迷宮都市に生きる 作:オミ
手合わせ回です。
オレは英雄になれると信じてたのだろうか。
家を、町を飛び出した動機が『逃げ』に近しいものでも自信が無ければ冒険者にはなってない……はずだ。
小さい頃から親父の手伝いで色々してきたとは思う。
読み書き・計算は当然のものだったし、得意かは別として値踏み・交渉・礼儀作法も知ってはいる。
だが何よりも荷下ろし・荷積みの手伝いが今のオレを作ってる。
親父の店は『季節と必要に応じて大体なんでも扱う』のが売りだったけれど、どちらかと言えば重い物を運ぶ事が多かった。
大袋に詰められた作物や細々と山から切り出される木材を別の町に売り、塩の大樽や鉄の鉱石を町に
流石に小さい時からそんな大物運ぶ手伝いはさせて貰えなかったが、オレに運べるものを運ぶだけでも小遣い稼ぎにはなったからやらない道理は無かった。
それに歳を重ねて力が付く程、重い物を運べるようになっていくのは割と楽しかった。
だからオラリオに向かう直前まで続けて木材担いだり大樽運ぶ手伝いくらいは出来るようになったし、冒険者としてやって行く上でも──武器を取って戦う中で──大きな力になってると思う。
……けど、オレと同じ年月でオレ以上に戦う術を積み重ねてる奴もいる。
オレより小さいまま鮮烈に名を残す奴もいる。
そんな中でオレは
「ここでどうだ?」
「おー、こんななってたんだ」
手合わせの為にオレはこの
……そう、この二階建ての小さな
走り回っても問題無いとは大家さんの言だ。
……けどこんな小さな規模の建物に走り回れる屋上って必要か?
「ん、この植木鉢って壊しちゃダメな奴?」
「オレらのじゃないから壊しちゃダメな奴だな」
「そっかーダメな奴かー」
……壊して良い奴だったらどうしてたんだ?
…………ダメだ、正直さっきの『ヤバい』笑顔見てから
今朝ここに来るまでの時点でシミアについて『隠密』や『情報収集』については只者じゃないんじゃないか?くらいの予想は付けられた。
……けど『戦闘力』については判断材料がまるで無かった。
血を求めてるからって強いとは限らないし、剣を持ってるからって剣を使えるとは限らない。
そんな考えはあの笑顔を見て吹き飛んだ。
「んで、どーする?そっち真剣しか無いみたいだけど?」
「あー……、とりあえず剣
「オッケー、分かった♪」
……少なくとも剣
……釘刺さなかったら、今上着の内から取り出した紐とかまだ隠してる
とは言え
後は
「じゃあ、やろっか」
「おう」
じわじわと明るくなる空気の中、剣を手に間隔を取って向かい合う。
オレが両手で体の前に直剣を構えてるのに対し、シミアは片手でだらりと
……………………。
…………来ないぞ?
「そっちから来て良いんだよ?来ないの?」
……向こうも同じ事考えてたか。
いや、これはオレに先手を許しても大丈夫だって『余裕』か?
オレは始めるなり飛んで来るもんだと思ってたから構えてたんだが……
「……誘ったのはこっちだからお前からで良いぜ?」
「……!じゃあお言葉に甘えさせてもらうよ?しっかり構えてて、ねっ!」
嬉しそうにそんな事を言い残したシミアは、一瞬でオレの目の前に現れた。
「……!」
振り上げられた
『……つまりガイさんが考えたのは手合わせを申し込んでどんな反応をするか確かめてついでに実力も探る、って事ッスよね?』
『まぁそんな感じか?』
『それってシミアさんの実力も分からないのに危なくないッスか……?それでシミアさんが悪い人じゃないって分かってもガイさんがボコボコにされたら意味無くないッスか?』
昨日オレがシミアへの対応についての考えを話した時、メルグは実力差についての不安を口にしていた。
……当然と言えば当然だ。判断材料が少な過ぎたあの時に手合わせとはいえ戦闘を挑むなんて不安に思われても仕方ない。
『……もしシミアがオレをボコボコに出来るくらい強いならもっと直接的に強さをアピールして来るんじゃないか、と思う』
『『アンタよりあたしの方が強いんだから団長譲りなさいよ!』みたいな感じだな?でもそれじゃあアイツが実力も思惑も隠してる可能性は否定出来ないぜ?』
『……そん時はオレが全力で足止めするんでメルグとギルドなり光真館なりに駆け込んでください』
『おいおいそこは『オレは負けませんよ?』くらい言ってみろよ〜?お前だって半年以上冒険者やってんだぜ〜?』
一方でタラニス様はオレの考えの穴は指摘して来たものの、手合わせという手段については特に否定する事は無かった。
この
『……というかいつの間にか手合わせで決まりみたいになってるッスけどもっと他に手があるんじゃないッスか?』
『と言っても俺ら今無一文だぜ?それ忘れてないよな?』
『あっ……』
『……まぁ他の手探すってのも大事な事ですからね?』
色々話し合った末に『オレがシミアに手合わせ挑んで、それにどう反応するかをメルグとタラニス様が観察する』って方針に決まったものの、タラニス様が手合わせに反対しなかった理由は見えかった。
……骨まで響く様な衝撃が伝わって来る。
ルゴス・ファミリアの鍛錬に混ぜてもらった時のバードの一撃や手加減されたゼルマさんの一撃とは大違いだ。
「……!へぇ!」
けど
一瞬で現れ消える雷のような踏み込みからの袈裟斬りを確かに防いだ、
「まだ、行くよ!」
「!」
と思ったらあっさり離して逆袈裟を跳ね上げる。
それも防ぐと今度は矢の様に突きが放たれる。
が、それも防げた。
「やるじゃん……!どっかで習って来た口?」
「ダンジョン行ってりゃ嫌でも覚えるぜ!」
「それもそっか!」
突きの反動を上手く使って距離を取ったシミアの次の一撃に備えながら当たり障りの無い会話をする、が……。
攻めて来ない……?
「『手合わせ』って言ったでしょ?そっちの攻めも見せてよ?」
「……!そうだな、行くぜ!」
シミアの誘いに乗って今度はオレが攻める。
「おらぁ!」
「……!」
最初の横斬りは受ける事も無く
次の縦斬りもすい、と流れるように躱された。
最後の横斬りもまた後ろに下がって躱された、
と思った次の瞬間にはまた雷速の踏み込みで目の前にいる。
「ぐぅっ……!」
「まだ行くよ〜?」
ほとんど合間の無い突き・斬り・突きの三連撃をなんとか防ぐとシミアは後ろへと下がっている。
いつの間にか『三回ずつの交代』というルールが出来上がってるが、正直ありがたい。
「(これをずっと受け切るのは無理だろうからな……)」
「いつでも良いよ〜?」
「……ありがとな」
次にオレが三回攻めればまたシミアの三回が始まるんだろうが……
「(……それってオレが不利になるだけじゃねぇか?)」
崩れた体勢を整えながら頭を回す。
今の所オレは目の前で待ち受けるシミアの攻撃をちゃんと捉えて受け止められている。
が、シミアはオレの攻撃を受けるどころか避けてしまっている。
重さのある剣を受ければそれだけ体力を消耗すると考えれば、三回分オレの不利だ。
このまま行けば『なんとか』防ぐ事も出来なくなると考えれば……
「(あいつにも防がせないとな……)」
「…………いつでも良いよ?」
「……助かる」
……というか、よく考えれば無意識に大木刀の間合いでこの剣を振ってた気がするな……。
ほぼ確実に剣を習ってる
じゃあもっと踏み込んで……
「おらぁ!(……もっと踏み込んでも、更に下がられるだけじゃねぇか!)」
「うぉぅっ!」
踏み込みを意識しての一撃もあっさり躱され……、
……いや、焦った声が出た!
このまま行け!
「ぜあっ!」
「ふっ!」
次は足元、躱される。
「はあっ!」
「……!」
飛び退いた所を頭、体を逸らしながら躱された。
剣を戻す間にまた間合いを取って、
「(……!呼吸か!)おらあぁ!」
「……⁉︎」
最初の一撃を真っ向から受け止める。
……
「くぅっ……!」
「うおっ……!」
意識したって速いのに変わりはねぇ!
けど、少しは余裕が出来る!
「しぃっ!」
タイミングを合わせて……
「うおらぁ!」
「‼︎」
強打だ!
よし、体勢が崩れた!
このまま……
「たあっ!」
「ぬわっ⁉︎」
足⁉︎
「……っと、バック宙ってね。……今のって『剣だけ』には入らないよね、ごめんね?」
「あっ、ああ……。大丈夫だ……」
驚く間にシミアはオレとの距離を取っていた。
……崩れた所をあえて倒れ込んで、手を付いての連続宙返りか……。
すげぇなこいつ……。
「にしても本当にやるじゃん?ここまでやるとは思ってなかったよ?」
「……お前ほどじゃねぇよ?」
「それもそっか♪」
……いや、本当にこいつ凄いな。
『呼吸の間を狙う』とかオレじゃ絶対に出来ない。
それに狙いに気付かれても今度は『自分の呼吸も気にしなくちゃならない』から負担が増える事になる。
……いや待て、なんでオレはこいつと戦えてるんだ?
『剣だけ』『三回ずつの交代』にしてくれてるのは有るにしても、ここまで技量に差があったらメルグが心配したみたいにボコボコにされててもおかしくないはずなんだが……。
「あ、鞘壊れてる」
「は⁉︎……オレもだ」
聞き捨てならない言葉を耳にして手元の剣に目をやるとオレとシミア、どちらの剣も確かに鞘が壊れて中の剣身が覗いていた。
まぁ、あんな強打したなら壊れて当然か……
「曲がっては……、無い、ね。このまま終わりにする〜?」
「そうだな……」
キリも良いしここで終わりにするってのもアリか……?
『手合わせ』ならこの辺で終わりにしても……
「……いや、もう少し付き合って貰えるか?」
「……!そっか、続けるんだ。……なら
「ああ、いいぜ」
少し驚いた表情を見せたシミアの提案を容れ、鞘を捨て抜き身の剣身を晒す。
……この先は少し手が滑っただけで死ぬ。
オレが受け損なえば喉笛掻っ切られるかもしれないし、
それぐらいの想像
更に言えば『受け損なう』という意味でも『手が滑る』という意味でも、危ないのは技量に劣るオレの方だ。
……剣の手合わせだけで判断するなら、シミア・アリグライトという人物がこちらに合わせてくれるだけの良識?の有る人間だとは分かった、と思う。
でなかったらあのヤバい笑顔のままオレをボコボコにしてた……はずだ。
それだけ分かってるなら手合わせ続ける理由は
それに『なんとなく』分かっただけで真剣での対決に臨むのもまた危ない。
「(剣の持ち手は右手一本……。『両手を使わない』か……?……いや、あの
「心の準備は大丈夫?」
「ああ、大丈夫だ(重りを付けてる様子も無い、な……)」
……けど、
更に言えばどこまで危険を孕んでいても
「じゃ、行くよ!」
「おおっ!」
……『危険』と『未知』に挑むのが冒険だと言うのなら、
なら挑まなきゃ冒険者じゃない、ってな!
○
キィン、キィンと剣を打ち鳴らす音が響く。
オラリオの住宅街の一つである西のメインストリート周辺で聞くには些か物騒な音ではあるが、時に爆破音が轟く暗黒期のオラリオで聞こえる音としてはまだ可愛い部類だ。
「……これ、ガイさん手合わせだって事忘れてるんじゃないッスか……?」
「ま、そうかもな?けどあいつにとって『丁度良い強敵』と『遠慮なく打ち込める相手』……、いや『人間』を合わせた奴は初めてだ。好きなだけやらせてやろうぜ?」
それを一番近くで耳にする事が叶うとある
手合わせの様子を観察する事を頼まれたタラニスとメルグである。
「それはいいッスけど……。……
ガイとシミアが真剣勝負に切り替えてから
両者共に汗に塗れ、息を切らし、かすり傷と土埃を服を散りばめながらも一向に『手合わせ』は終わっていない。
技巧ではシミアが
「まぁ夜道に注意しないんなら朝早くから夕方まで探索するのが冒険者だ。その中の全部で剣振ってる訳じゃねぇから消耗も速いとして……、……昼頃まで続くんじゃねぇか?」
「え、大丈夫ッスかそれ……?終わった時二人ともブッ倒れないッスか……?」
夜明け前からシミアを待ち受けて食事らしい食事を取っていないガイのみならず、夜明け頃に現れて食事をしたか怪しいシミアの事も想像したメルグが顔を青くする。
「心配ならここは俺が見とくから今のうちに水でも用意してやったらどうだ?」
「そう、ッスね。じゃあ用意して来るッス!」
「おう、行ってら〜」
主神の提案を受けて水を取りに行くメルグを横目にタラニスは『手合わせ』……と呼ぶには激しいが『殺し合い』には至らない戦いを眺め続ける。
「……頑張れよー、ガイ?」
その口元にはガイが恐れを抱いたシミアの『ヤバい』笑みと同質の笑みが浮かび上がっていた。
まだ続く。
※現在原作から9年前の秋頃。
作者的にシミアはライバル枠。
……最初書いた時は本文が8000文字以上まで膨らんで「いきなり2倍になるのはまずいだろ……(※今まで4000文字くらいのが多かった)」と思って削ったら今度はモチベーションが薄れて書き上がらない……。という感じで三ヶ月も待たせてしまいました。誠に申し訳ございません。
タラニス・ファミリア
…「話術に自信のある奴がいない」「金が無い」「あくまで疑惑しかない」などの理由でガイとシミアの手合わせに至った。
:ガイ…体力と身体能力があるだけ冒険者志望としては上々である。戦闘のセンスも悪くない、そんな位置付け。
:メルグ…今の所ただの後輩的な人。先は長い。
:タラニス…「俺が目ぇ付けた奴が面白くない訳ないだろ?」
:シミア…ガイが薄々感じている通り、縛りが無ければ今のガイより強い。この手合わせで課している縛りは「剣だけで戦う」「攻撃は三回まで」「???」の三つ。それで自分が思ったより苦戦しても縛りは解いてない。(『あくまで手合わせ』という状況が破られていないのも大きいが)ヤバい戦意持ってるのは確かだけどそれを律する事は出来ている。一応。
まだまだ隠してる事は多い人。
(2022.6.21追記・ちなみにガイの目の前でバク宙してますが、スカートじゃなくてズボンなのでパンモロはしてません。そもそもガイは足に驚いてそこに意識は回ってませんが作者が気になってしまったもので……)
……冒険者の体力を過大評価しすぎかもしれませんが、そこはご容赦ください。