迷宮都市に生きる   作:オミ

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お披露目、挑戦と……回です。


17話

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 『端的に言うなら家出少女なんだよね、(あたし)

 

 

 北西のメインストリート、その脇道で営まれる装身具店(アクセサリーショップ)朔月(さくづき)(しずく)』の屋根裏部屋が一年前からオラリオで暮らしているというシミアの住処だった。

 用心棒と店の手伝いと引き換えに部屋を貸して貰っているそうだ。

 

 

 『()()が厳しくってさ〜、色々耐え切れなくなって逃げて来たってわけ。……あぁ、実家の事はあんまり話したくないんだけど良いかな?』

 

 

 シミアが男連れて来た事……いや住処に他人を連れて来た事か?それを随分と喜んでくれた下宿の店長さんが奮発して五人分もの昼食の準備をしてくれている間、オレ達はシミアの話を聞いていた。

 

 ……屋根裏に続く階段に座って。

 人入れられる状態じゃなかった、らしい。いつの間にか先頭で部屋覗こうとしていたタラニス様は叩き出されていた。

 

 

 『まぁそんな訳で一年近くオラリオで生きて来たんだけど、『恩恵持ってない』ってのがキツい場面が多くてこりゃそろそろ恩恵貰うかな、って事で調べたんだよね、ファミリア』

 

 

 ……後で見せて貰ったメモ書きの束にはロキ・フレイヤ・ガネーシャといった言わずと知れた大派閥からヘルメス・ディオニュソス・ルゴスといった中堅どころ、へファイストス・ゴブニュ・ディアンケヒトといった生産系、そして新鋭のアストレアや……オレ達タラニス・ファミリアまで数十以上ものファミリアの評判・主だった団員・派閥の方針などが纏められていた。

 

 ……()()()()()()()それだけの情報を調べたとは夢にも思ってないその時のオレは『やっぱり情報収集出来るんだなー』などと呑気に考えていた。

 

 

 『うん、(キミ)達の事も調べたよ?表立った悪事もしてないし、ギルド側のルゴス・ベレヌスとの仲も良い。けど肝心の実力・実績が分からない、あるいはまだ無いからどうしたもんかなって思ってたら本拠(ホーム)が空き巣に遭ってるって話を聞いて折角だから会ってみるか、って決めて(キミ)達の後を追ってあの酒場に着いたのよ』

 

 

 ……『タラニス・ファミリア:実績・実力…不明、或いは無し。ルゴス・ベレヌスの新人と共同の探索を許可されるだけのものはある?』じゃあ情報なんて無いに等しいだろう。

 当然の事とは言え微妙に悲しい。

 

 

 『え?結局何が決め手で入団決めたのかって?そりゃあ団長(キミ)の強さに決まってるじゃん?肩並べて戦うのも良いな、って思える奴に出会えるなんて思っても見なかったもん』

 

 

 ……まぁ悲しみを抱いたのも昼食の後の話であって、この時は普通にシミアからの高評価に心を喜ばせていた。

 

 

 『何が出来るか?まぁさっき見て貰ってた通り戦えるし、斥候(スカウト)も出来ると思う。それに情報集め、かなー?やれる方だと思うよ?』

 

 『あー、空き巣について?コソコソしてる人影は見たけど、それだけだね。もちろん情報が欲しいからって空き巣けしかけたり手引きしたなんて事も無いよ?』

 

 『報復がお望みとあらば本拠地から構成員(メンバー)まで丸裸にしてみせますとも……。……あぁ入団はダメってなっても調べて欲しい事があったら恨み無しで引き受けるから安心していいよ?』

 

 『……でも正直かなりお買得だと思うよ?どうかな?』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「はあっ!」

 

 『ギッ……』

 

 

 甲殻の隙間を狙われた『キラーアント』が切り捨てられる。

 

 

 「や、っ」

 

 『ギッ……⁉︎』

 

 

 投げ放たれた棒手裏剣が『キラーアント』の片目に突き刺さる。

 

 

 「おーし、頼むぜ!」

 

 『ギギッ⁉︎』

 

 「OK!」

 

 

 怯んだ隙に『キラーアント』の上体を羽交い締めにし、動けなくなった所に正確な剣閃がトドメを刺す。

 

 

 「まだ行くー⁈」

 

 「ああ、行く!」

 

 

 ……『お買得』なんて言葉で現すのがとんでもなく失礼なくらい、シミアは凄かった。

 

 『キラーアント』の甲殻の隙間をあっさり切り裂き、平行して棒手裏剣で牽制をこなし、時には甲殻の分重量があるはずの『キラーアント』を蹴り上げたり蹴り飛ばしてみせる。

 ……()()()()()()()()()()()()()()()()()

 一ヶ月経った今も『ウォーシャドウ』と並ぶ上層屈指の初心者殺しが敵になっていない。

 

 「元々鍛えてると成長も早いらしいぜ?」とはタラニス様からの聞き齧りだが、とにかく鮮烈で強かった。

 

 

 「おらぁ!『ギィ⁈』……っと。……それで他の奴は来てるか⁈」

 

 「前後ろ共に五十M(メドル)以内に近付くモンスター・冒険者無し!こいつら片付ければ終わりだよ!」

 

 「分かった!」

 

 

 ……おまけにシミアは斥候(スカウト)としても強力だった。

 

 目良し、耳良し。

 『ん、あの暗がりにニードル・ラビットが居るから注意して』

 『足音だ……、……これ群れから逃げてるとこだ。私達も逃げるよ?』

 

 ()()()()()()

 『血の匂い……、……人だね。モンスターの匂いもするから引き返すよ』

 『振動……、魔法の炸裂、かな。戦ってるみたいだから邪魔しないよう注意、だね』

 

 迷宮(ダンジョン)内で役立てるのは難しいものの回復薬の素材が変わったのも分かるくらい舌も良い。

 

 本人は『スキルって凄いわ……、見え方が全然違うもん』って言ってたけど五感全てを十全に使いこなせるのはシミア自身のセンスが優れているのだと思える。

 

 

 ……そう、シミアはスキルまで発現している。

 【感覚開放(スイッチ・センス)】と言う名前の感覚強化のスキルであり、元より強かった視覚・聴覚はより強く、人並みだった嗅覚・味覚も獣人並みに強化されたとの事だ。

 

 ともあれその恩恵で狩りたい時には余計に歩き回らずモンスターに辿り着き、探索を終えたい時にはモンスターがいない道を選んで通る事で探索の効率が非常に良くなった。

 同じ時間歩き回ってた一ヶ月前とそう変わらない消耗で二倍の戦果を上げた日もある、と言えばその凄さが分かるだろうか。

 

 

 そんな訳でシミアについて一ヶ月経った今改めて評価するなら、『最上位派閥に居ても見劣りしないとんでもない逸材』と言えるだろう。

 

 

 

 

 「オラぁ!」

 

 『ギッ……⁉︎』

 

 

 で、そんな凄い奴が隣で戦うからには()()()()()()()()()()()()()()

 ()()()()()()()()

 

 『キラーアント』の懐に飛び込み拳打。

 隙が生まれたので頭部を腕で抱えて……

 

 

 「どらァ!」

 

 『……!』

 

 

 テコの要領で首を引き抜く!

 

 ……今のオレはこれまでの簡易的な防具に加えて首元・腹・前腕に厚めの布を何重かに巻いた格好で、武器は持たずに身一つで戦っている。

 硬い甲殻に鋭い爪を持ち攻防隙が無い上に、死にかけると大勢の同族を呼び寄せる難敵(キラーアント)が相手。

 一ヶ月前の……、……いや屋上での戦いを経験してないオレだったら尻込みしてただろう。

 

 ()()()()()

 『キラーアント』の甲殻を砕けないオレの力でも、甲殻より強度が弱い中の肉なら引き千切れるし、隙を付けば組み合って押し留める事も出来る。

 

 

 「ぜあっ!」

 

 『ギッ⁉︎』

 

 

 魔石を砕いても良いなら勢いを付けた蹴りで迷宮壁に叩き付けて倒す事だって出来るし、力を振り絞れば投げ飛ばす事だって出来る。

 身一つだろうが戦うには十分だ。

 

 

 「ガイさん!()()()()()()()()()()()()()()()()!」

 

 「おう!」

 

 

 ()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 

 「そらぁっ!突っ込み過ぎるなよシミア!」

 

 「援護ありがと!その話は後でね!」

 

 

 後ろから投げ渡された長柄の刺又を集まる『キラーアント』の足元に振るって、突っ込むシミアの援護に回る。

 

 今振るってる刺又は先が尖ってないから攻撃力は低いものの、足元に振るえば注意が逸れるし、足止めにもなる。上手くいけば転ばす事だって出来る。

 更に言えば()()()()()()()()()()二股の間に捕らえれば、傷付ける事無く動きを封じられる。

 なんならただ振り回すだけでも注意を逸らせる。

 

 それらを『キラーアント』の爪では届かない遠間から行える上に、()()()()()()()()()()()

 あの戦いの後に始めた更なる武器を手に入れる試みは大成功だったと言えるだろう。

 

 

 「……!シミア!新しいのが生まれるぞ!」

 

 「うん、分かってる!五十M(メドル)以内に他の罅は無し!」

 

 

 そして、それが『今のオレより戦えるシミアを援護する』という形で使う武器(もの)だった事で視野も広くなったように感じられる。

 前だったら戦いの最中なら言われなければ気付かなかったような()()にも気付く事が多くなった。

 

 

 『ギシャアァァ……!』

 

 

 そうして迷宮(ダンジョン)()()()()()()()()()()()、またしても『キラーアント』。

 モンスターが怪物(モンスター)たる、地上の生物とはかけ離れた異様な生誕により産声を上げる。

 

 

 「おらぁ!」

 

 『ギッ……⁉︎』

 

 「せいっ!」

 

 

 けどまぁ、()()()()()()()()()()()()()()

 オレが刺又で押さえ付けて、シミアが斬り伏せる。

 新しく生まれ落ちた『キラーアント』は産声を上げただけで終わった。

 

 

 留まるなら素手、突っ込むなら刺又。

 援護も交えたオレの新しい戦闘様式(スタイル)は中々上手く行っている。

 

 

 

 

 

 

 

 

 「お疲れ様ッス、ガイさん、シミアさん。まずは水どうぞッス」

 

 「おう、ありがとな」

 

 「ありがとっ!」

 

 

 ……そして、『新しく出来る事』を増やそうとしてるのは()()()()()()()()()

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「……ガイさん、自分は何をしたッスか?」

 

 「……、……どうしたよメルグ」

 

 

 早朝、タラニス・ファミリア本拠(ホーム)

 シミアという少女の来訪から始まった一日は昨日に過ぎ去り、小さな派閥の同じ朝がまた始まろうとする、その流れが断ち切られる。

 

 

 「昨日、自分は何かしたッスか」

 

 「今やってるみたいに瞑想してただろ、手合わせの後には水と回復薬(ポーション)を渡してくれた、店長さんのお裾分けをきちんと温めてくれた。…………と、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()?」

 

 

 『己の把握の為、魔法が無くとも出来る唯一の事』と育ての親に教えられた修行である瞑想を窓の下に座り込んで行うのはメルグの日課であった。

 朝の光の中、片時も動かず、声も発さず、己が主神が目覚める時まで続けるものであった手順(ルーティーン)はその形に収まってから初めて破られた。

 

 

 

 

 「……あの時、屋根の上から闇派閥(イヴィルス)の人達が飛び降りて来た時、自分は何も出来なかった。今までああいう人達に出会わなかったのが幸運で、ああいう人達が居るのが今のオラリオだって知ってたはずだった、それなのに何も出来なかった」

 

 「…………」

 

 

 早めに探索を終え、人通りのある道から帰る。

 そうした行動は心の内を曝け出すメルグのみならず、ベッドの下段に座るガイ、隣室で寝ているはずのタラニス含めたタラニス・ファミリアの全員を()()()()街中の凶事から遠ざけていた。

 ……その為、メルグはこの三ヶ月闇派閥(イヴィルス)どころか暴漢にすら出会(でくわ)さずに済んでいた。

 

 その結果、昨日闇派閥(イヴィルス)の逃亡に立ち塞がった時にメルグは初めて見る闇派閥に対し何も出来ずに戦いを終えていた。

 

 迷宮(ダンジョン)でなら出せていた声が出ない。

 迷宮(ダンジョン)でなら見渡せていた状況を飲み込めない。

 ただ、ガイとシミアに守られ、タラニスの後ろに突っ立っていただけ。

 全てが終わってそんな不甲斐ない自分を見つけた時、大岩で殴られたかのような衝撃がメルグを襲っていた。

 

 

 「助ける事も、声を上げる事さえ出来なかった。…………この三ヶ月、()()()()()()()()()()()?いや、自分の夢を、望みを、()()()()()()()()()()()()?」

 

 

 そうだとしたら、自分を許せない。

 

 

 昨日の自分の不甲斐なさは、三ヶ月経っても何ら成果を上げず夢も叶えられていない自分自身と()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()激情へと繋がりメルグを焦がしていた。

 

 ……その激情に応えられる言葉、自分なりの意見をガイは出せない。

 『夢を、望みを、忘れてた』

 ガイにとってその言葉は三ヶ月……より少し前、新人潰しの冒険者と遭遇するその日の朝の問答を思いださせるものだった。

 そして今もまだ、ガイは『冒険者を続ける根底』を見つけられていない。

 

 

 「…………」

 

 

 だからこそ己に無い『目的』を抱いたメルグをファミリアに受け入れる為主神の説得に乗り出そうとまでしたのだが……、……今回は掛ける言葉が見つからないという形で現れていた。

 

 気まずい沈黙が訪れる、

 

 

 

 

 

 

 

 「忘れてる奴がそんな事しないだろオメー」

 

 「⁉︎タラニスさん⁉︎」

 

 「……起きてたんすか」

 

 「起きてたぜ?」

 

 

 より先に無遠慮に声を掛けて来たのは一切物音が無かった為、いつものようにまだ寝ているものとして眷族二人の意識から外されていた彼らの主神・タラニスである。

 

 

 「ま、当たり前ってのは無価値に見えるかもしれねぇけどよ……、……もう一度聞くぜ?お前が今やってる()()はなんだ?」

 

 「え?」

 

 「さっきガイも言ってただろ、そうやって朝起きて瞑想すんの()()()()()()()()()?」

 

 「え……」

 

 「自分の夢忘れてる奴がそんな一途に修行しねーだろ。お前無意識に()()()()()()()()()()()()()()()。……惰性だってんなら別だけどな」

 

 

 ぶっきらぼうな物言いで投げ掛けたのは本人達ですら無意識の内に思考から除外していた『努力』の指摘であった。

 

 

 「タラニスさん……」

 

 「……けどまー、()()()()()それ(瞑想)()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()?もちろん昨日の戦いで生かされる事も無かった」

 

 「そ、それは」

 

 

 そしてその直後に、積み重ねた『努力』が今のところ役立たずだとして容赦なく切り捨てた。

 メルグの顔に浮かび上がろうとしていた喜色が一瞬でかき消される。

 

 

 「そもそもお前やれる事……、……()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()?」

 

 「その、」

 

 「荷物持ちに回復薬渡し、あとコミュニケーション。……他に出来る事お前(メルグ)にあんのか?」

 

 「……無いッス」

 

 「お前()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。……自分の現状見ないで描く夢が叶うと思うなよ?」

 

 「…………」

 

 

 床に座す眷族を見下ろし、烈日の瞳を以って糾弾するは迷宮での、戦闘での『無能』。

 そこに普段の軽々しいまでの陽気さは欠片も無く、ただ厳然とした主神の姿が有った。

 

 

 「……まぁ『魔法覚えるまで守ってくださいッスー!』って言えるくらいの心持ち身に付けるって手もあるぜ?」

 

 「…………それは、嫌ッス」

 

 

 タラニスによる意図的な明るい声真似を交えての一つの方針の提示に対して、無言からメルグが絞り出した声は細くともはっきりとした拒絶だった。

 

 

 「だろうな。お前は割と高潔な性質(タチ)だ。そう言う心持ち身に付けられるんならそんな悩まねぇだろうしな。そもそも自分にキレてたのも、『今』役に立ってない事に対して見て見ぬふりが出来なかったからだろ?」

 

 

 それに対しその方針を提示した本神(ほんにん)も己が眷族に出来る事じゃないだろう、と言ってのける。

 

 

 

 

 「………………自分、どうしたら良いんスかね?」

 

 

 

 

 そしてメルグは突き付けられた現実と現状に絞り出され、いつになく弱気な声を漏らした。

 

 

 「そりゃあ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()オメー。けど何をするか、あるいは『何もしない』をするかも含めて、選ぶのはお前自身だ。()が決められる事じゃねぇよ」

 

 

 散々言い散らしておきながら『その弱気は自分でどうにかする事だ』、と突き放してタラニスはあっさり部屋を去らんとする、

 

 

 「ああ……、()()()()()()()()()()()()()()()?お前のやってる事にやって来た事、見逃してねぇ奴忘れんじゃねぇぞ」

 

 「え?」

 

 

 その前に少しだけアドバイスを残した。

 それだけであっさり部屋を去りドアを閉め、部屋に二人残される。

 

 

 「あ、」

 

 

 そう()()、である。

 

 

 「…………全く、オレが言える事無いじゃないですか」

 

 「ガイさん……」

 

 

 主神が話している間、一切の口を挟まなかった……と言うより()()()()()()(ガイ)がそこに居た。 

 元々己が悩みを聞いてもらっていた相手の事を完全に意識から外していた事に気付いたメルグは気まずさを覚え、口を噤む。

 

 ……しかし蚊帳の外にされていた当の本人(ガイ)の醸し出す空気は、激情に応えられず沈黙を生み出そうとしていた先刻とは異なっていた。

 風を待つ大樹のようにただ静かに時を待つ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「……、ガイさん」

 

 「なんだ?」

 

 

 やがて、待ち受けるかのようなガイに向かって初めの問答を焼き直すかのようにメルグが話し掛ける。

 

 

 

 

 「自分は魔法が欲しいです。あの日じいちゃんが送り出してた火花みたいな、自分だけの輝き、自分だけの奇跡が欲しいです」

 

 「おう」

 

 「何年かけてもいいと思ってました。死ぬかもしれないって言われても、それくらいの覚悟が無いとダメだとか思ってました」

 

 「……あぁ」

 

 「()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()!自分は、何も出来ないままガイさんの後ろにくっついて生きて行く日々なんて、過ごしたくありません!」

 

 「……おう」

 

 「だから、戦いの助けになれる何かを身に付けたいです。……ガイさんに頼むのはおかしいかもしれませんけれど、…………手伝ってくれませんか?」

 

 

 

 

 次々と吐き出される言葉を相槌を以って受け止めていたガイは、座っていたベッドから立ち上がり、声に出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 「……任せろ!とことん付き合ってやらぁ!」

 

 

 

 

 あの日、『凄い』と思った(メルグ)の頼みを断る筈も無く。

 

 気合いを入れるように、檄を飛ばすように。

 力強く上げられた音声(おんじょう)は天を貫かんばかりであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 『ふ〜ん、それで私達(ベレヌス・ファミリア)か〜。……どんな代償請求されても文句は言わないよねぇ〜?って()った!』

 

 『変な目で見るんじゃありません。ガイさんからの頼みで、メルグさんの望みであるなら、無碍にはしませんよ?……まぁ勿論何の対価も無しに、とはいきませんけど』

 

 

 ……そんな訳で何か身に付けようと思い付く限りのとこをメルグと一緒に回ってみた。

 資金とか信用とか色々足りずに大半断られたり門前払いされ、最終的に行き着いたのはやっぱり先輩方の(ファミリア)だった。

 幸い、そう重くない対価と条件で学べる事を学ばせてもらう事が出来た。

 

 

 

 

 「……ところでガイさんさっき『キラーアント』蹴り飛ばしてたッスけど足首大丈夫ッスか?」

 

 「うん……、……今のところ違和感は無いな。よろしく頼むぜ」

 

 「護衛よろしくッス。シミアさんは警戒をよろしくお願いするッス」

 

 「オッケー!」

 

 

 で、当然タラニス・ファミリアの行動様式(スタイル)もかなり変わった。

 

 新しく入ったシミアには剣を失ったオレの代わりに主力(メイン)攻撃役(アタッカー)斥候(スカウト)を任せ、オレは補助(サブ)攻撃役(アタッカー)とシミアの援護に回る。

 

 そして、メルグが担当するのは支援役(サポーター)と……細かい処置(ケア)だ。

 

 魔石とドロップアイテムの回収、そして予備の武器や道具の運搬は今まで通り。

 後ろからの状況の把握……は行うが、()()()()()()()()()()()()()()()

 『自分の全力よりシミアさんの片手間の方が上ッスから』と割り切って穴を埋めるに留めている。

 もちろんシミアが突っ込み過ぎたりオレや自分(メルグ)にモンスターが集まり過ぎそうなら警告するのは忘れない。

 

 そして戦いが終わった後、水筒や回復薬(ポーション)を取り出して渡す……のも変わらないが、身体の調子や消耗の確認も行うようになった。

 特に重量のあるキラーアントを投げたり、蹴り飛ばしたりした後で関節や筋を痛めてないかには注意を払っていた。

 『意外と痛むもんだからねー』というカリエさんの言葉通り、恩恵を貰っていても積み重なる細かい消耗は意外と大きかったらしい。

 実際注意を払わずにずんずん進んでぼんやり疲れを感じてから撤退するよりも、一戦毎に状態を把握して残りの体力と相談して帰還する方が一晩寝て起きてからの調子が良い感じがする。

 

 

 「これでおしまい、っと。それでどうするッスか、ガイさん?二万ヴァリスはもう超えてるッスけどまだ続けるッスか?」

 

 「いや、今日はこの辺で終わりだな。明日は()()()だからな、『貯金は充分だったのに地上に戻れませんでした』じゃ笑い話にもならないから今の内に戻るぞ」

 

 「はいはーい。じゃ、地上に出たら『待ち合わせ』ね?」

 

 「おう、道案内頼んだぜ」

 

 「荷物も済んだッスよー」

 

 「じゃ、帰るぞ!」

 

 「「はーい」!」

 

 

 そうして今日もオレ達は無事に探索を終える事が出来た。

 ありがたい事だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「それじゃあお前らの冒険にかんぱーい!」

 

 「「「かんぱーい!」」」

 

 

 脂の乗った魚が焼ける匂いに煙の匂い。

 ジョッキを一気に飲み干せば、酔いが回って気持ち良くなる。

 ただの焼き魚の美味いこと美味いこと。

 

 

 「おいしいッスねー、これ!塩辛すぎなくておいしいッス!」

 

 「いいよねー干物!『干しただけじゃん?』って舐めてたらやられるよね!」

 

 「こいつはパンとは合わせられねぇよなー⁈酒だろ酒!ジョッキ追加!」

 

 

 賑わう店内では神様だってお客様。

 注文は聞き取られた奴から順繰りに届けられる。

 

 

 「他のも美味そうだなここ……。おすすめって分かるか?」

 

 「それなら焼きじゃがなんてどう?バターで食べても塩で食べても美味しいよ?」

 

 「いいッスねそれ!」

 

 「俺も俺もー!」

 

 「じゃあすいませーん!焼きじゃが四つ!」四つー!」

 

 

 ここは酒場、『漁場(ぎょじょう)炉端(ろばた)』。

 シミアによれば手頃な値段で炭火焼きの魚介類を味わえる店として、南と南西のメインストリートの間でやってる酒場の中でも密かに評判らしい。

 一ヶ月前にはその存在すら知らなかった店でオレ達タラニス・ファミリアは呑んでいる。

 

 

 

 

 ……シミアが加わった事で迷宮(ダンジョン)探索だけじゃなく、地上に帰ってからの行動や休日の過ごし方もまた変わった。

 

 まず今まで一纏りだった『換金し、報告し、タラニス様を迎えに行く』という流れを、『換金と報告』・『タラニス様の迎え』で分けて動けるようになった。

 今までだとあまり戦えないメルグかタラニス様のどっちかが無防備になるから出来なかった事だ。

 

 そして『換金と報告をしている間にタラニス様を連れて移動し、終わったらそれに追い付く』という動きが出来るようになった事で行動範囲も広まった。

 今まで足の届かなかった街角に行くたびに、いつの間にか頭の中で狭まっていたオラリオが広まっていくのを感じられる。

 

 最後に知ってる店が増えた。酒場、雑貨屋、食料品店、惣菜屋、パン屋、服屋、武器屋に鍛治屋、修理屋に研ぎ屋、装身具店に魔術品店……。

 大陸屈指の大都市で大勢の人々と神が住まうのは知ってたからぼんやりと予想はしていたが、それでも新しい店を知るたび『オラリオってこんな広いのか⁈』と思わざるを得ない。

 あとシミアが一年余りでそんだけの店を探し出したという事実にもビビる。

 この一ヶ月で『ここ知ってるー?』って感じでシミアに案内された店はそろそろ五十にも届くはずなのに、『ここ知ってるー?』って感じの案内がまだ終わらない。

 当然オレもメルグも知らない店ばっかりである。

 たまにタラニス様は知ってた事があって、その時はタラニス様がちょっと悔しそうなシミアにドヤ顔を披露している。

 

 

 

 

 「やってるかい旦那!」

 

 「おおよ!いつも()()()()()()()()()()()()()()!」

 

 

 「…………」

 

 「…………」

 

 

 シミアのおすすめを待っていると声を張り上げて新しい客がやって来た。

 常連らしいいかにもベテラン冒険者な男達は、()()()()()()()()()()()()()()()

 ……二ヶ月ちょっと前に隣にあった建物ごと消し飛ばされたとの事だ。

 幸いこちらの建物は崩れずに済んだ事で今もこうして『漁場の炉端』は営業が出来ている。

 ……けど見慣れていないオレとメルグはこの都市(オラリオ)が『暗黒期』である理由の一端に無言になる。

 

 

 

 

 ……シミアによって変化した過ごし方はより多くのものを見せた。

 暗い路地裏には大抵死体か、死体も同然に見える人影が横たわっていた。

 店から強盗が逃げる所に三回、ちょうど店に押し入る所に一回出会した。

 道端や酒場の喧嘩はもう何回目にしたのか分からない。

 冒険者の間で評判の酒場に行ったら闇派閥(イヴィルス)の襲撃を受けて戦闘の真っ只中という事もあった。

 

 人が騒めく方に向かうと、『暗黒期』というものがどういうものなのかをいつだって思い知らされる。

 当然どこもかしこも傷跡だらけで、

 

 

 

 

 「……辛気臭いのは今は無しだ。な、メルグ!」

 

 「……そうッスね、美味しいもの食べるのに落ち込むのは無しッスよね!」

 

 「……まぁそうだよね、……って、え」そうだそうだ!」

 

 

 ……それでもしぶとく強く生きる人が居た。

 

 強盗に入られた店は壊された棚や扉を直しながら商いを続けていた。

 ある日喧嘩していた二人が別の日には肩を組んで笑い合っていた。

 抗争の舞台になって全焼した酒場は露天の酒場として逞しく再起していた。

 

 尽力する眷族(ファミリア)の姿もまたあちこちで見た。

 アストレアにガネーシャ。そして、ルゴス・ファミリアの先輩方──。

 

 前を向いて頑張ってる人が確かに居る。

 なら落ち込むより先に笑いたい。

 

 

 『……頑張りたいッスね』

 

 『だな。』

 

 

 何度目かの朝で口にした事は今もまだ心に有る。

 ならオレ達がする事は一つ、

 

 

 「焼きじゃが四つお待ち〜ぃ」

 

 「おっ、来た来た!そんじゃあ……、乾ぱ〜い!」

 

 「「「かんぱーい‼︎」」」

 

 

 乾杯だ‼︎

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「うえへへへ〜、酔っ払っちゃった〜」

 

 「水飲め水、ヴェッホ!ゲッホ!」

 

 「むせてんじゃねーですよタラニス様、あんたも酔っ払いじゃねぇですか。ほら、シミアも飲んどけ」

 

 「じゃあ店長さんあとはよろしくお願いするッス……」

 

 「任されたわ〜。おやすみなさいね〜」

 

 

 『酒が人を変えるんじゃない、酒が人を暴くんだ』ってのはベレヌス様から聞いた話だったっけか……。

 

 ……シミアはとにかく酔いに弱い。

 一ヶ月前はパタリ、と魔石の灯りが切れるように眠りに落ちてたから『動き』という意味では大分マシになったものの代わりに『絡み』が強くなった。

 まさか酒に強くなりたいから恩恵(ファルナ)貰ったとか言わないよな?

 まぁとにかくこういう状況で下宿の店長さんという引き取り手がいるのは本当に助かっている。

 なにせこちらはタラニス様の対処もたまに強いられる。オレとメルグ、二人だけで酔っ払い二人を相手するのはキツい。

 メルグが酔っても語彙力が無くなるだけで本当に良かったと思う。

 オレ自身も酔って醜態を晒さない奴でマジで良かった。

 

 ともあれ夜が深まる前にタラニス・ファミリアは全員無事の帰宅に成功した。

 けど疲れた……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「…………」

 

 

 ぐち、ぐち、と唾液と咀嚼によって草葉が噛み締められる音がする。

 

 

 「…………」

 

 

 ぐち、ぐち、と鮮烈な苦味の後に強烈なえぐみが口内を襲う。

 ここに(ビネガー)あたりの酸味が加わったならばその瞬間に口の中のものを吐き出すような味だ。

 しかしこのひどい味の薬草こそが酔い覚ましとしては最高の効能を誇る。

 

 

 「…………」

 

 

 そして二日酔いの予防にも良く効く。

 それがひどい味によるものなのか、味には出ない効能によるのかは分からない。

 オラリオならば数は少なくとも出回っているものだと思っていたら、どこの道具屋どこの薬舗を漁っても見つからず、裏路地の道端に品物を広げた煤けた露店一つにしか無かった事を少女は思い出す。

 

 

 「…………んんっ、」

 

 

 ごくり、と口の中のものを飲み干す。

 高値をふっかけられる事は無かったものの、決まった期間で決まった数しか売ってくれない時点で希少だと言っているようなもの。一雫たりとも無駄にしたくない所である。

 ()()()()()()

 

 

 「はぁ……」

 

 

 ……ただしそれは口に残る後味まで楽しもうという意味ではない。

 さっさと寝床に倒れ込み、寝る事にした。

 

 魔石灯の灯りも、月の光も無い屋根裏部屋はすぐに眠りに就ける。

 ……余計な後味さえ無ければ。

 

 

 「…………」

 

 

 後味に顔を顰めている内につい最近の事を少女は思い出す。

 

 

 

 

 

 

 

 

……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そっ、とドアを外して外に出る。

 ただ外されたのを嵌めただけのドアの外では日に日に厳しくなる冷気が待ち構えていた。

 

 そのまま共用の廊下を歩み階段へ。

 歩みを進めた先には誰も居ない屋上があり──

 

 

 「随分大胆な事するんだな?」

 

 

 ──否、穴が空いても気付かれにくい場所に打ちつけられた金具と、金具に結わえられたロープがある。

 

 この集合住宅(アパート)の窓側、ちょうどタラニス・ファミリアの居室がある辺りにロープは垂れ下がり、

 

 

 「ばれちゃ仕方ない、ってね……。……って、あれ?一柱(ひとり)?」

 

 「悪いか?」

 

 

 その先から音も無く一つの影が飛び上がって来た。

 つい二日前にタラニス・ファミリアに己を売り込んで来た少女、シミア・アリグライトがそこに居た。

 

 

 「で?日向ぼっこしてた訳でもねぇんだろ?」

 

 「うん、話聞かせてもらってた。気付いたから来たんでしょ?」

 

 

 屋上にやって来たタラニスの前に現したその姿に、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()が露見した事を悪びれる様子は無い。

 

 

 「(あたし)()()()()()する奴だからね。嫌なら入れなきゃ良いと思うよ?」

 

 「いやいや、お前みてぇな()()()()逃しはしねぇよ俺は?で、わざわざここに来たのはやっぱりメルグか?」

 

 「だねー。なんか(あたし)に暗い感情向けてる気がしたから見に来たんだけど……、……自分に怒ってるなんてね」

 

 

 己のファミリアに対するプライバシーの侵害は咎めずにタラニスが問えば、間髪入れずにシミアが返す。

 

 

 「()()()()()()()()()()()()()?って話だけど」

 

 

 辛辣な寸評と共に。

 

 

 「団長さんはまぁ合格、余所見する余裕も有る。……()()()()()()()()()()()()()()()()()()()?自分の事よりすれ違う奴が襲って来ないか気にしなきゃ死ぬでしょあいつ」

 

 「まぁ、かもな?」

 

 

 神一柱(ひとり)の前で隠し事は無駄だと知っているシミアは眷族達の前では見せていない微かに苛立ちを宿した声で、ガイとメルグについての所感を口にする。

 ガイの評価には()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()メルグの評価は散々なものであった。

 

 

 「()()()()()()()()()()()()()。……五年後、十年後は分からないけどね」

 

 「ん、そうか」

 

 

 棘を隠さない口調でシミアは『あいつ』──メルグに暗黒期で夢を見る力は無いと言い切った。

 それに対しタラニスは肯定も否定もせず、暫し天空に視線を上げる。

 言葉を探すかのような態度にシミアは黙って待つ。

 

 

 「そうだな……」

 

 

 タラニスが見上げる空は今朝も『晴れている』と言える天気であるものの、昨日とは異なり幾筋か雲がたなびいている。

 だがそれは聖涼とした空を汚す程のものではない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 「まず始めに言いたい事なんだが……、──お前ナメてるよ、ガイの事」

 

 「そうかな?」

 

 

 やがて視線を上空から戻したタラニスの言葉は己の見立てを否定するものだったが、それにシミアが揺らぐ事は無かった。

 

 

 

 

 『─────、────────!』

 

 「⁉︎」

 

 

 が、次の瞬間大音声が天井を貫く。

 突然の異変に思わず飛びずさった。

 

 

 

 

 「ほら、な?」

 

 「…………まぁ確かに、()()()()()はまだ見てないけど」

 

 

 遅れてそれが丁度真下の部屋に居るガイの声だと気付いたシミアは、ドヤ顔を向けて来るタラニスにばつが悪そうに己の不備を認める。

 

 

 「……あとそうだな、最初に見た時俺もメルグに大したもんが有るとは思ってなかったんだけどな?」

 

 「?」

 

 「最近なんとなく『そうじゃないか』って思えるようになってきた話なんだが……、……あいつは自分の指を一本でも切り落とさなきゃ魔法は身に付かないって分かったら悩んだ末に()()()()()()()()?」

 

 「……マジで言ってる?あいつそんな()()()()()奴なの?」

 

 

 事実であるならばメルグに対する評価を『覚悟しか無い奴』から『覚悟で崖の向こうまで突っ走るやばい奴』に改めなければならない情報を得たシミアであるが、流石にすぐに信じきる事は出来ず半信半疑の表情を見せる。

 

 

 「いや俺に見る目期待されても困るからな?神々(俺達)は見る目は確かだ、なんて言う奴が居るけど俺はそこまで自信はねぇよ?」

 

 

 それに対しタラニスはただあっけらかん、と笑いを見せながら口にするだけだった。

 

 

 「……ただまぁ、あいつらがまだ気付いてない事にも気付いているつもりだぜ?お前──」

 

 

 

 

……

 

 

 

 

 

 

 

 

 「…………水貰おっと」

 

 

 ……名前も知らない薬草の苦味よりも苦いものを思い出したシミアは水を貰いに寝床を抜け出した。

 

 

 『……自分としてはシミアさんに索敵はお願いしたいッス。あ、もちろん全くものを見ないつもりは無いッスよ⁈()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()──』

 

 

 ふと、追想に引き出されパーティの役割分担についての話し合いをしていた時の事を思い出す。

 

 

 「(……多分タラニス(あいつ)の見立ては当たってる。自分より(あたし)の方が優れてるのが分かったからって()()()()()()()()()()()()()()()()。で、自棄と無気力から何もしない訳でもない。自分に出来る事はやった上で(あたし)とガイに任せてる)」

 

 

 狭い空間に設けられた急な階段を下りながら得た情報を改めて考察する。

 

 

 「(……そんで多分()()()()()()()()()()。『一年間毎日やれ』って言われたら睡眠時間を削ってやるし、『欲しいなら指落とせ』って言われたら十本全部落としておまけに手首も付けてくる。……まぁ、今まで()()なってないから(あたし)のも予想に過ぎないけど)」

 

 

 夜闇は周囲の情報を削ぎ落とし、思考を助けてくれる代わりに僅かな光しか齎さない。

 一歩足を踏み外せば大怪我しかねない段差の連続を、しなやかな肢は容易く捉えて行く。

 

 

 「(合理的、ってとこだけ見れば『勇者(ブレイバー)』にも似通うのかな?ただあの英雄みたいに前に押し出す気質は無い。……それを担うのは……)」

 

 

 

 

 

 

 

 

……

 

 

 

 

 

 

 

 

 「──ま、お前が()()()()()入団は拒否らねぇよ。少なくとも俺個神(こじん)はな?」

 

 「……ありがと」

 

 

 タラニスとシミアは屋上に続く階段を連れ立って下りていた。

 ()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 

 「……一つ聞きたいんだけどあいつら性愛についてはどーなの?(あたし)がいきなり脱ぎ出したら()()()()()で見てくる系?」

 

 「それはエロいってより奇行じゃねーか?……そうだな、あいつらあんまり美人だからって浮かれるタイプじゃねーからな……。それにどっちも求めるもんが有るから、今んとこ色恋沙汰は気にしないと思うぜ?」

 

 

 シミアは歩きながら本人に直接聞くものではない事を彼等の主神から聞き出す。

 その態度の内には『神に隠し事は通じない』と分かっての開き直りではないものが見え隠れし──、

 

 

 「あ、一緒に居たのか……」

 

 

 

 「……!」

 

 

 ──廊下の向こうでドアを外しながらガイが姿を現すや、瞬く間にかき消えた。

 

 

 「んん?おーい探してたかー?」

 

 「そりゃ主神が消えたなら探しますよ。で、まだ話してますか?」

 

 「もう終わったから大丈夫だよー。じゃ、また「あー、用があんのはお前だよシミア」……うん?」

 

 

 僅かな態度の変化から注意を逸らすようなタラニスの言動に乗って離脱しようとしたシミアは、ガイからの思わぬ引き留めに疑問の声を漏らす。

 

 

 「じゃあ俺が邪魔か?」

 

 「……見届けてもらっても?」

 

 「んじゃあ見てる」

 

 

 何か始まるのを感じ取った主神は第一の眷族の要望に応え、そっと壁に寄り見届け人に徹する。

 

 

 

 

 

 

 

 

 「……昨日お前の事情は全部聞いて、あとはオレ達次第って所まで行っただろ?どうなるか決まる前に言っときたくてな?」

 

 「ふむふむ、例の空き巣の事?」

 

 「いや、()()()()の話だ」

 

 「……ふぅん?」

 

 

 真剣かつ重みの有る言葉に顔色が変わる。

 ──柔くも鋭い『戦士の顔』に。

 

 

 

 

 「また、オレと手合わせして欲しいんだ。……()()()()()()()()

 

 

 貫くように、灼くように。

 真っ直ぐな眼差しで叩き付けられたのは少女への挑戦状であり、宣戦布告だった。

 

 

 

 

 「……()()()()()()()()?」

 

 「()()()()()()()()

 

 

 受けたその身から微かに漏れるのは()()

 それは何も知らなければ、僅かに感じただけでも飛び上がって逃げて行く鮮烈さを持っている。

 ──しかし怖気立つような気配を直接返された体躯は指先すら揺らがなかった。

 

 

 

 

 「……まー、いいけどキミ()()無いでしょ?」

 

 「素手でも良いぜ?」

 

 「違うよ、キミの『()()()()()』。『使い慣れて()武器』、って言ってもいいかな?」

 

 「!」

 

 

 揺らがないガイの様子に殺気を収めたシミアは根本的な問題を指摘する。

 それは()()()()()

 

 

 「こっちに全力出せ、って言ってんのにキミ自身が片手落ちでどうすんのさ?手合わせは喜んで受けるけど、それは()()()の全部が整ってから……って事で良いよね?」

 

 「ああ。あと入団はダメだってなった時でも手合わせはして欲しいんだが、ダメか?」

 

 「わがままだなぁ、でも良いよ?()()()()()()()()()()()()()()

 

 「()()()()()()、よろしく頼むぜ」

 

 

 『()()()()()()()()()()()()()()

 その確約を得たガイは条件を了承し、ぱしり、と(てのひら)をシミアと合わせ握手を交わす。

 ここに新たな戦いが約束された。

 

 

 「……その戦約、確かに見届けた。()()()()()()()()()()ガイ、()()()?」

 

 「勿論」

 

 

 神は最後までその契約を見届け、口に出した言に相応しき戦いとそこに至るまでの研鑽を己が子に命じた。

 

 

 

 

 「……さーて、メルグも待ってる事だし朝飯にすんぞー」

 

 

 そしていつしか張り詰めていた空気を緩め、本拠(ホーム)での朝食へと向かうのであった。

 

 

 「そうだ、お湯くらいは出せるけど寄ってくかシミア?朝から寒かっただろ?」

 

 「いや大丈夫、気持ちだけ貰ってくよ。……その代わりに聞きたいんだけど、なんでまたいきなりああいう話出して来たのよ?」

 

 

 ガイはその背に付いて行く前に朝から()()()()()()少女を気遣い、金に余裕が無くとも熱源さえあれば出せる温かい飲み物、白湯──ただのお湯である──を勧めるがシミアはやんわりと断り今度こそ立ち去ろうとする、

 その前に昨日は欠片も感じなかった『再戦の意志』が今日になって発露した理由を探る為問い掛けた。

 

 

 「あぁそれは『オレも負けちゃいられないから』、だな」

 

 「?」

 

 

 『何も出来ないまま後ろにくっついて生きて行くだけの日々なんて、過ごしたくない』

 魂の叫びとして発されたその言葉は、ガイにとって飛び込んで来た風を言葉という焔に変える火花だった。

 しかしそれは()()()()()()()()()()()()()()()()シミアには知る(よし)も無い言葉であった。

 

 

 ともあれこの次の日、シミア・アリグライトは『古木亭』での宴会を以ってタラニス・ファミリアへと迎えられた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

……

 

 

 

 

 

 

 

 

 「あら、シミアちゃんまだ起きてるの?」

 

 

 リビングに入ると下宿先の店長が魔石灯の元で装身具(アクセサリー)を検分している所だった。

 この人物は女性的な美しさの中に男性的な美しさが見え隠れするオラリオでも他に見ない不思議な容貌をしている。

 

 

 「いや、明日買い物だから今日はもう寝るつもり。水貰うね」

 

 「あら〜!またデートだなんて、良いお友達が出来てホント嬉しいわぁ〜!」

 

 「あはは……」

 

 

 しかし話してみればややお節介であるものの、『自分』を持った良い人だと分かる。

 滑らかに高く、心地良い深みのある声も聞き慣れたもの。

 軽い笑いで誤魔化しながら水を貰い、苦みを流し去り喉を潤す。

 

 

 「それじゃおやすみ〜」

 

 「おやすみなさ〜い」

 

 

 就寝の挨拶を終え、階段を上がって行く。

 

 

 「(『新人狩り』が狩られた時に新人がよく持ち堪えたから間に合った、なんて噂も有る……。で、その後にバベルの病室あたりでルゴスとベレヌスの新人が勢揃いで目撃されてる。()()()()()()()()()()?って話な訳で)」

 

 

 一歩一歩、階上へと上がって行きながら頭脳は考察を再開する。

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 シミアがメモ書きに残すのは『見られても構わない情報』だけである。

 

 

 「(一番目立ったなら『積極的に狙われて怪我した』、ってのもありえるだろうし……。あと経験者が誰一人居ない新しいファミリアなのに金回りの失敗も聞かないから金勘定も出来るのかな?)」

 

 

 既に住処はあり、なおかつ同居する気も無かったのでタラニス・ファミリアの住居は集合住宅(アパート)暮らしの男性陣と下宿生活を送るシミアとで分かたれている。

 そして酔い覚ましがバレたくないシミアは帰宅後は朝まで外出しない為、本拠(ホーム)に戻ってから彼等が何をしているのかは知らない。

 知らないが、報酬の分配や道具の買い直しなどで垣間見える『きっちりした』様子も入れて実像を導き出す。

 

 

 「(そしてあいつの最大の武器……、一番使い慣れてた武器は()()()……。地上でも迷宮(ダンジョン)でも目撃されてるから間違いない。タラニスの言う通りあいつの全部を(あたし)はまだ見てない)」

 

 

 そうして思考を続けつつ自室に辿り着き、寝床に転がり込む。

 布団と毛布は暖かなうねりを以ってその身体を包んだ。

 

 

 「(そして今()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。軽い武器が良かったのかでかい武器が良かったのか。……あいつの実力の全部がこれで分かるはず)」

 

 

 ……この一ヶ月で資金を貯めたタラニス・ファミリアは明日一日を買い物に充てる。

 求める品は『武具』。

 防具や予備の武器を吟味しつつ、ガイの主武装となる得物を探す予定だ。

 

 ……そしてシミアはガイの実力の全てを探る為に話を持ち掛け、値段と質と品数で釣り、行き先をバベル八階のへファイストス・ファミリアのテナントに誘導した。

 鍛治最大派閥(へファイストス・ファミリア)の店舗故に品揃えの様子を探るのも容易かったからこその、誘導である。

 

 

 

 

 「……さてさて、あいつは予想以上かな?」

 

 

 明日の予定をお膳立てした少女は天井を見ながらにやりと笑った。

 

 

 ……その片手は縋るかのように胸元のネックレスに伸びていた。

 

 

 

 

 

 

 

 




※現在原作より9年前の秋〜冬頃

 お披露目、挑戦、そして考察回でした。
 前話より一ヶ月経った現在と一ヶ月前の回想になった前話の後が混在しておりますのでご容赦下さい。


 納得出来るもの書こうとしたら本文が1万5000文字を超え、年は明けてた件。
 (これ書き始めた根底は『自分の需要を満たすものが無かったから』がデカいです。なので私個人を優先する所が大きいです。ただし出した後の評価を喜ばない訳ではありません)

 待ってくれていた方が居るのなら改めてお待たせしました、書きかけしか無いのできっとまた待たせます。ご容赦ください。


※タラニス・ファミリア
…ついに構成員だけで三人一組(スリーマンセル)が組めるようになった。パーティの能力は向上、財政状況も上向き壊されたドアを直し盗まれた品を補填しても武器を買う資金を貯められている。……なんかそういう時ほど悪意が襲って来る気がする。特に暗黒期オラリオだと。

:ガイ…新たな戦いを約束し、新たな戦い方を身に付けつつある主人公。主人公。(そういえば明言してなかったかな?と思い)天井貫き屋根震わすほどの大音声を出せる。……個人的にはアニメとソードオラトリア版ならともかく原作2巻裏表紙の立像版のキラーアントは不気味かつ強そうな感じが出てて戦うとしても武器貰いたいところ。で、こいつは2巻裏表紙版想定のキラーアントと素手で戦っているのである。ちなみに素手は代々のウルトラマンの基本戦法、刺又はハリケーンスラッシュのイメージ。

:メルグ…前話でネガティブなものを自分に抱いたけど、ひとまず出しきったのでしばらくは大丈夫。まだまだ魔法には遠いけど着実に出来る事を増やしてる。真剣真面目になると『ッス』が取れる。『です』が言いにくかったのだろうか。内に秘める熱意は凄い人。実際の所タラニス・シミアが感じた通りの事をするかは不明。今現在そういう目には遭ってないので。

:シミア…冒頭の身の上話に嘘は無い。……嘘は無いけど隠してる事はある。明るい顔は嘘ではない。……嘘ではないけどネガティブな顔もある。タラニスは気付いてるけどガイ・メルグには黙ってる。今の所実力の底はまだ見せてないし、情報収集能力の全ても他の面々には見せてない。この人に関しては色々散りばめてるけど下手なものになってないか……。ちなみに酔い覚ましの薬草使ってるのは最初に酒飲んだ時ひどい二日酔いになったから。
(スキルの漢字表記は変えるかもしれません)

:タラニス…なんか最初の想定より主神してた主神。まぁ主神なので間違ってはいないのだが。酒に酔う度ガイからの扱いが雑になり、救いの神補正が低くなるが0にはならない。


※ベレヌス・ファミリア
…ガイの頼みで店の手伝いの代わりに手当てとか人体についてとかを教えた。新興のファミリアにとってはすごく良心的な対価である。

:フィーオ…派閥の団長として、薬屋の店主として『何の対価も無し』にはしないけど絞り取るような真似もせず変な目で見る副団長もしっかり躾ける姉。見返して『いやまじで姉だわ、これ』ってなった。
:カリエ…書き分けられるか、られてるか不安。この人が団長でもからかいで済ませるので同人誌的、もといR-18な事にはなりません。無理に迫れば血みどろ、もといR-18な事になります。


※『朔月の雫』
…『冒険者通り』こと北西のメインストリート、その脇道という目立ち過ぎないが(比較的)安全そうな立地で営む装身具店(アクセサリーショップ)。シミアの下宿先である。いきなり来た三人(店長自身とシミア含めれば五人)に昼食をごちそう出来るだけの稼ぎはある様子。

:店長…性別不詳、年齢不詳の女性的な人物。縁あってシミアに屋根裏部屋を下宿先として提供している。つよい人。


※『漁場の炉端』
…壁が一つ崩れても営業を続ける力強い酒場。炭火焼きの魚介類やじゃが芋が絶品かつお手頃価格で食べられる。『干物食べたいなー』的なイメージから生まれた。

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