学祭という学校全体が楽しい雰囲気に包まれる日。
そんな雰囲気がそうさせたのか、麗華の新しい一面を見る事ができた。
露店が立ち並ぶ通りを往復してきた僕らは、ベンチに腰掛け戦利品を片付けていた。
浪費の限りを尽くしたせいか、食べきれるか心配になるくらいの食べ物がある。
それを片付けていると、麗華がボーっとスーパーボールを眺めているのが目に入った。
さっき苦労してゲットした唯一の戦果だ。
「麗華さんにも苦手な事があるんだって事」
「苦手ではないわ。たまたま上手くいかなかっただけよ」
「ふっ、そうだね」
「分かったわ。佐藤君がそう言うなら、証拠を見せるわ」
そう言うと麗華は立ち上がり、一人歩いて行こうとする。
しかし僕は、そんな麗華の手を反射的に掴む。
急に引き留めてきてどうかしたのか、そんな文句をも含む視線でこちらを見てくる。
僕だってなぜ麗華の手を掴んだのか分からない。
それらしい理由を探すため、辺りを見渡す。
すると、丁度いいタイミングで理由が歩いてきていた。
「あ、あれだよ、麗華さん。見るからにコケそうでしょ?」
僕の視線を追って麗華がそちらを見やると、納得したように振り返る。
「そうね。お礼を言うわ、佐藤君」
「どういたしまして」
あの一斗缶を持った女子が通ったのは、偶然だったのだが麗華が納得したのならばそれでいいだろう。
それから僕らは並んで戦利品を片付けた。
あの女子はやっぱり転んでしまって、油がえらい事になっていた。
オレンジ色の明かりが校舎を照らし始めた頃、チャイムが鳴り響く。
本日の部が終了する合図だ。
僕らは手早く荷物をまとめて、帰宅の途につく。
いつもの路地で、並んで歩く。
会話の内容は勿論、昼間の学祭の事だ。
「楽しかった?」
「悪くはなかったわ」
「そっか」
無表情で麗華はそう言ってのけるが、微笑でもってその言葉が嘘ではない事を証明して見せる。
やはり麗華は表情が乏しいだけで、普通の可愛らしい女の子なのだ。
おもむろに、麗華はポケットからスーパーボールを取り出す。
「そんなに気に入った?」
「初めて取ったんだもの。お祭りなんて行った事なかったから」
ただただ自分の経歴という事実を述べただけ。
そこからは何の感情も感じられなかった。
しかしそれでも僕は、黒だけじゃない。
麗華が本来持っているたくさんの色を見てみたい、そう思うのだ。
「これから沢山新しいを見つけに行こうよ。スーパーボールなんて飽きたわ。なんて言うくらいにさ」
「……そうね。佐藤君なら見せてくれる気がするわ」
「勿論だよ。まずは明日、午前中はシフトをこなさないと」
「そうね」
今日確認したが、僕のクラスの出し物はコスプレ喫茶だそうだ。
いかがわしい名前な気がするが、そんな事を思うのは男だけなのだろうか。
ピンクな想像に苦笑していると、目の前を小さな物体が跳ねすぎていく。
どうやらスーパーボールを落としてしまったらしい。
その特性をいかんなく発揮して、どんどんと跳ねて遠ざかっていく。
それを追いかける麗華。
流石の運動神経で見事にキャッチして見せるが、少し遅かった。
曲がり角から突然飛び出してきた小学生。
反射的にそれを回避したまでは、良かった。
最悪なのは避けた方向。
麗華の体は道路へ飛び出してしまった。
不運は繋がり、麗華は着地を失敗し足をくじいてしまう。
その場で尻もちをついた麗華。
運命のように近づいてくる猛スピードの自動車。
その瞬間は一瞬だった。
不愉快な衝撃音の後、道路には赤い花が咲いていた。