迷宮都市に生きる   作:オミ

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プロローグ

 

 

 大陸の西には天を衝く巨塔が聳える一つの都市がある。

 

 

 その名は「迷宮都市オラリオ」

 

 

 そこは遥かな昔に世界に向けて大口を開けていた「大穴」より溢れる怪物(モンスター)達を堰き止める為多くの戦士が集い戦った地であり、現在はバベルと名付けられた巨塔で蓋をされた形となっている「大穴」の先に広がる広大な地下空間「迷宮(ダンジョン)」に求めるものの為に突き進む「冒険者」が集う下界屈指の大都市である。

 

 

 戦士が集いしオラリオの歴史は多くの英雄を生み出し、今もまた新たな英雄の物語が冒険者の集うオラリオで産声を上げている。

 英雄の放つ光は人々を惹きつけて止まないものである。

 

 

 そして同時に数多の戦士、数多の冒険者、英雄でさえも命を散らした「死線」を抱えるのもまたオラリオという都市の真実である。

 遥か昔から現在に至るまで迷宮に、あるいは都市に屍を晒した者は数知れず。英雄の光が輝かしくとも、涙と無念が消え去る事はない。

 それでも冒険者に、あるいは戦士に、そして英雄に憧れを抱く者は絶えず、都市は栄え、人々を受け入れている。

 

 

 ……しかし英雄となれず燻り、果てていく者は余りにも多い。

 

 

 そうして果てた者を弔う墓地というものもオラリオには存在している。その中の一つ、古代の英雄を悼む墓標もあるオラリオ内南東の「第一墓地」人呼んで「冒険者墓地」の墓標の前に一人の男が佇んでいた。

 

 

 がっしりした体つきに詰襟の黒い外套を纏い、大剣のような大きさの木刀を背負った冒険者らしきその男の顔は夕暮れの光で照らされている。

 

 

 男は、どこか寂しげな表情をしていた。

 見つめる墓標には『27階層にて果てし冒険者、ここに眠る』という文章が刻まれている。

 

 

 「………あれからもう6年ですよ」

 

 

 男の口からぽつりと言葉が溢れる。

 

 

 「あの頃から考えたら随分と遠くまで来ちまったもんです」

 

 

 「……あの頃のオレはペーペーもいいとこでしたね」

 

 

 男の表情は寂しげではあるが、段々と過去をただ懐かしむ表情が浮かんてきている。

 

 

 「今日は先輩方と初めて出会って飲み交わした日でしたから、我が儘聞いてもらってオレ一人で来させていただきました」

 

 

 遠き日の思い出は男の記憶に息づいている。

 

 

 「……もちろん鍛錬もダンジョン探索も疎かにはしてませんよ。今日もまた潜った帰りです」

 

 

 「ファミリアはみんな頼りになる良い奴らです。……言いまくるってのは性分じゃねぇんで伝える機会は多くありませんがね。新入りもなかなか骨がありそうで鍛え甲斐がありますよ」

 

 

 「……やっとあの頃の先輩方の背中に追いつけた気がしますよ」

 

 

 次々と言葉を溢す男の表情からは墓標の前に立った時の寂しげな雰囲気は消え去り、過去を懐かしみ今を誇りに思う微笑みが漏れていた。

 

 

 「最近のあいつらの事も聞かせたいとこですが……、日も暮れますし今日はこの辺で切り上げさせてもらいます」

 

 

 ふぅ、と息を吐き身体を緩める。

 

 

「……今度はタラニス様と酒持ってきますよ。あの(ひと)と一緒だとしんみりした墓参りなんてできやしませんからね」

 

 

「だからそれまでどうか見守っといてください、先輩方」

 

 

 黒の外套を靡かせ、男は立ち去る。

 夕陽はその残照を残すのみとなり、墓標はただ静かに去りゆく男を見守っていた。

 

 

ーーー

 

 

 例え涙と無念が絶えずとも、例え望みに手が届かずとも、例え無力に打ちのめされようとも、彼ら彼女らはオラリオという都市に確かに生きているのである。

 

 

 これは誰もが認める英雄には未だ届かない一人の眷族が歩んできた過去と進む現在の物語。

 

 

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