迷宮都市に生きる   作:オミ

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UA6000件突破ありがとうございます!
長らくお待たせしてすいません……

間章的な回です。

(2022.6.21.一部文章を変更・追加)


14話

 

 

 

 『まぁいくらなんでも怪しくて唐突だとは思うし、また会いに来るから話はその時でよろしくね〜!』

 

 

 そんな言葉を口にしつつ注文したミックスナッツの皿の下にメモを滑らせるという早技を見せたシミアは何か問い掛ける間も無く酒場から出て行ってしまった。

 そして皿の下に隠されたメモに書かれてた事はと言えば……

 

 

ーーここは地下がきな臭い情報交換の場になってる。

ーー地上のこの酒場にも誰がいるか分からないからここで詳しい事は話したくない。

ーー私の話を聞いてくれるつもりがあるなら明日の朝、本拠(ホーム)で待っていて欲しい。

ーーこのメモの処分はお好みの方法で。

 

 

 

 

 

 

 

 

 「んで、お前らはどーしたい?」

 

 

 オレ達の部屋に唯一残された魔石灯の光の下、殻を剥いているピスタチオに視線を向けながらタラニス様が言葉を吐き出す。

 

 あの後オレ達は『酒も不味いし情報も取られるんなら帰るか』みたいな感じで酒場を出ようとしていた。

 ……のだがシミアが頼んだあの酒場のミックスナッツが思ったより遥かに美味かったせいで足止めを喰らった。

 おまけに安かったから追加でさらに二皿頼んで一皿を酒のツマミにしてからもう一皿をタラニス様がこっそり懐に入れてようやく酒場を出て本拠(ホーム)に帰って来た、という訳なんだが……

 

 

 「……どうしたい、って言うと?」

 

 「あいつの事だよ、お前らはシミアをこのファミリアに入れたいか?」

 

 

 タラニス様がそれぞれ好みのナッツをつまんでたオレとメルグの方に視線を向けて口に出す。

 

 

 「えっ……、入ってくれるならありがたいッスけどシミアさんは『力を貸す』って言っただけッスよね?」

 

 「ハッ、ただ力貸すだけしか考えてない奴があんな目ぇするかよ?あれは血を求めてる奴の目だよ」

 

 「ち、血⁉︎」

 

 

 ……タラニス様あの短い時間でそんな事読み取ってたのか。

 神様は嘘を見抜けるって言うけどそれとは違う技能か?

 

 

 「正確には程良く・追われない立場で体を動かしたい、ってとこか?じゃなきゃ闇派閥(イヴィルス)入ってんだろ」

 

 「……つまりシミアさんは戦っても問題無い相手と戦って体を動かしたいって、そういう事ッスか?」

 

 「ま、あくまで俺の見立てだがな。……んでガイ、お前さっきからあんま喋んねえけどどうした?なんか気付いたか?」

 

 「あー…………」

 

 

 結局あの片刃刀(サーベル)どこで見たんだか思い出せてねぇんだよな……。

 でも聞いてみるか。

 

 

 「あー……、シミアが持ってた片刃刀(サーベル)をどっかで見た気がするんですよ……。どこだかが全く思い出せないって話で……」

 

 「サーベル?」

 

 「でもあの片刃刀(サーベル)どこでも売ってそうッスよ?前に武器見に行った店でも売ってたッスし……」

 

 

 武器屋……、…………!

 

 

──『ナイフとかどうだよ?カッコ良さそうじゃね?』

──『でもかなり近寄らないといけねぇぞ?』

──『う〜ん、武器としてはちょっと……』

──毎度ありー!

──……ありがとうございました。

 

 

 「それだメルグ!お前の武器見に行った時にあの片刃刀(サーベル)下げてる奴をチラッと見てる!」

 

 「えっ、マジッスか⁉︎」

 

 「そうだ、お前の武器どうするかバードと見に行った時に会計終えて出て行く奴がオレの方からチラッと見えてたんだよ!声も多分女の声だった!」

 

 「よく思い出せたなお前……」

 

 

 ……いやでもそれだけじゃ「同じ片刃刀(サーベル)買った別の女」かもしれねぇからなぁ……。

 …………んん?『別の』『買った』『女』……

 

 

──『それじゃまたね〜』

──『また来ます!』

──『……』

──『ん、いらっしゃいませ〜』

 

 

──『いや〜、間に合って良かったッスよ』

──『タラニス様が財布無くしたって聞いた時は血の気が引くかと……』

──『まぁベレヌスんとこで見つかったんだから良いだろ!……っと』

──『……!』

──『おっと、悪りぃな!まぁともかくなんとかなんだろ!』

──『気を付けてくださいよ?』

 

 

 

 

 「……あの、タラニス様覚えてませんか?先週くらいにタラニス様がぶつかりそうになった帽子の奴、シミアと同じ片刃刀(サーベル)持ってましたし背丈もだいたい同じでしたよ?」

 

 「え……?…………そんな事あったか?」

 

 

 マジかこの(ひと)

 ピスタチオ食ってる場合じゃねぇぞ。

 

 

 「ありましたッスよ!早めに帰って買い物するはずだったのにタラニスさんが財布無くして閉店ギリギリになった奴ッスよ!…………って事はシミアさんは二回も自分達の近くに居たかもしれないって事ッスか?」

 

 「いや、あと一回『日向の庭』でフード被った奴があの片刃刀(サーベル)持ってんの見てんだよ……。カリエさんが店番してる時でオレ一人だったからタラニス様とメルグに限るなら二回なんだが……」

 

 「……それって今日会う前からずっとシミアさんに探られてたって事ッスか⁉︎えっ、それって問題じゃないッスか⁉︎」

 

 「……そうだな、確定じゃねぇけど割と問題だ」

 

 

 『前からオレ達の事を探ってたかもしれない奴が』『その事を言わずに』『オレ達に近づいて来た』んだ。

 いくらなんでも怪しすぎん……。

 ……待てよ?

 

 

 「……なぁ、確か出て行く時に『()()()()()()()()()()()()』ってシミアが言ってたよな?あれってあいつ(シミア)の事に気付いてるか試してたとかねぇか?」

 

 「え、え〜?どうなんス、かね?……というかよく考えたらタラニス・ファミリアってそこまでするようなファミリアッスか?」

 

 

 ……言われてみりゃそうか……。

 団員二人、実績皆無のファミリアをわざわざ調べる理由もねぇか……。

 ……じゃあオレが見た片刃刀(サーベル)はなんだったんだ、って話になるんだよな……

 

 

 「んー……、そこんとこタラニス様どう思います?」

 

 「どう、って言われてもなぁ?生憎俺はお前が見たって言うフードの奴も女の声の奴も見てねぇし、俺にぶつかりそうになった奴の事も覚えてないんでなぁ?」

 

 

 …………あっ、これオレとメルグだけで話してたのちょっとだけ怒ってるな……

 

 

 「その、すんませんッス……」

 

 「すんませんでした……」

 

 「まぁともかく俺が言える事はさっきの見立てだけで、それだってちゃんと質問した訳じゃねぇから真偽の証明はできねぇ。お前らが見たのはあいつ(シミア)かもしれねぇし違うかもしれねぇ。その上でもう一回聞くぞ、()()()()()()()()()?」

 

 

 ポリボリとピーナッツを噛み砕きながらタラニス様が問いを投げる。

 

 

 「……………………」

 

 「…………うーん」

 

 

 それに対してオレもメルグも答えを出せない。

 ……そもそもシミアとロクに会話もできてないから判断材料が少なすぎる。

 『シミアが空き巣を手引きした上で何食わぬ顔でオレ達をカモにしようとしてる』なんて想像だって出来なくはねぇしな……

 

 

 「ちなみに俺はどんなに怪しかろうとあいつを入れるのは別に構わねぇと思ってるぜ?」

 

 「えっ、なんでッスか⁈」

 

 「そりゃ()()()()()()()()()()()()()()()俺達(神々)の七割方は『面白そうだから』で動いてんぜ?けどここ(ファミリア)は俺一人のもんじゃねぇからな、お前らが嫌なら無理強いはしねぇさ」

 

 「そ、そうッスか」

 

 

 ……どの道あいつがどういうつもりでオレ達に近づいて来たのかを確認しなくちゃ始まらねぇ。

 ……けどいくら情報屋してる酒場だからって質問する時間も無しに消えてった奴が素直に聞いて話してくれるか?

 

 

 「……聞く、か」

 

 「ガイさん?」

 

 「……なんか思い付いたな?とりあえず話してみろ?」

 

 「えーと……」

 

 

 この後も話は続き、オレ達が眠りについたのは夜も更けてからだった。

 ちなみにオレもメルグも手が止まってたからナッツは殆どタラニス様が平らげた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 黒々とした夜空が徐々に透明になって行く。

 迷宮都市オラリオに朝が訪れようとしていた。

 

 

 「…………」

 

 

 都市の片隅にある二階建ての小さな集合住宅(アパート)の一室にもまた朝が訪れようとしている。

 破られたドアから冷気が入り込むリビング兼台所に一人、ガイは座っていた。

 手に握られるのは何の変哲も無いただの直剣。

 ──昨日、キラーアントの首を落とした剣である。

 

 

 「(色々あって忘れてたが……、()()()()()()()()()()?)」

 

 

 『あの時』起こった事は、キラーアントの甲殻に得物の大木刀をへし折られたガイが咄嗟に抜いた腰の剣で甲殻の隙間を狙ってキラーアントの首を落とした。

 言葉にすればそれだけの話である。

 

 

 「(……何度思い返しても()()を再現できる気がしねぇ……)」

 

 

 ただしそれは冒険者として、そして戦う者としての経験が浅いガイに再現できるものではない。

 「咄嗟の狙いで」「甲殻の隙間に剣を入れ」「首を断つ」。昨日のガイはこの一連の動作をキラーアントの反撃が始まるより早く行えたが、今現在の実力で再現しようとしても隙間を狙えずに剣を弾かれるだけだろう。

 

 

 「(ま、咄嗟の賜物。って事にしとくか……)」

 

 「おはよーございまーす、誰かいますかー?」

 

 「(っと、来たか)」

 

 

 ガイが思索を打ち切ったちょうどその時、抑えられた声と共に破られて立て掛けてあるだけのドアが叩かれる。

 戸口に向かいドアを外すと、そこに立っていたのは一人の少女。

 

 

 「おはよう、昨日ぶりだな?」

 

 「だね?朝早くにごめんね?」

 

 「気にすんな。ガイ・シグロだ、よろしくな?」

 

 「じゃあこちらも改めて、シミア・アリグライト。よろしくね?……それで居留守しなかったって事は話聞いてくれる気がある、って事でいいのかな?」

 

 

 謎の少女・シミアは明るくなる空気の中、長袖の上衣に短いズボンと長いブーツという姿で笑みを浮かべていた。

 活動的な雰囲気を飾る黒紫に染められた髪や耳のピアス、首に掛けたネックレスも夜の酒場よりよく見える。

 腰に提げられた、一振りの片刃刀(サーベル)も。

 

 

 「(さて……)あー、それなんだがその前に一ついいか?」

 

 「……?何?」

 

 

 少なくとも新品ではないその得物を確認した上でガイは一つの申し出を口にする。

 

 

 

 

 「団長として実力を知っときたい。手合わせ、頼めるか?(どう出る……?)」

 

 

 

 

 『手合わせ』、即ち模擬戦闘の誘いである。

 やや唐突な申し出に少しだけシミアは驚いた表情を見せた。

 

 

 

 

 「……いいよ、やろう!」

 

 

 

 

 しかし次の瞬間にはその申し出を受けた。

 ……隠し切れない『血』の臭いが漂う喜びを浮かべて。

 

 




続く。

※現在原作より9年前の秋頃


タラニス・ファミリア
…シミアの監視を受けていた事に気付いて狼狽える団員2人と泰然とした神一柱であり、ボケボケな神を尻目に協議する団長と副団長(暫定)でもある。

:ガイ…好みのナッツはアーモンド。きっかけがあれば思い出せるくらいには記憶力はある。
:タラニス…好みのナッツは塩味に合う奴。バタピーとか好きな(ひと)。記憶力はあんまよろしくない。……が、示すとこは示す。
:メルグ…好みのナッツは時による。今回はバランス良く食べてた。記憶するには何回か覚え込む必要がある。


:シミア…少なくともタラニスの見立ては間違ってなかった模様。詳しい事はまた次回。
(追記・後の話で気になって仕方なくなってしまったので服装について描写を増やしました)
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