迷宮都市に生きる   作:オミ

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UA・評価ありがとうございます!

前話からまた時間飛んで……回です。


13話

 

 

 

 

 「なっ……」

 

 

 バキッ!と武器の折れる音が響く。

 音の源は目の前のがっしりとした体格のニンゲンが振り切った武器であり、己の殼に武器を砕かれたニンゲンは大きな隙を晒している。

 

 

 「ガイさん!」

 

 

 ──殺す。

 

 

 奥の弱そうなニンゲンが何か喚いているが関係無い。

 殺、

 

 

 「ぜあっ!」

 

 

 何か光った、視界が落ちる、身体が見える、消え

 

 

 

 

 ……

 

 

 

 

 「……ふー……、焦ったぜ……」

 

 

 タラニス・ファミリアのガイ・シグロはこの日初めて『武器破壊』を経験した。

 念の為にと手入れを欠かさなかった腰の長剣が無ければ、咄嗟に抜剣できなかったら、甲殻の隙間から首を落とせなかったら、死体として転がっていたのは足元の『キラーアント』ではなく自分だったかもしれない。

 その事実に思い至ったガイは背筋が寒くなるのを感じる。

 

 

 「大丈夫ッスかガイさん⁉︎木刀折れちゃってるッスけど……」

 

 「あぁ大丈夫だ、まぁ危なかったが長剣(コイツ)もあるしまだ大丈夫だ、っとぉ!」

 

 『ジギッ⁉︎』

 

 「うわっ⁉︎」

 

 

 心配して駆け寄って来たサポーターのメルグの更に後ろから勢いよく飛んで来た『パープル・モス』を両断する。

 

 

 「すまーん!そっち行っちまった!大丈夫か〜⁉︎」

 

 「ちゃんと倒したから大丈夫だ!あとオレの木刀が折れた!剣は残ってんだがどーするバード⁉︎」

 

 

 通路の反対側から大声で呼びかけるルゴス・ファミリアのバードにガイもまた大声で応える。

 

 

 「えっ、マジかよ⁉︎『ギシャァァ!』「バードこっち手伝って!」分かった!こいつら倒したら決めるからそっち警戒しててくれ!セアアァァ!」

 

 「了解だ!……んで大丈夫か?『パープルモス(ソイツ)』弱いけど毒持ちだぞ?」

 

 

 通路の反対側で『キラーアント』に苦戦するルゴス・ファミリアの面々の背後を守りながらガイはメルグに声を掛ける。

 

 

 「毒ッ⁉︎あっ、えーと……、大丈夫、みたいッス。……って確か『パープル・モス』の毒って何度も浴びなきゃ症状が出ないんじゃ……」

 

 「まぁ念の為だ。ダンジョンじゃ油断できないからな?」

 

 

 ガイの動きを避けて尻餅をついたメルグを助けながら会話が交わされる。

 

 現在はダンジョン7階層……の始まり、6階層との連絡階段から少しだけ進んだ通路。

 メルグが加わってからおよそ三ヶ月、ガイやバードが冒険者を始めてからはおよそ半年。実力を測るべく「ちょっとだけ」7階層に足を伸ばしたタラニス・ファミリアとルゴス・ファミリアの混成パーティーだったが初っ端から『キラーアント』にぶつかりガイが『武器破壊』に見舞われていた。

 

 

 

 

 「あー、魔石だけだったッスね……。それであれどうするッスか?もう使い物にはならなそうッスけど……」

 

 「あー……」

 

 

 サポーター業にも慣れてきたメルグがモンスターとの戦闘音を背に魔石を取って死骸を灰に変えている間、周囲を警戒しつつ剣の状態を見ていたガイに通路に転がる木刀の切先をどうするか尋ねる。

 三ヶ月以上迷宮での戦いに耐えたガイの得物は、本日『キラーアント』の強固な甲殻にいつもモンスターに振るうように叩きつけられた事でへし折れ、その役目を終えていた。

 

 

 「……オレが拾っとくからバード達の方手伝ってくれるか?」

 

 「あっ、終わってるッス……「メルグ手伝ってくれー!」分かりましたッスー!」

 

 「よっ、と……」

 

 

 なんとか勝利したバード達を手伝いに行くメルグを尻目にガイは通路にしゃがみながら己の得物の残骸を拾ってゆく。

 

 

 「こんなもんか……」

 

 

 拾い集められた残骸は元が背負うくらいの大きさだった事もあり、また削れば小剣か短剣くらいにはなりそうである。

 ……が、そもそも屋外に放置されていた木材から作ったんだからこの辺が限界だろうなとガイは見切りをつけていた。

 三ヶ月、長かったような短かったような日々に思いを馳せる。

 

 

 「……おーいガイ聞いてたかー?もう帰るぞー!」

 

 「もう帰るって決まったッスよー!」

 

 「……あぁ、すまねぇ!分かった!」

 

 

 得物と過ごした日々の想起に気を取られてまるで話を聞いてなかったガイは慌てて仲間達の元へと駆けて行く。

 とりあえず金も溜まってるから明日にでも新しい武器探しに行くか、と考えながらパーティーの殿(しんがり)を務めるのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ひょっとして今日は厄日(やくじつ)って奴なんじゃねぇだろうか。

 

 

 「……見事に荒らされてんな……」

 

 「お金は全部盗られてるみたいッス……」

 

 「家計簿は……、無事だったか……」

 

 

 7階層で木刀がへし折れ、地上に帰ってからいつも通りにタラニス様を迎えに行き、みんなで集合住宅(アパート)に帰って来てみればブチ破られた玄関ドア……。

 慌てて中に入ったはいいものの、荒らされた部屋はもぬけの空。全ての金目の物と少しの食料と道具が盗られた後だった。

 どうやらオレ達タラニス・ファミリアは空き巣に遭ったらしい。

 

 

 「なぁおい、家賃ってもう払ったよな?もう冷え始めてんのに野宿は勘弁だせ?」

 

 「家賃は大丈夫ッスけど……、このドアじゃあ隙間風が入って来そうッスね……」

 

 「えっおい大丈夫かよ⁉︎修理代なんて残ってないぜ⁉︎」

 

 「とりあえず大家さんに話聞きに行って来るから整理任せます……」

 

 

 部屋をタラニス様とメルグに任せて乱暴にこじ開けられたドアから外に出てみれば、集合住宅(アパート)にはギルドの職員とギルド側のファミリアの団員が集まって来ていた。他の部屋も荒らされたって事だろうか。

 ……でもたまに見かける闇派閥(イヴィルス)が起こした事件の跡よりも明らかに人が少ないように見える。

 ……そりゃ空き巣より闇派閥(イヴィルス)のが優先されるに決まってるよな……。

 

 

 

 

 自室も空き巣に遭った狼人(ウェアウルフ)の大家さんはとりあえず修理代は取らないらしい。

 ……ただし金が盗られたから集合住宅(アパート)側から修理を依頼する事もないから修理するなら自分でなんとかしてくれ、との事だった。

 

 

 「……それでギルドからは何か支援ってあるッスか?」

 

 「重大な事件でもねぇから特に無いってよ……」

 

 「マジッスか……」

 

 

 修理費稼ぐまではこのドアか……。

 寒々しいな……

 

 

 「それより表の奴らに見慣れねぇ顔いただろ?()()()()誰だ?ガネーシャんとこじゃねぇよな?」

 

 「あぁ、噂の【アストレア・ファミリア】ですよ……。ギルドに協力するって話はホントみたいですね……」

 

 「マジかよ、どうだった⁉︎誰がいた⁉︎なんか言われたか⁉︎」

 

 

 ……タラニス様が食いついて来る。

 …………面倒臭え……

 

 

 「あー、『災難だったわね……、でも必ず捕まえるから安心して!』みたいなのを赤髪の子に言われましたね……」

 

 「それアリーゼちゃんじゃねぇか!どうだった、美人だったか⁉︎」

 

 「あの……、タラニスさんその辺で……」

 

 

 そうか、あれが団長のアリーゼ・ローヴェルか……

 あれで多分オレより強いんだろうな……

 

 

 「……ふぅ、……お前ら出かけるぞ?」

 

 「……はい?」

 

 

 ……タラニス様がなんか言い出した。

 出かける?どこに?

 

 

 「出かける……ってどこにッスか?」

 

 「飲……じゃなくて『日向の庭』だよ。あそこに俺のへそくり預けてあんだ」

 

 「えっ……、その間にまた入られたら……」

 

 「バァーカ!うじうじし過ぎなんだよお前ら!」

 

 「うおっ⁉︎」「うわっ⁉︎」

 

 

 強引に連れ出されて外に出る。

 まだ残ってた職員や団員に「あとはよろしくなー!」なんて投げ捨てて街路を歩いて行く。

 

 

 「あいつらが調べ終わる前に戻ればいいだけだろ?とっとと行かねぇと閉まっちまうぞ?」

 

 「……もしかして飲みに行くんスか⁉︎」

 

 「へそくりあるなら取っておいた方がいいんじゃ……」

 

 「バァーカ!こういう時は思いっきりヤケ酒するって相場が決まってんだよ!『日向の庭(あそこ)』まで早いもん勝ちだ!遅れたら置いてくぞー!」

 

 「あっ、待ってくださいッスー!」

 

 

 言うが早いが全速力で駆け出すタラニス様。

 後を追うメルグ共々道の先で小さくなっていく。

 

 

 

 

 ……って流石に一人にする訳にはいかねぇだろ!

 

 

 「あぁっ、クソっ、周り見て走ってくださーい!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「ハァ……、ハァ……、ハァ……、乾杯……」

 

 「「か、乾ぱ〜い……」」

 

 

 ……どこともしれない安酒場で疲労困憊のタラニス様に続いてジョッキを掲げる。

 

 

 あの後『日向の庭』に着く頃には息を切らしながらそれでも走るタラニス様の両脇をオレとメルグで固める形になって店仕舞いしていたベレヌス様とフィオさんに怪訝な目で見られる事になった。

 

 

 『あれお前のか……、……俺のファミリアの本拠(ホーム)をへそくりの隠し場所にするな。分かったか?』

 

 『ハァ……、ハイ……、ハァ……、ワカリマシタ……、ハァ……』

 

 『息整えてから喋れ』

 

 

 そんなやりとりの後とっくに見つかっていたへそくりを手にたまたま見つけた酒場に入り最初の一杯を口にした訳なんだが……。

 

 

 「……不味いッスね」

 

 「……不味いな」

 

 

 ……肝心の酒の味が『古木亭』よりかなり劣っていた。値段は『古木亭』の半分で味は十分(じゅうぶん)(いち)くらいだろうか。

 というか心無しか周りの客もなんか格好や雰囲気が物騒な気が……

 

 

 「ねぇ、ここ()()が本命だから酒は不味いよ?気づいてないよね?」

 

 「は?」

 

 「え?」

 

 

 突然後ろから声が掛けられる。

 振り向いてみると後ろの席にはオレ達と同年代くらいに見える少女が座っていた。

 黒い髪を短めに切り、耳にはピアスをしてちょっとだけヤンチャしてる雰囲気を漂わせている。

 

 

 「フゥ…………、……お前確か()()()()()()()()()()?俺達に何か用か?」

 

 「へぇ、神様は気付いてたんだ♪」

 

 「えっ()()()()()()()⁉︎マジですかタラニス様?」

 

 「気付くと思ってたんだがな……。ガネーシャの奴らにも馴染まないしアストレアの奴らにも馴染まない、かと言ってギルドの制服着てる訳でもない、チラリと見ただけでも分かる浮いてる奴忘れるかよ?」

 

 「……つまり自分……、……いや僕達を見てたって事ッスか⁉︎」

 

 「そーだよ?ま、アストレアの子達に変な目で見られたからコソっと離れたけどね?」

 

 

 マジかよ……、全然気付かなかったぜ……

 

 

 「改めて、(あたし)の名前はシミア・アリグライト。お困りなら力貸してあげよっか?」

 

 

 腰に一振りの片刃刀(サーベル)を吊った少女は自信満々にそう自己紹介したのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 …………いや待て、あの片刃刀(サーベル)()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 

 

 




※現在原作より9年前の秋頃。


 という訳で災難回……と新キャラ回でした。
 一番最初の一人称はキラーアント視点。


※タラニス・ファミリア
…空き巣に入られ金品他を盗まれる。メルグが入ってからの三ヶ月で新しい武器を買えるだけのヴァリスは貯まってた……が全部盗まれる。団員2人の気落ちに主神主導でヤケ酒へ。

:ガイ…木刀折れたのは扱い方がまずかったからだが空き巣に入られた方は暗黒期だからしょうがない。空き巣に入られた事がショックでキラーアントの首を落とした一閃の事を忘れてる。シミアのサーベルをちょくちょく見た覚えがあるようだが?今更ながら一人称はカタカナで「オレ」。(カタカナなのは区別の為)
:メルグ…三ヶ月でルゴス・ファミリアやベレヌス・ファミリアの面々とも馴染みになってきた。空き巣に入られた事が割とショック。一人称は「自分」だが馴染みない人なら「僕」。
:タラニス…眷族を励まそうとしたり本拠の前にいた奴の違和感に気づいたりで救いの神補正を上げるが、息切れしたりもっと前の違和感には気づかなかったりで相殺されてるなーって感じ。今更ながら一人称は「俺」。


※ルゴス・ファミリア
…作者は最初タラニス・ファミリアだけで7階層に行かせるつもりだったがステイタスの目安を計算したら明らかに危なそうだったので急遽追加された。キラーアントに苦戦していたがガイも首を落とせなかったら危なかった。

:バード…持ち前の陽の気質でメルグと馴染むのも早かった。新しい武器を模索中。


※ベレヌス・ファミリア
…主神に無断でへそくりを隠されていた。チョイ役。

:ベレヌス…勝手に本拠にへそくり隠されてもネコババしない神格者。


※アストレア・ファミリア
…ギルドとガネーシャ・ファミリアの応援に駆けつける。チョイ役。

:アリーゼ・ローヴェル…ショック受けてたガイを持ち前の明るさで励ます。……があまり届いてなかった。


※集合住宅
…タラニス・ファミリアの部屋以外にも何部屋か空き巣に入られている。幸い空き巣に遭遇して怪我した住人はいなかった。

:大家…狼人のオッさん。不労所得者とは思えないくらい鋭く無愛想。外せない用事から帰って来たら空き巣に入られてた。


※影の正体

:シミア・アリグライト…セリフのあった方の少女。地下が怪しい交流場になってる安酒場でタラニス・ファミリアに話しかけてくる。助力を口にしているが?

:空き巣の下見…セリフのなかった方。いくつかの住宅の下見をしていた。タラニス・ファミリアが狙われたのはそこそこ稼いでるのに防犯が緩かったから。暗黒期のオラリオではただの鍵の防犯力など無いに等しい。もっとも結成半年あまりのファミリアに鍵以上の防犯を求めても仕方なかっただろうが。(※どっかのヘスティア・ファミリアは例外)

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