幻想少女を愛したい   作:ファトウの砲台

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藍様、こんな風にしてごめんね。




第8話 新しい家族

「ゆ、紫様ぁ~、本当にダメなのですか~!」

 

「ダメよ、藍」

 

「私だって頑張ってきたのに~!」

 

「風呂覗きなんて許可できる訳ないでしょう」

 

「紫様のその能力なら男の風呂なんて覗き放題じゃないですか!」

 

「お、お黙りなさい!」

 

「くっ、もう我慢できない…!今から私も一緒に風呂に入ります!」

 

「こ、こら!待ちなさい!」

 

ここは博麗神社…ではなく紫様の隠れ家です。なぜ博麗神社ではないのかというと、健一様が関係しています。健一様は博麗神社に住むことになりましたが、博麗神社は電気も水道もありません。外の世界の暮らしに慣れている健一様には住みにくいことでしょう。なので、博麗神社の居間に紫様の力でスキマを繋げ、健一様には外の世界に近い生活をして貰おうとしているのです。紫様の隠れ家は電気も水道もガスもあります。外の世界の暮らしとほとんど変わらないはずです。巫女と仙人というオマケも付いてきましたが、些細なことでしょう。二人が健一様に余計な手出しができないように今は博麗神社の居間に隔離中です。

 

自己紹介がまだでしたね。私の名前は橙といい、藍様の式神をしています。お馬鹿さんだった化け猫の私でも藍様のお陰でこうやって人の言葉を操ることができるのです。でも、橙には尊敬できない点がいくつもあります。その一つがとても性欲が強い点なのです…。

 

藍様は九尾の狐という有名な妖獣に宿った式神です。橙には難しくてよく分かりませんが、九尾の狐の力と鬼神の力が合体した、と紫様から聞いています。だから九尾の狐時代の性欲がそのままなのです…。

九尾の狐は美女に化けて、男の人を誘惑する、なんて人間達は言いますが、それができない九尾もいます。藍様は昔、何度も人間の女に化けて男の人とあんなことやこんなことをしようとしたようですが、その度に不細工と罵られて退治されてばかりいたようです。藍様は他の九尾のように人間の美女に上手に化けることができなかったのです。

 

溜まりに溜まった性欲を持て余しているうちに藍様はとうとう禁忌を犯してしまいます。力づくで男の人と交尾をしようとしたのです。妖怪は人間を襲うのは当たり前ですが、これは妖怪の中でも禁忌とされているのです。なぜかというと、女妖怪が男の人と事に及ぶのは、誘惑して向こうから襲ってもらうということが一般的だからです。人を誑かすのが妖怪の本質なのです。性欲に任せて男の人を襲うなど、妖怪の掟に反します。

 

それを止めに入ったのが、紫様と聞いています。紫様はただの九尾の狐だった藍様に式を与えて、式神へと作り替えました。そして、今の藍様が生まれたらしいです。襲われた男の人はショックで死んでしまったようです。その人には深く同情します。私も藍様に襲われて死ぬなんて真っ平ご免です。

 

そういうわけで、紫様に強引に性欲を抑えられている藍様なのですが、もう抑えられそうにありません。紫様の強力な術式よりも藍様の性欲の方が強いようです。

藍様の気持ちが分からないわけではありません。今日の朝、健一様が幻想郷に呼び出されました。健一様は素晴らしいお方で、愛情を持って橙達に接してくれます。沢山なでなでして貰いました。幸せ一杯です。お陰で元気を取り戻すことができました。他の男の人も来たけど、橙にはちょっと怖かったです。皆さん悪い人じゃないけど、茶髪の人はおっぱいばかり気にしてそうだし…、大きな人は怖いし…、眼鏡の人は何を考えているのか分かりません。藍様は血走った目で一人一人品定めしていましたけど…。橙はやっぱり健一様の近くが一番落ち着くのです。

 

だから、健一様に何かあったら、橙はすぐにでも助けにいくつもりです。でも、橙は他の妖怪に比べたら弱っちいのが残念でなりません。当分は紫様のお手伝いをすることになると思います。藍様のお手伝いは正直したくないです。ついさっき、脱衣所で健一様の下着を盗んでくるように命令されました…。式神である橙は、主人である藍様に逆らえないはずなのですが、紫様が言うには、藍様の式はダメダメらしく、橙は自由が許されているのです。

 

「ゆ、紫様、何をなさるのです?!」

 

「藍、貴女の式を今から少し書き換えます。これでしばらくの間、おとなしくなるでしょう」

 

「そんな殺生な!殺生石だけに!」

 

「くだらないこと言ってないで観念しなさい」

 

「っくそ…抗ってやるますからね!」

 

「…本気のようね、呆れるわ」

 

「橙、少し早いけど健一さんを呼んできてくれる?私が藍を押さえている間にお風呂から上がって貰うわ」

 

「はい!分かりました!」

 

「ちょ、なんで橙なんですか?!私が呼んできますから!」

 

「橙の方が信用できるからよ」

 

「それってどういう意味ですか?!くそ!自分の式に負けた…!」

 

(霊夢達と一緒にこいつも博麗神社で待たせるべきだったわね…)

 

 

 

 

 

 

 

 

「ふう…」

 

湯船に浸かって一息つく。紫さんのお陰で現代風の生活を送れるようになったのだ。ありがたいことこの上ない。霊夢ちゃんと華扇ちゃんは今頃博麗神社の居間でのんびり待っていることだろう。僕が一番風呂を貰っちゃってちょっと申し訳ない。

 

今日一日だけで本当にいろいろなことがあった。目覚めたら幻想郷にいて、華扇ちゃんをおんぶして博麗神社の階段を上って…。それから、霊夢ちゃんや紫さんと出会って、一緒に死んじゃったはずの友達とも再開できた。人里にもいって博麗神社の商売を手伝ったし、帰ってきたら紫さんからハーレム作りを依頼された。

改めて思いかえすと、密度が濃すぎる一日だった。でも、女性の美的価値観が逆転した世界というのはなんとも不思議なものだ。平行世界とは無数にあるなんて話も昨今の創作物ではよくあるけれど、それが現実のものとして今、自分の目の前に現れている。

 

 

 

ふと、幻想郷に来る前のことを思い出す。僕達があの土砂崩れで死んでからどのくらいたったのか正確には分からない。流石にそろそろ捜索が終わっているだろうか。

 

自分が死んだ後、周りの人達はどんな反応をするのだろう。今年の春、亡くなった祖父の葬式があったばかりだ。今でも覚えている。手甲(てっこう)を結ぶ時に祖父の遺体に触れた時に感じたあの感覚を。体温がなくなり冷たくなった手は、もう祖父が生きていないことの何よりの証拠であった。見た目はあんなに綺麗だったのに…。今にも目を覚まして動き出しそうだったのに…。

 

僕の死体の状態はどうなのだろうか。おそらく綺麗なはずがないだろう。押しつぶされて歪に変形しているだろうし、腐敗が進んで、黒ずんでいるだろう。そんな嫌な想像が真夏の太陽のように頭の中で照りつける。そして、変わり果てた息子の姿を見た家族は…。

 

 

泣き出しそうになり鼻をすする。お風呂はこんなにも温かいのに僕の気持ちはこんなにも冷たい。苦労して育てて大学に入学させた息子が不慮の事故で亡くなる。来年には就職活動も控えていてこれから社会に出て、立派に成長した姿を見せてくれるはずの息子が…、一人暮らしで遠く離れた所にいても気軽に連絡を取り合う仲である息子が…、年末には帰省して一緒にお正月を迎えるはずの…、そんな当たり前のようにやってくるはずの未来が突如音もなく霧散する。

 

「…ごめんなさい、お母さん…、お父さん……」

 

口に出したところで戻れない。喉が苦しい。泣くのを必死でこらえている証拠だ。二度と会えないことは分かっていたはずなのに…。今になって悲しみや悔やみが凛烈に襲い来る。ダメだ。涙が止まらない。お湯に濡れた腕で涙を拭っても、心も顔も晴れることはない…。

 

 

 

「健一様ー、すいません、そろそろお時間です」

 

この声は…橙ちゃんか。風呂場の曇り扉の向こうに小さな影が見える。わざわざ僕を呼びに来てくれたらしい。長風呂しても迷惑だ。涙をこらえて湯船から上がる。

 

「…ごめん、今上がるからー」

 

「はい、廊下の方で待ってますね」

 

扉越しにくぐもった声が聞こえてくる。待たせちゃいけないな。

 

 

 

 

 

 

「お待たせ、いいお湯だったよ。呼びに来てくれてありがとうね」

 

「いえ、橙にはこれくらいしかできませんから」

 

「いや、そんなことないよ。呼びに来てくれなきゃのぼせてたかも…」

 

「そ、そうですか」

 

冗談交じりにそう言うと、橙ちゃんは困惑した表情を見せる。まあ、反応しづらいよね。僕、何言ってるんだろう。

 

「あ、あの…!」

 

「どうしたの?」

 

「何か悲しいことでもあったんですか?」

 

「えっ…」

 

「だって、お風呂場泣いてたじゃないですか!」

 

「…聞こえてたんだ」

 

「ご、ごめんなさい。悪気はなかったんです。猫だから耳はいいので…」

 

「いや、大したことじゃないよ。心配してくれてありがとうね」

 

こんな小さい子に僕は気を遣わせてしまったようだ。みっともないな…。

 

「大したことじゃなくても、おっしゃってください!橙は紫様のように強くないけど、健一様の為に何かしたいんです!」

 

「橙ちゃん…」

 

こんな自分の為に尽くしてくれると言うのか。なんていい子なんだろう…。ますます自分が情けない…。

 

「あ!また泣いてる。どうしちゃったんですか?」

 

「…グス、聞いてくれる?」

 

 

 

 

 

 

「…そうだったのですね」

 

「ごめん、ごめんね。こんなこと…、困るだけだよね…」

 

橙ちゃんの前で子どものように泣きじゃくる。自分が情けなくて幼くて、悔しくて悲しい。

 

「…橙には」

 

「…橙には人間の家族というものがどういうものか分かりません。」

 

「でも、でも。健一様の気持ち…分かります。橙だって…紫様や藍様と二度と会えなくなったら悲しいです…!だから…、だから泣いても大丈夫ですよ…」

 

廊下に座り込んですすり泣く僕の頭に添えられた小さな手。それはとても温かくて優しくて…。

 

「…謝らなくていいですよ。橙は何があっても健一様の味方です。きっと紫様達だってそうですよ。だから好きな時に甘えてくれてもいいですよ」

 

自分より一回りも二回りも小さい子の胸に抱かれて頭を優しくなでなでされる。情けないと分かっているのに、こんなにも心が落ち着くのはなぜだろう。本当の母親のようなぬくもりが伝わってくる。

 

 

 

「…そうだったのね。ごめんなさい。私も配慮が足りてなかったわ」

 

「ゆ、紫さん?!」

 

「ゆきゃりしゃま?!」

 

「ごめんね。ちょっと遅いものだから見に来ちゃったわ」

 

紫さんに見られてしまった…。は、恥ずかしい。

 

「…健一さん」

 

「な、なんでしょう?!」

 

「私も妖怪だから…、人間の家族については理解が至らないこともあるわ。でも、私達はもう貴方の家族のつもりよ」

 

「紫さん…」

 

「私も橙も、霊夢も華扇も…、皆貴方の家族。だから遠慮なんてしなくていいわ。言いたいことやりたいこと何でもぶつけてくれていいのよ。家族ってそういうものでしょ?」

 

そうか…。今の僕には皆がいるんだ。一緒に笑い合って、愛し合える…。そんな新しい家族が…!

 

「健一さんのご両親や親戚の方の代わりになれると思っていないわ。そこまで傲慢になりつもりはない…。でもね、寂しさを紛らわせるくらいのことはさせてくれないかしら」

 

紫さん…。僕は貴女に何度救われれば気が済むんだろう。

 

「ありがとうございます…!」

 

「ふふ、もう大丈夫そうね」

 

「お元気になって良かったです!」

 

 

 

 

 

 

 

 

「いや…、大丈夫!一人で寝られるから…!」

 

「ハアハア…、何言ってるんですか!遠慮しなくていいんですよ…!さあ、早く華扇お姉ちゃんと一緒に寝ましょう!」

 

「ねぇ、健一さん、このピンクは無視して私と寝ましょうよ!博麗の巫女が直々に心も体も温めてあげるわぁ♡」

 

「き、気持ちは嬉しいけど、流石にそれはまずいって…!」

 

美少女二人に添い寝を迫られるのは男として嬉しいけど、余計眠れなくなる…!というか、眠る以前にいろいろと問題がある!

 

 

 

「紫様、こいつら追い出した方がいいんじゃ…」

 

「橙の言う通りね。こいつらと藍の寝床は博麗神社の8畳座敷で十分だわ…」

 

 

 

 

 

 

 




お疲れ様でしたー。

橙みたいなマスコット系のキャラクターってどこかバブみを感じます…。
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