迷宮都市に生きる 作:オミ
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「はーっ……」
迷宮の一角、一直線に通路が通る広間にゆっくりと息を吐く音が落とされる。
息を吐き、剣を構えて佇むのは170
その目が睨みつける通路からは何かが走る足音が近づいてきた。
「ギャギャッ!」「ヒギャッ!」
「……ふっ!」
やがて敵意を剥き出しにして走って来る二匹のゴブリンの姿を認めた瞬間、男は発走する。
「うおおおぉ!」
「ギギャッ⁉︎」
さっきまで逃げ回っていた相手が一変して雄叫びを上げながらこちらに向かってくる事に驚いたゴブリン達はまず先頭の一体が袈裟懸けに切り捨てられる。
「はぁーっ!」
「ゲッーー」
後続の一体も首を切り裂かれ倒れ伏し、あっさりと戦闘は終わった。
「……ふぅーっ……、……やっぱもう少しデカい武器が欲しいとこだな」
黒髪のヒューマンーーガイ・シグロがここ三ヶ月の間何度となく繰り返した日常をなぞる光景であった。
「槍よりは大剣だと思うんだが……、……今のままじゃあ大剣買う金なんてないからなー……。先輩方の誰かのお古を譲ってもらうっては流石に厚かましいにも程がある、ってもんだしな……」
そういうのは同じ派閥の奴らが優先だろうしな、とぼやきながらガイが進むのはダンジョン3階層。
いくつもの階層が積み重なるダンジョンの中でも『上層』と区分けされる層域の始まりも始まり、「初心者向け」とされる階層の一つである。
ここ三ヶ月余りガイは親しくしているルゴス・ファミリアやベレヌス・ファミリアの新人と組んで1階層から3階層にかけて探索する事が多かった。
……が今日のように都合がつかない時には生活費を稼ぐのと腕試しの為、そして「先輩からの教え」と「機転」をその身に刻むべく一人で探索を行っていた。
「おっ、と……。次はあいつだな……、……おおおぉぉ!」
「ガァッ⁉︎」
そして道の先に一匹のコボルトがいる事に気付いたガイは一気に飛び出し、腹を切り裂いて一撃で仕留めた。
が、それで終わらないのがダンジョンである。
ビキリ、と何かが砕ける音を聞きつけたガイは即座に剣を構え直して警戒に移る。
砕ける音は亀裂が走るダンジョンの壁面から響き、やがて破片を撒き散らしながら現れたのはーーモンスター。
「ゲゲゲ……」
「ギシャァ……!」
「二体、かよ……」
左には壁に張り付くトカゲのモンスター『ダンジョン・リザード』、右にはゴブリン。
影も形も無い状況から二対一という状況を強いられるガイは顔を歪める。
モンスターはダンジョンから
「ジギャァ!」
「!」
まず突っ込んで来るのはゴブリン。ダンジョン・リザードは様子を窺いながらジリジリと距離を詰めて来る。
(
即座に方針を決めたガイは隙を晒さないように注意しながらゴブリンを相手取る。
(まだ……、まだ……、今!)
「ゲァッ⁉︎」
やがてダンジョン・リザードの飛びかかろうとする足の動きを見たガイは強引にゴブリンを押しのける。
「うおらぁ!」
「ギャッ!」「ゲッ⁉︎」
そして大振りの斬撃でよろめいたゴブリンと飛びかかるダンジョン・リザードを纏めて切り裂いた。
「浅い、か……」
「ゲゲッ…!」
致命傷には至らなかったダンジョン・リザードにもしっかりトドメを刺してガイは戦闘を終えた。
「ふぅ……、そろそろ帰るか……」
消耗を感じたガイは探索を終えて帰還する事を決めるのであった。
ダンジョンの真上に建つ『バベル』には冒険者の為の様々な施設が存在している。
シャワールームに簡易食堂、治療施設ーー
「ありがとうございましたー……」
ーーそして魔石やドロップアイテムを引き取る換金所もある。
ギルド本部より鑑定員の人数が少ない為、待たされる事はあるが需要はある。
「ねぇ、何してるの?」
「……あっ、ナタリーさん……」
……例えば一人でダンジョンに潜っている事をギルドの担当アドバイザーに気付かれたくない新興ファミリアの冒険者に需要がある。
「
「アダっ!イデっ!すいません!すいません!」
怒りの声と共にガイの顔面を掴み締め上げるのはギルドの受付嬢にしてガイの担当アドバイザーのナタリー・メノワ。
170Cを超える身長と抜群のプロポーション、黒に近い焦茶の髪と金色の目をした美貌の持ち主であり、指導が厳しめな事で下級冒険者に恐れられている人物でもある。
「で?なんで一人で潜ろうと思ったの?お金?ステイタス?あるいは戦うのが楽しくなってきた?」
ギルド所有の建造物であるバベルへ派遣された帰りだったナタリーに見つかったガイはギルド本部の談話室まで連行されて面談を受ける羽目になっていた。
「あー……、っと……」
「どれでも説教するのは変わらないからね?」
「その、暇だったから、ですかね?」
「それだけじゃないでしょう?」
「……戦い方模索するのが楽しみで」
「待ち切れずにダンジョンへ行った、と」
「ハイ……」
「お金も、でしょう?」
「ハイ……」
受付嬢の中でもベテランだというナタリーの圧力と見立てにガイは大人しく屈する他無かった。
「まず言うまでもなく一人は危険だって事。慣れてきて忘れてるかもだけど今のダンジョンに現れるのはモンスターだけじゃないからね?」
「
「邪神」と呼ばれる神々に率いられ、オラリオに惨禍をもたらすファミリアの面々は地上にのみ現れる訳ではない。
「『冒険者狩り』。4階層より上に出るって話は聞かないけどどんな気紛れで手が出されるか分からないし、一人で探索していた冒険者から襲われたって証言もあるからね?」
「はい……」
「次に休養が足りないって事。……新興でお金が貯まらない焦りとか、ステイタスがなかなか伸びない焦りとかあると思うけど、ちゃんと踏み留まって腰を落ち着け休みを取る。これが結局一番の近道だよ?」
「はい……」
年期を感じさせる圧迫感から一転して、理解を示しつつ筋道立てての忠告にガイは反論の余地もない。
「後、『戦い方の模索ならダンジョンでなくてもできるよ?』ってアドバイスしたの忘れてるよね?……記憶から抜けてなかったとしても実際に一人でダンジョンに潜った以上忘れてるのと同じだからね?」
「はい……、すんません……」
「積極的に聞きに来るだけで何も反映しない、ってどうなの?」
「申し開きのしようもありません……」
そして戻ってくる圧迫感にガイはすっかり縮こまっていた。
「まぁ、時間もかけられないしここまでにしとくけどちゃんと休みなよ?……頼りになる先輩達に会えなくて心細いかもしれないけどね?」
「えっ!いや……、まぁ……」
時計を見やったナタリーから説教の切り上げと思わぬ指摘が繰り出される。
最近はギルドの要請で駆り出されているのか、ゼルマやカリエといった冒険者としての先輩に会う機会がなかなか無いのをどこか心細く思っていた事に気付かされたガイは言葉に詰まってしまう。
「あなたを見守ってるのは先輩達だけじゃないからね?私だって見守ってるし、何よりあなたの主神だって見守ってるはずよ?」
「……!……今オレになんかあったらオレ一人の問題じゃ済まないって事っすね?」
「そーいう事。ほら、無事な顔見せてあげなさい?」
「了解しました!ご指導ありがとうございました!」
「ちゃんと気をつけなさいよー!」
連れて来られた時とは真逆の優しい笑みに見送られ、ガイはギルド本部を後にするのだった。
夕暮れに染まるオラリオの街並みを駆け抜けたガイが辿り着いたのは小振りな二階建ての施薬院兼住居、ベレヌス・ファミリア
「すいませーん、タラニス様引き取りに来ましたー!」
「あっ、ガイさん。タラニス様ー!呼んでますよー!」
小さめな店にガイと店番をしていた新人団員のアモルの呼び声が響く。
「聞こえてるっての、声デケェんだよお前は?」
ややあって姿を表したのは赤みがかった金髪をした青年の神、タラニス・ファミリアの主神タラニスであった。
部屋も問題無く借りられガイも冒険者として活動を始めたが、ベレヌスの図らいによりタラニスは『日向の庭』でのバイトを続けていた。
部屋を出てタラニスを送り届け、ダンジョンから帰る時にタラニスを迎えに来る、これもまたガイがここ三ヶ月の間何度となく繰り返した日常である。
「聞こえてるなら返事くらいしとけ」
「あてっ!叩く事ねぇだろベレヌス⁉︎」
「ちゃんと返事返してるなら俺も叩かないんだがな?」
「ま、まぁその辺で……」
そしてタラニスの後ろから出て来るベレヌスが小言を投げるのもまたいつもの事であった。
「全く……。まぁ気をつけて帰れよ?俺達もお得意様失くしたくはないからな?」
「ありがとうございます!そちらもどうか気をつけて!」
「また来てくださいね〜!」
「また来るぜ〜」
『日向の庭』を出た主従二人は住まいとしている貸部屋への道を歩んでいく。
道端には襲撃を受けたのか窓が破られた商店があり、遠くの空にはうっすらと黒煙が立ち昇る。三ヶ月余りで見慣れてしまったオラリオの日常である。
「今日は飲んでくかー?」
「明日にしてもらっていいですか?今日は早く寝たいんで」
「それはいいけどよー、夕飯にできそうなのなんか残ってたか?」
「あー、なんもありませんでしたね……。じゃあ急いでなんか買って……、……ん?」
タラニスと雑談を交わしていたガイはふと道端に目を向け、そこに打ち捨てられているものに気付く。
「……うーん」
『それ』を手に取り、あちこち触ったり軽く振ってみたりする。
「早くしないと店閉まっちまうぜー?いらなけりゃ捨てればいいんだしよー?」
「あぁ分かりましたー!」
タラニスに呼ばれたガイは『それ』ーー大振りで強度もありそうな木材を抱えて街路に戻り、また歩き出した。
ほんの少しいつもと違う、そんな日常であった。
ーーなおデカい木材を抱えたガイはその後道ゆく人々や惣菜店の店員に怪訝な目で見られたり貸部屋の扉から上手く通せなかったりと苦労する事となるのであった。
「ほー、なかなか様になってんじゃねぇか?」
「そうですかね?」
二日後の朝。ダンジョン探索の準備を終えたガイが背負うのは一日かけて削り上げ持ち手代わりに布を巻き、武器に見える出来栄えに仕上がった巨大な木刀であった。
道端に打ち捨てられていた木材が大剣のように見えた事から気になって武器の形に整えてみたが思ったより良さそうだと思っていた所をタラニスにも褒められたガイは若干口の端をニヤつかせている。
「んじゃあ今日はルゴスんとこのと一緒に行くんだな?」
「はい、終わったら一緒に飲みに行くんでいつも通り迎えに行きますよ」
部屋を出て扉に鍵をかけ、朝の街へと歩み出す。
少しずつ変わっていきながらも巡っていく日常の一コマであった。
※現在原作より9年前の初夏〜夏頃
…9年前の時点で「冒険者狩り」は4階層より上には出ないというのはオリ設定です。(作者は稼ぎが少なめな新人をわざわざ狙わないだろう、と解釈しました)
そもそも冒険者狩りが暗黒期の全ての時期で起こっていたかも不明だし……
タラニス・ファミリア
…まだまだ余裕は無いが少しずつ進んでいってる。
:ガイ…良さげな武器を見出せてご満悦。170C強という数字は元ネタの演者さんの身長を元に少し低くしたもの。プロローグ(=原作と同じ年)の頃には180Cに至っている。実はルゴス・ベレヌス・タラニスの三派閥の新人の中で一番デカい。
:タラニス…未だにバイトは続いてる。今回は出番少なめ。
ベレヌス・ファミリア
…派閥を立ち上げたタラニスをどうするか決めかねていたがベレヌスの意向でバイトは継続させる事になった。もちろん帳簿とかの重要なものは任せていない。(派閥立ち上げる前からの事ではあるが)
:ベレヌス…「一人でブラつかせるのも心配だ」と天界でも同郷であったタラニスがバイトを続ける事を認めてる。
:アモル…またしてもチョイ役。やって行けそうだったので新人冒険者も兼業する事にした。名前の由来も苗字もちゃんとある。けどまだ出さない。
ギルド
:ナタリー・メノワ…26歳女のヒューマン。9年前の時点で原作に出てきたローズさんクラスのベテラン。(ローズさんは原作時点で28歳のようである)厳しめではあるが面倒見のいい方。ギャップに惚れる人も多い。趣味は筋トレ。Lv.1クラスだと普通に痛がるくらいの筋力はある。名前の由来はウルトラマンオーブの登場人物ナターシャ・ロマノワと夢野ナオミから。