い駐車場に向かっていると、億泰がこちらに気づいた。

 顔は晴々としている。奴は今日の大まかな経緯を話した。

 

 わたしが知っている部分は省き、純粋に気になっていた少女がこの男のどの部分を好きになったか尋ねると、億泰は頬をかきながら語る。

 

 

「向こうが数学の先生に用があってクラス分のノートを運んでた時よ、不良にぶつかって倒れたらしくてな」

 

 億泰は覚えていなかったが、偶々そこに通りがかった奴が少女に詰め寄る男どもにガンを飛ばし、窮地を救ったのだそうだ。

 そしてノートを拾ってやり、お礼を言った少女に「気にすんな」と返した億泰を見て、少女は己の恋心を自覚した。

 

「オメーいい所あんじゃねぇかよォ!」

 

「そりゃこの億泰様にだって美点の百個や千個あるわい!」

 

「じゃあ具体的にその百個や千個を今ここで述べてみたまえよ」

 

「エッート……まずカッコいいだろ!次に………カッコいいだろ?」

 

 傷心に浸っている様子は見た所ないか。それか隠しているだけで、家に帰ってしんみりとするのか。

 

 まぁまだ若いのだから、これから恋の一つや二つ、いくらでも経験する。

 今この時の感情が、この少年にとっては大きいものなのかもしれないが。

 

 

「周りが恋人を持つ友人とモテ男の友人に囲まれているが、君をきちんと見て好きになる女子はいるということだ」

 

「大先生……オレ今ジーンと来てるぜ」

 

「大先生はやめろ。億泰くんはだから、自分の良いところを大切にするといい」

 

「ウッス!!」

 

「俺にも何かアドバイスくださいッス!」

 

「ない」

 

「ひでぇ!!」

 

 お前は女がよりどりみどりだろ。何を助言することがあるんだ。

 

 それから二人と別れ、別市の歓楽街の方へ車を走らせた。服は上着をカジュアルなジャケットに変えた。髪も後ろに撫で付けている。

 そして信号待ちをしている間、駄弁りながら歩く男二人に再び遭遇した。

 

 仗助はこちらに視線を留めると、目を丸くする。いったい何だと言うのだ。

 窓を少し開けると、明瞭に声が聞こえる。

 

「あ、遊び人だ!!」

 

「遊び人ってなんだよ、仗助ェ」

 

「これから女を食い物にする気だぞ、この人!!」

 

「な……何だってェ〜〜〜!!?」

 

 途中で煩わしくなり窓を閉めた。

 尚も何か言っているが、信号が変わったので走り出す。

 

 

「奴らにはまだ、恋より友情の方がお似合いだな」

 

『ニャー』

 

 

 さて、夜はまだ長い。

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