やはり書籍キャラは扱いやすいです。
折角ですので、改めてご挨拶させていただきましょう。僕は、
僕は幻想郷の人間の里の入り口付近で目を覚ました。時刻は午後5時頃、ああ、酉の初刻頃と言った方が、適切でしょうかね。目覚めたのが人里付近で助かりましたよ。危険度の高い無縁塚や妖怪の山じゃなくて本当に良かった、そう思います。なぜ幻想郷の知識があるのかですって、それはおいおい話しますよ。
人里の入り口は遅くとも戌一つ時(午後7時半)には閉まるそうですね。閉まる前で良かったですよ。人里に入った僕は、とりあえず人を探そうと思いました。人は沢山いましたけれど、不思議なことに女性ばかりでしてね。しかも綺麗な人ばかりで。最初は風俗街かと思いましたよ。しかし、皆さんの服装は綺麗とは言えませんでしたね。水商売の女性ならもっと派手な格好をしているはずです。あ、早苗さん。今笑いましたね。僕達からしたらここにいる女性は皆、美人さんなんですよ。失礼千万を承知でいいますが、皆さん、高級遊女のレベルですよ。
僕が近づくと皆さん、すたこらさっさと逃げ出して行きました。正直傷付きましたね。美人さんに相手にしてもらえないとは男にとっては悲しいものです。今思えば、避けられていたのは容姿に自信がなかったからなのですね。僕達からしたら荒唐無稽な話ですよ。
誰にも相手にされないまま、僕は里の中心に向って歩いていきました。ですが、途中で呼び止められましてね。その相手が―。
そう、私、本居小鈴なんですよ。質郎さんを見たとき、真っ先に外来人だと思いました。途方に暮れている様子だったので、勇気を持って話しかけたんです。ちょうど、私も中心部に帰ろうとしていたので。
中心部とは何かって。そっか、霊夢さん達は今の人里をよく知らないんでしたっけ。今、里は完全に二分化しているんです。私達とは違って容姿に恵まれた女性が牛耳っている中心部と、そうでない女性が住むスラム街のような集落に。でも、私は容姿に恵まれていなくても中心部に住むことを許されているのです。なぜかというと、私の父が鈴奈庵の経営者だからです。人里では男性は希少で価値のある存在ですから重宝されます。なので、父が経営する鈴奈庵は煙たがられながらも中心部に存在することを許されました。そしてその家族である私と母も中心部の住人になることができたのです。
父が中心部で労働をしてくれるので、私と母は生活の基盤を失うことなく暮らせています。ただ、身内に男性がいない家は悲惨でした。稗田家は男性の使用人を全て買収され、持っていた農地も半ば強引に奪われてしまいました。稗田家の里での権威は
阿求は無事か、ですか。無事ではないですね。今まで自分が守ってきたはずの人間から裏切られたのですから。体調を崩して床に臥しています。今は寺子屋の先生が付きっきりで看病していますけど。里の寺子屋は稗田のものですからね。稗田家が没落すれば寺子屋も続けることができなくなっちゃいますよ。集落には、阿求のお見舞いで毎日行っているのですよ。
暗い話ばかりでごめんなさい。でも、それもここまでですから。質郎さんは私達に救いの手を差し伸べてくれたのですよ。
小鈴さんに連れられて僕は中心部に行きました。中心部の入り口は、関所のようになっておりましてね。女性は通行手形が必要なんですって。全く性差別が著しいったらありゃしない。前時代的というか、同じ人間として呆れましたよ。ああ、失礼。僕達はもう普通の人間ではないんでした。頑強な男二人が門番をしておりましてね。ちょうど、アリスさんの隣にいる加藤剛成君のような、いえ、彼の方が、身長がある分、門番よりも迫力がありますね。
冗談はさておき、小鈴さんは通行手形を使って、僕は男だからという理由で中心部に入れましたよ。中心部は、それはそれは派手でしてね。もう日が沈むというのに静けさは微塵も感じられませんでしたよ。ずらりと提灯が並んで、人々はあちこちで酒を酌み交わしていましたよ。外の世界で言うところの眠らない街というやつでしょうか。文明の水準に違いはあれども、人間の雰囲気というものは変わらないのでしょうね。
そこでは、男性一人につき二、三人の女性が付きっきりでお話やお酌をしていましてね。夜の街らしい情景でしたよ。僕は全く羨ましいとは思いませんでしたけどね。なぜかって。容姿で差別するのはよくないとは思いますけど、あんな女性達に囲まれたら僕達は吐き気で死んでしまいますよ。あはは、もう死んでいるんでしたっけ。この台詞、本日何度目でしょうね。
僕は小鈴さんに案内されて鈴奈庵にやってきました。貸本屋というだけあって、僕は感動しましたよ。貴重な文献が沢山置いてあるのですから。僕は大学では民俗学を専門に学んでましてね。特に、
さて、僕の趣味の話はこれくらいにしましょう。鈴奈庵で僕は小鈴さんから幻想郷についての説明を受けましたよ。妖怪や神様達が住んでいる桃源郷…なんとも魅力的な場所ですね、幻想郷は。全く柳田國男先生もびっくりですよ。おっと、また趣味の話にずれるところだった、失礼。
やがて、お話を聞くうちに僕が居た世界とは女性に関する美醜観念が大きくことなることに気がつきました。そして、男性の価値が高すぎるのです。僕は自分の容姿を優れているとは思いませんが、ここではどんな男性でも基本美男子扱いらしいです。ええ、君達も喜ぶべきだよ。僕の場合は知的なメガネ男子、宮川君は可愛い系男子、夏目君はチャラ男系イケメン、加藤君は筋力系男子に分類されるのでしょうかね。ああ、女性陣の反応を見る限り正しいようですね。四人を代表して申し上げますけど、恐縮の至りです。
さて、僕はどうにか小鈴さんの力になってあげたいと思いました。小鈴さんのお友達は中心部の外に多く居るのです。中には困窮して飢えている人もいるとか。全く、無理非道ここに極まれり、という感じですね。幻想郷では人間同士協力しないと生きていけないというのに愚かしいものです。
手っ取り早くお金を手に入れる方法を僕は小鈴さんに聞きました。そしたら、体を売ることだと言われましてね。男娼館なるものが中心部にはあるのですって。ああ、ご心配なく。実際に体を売った訳ではないので。皆さん、小鈴さんを攻めないでくださいな。僕が聞いたのが悪いのです。君達も稀有な目線をするんじゃない。別の方法を考えましたから。
ブルセラショップというものがありましてね。僕達の次元の20世紀末期に登場したビジネスですよ。女子高校生がお小遣い稼ぎのために自分のブルマやセーラー服をショップで売るんです。それは後に社会問題となるのですがね。人里の中心部ではその逆のことが起きているのですよ。僕はそれを利用しました。さて、何を売ったと思いますか。
正解は靴下です。店員の目の前で脱がなきゃならなかったんですよ。流石に下着は売りたくなかったですね。その店員というのが、また醜悪な外見でして、同じ建物にいるのも我慢ならないものでしたね。目の前で渡した靴下の匂いを嗅がれた時は流石に寒気がしましたよ。結果は、1円札3枚と50銭硬貨1枚でしたよ。僕達の世界で言えばいくらくらいになるのでしょうね。幻想郷は必ずしも明治時代に定められたお金の規則とは合致しないようなので、そこがよくわかりません。なるほど、だいたい2万円くらいですか。紫さん、ありがとうございます。となると、現在の幻想郷の1円はだいたい外の世界の5、6千円くらいの価値があるのですね。覚えておきますよ。安物の靴下が化けたものです。
そのお金で僕は買えるだけのお米や野菜を買い込んで、小鈴さんと一緒に集落に行きましたよ。肉体労働は得意ではないので、荷車を押すのは疲れましたがね。集落の人々は嬉しそうにしてくれましたよ。ですが、どうにも虚無感というものが残りましてね。大したことをしていないのに、大げさなんですよ。あまりにも都合が良すぎるのですよ、順風満帆も過ぎると毒です。
質郎さんはそう言いますけど、男性が自分の衣服を売るということは、幻想郷では自分の尊厳を売るのと同じことなのです。皆さんの世界では逆なんですか…。そちらでは需要がないのですね。やはり価値観が全然違うのですね。
食料品は寺子屋の先生に渡して配給してもらいました。そこで、先生と阿求に質郎さんを紹介しました。私を含め男性との会話は、二人にとっても楽しい時間でした。しかし、外来人である質郎さんをずっと人里にとどめておく訳にはいきません。私達は夜通しお話をしていました。先生も阿求も少し元気が出たみたいでした。名残惜しいけど、朝が来れば博麗神社に質郎さんを送り届けなければならないのです。記念に幻想郷縁起を一部お渡ししました。私達のことを忘れて欲しくなかったから…。
「でも、それも杞憂でしたね!こうして質郎さんも含め皆さん、こちらに残ってくれるのですから!人里の復興も近いかもしれません!」
「ええ、稗田さんのお屋敷でこの幻想郷縁起を頂きましてね。お陰でここの基本的な知識が付きましたよ。そして、ここに住んでもいいということは妖怪達と関われるということ。民族学を学ぶ者としてこれ以上の幸せはありません!」
「そう、それは何よりだわ…。」
「さてと、霊夢。気は済んだかしら。」
「ええ、もうお腹いっぱいよ。」
「改めまして、幻想郷へようこそ皆様。私はここの管理人をしています。八雲紫と申しますわ。私達が勝手に呼び寄せたにも関わらず、皆様は幻想郷のために早速行動を起こしてくださいました。幻想郷の賢者として心から感謝申し上げます。」
「いえいえ、自分らは元々死んでいた身ですから、寧ろ感謝するのはこちらです。」
「剛成の言う通り!それにここは俺達にとっては楽園みたいな場所だし。」
「そうですよ。新たな命をくださったご恩がありますから、我々としてもできる限りのことをさせていただきますよ。」
「あら、嬉しいですわ。折角ですからこのまま交流会でもしましょうか。」
紫はがらりと雰囲気を変え、笑顔で言う。
早苗、アリス、小鈴の三人は少し面白くなかったが、自分達の横にいる男達が乗り気だったこと、そして、霊夢や紫を敵に回すのが恐ろしかったので、渋々従うのであった。
お疲れ様でした。そして、ここまで読んでくださり、誠にありがとうございました。
次の更新がいつになるかはわかりませんが、できれば近いうちに投稿したいです。