迷宮都市に生きる 作:オミ
10話到達!(プロローグ除く)
前回の後日談です。
……気がつくとベッドの上にいた。
身を起こして周りを見るとそこは病室のようだった。
ただし窓は鎧戸が降りているらしく外が見えない。
「ん?おー、起きたか?」
そしてベッドの横ではタラニス様が椅子に座って何か読んでいた。
「……すんませんタラニス様、今って朝ですか夜ですか?」
「いやまず聞くのがそれかよ⁉︎お前が倒れた日の夜だよ!」
「答えてくれるんすねタラニス様……」
どうやらオレは無事に生きて帰って来られたらしい。
その事実にようやくホッとする事ができた。
「つまりバードも大丈夫って事ですね?」
「まぁ、歯は折れたがすぐに治療したから元通りだそうだ。
あの後ルゴス・ファミリアの後続の皆さんが気絶したオレとバードを運び、パーティーのみんなを守りながら何事も無く地上まで帰還したそうだ。
オレを撫でただけで吹っ飛ばした奴はなんとLv.3。見所のある若手を再起不能にした上で放り出す【若手潰し】として有名な奴だったらしい。……だがカリエさんに身も心もグシャグシャにされて再起不能だという。
リーダーらしい奴は実際リーダーで、Lv.2だったが終わってみれば最初にオレ達をビビらせただけで何かする前にゼルマさんにやられただけで終わっていた。
他の奴らも残らず捕縛されて、そいつらの主神で捕まった
……だけど彼らもあくまで愉快神だっただけで
「……んで、お前はどうなんだ?『空気』は嫌ってくらい味わってるが、『直接』暗黒期って奴が自分に襲ってきたのは初めてだろ?その辺どう感じた?」
…………
……なんとなく感じてたけどタラニス様もどちらかと言えば愉快神だよな……。
しかしどう感じたか、か……
「……今改めて考えると何も出来ないのは嫌だ、って思いますね。」
「一番活躍したのにか?」
「結局やられちまってんですから変わりないですよ?」
「お前やられた後に自分で立ち上がったんだろ〜?なのに、か?」
「あの時自分でも立ち上がってた事に気付いてなかったんですよ……。だから次にアモルが狙われてるって分かってるのに体が動かないって事しか感じなくてとにかく焦って焦って……。……ゼルマさんとカリエさんが来てくれてほんと良かったです」
「ふーん、そうか……。……逃げ出したい、とは思わないのか?」
……考えてもみなかった。
「『考えてもみなかった』って顔だな?分かりやすいにも程があるぞ?」
「……出しちゃいけない時に出なきゃいいんですよ。まぁ、逃げるつもりはありません。トラウマ?になってる訳じゃあねぇんで。……冒険者もこのまま続けますよ」
「この先で死ぬかもしれねぇぞ?」
「……このまま何もできなかった自分でいるのはもっと嫌ですからね」
どこまで行けるかは分からないが、それでも気概だけは強くありたい。
あの
「……そうか。……やっぱりお前を最初の眷族に選んでよかったよ」
タラニス様は笑ってそう言った。
「あっ、医者呼んで来る。ついでに美人な看護師も連れて来るから期待しとけよ?」
「えっ、あ、ありがとうございます?」
しかし何か返す間も無くタラニス様は部屋を出て行ってしまった。
「……寝るか」
仕方ないのでオレは医者……、恐らくは
○
ガイの病室を出たタラニスは廊下を職員の待機場所に向かって歩んで行く。
ここは『バベル』。その中にある治療施設である。
暗黒期のオラリオでもトップクラスに警備が厳重なーーガイが鎧戸だと思ったのは窓からの遠距離攻撃や魔法を防ぐ為に近年設置された金属防壁であるーー公共施設、その内にある治療施設として空いている病床は少ないが、今回は主催の責任としてルゴス・ファミリアが部屋を取り利用料を払う形となっている。
時間は既に深夜という事もあり
──『ガイさん凄かったんですよ?殴られたのに二回も立ち上がって、しかも二回目はお礼を言う為に立ち上がって……!』
──『……だから
「…………やっぱお前は最高に面白い奴だよ、ガイ」
思い起こすは己の眷族の奮起を間近で見届けていた少女の言葉と眷族自身の言葉。
ガイ・シグロという男から見出した『期待』。
その見立ては間違っていなかったのだと、タラニスは確信する。
「だからもっと『血』を見せてくれるよなぁ?」
己が確信の元、戦空の王は邪神にも劣らぬ凄惨な表情を浮かべながら眷族の行く末を想い、嗤った。
『
○
あれからいろんな人が見舞いに来てくれた。
医者より早く来てくれたのはルゴス・ファミリアの主神、金の長髪をした男神ルゴス様と団長のローべさんだった。
──『この度は我がファミリアの主催した探索で、我がファミリアの不行届によって傷を負わせてしまった。誠に申し訳ない』
──『彼らの動きを楽観したのは指揮を下した私の責任だ。ガイ・シグロ君、すまなかった』
……神格者の主神さんとベテランの団長さんが頭を下げてくれるというのはとても畏れ多い事だった。
一夜明けて見舞いに来てくれた……というより病室から抜け出して来たのは頭に包帯を巻いたバードだった。
──『お前自力で立ち上がったんだろ⁉︎やっぱすげぇよお前〜!』
……すぐにバレて『気絶するような勢いで殴られて影響が残ってるかもしれないのに病室から抜け出すんじゃない!』みたいな事言われて引きずられて行ったが。
朝早くにゼルマさんに連れられてやって来たのはバードを除くパーティのみんな、アモル・エルド・バーナ・ヨキア・シャーム・リッテン・ベロ・メロンの八人だった。
見舞いならとりあえず花束だろうって事で花束を買ってきてくれた。
──『ガイ、お前のおかげでベリアさんを恐れずに済んだ。ありがとう』
とはベレヌス・ファミリアの数少ない男の団員でもあるエルドの言葉だ。
今日はギルドへの報告もあるからダンジョン探索は休みになるのだという。だけど証言とかもあるからむしろ忙しいという事で早めにおさらばする事になった。
──『アイツの事ありがとな。お前、きっといい冒険者になるぜ?』
部屋を出る時、ゼルマさんは笑顔でそう言ってくれた。
──『あれは口説いてくれた、って事でいいのかな?…………じょーだんだよ、冗談!』
昼頃、部屋に入るなりそんな事を言い出したのはカリエさん。
どこかで買った花束を抱えてやって来てくれた。
……もちろん冗談だって分かっちゃいるけど、カリエさんのやや露出多めの格好でそれっぽい空気出して言われると一瞬ドキっとするぜ……
──『ま、とにかく無事で何よりだよ?……知り合いが死ぬなんて暗黒期じゃなくても珍しい事じゃないからさ』
花束を置いてすぐに立ち去ってしまったが、去り際の一言で日頃明るいカリエさんが何を見て来たか、ほんの少しではあるが窺えるような気がした。
──『ありがとう、ってベリアに言ってくれた事。本当にありがとうございます』
そう言って頭を下げてくれたのは、夕方に暇を見つけてやって来てくれたフィオさん。
持ってきてくれたのは花束ではなく、乾燥させたハーブをひとまとめに括ったものだった。安眠に効くという良い香りを漂わせていた。
──『良くも悪くも確実に、あの子は変わってきている。ガイさん、あなたの感謝も良い方にベリアを変えてくれるのだと思います。繰り返しになりますけどあの子に感謝してくれて、ありがとうございます』
……そういう事らしい。
団長として副団長を心配するというより、手のかかる妹を心配する姉の言葉のように感じられた。
いつか、オレの知らない『今まで』を聞かせてもらえる日が来るのだろうか。
──『お前の担当のナタリーさん、心配してくれてたぞー?』
一日中姿を見せなかったタラニス様は夜になって戻って来た。
どうやらオレの代わりにギルドでオレから聞いた事を証言してくれていたらしい。
──『『大事を取ってできる限り安静にしてなさい、いいですね?』だってよ?まぁここの支払いはルゴスの奴がしてくれるんだ、甘えてこうぜ?』
……実のところもう怪我らしい怪我も無く、体力も回復してるから退院しようと思えば退院できるのだから早く部屋を空けたいんだが…………あと一日だけ、厄介になる事にした。
次の日はタラニス様やようやく動くのを許されたバード、フィオさんに休みを貰ったというアモル達となんでもない話をして過ごした。
【アストレア・ファミリア】。
あの日、結局言いそびれたぐんぐん実力を伸ばしているファミリアの名前だそうだ。
しかも団長の赤毛の女の子はオレ達の誰よりも年下であるらしい。
街の噂では新人を狙ったチンピラ冒険者がルゴス・ファミリアに倒された、くらいしか伝わっていないらしい。
お前めっちゃ活躍したのになー?、ってバードは言ってくれたがまぁまだオレ達もどこにでも居るようなLv.1の冒険者だって事だ。
アモル達がみんなの昼食として持たされてきたという薬草を混ぜ込んだ極東の『おにぎり』はとても美味しかった。
みんなが帰った後はそのまま夜になり、簡単な検査と味気ない夕食の後に大人しく眠りについた。
そして今朝、退院すると共にルゴス・ファミリアのみんなとダンジョン4階層まで潜って来た。
今度はウォーシャドウが出る事も無く無事に5階層への連絡階段まで行って帰って来られた。
「そんじゃ、またなー!」
「おぅ、またな!」
現在、ギルド本部前。
それぞれ換金や報告を終えてバード達と別れる。
三日振りに会ったナタリーさんが最初に『君が無事で良かったよ?』って言ってくれたのが嬉しかった。
あとはタラニス様を拾って数日振りに『古木亭』で呑むだけとなった。
「それ、傷付いてたけど大丈夫か?」
「とりあえずは大丈夫、らしいですけど……」
あの日ウォーシャドウの攻撃を受け止めた木刀にはくっきりと傷がついていた。
……今日は活躍してくれたが、元が道に捨てられた木材である事を思えばいつへし折れても不思議じゃあない。
……もうそろそろ武器も買い替えないとか、なんて考えながらタラニス様と並んで暗がりが忍び寄るオラリオの街を歩んで行く。
相変わらず空気は暗いし、三日振りに通りかかったら丸ごと吹き飛んでる建物さえあった。
……だけど、それでも道を歩む人がいる。
帰り道を急ぐヒューマンの労働者、仲間と笑い合うドワーフの冒険者、子供の手をひく
「どうしたガイ?嬉しそうだな?」
「そうですかね?……嬉しそう、ですか」
「なんだよしみじみした顔しやがって〜」
オレもその中の一人だという事が何故かとても嬉しかった。
そしてこちらも三日振りの『古木亭』に到着する。
何かあった様子も無く、騒がしい声と微かな揚げ物の匂いが外まで届いて来る。
「うっ……、ううっ……」
(「……あれって知り合いだったりします?」)
(「いや全然?むしろこっちが聞きたいくらいだぜ?」)
しかし店内のいつもオレとタラニス様が座るあたりには既に誰かがカウンターに突っ伏しながら座っていた。
体つきからして痩せ気味ではあるがどうやら男。
わずかに聞こえる声からすると泣いているようにも聞こえるが……
(「……もしかして冒険者志望だったりしますかね?」)
(「頼り無さそうな感じするけどな……。……話、聞いてみるか?」)
(「えっ⁉︎いいんですか⁉︎」)
(「良いも何も「お二人さん、さっさとどっか座ってくれ」
「「あぁ、すんません……」」
……入り口でずっと喋ってたら近くのテーブルに料理運んで来た親父さんに注意されてしまった。
……親父さん長年やって来たって感じの風格あるから分からなくはないけど、若干不満気な雰囲気だったタラニス様まで普通に謝ってしまってるんだが……。
……あっ、目逸らされた。
それはともかくとして。
「あー、隣大丈夫か?」
「はい……?…………ってそちらの人はもしかして神様ッスか⁉︎」
「そうだぜ〜?俺はタラニス、こっちはガイ。お前の名前は?」
「あっ、えーと。メルグ、メルグ・ラッカ…………です」
……何も出来ないのは嫌だ、とは思う。けどそれがオレの冒険者やる『根底』になるのかというとなんかズレている、そんな感じがする。
「この
「……確かに堅苦しいのは嫌だけどよお、お前オレの目の前で言うかね?あっ、好き嫌いとかあるかメルグ?」
「え、?えっと、特には無いッス……」
けれど『根底』が見つからなくたって、オレはオレにできる事を見逃さないようにしたいと、そう思う事にする。
……例えば目の前で泣いてる奴がいるのに助けにもなれないのは嫌だと思う。
だからオレは手を伸ばす。
ソロ編(ソロプレイではない)、完!
タラニス・ファミリア初期メンバー編に続く。
(もちろん今回のファミリア混成で組んだパーティーの新人達も紛れもない仲間にして戦友)
タラニス・ファミリア
…ちなみに「戦空の王」は筆者が捻りだしたそれっぽい称号である。元の神話では言われていない……はずである。
:ガイ…今回の一件で精神的に得るものがあったようである。ごくごく少数の噂で「怪我したのに最後まで立ってた新人がいたらしい」というものがあったが本人の預かり知らぬ事である。
:タラニス…今回の一件でガイの事がますます気に入った。「軽め」な一面だって嘘じゃあない、嘘じゃあないけど邪神みたいな一面がある事だって本当の事である。その一面を知っているからこそ同郷であるベレヌスは闇派閥と接触してしまわないように「バイトさせる」という名目で見える範囲に置いている所がある。ちなみに凄惨な表情を浮かべた直後ルゴス・ローべ主従の気配を感じて慌てて表情を戻している。いまいち締まらない。……ルゴスも同郷なのでタラニスの凄惨な面は知っているし、ローべも長年の経験でなんとなく悟っている。
ルゴス・ファミリア
…探索系ではあるが「力ある者の責務であろう」という主神の方針で街の警備や無法者の摘発、そして闇派閥との戦いにも力を入れている。それ故に無法者からの恨みを買う事も多く、今回の襲撃が引き起こされた。
:ルゴス…ようやく登場したファミリアの主神。オラリオの治安対策にも尽力しているファミリアの主神にして、子供にも頭を下げられるオラリオでも数少ない神格者。タラニス・ベレヌスとは同郷の知神。
:ローべ…団長自ら非を認めて頭を下げに行ける「この神にしてこの
:ゼルマ…カリエの残虐な顔を知ってなお、腐れ縁の好敵手をやめない好漢。ガイについてはなんとなく気に入っていたが、恐れを向けられる事の多い好敵手に感謝を向けた事でより気に入った。
:バード…もし気絶せずにカリエの所業を見てたとしてもガイと同じく感謝できる、そんな奴である。それはそれとして騒がしめな奴でもあるが。
:新人達…みんな「気付ける」良い奴らである。違う派閥のガイをさっくり受け入れられるという意味でも良い奴らである。
ベレヌス・ファミリア
:フィーオ…一番長い付き合いだからかカリエの一面にも理解がある。恐れられる事の多い仲間に感謝を向けてくれたガイにはかつて残虐な顔を知ってなお好敵手をやめなかったゼルマに対するのと同じくらい感謝している。おにぎりの大半はこの人が作った。
:カリエ…もちろん冗談ではあるが、ガイの事はいい男になると認識した。おにぎりのいくつかはこの人が作った。
:アモル…タラニスにガイがどんな戦いしたかを話した。ガイの事は真っ先に立ち向かったという意味でも、恐れより感謝を向けたという意味でも格好良かったと思ってる。
:エルド…新人達を代表する形で恐れずに済んだ感謝を述べた。前回執筆時に「あれ、こいつセリフ無かったっけ……」ってなったからこそお鉢が回ってきた。……代わりに南国系美少女のバーナが「アモル!」と「手伝うっ」しかセリフが無いという不遇を囲う事になってしまったが。
暴漢達
:【若手潰し】…ゼウス・ヘラの頃からの古参の闇派閥「だった」。互角だと思ってた相手に何も出来なかった事で心が折れた。
:リーダー…こいつの主神は面白そうだからが9割5分・言い逃れの為が5分で恩恵を改宗可能な状態にしていた。……だが30人近い人数を引き連れての新人襲撃の首謀者、しかもLv.2を野放しにした事は言い逃れの効く事では無く、リーダーの恩恵の封印と共にファミリアは解散。オラリオからの追放に処された。(……リーダーについてあれ以上語る事がなかった)
:その他の暴漢…とりあえず全員豚箱送り。ファミリアの主神達は管理不行届で各々処分を食らった。
:【アストレア・ファミリア】
…今はまだ、暗黒期オラリオにおける正義の代名詞的な存在感はない。ガイとの関わりも無い。
:メルグ・ラッカ…ラウルは「っす」だけど、こいつは「ッス」である。