幻想少女を愛したい   作:ファトウの砲台

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小説って難しいですね。自分の文才のなさを恨むばかりです。


第0話 ラストリゾート

 

なぜ僕が死ななければならないのだろう。僕を殺した山が憎い、山を崩した雨が憎い、雨を降らせた雲が憎い、雲を生み出す海が憎い。

これが運命と言うのなら、その運命が憎い、それを決める神が憎い。

死んだ僕を見つけてくれない警察が憎い、両親が憎い、友人が憎い、全ての人間が憎い。

山に行こうと言ったのは誰だ。あいつかあいつか。それともあいつか。もう名前も分からない。

いつからこの言葉達が(からだ)を鼠のように駆け回り、蛆のように貪るようになったのか。些細な問いはすぐに呪詛の濁流に呑まれて消える。

ただただ憎い。僕は誰だ。そんなことはどうでもいい。憎い。憎い。憎い。憎い。

にくい。にくい。にくイ。にクイ。ニクイ。モウカンガエルのはヤメニしよう。

ニクシミダケヲウケイレレレレレレレレ―コノヒカリはナンだ。なんだかトテモココチよい。カコマレテイルのか。

意識をはっきり取り戻すと同時に眠りへ誘われ失われる不思議な感覚。最期に見たのは僕を包み込むように広がる雪色の光だった。

 

 

 

「うまくいったの…?」

「これが成功に自信を持ってる顔に見えるかしら…」

「…素直に分からないっていいなさいよ。妖怪の言うことは面倒くさいっちゃあらしない…」

天を射貫く程に長い長い石階段のたどり着く先にある神社の一室で、博麗の巫女―博麗霊夢と妖怪の賢者―八雲紫は溜息混じりに言葉を交わす。

 

 

このままではいずれ幻想郷は崩壊する。八雲紫がそう悟ったのは、数ヶ月前の事だった。

容姿が醜いという理由で、霊力や魔力、妖力とった異端の力を持つ少女達は恐れられ、煙たがられてきた。それはずっと昔から続いてきたこと。これから先も変わることはない。男性と関わることなど滅多になく、まして恋人を作り、婚約することなど考えることすら許されない、否、考えるだけ無駄である。異能の少女達は、容姿が醜くても自分達には、素晴らしい力がある。そう思って、そう割り切って今の今まで過ごしてきたのだった。だが、それは続かなかった。

ここ半年のうちに人間の里ではとある思想が生まれたのだ。なぜ、我々人間は肥だめに湧いた虫の如き醜い娘達に恐れを抱きながら生きていかなければならないのか。狭い狭い里でのみ生存を許され、里の外に出ようものなら命の危険が伴う。なぜ醜いもの達のために我々が譲歩しなければならないのか。その思想の発端は人間の里で権威を振るっている美人達であった。べたつくような脂ぎったどす黒い髪を振り乱し、風船のように膨らんだ顔に糸のように細い眼を併せ持ち、母性に溢れた肉塊の如き巨体という恵まれた容姿を生かして、里の人口の3割ほどしかいない男性を独占し、建設業、飲食業、農業、男娼館と里の経済を握っている者達。彼女達は里にひっそりと出入りする異能を意図的に差別し始めた。今までの鬱憤を晴らすように。天狗の新聞、河童の機械、兎の団子、獏の枕、妖怪の育てた花、数え上げればきりが無いが、それら全てに対して徹底的な不買運動を呼びかけた。権力者に従う他ない里の住人達はその不買運動に積極的に参加した。人里での商売が立ちゆかなくなった少女達は里と関わることがなくなった。勿論、力を使って抵抗もできたかもしれないが、人間の里では人間を襲ってはならないという幻想郷の黎明期から作られた伝統が彼女達を縛った。

やがて、激化したその運動は同じ人間にも牙をむくようになった。幻想郷の歴史を編纂する稗田家、幅広い書物を扱う貸本屋、里の子ども達の教育を担う寺子屋などはまるで腫れ物のような扱いを受け始めた。人間の里は二分化され、美人達と男性が住まう中心部と、それを額縁のように囲う醜い女性達が暮らす集落が形成された。

これら全ては愚かな里の人間が勝手にやっていることだ。幻想郷の平和は人間と人外のどちらが欠けても成立しない。数ヶ月もすれば、発端となった人間達は自分達の愚かさに気づくだろう。それまで放っておけばいい。異端の力による実力行使などいつでもできるのだから。そして、人間の里を監視する座敷わらしもいるのだ。八雲紫はそう考えていた。だが、それは甘かった。人間の思い込みが生み出す影響力は時に妖怪達の予想を上回る。調子づいた里の人間達は人外を見下すようになり、幸福を呼ぶと大切にしていた座敷わらしすら追い出した。これまでは醜い少女達だとは思えども、そこには異端の力への畏怖が混ざっていた。それが消えるとどうなるか。人間よりも精神的な力に脆弱な人外はしだいにその力を発揮できなくなってきた。具体的に言えば、妖力、霊力、魔力などが弱まってきたのだ。幻想郷を隔離している博麗大結界も元をたどれば人智を越える力で作られたものであり、このままいけば崩壊は避けられない。その前に力を失った自分達人外は消滅してしまうかもしれない。

絶望の中で八雲紫は幻想郷崩壊を防ぐ手立てを模索した。まずは自分達の力の回復することを最優先に考えなければならない。その答えはシンプルなものだった。自分達の力を失わせたものが、醜い女を蔑む心であるならば、その逆の心を作用させればよい。つまり、男性からの愛を受けられれば良いのだと八雲紫は考えた。こことは違う世界の男性ならば私達を愛してくれるかもしれない。突拍子もない考えだが、それにすがりつくしかなかった。

 

 

「まさか、別の次元から男の人を幻想郷に召喚するなんてね…最初聞いた時は正気を疑ったわよ。」

「仕方が無いでしょ、霊夢。もうこれしか方法はないの。」

「呼んだ人がここと変わらずに私達を見た場合はどうするの?」

「その時はその時。いくら残酷な運命でも受け入れるしかないわ。」

「一度きりの運試しなのね。」

霊夢は溜息交じりに言う。

「そして、身勝手な理由で呼び出したことを詫びなければならない…」

「…許してくれるかしら。」

「殺すも同然のことをしたのだもの。許してくれる可能性は限りなく0に近いわ…」

「どうしましょう。嘘を言ってごまかす?」

「その必要はないわ。どんな嘘でもいずれ露見する。その時に全て崩れ去るよりは最初から打ち明けた方がいい。」

「紫…。」

「責任は私にある。霊夢達はあくまで巻き込まれただけ。私を差し出す形で納得してもらうから…。」

「それじゃ、紫は…!」

皆まで言わなくてもいい、片手を前に突き出し紫は霊夢の言葉を制した。

「あなたたちはよくやってくれたわ。」

目線を横に移しながら紫が言う。その先には、狐と猫の式神、小さな鬼、狛犬が眠っていた。彼女達は残された力の全てを駆使して、手助けをしてくれた。別次元から人を呼び寄せるには膨大な妖力や霊力が必要だった。自分達が消滅するかもしれない。それを覚悟して彼女達は協力してくれたのだ。

「もし、上手くいかなかったとしても最期にあなた達と過ごせるなら私は幸せよ。」

「もう、あんたらしくもない。そんな女々しいこと言うなんて…私の勘が上手くいると告げてるから。」

「十発八中くらいのあなたの勘もこうなってくると頼もしいわね。」

「…素直に頼もしいって言ってくれてもいいのに。」

普段は全てを知っているようで、その意図を読み取りにくい紫だが、今回ばかりは本気で弱っているのだと霊夢は思った。それは同時にかつてない危機にさらされているということを嫌でも想起させるのであった。

 




お疲れ様でした。ここまで読んでくださり、誠にありがとうございます。
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