狩人テペスの冒険 作:ヤングフンター
(獣狩りの夜を抜けた狩人、テペスはヤーナムを飛び出し、気がつけばオラリオにいた)
(途方に暮れていた彼はロキに拾われ、彼女のファミリアの団員として新たな生活の場を手に入れたのだった)
薄暗い洞窟の中を練り歩く男が二人いた。一人は平々凡々とした容姿に覇気のない雰囲気だが、その身を鎧で包んでいる。腰にある獲物は使い込まれた上等のロングソード。達人とまではいかないが、己の手足のように扱える程度には彼、ラウルの技は磨かれている。しかしそんな風体であっても不安げな表情を浮かべ、隣を歩く人物を横目に観察していた。
二人は敵ではない。仲間だ。ラウルの隣の男は最近ロキが連れてきた新人であり、ラウルは彼の教育係を任じられた。この、鎧の上から夜闇に溶け込むような黒装束を纏い、至る所に荒縄を吊り下げている不吉な気配の男の。
何よりラウルを不安にさせるのはテペスの獲物だ。禍々しく弓形に反り返った巨大な斧。柄にはブードゥーめいた包帯が隙間なく巻きつけられ、刃は乱雑な手入れにより歪んでいた。これに切り付けられれば傷口は見るも無惨な有様となるだろう。
「あの……り、立派な斧っすね!」
「あん? ええ。こいつはお気に入りでしてね。ずうたいばかりデカい雑魚の頭をかち割ったり、みっともなく群れるカスどもを薙ぎ払うには最適なんですわ」
物騒な物言いにラウルは慄いた。しかもテペスは気取った風ではなく、ごく自然に「当然だ」という態度で言い放ったのだ。
(ちょっとこの新人、ヤバいんじゃ……)
薄暗いダンジョン、狭い回廊、目撃者は誰一人いない。ラウルは今にも隣の黒装束の新人が自分に斧を叩きつけて来るのではないかと、戦々恐々としていた。無論、杞憂である。
二人は回廊の奥へ奥へと進み、その集団に出会った。子供か小人ほどの身長しかない緑色の肌の怪物、ゴブリンだ。このダンジョンにおいて最弱のモンスターであり、頑張れば子供でも倒せる弱敵。故に倒したところで得られる物は乏しく、せいぜい新人の小遣い稼ぎか新しい魔法や武器のテストに倒される程度だ。
「ああ、よかった。ちょうど良さそうなのがいて。じゃあ、あのゴブリンどもを倒してみてほしいっす。心配しなくてもいざと言うときは俺が」
ラウルが言い終わる前にテペスは駆け出していた。彼は地面を一歩踏むだけで急加速し、一瞬でゴブリンの前に立つと斧を振り上げた。
「ギョッ!?」「死にやがれ」
ギロチン刑のように振り下ろされた斧はゴブリンを二体同時に袈裟斬りにした。後には戦いというのもおこがましい程の殺戮。ゴブリンの群れは十秒も経たない内に皆殺しにされた。
「終わりか?」そして何事もなかったかの様な態度のテペス。血塗れな黒装束は対照的すぎる。
「わ、わあー凄いっすね。ゴブリンとはいえ、新人があっという間にモンスターを全滅させられるなんて」
「研修はこれで終わりですかい?」
「あ、いや、まだやることがあるっすよ」
ラウルはテペスの近くまで来ると、腰から短剣を取り出してかがみ込んだ。そしてゴブリンの死体をマグロのように解体していく。手慣れた物だ。
「モンスターを倒したら、こうやって解体して……ほら、魔石が取れた」「お!?」
テペスが驚きの声を上げる。魔石を取り出した瞬間、ゴブリンの死体が変色し、灰となり崩れ去った。
「ああ、モンスターは魔石を取り出すとこんな風に消えるんすよ」
「……変な生き物だな」
「でも俺たち冒険者は基本的にこの魔石を売って生活するんすよ」
ラウルは短剣をテペスに差し出し、モンスター解体をやらせた。雰囲気的にそつなくこなせそうだなとラウルは思い、それに違わずテペスは解体をすませ、魔石を取り出した。
「この、ゴブリンの魔石一個だとどれくらいの金になるんですかい?」
「そうっすね。だいたい10から20ヴァリスってところっすかね。ゴブリンなんて一匹倒した程度じゃジャガ丸くんも買えないっすよ」
テペスはジャガ丸くんなる物は知らなかったが、ラウルの口ぶりからして対して高価な物ではないのだろうと当たりをつける。それと同時にゴブリンをわざわざ相手にする必要もない、無価値な存在だと認識する。
「そーっすねぇ。ロキからはテペスさんが現状、どのくらいの実力があるか確かめてほしいって言われているし、階層を下げてみましょうか」
「下に潜れば敵も強くなるってことですかい?」
「そっす」
テペスはかつて、力を求めて神の墓を盗掘した事を思い出した。あそこも階層を下げるほど敵が強くなる場所だった。
「大丈夫っすよ。やばくなったらすぐに加勢しますから。俺、これでもレベル4なんすよ」
「頼りになる先輩でなによりですわ」
そうして二人はダンジョンのさらに奥へと降っていく。
「バウッ! バウッ!」犬の頭に人間的な身体付きのモンスター、コボルトの群が現れた! 複数体による連携攻撃は脅威だ!
「犬は嫌いだ」テペスはコボルトたちが牙や爪を剥き出しにする間も与えずに皆殺しにした!
「おー、コボルトの群れまで! こりゃ期待の新人っすよ!」「ども」
二人は更に奥へと降っていく。
「キシャーッ!」巨大なトカゲモンスター、ダンジョンリザードが現れた! 巨体を生かした体当たりは脅威だ!
「爬虫類は嫌いだ」テペスは斧の柄を両手で握りしめると、両端に向けて割るように伸ばす! 柄が延長され、ハルバードと化した斧がダンジョンリザードを3枚におろした!
「な、なんすかその斧!?」「あん? かっこいいでしょ?」
二人は更に奥へと降っていく。
「ーーー!」人間の影がそのまま立体化したようなモンスター、ウォーシャドーが現れた!長い腕の先にあるナイフめいた爪により何人もの新人冒険者を葬ってきた強敵だ!
「真っ黒なやつは嫌いだ」テペスは腰のホルスターから大口径のピストルを抜き放ち、丸い鏡のような顔を撃ち抜いた!
「銃なんて持ってたんすか!?」「迎撃にぴったりなんですわ」
二人は更に奥へと降っていく。
「プギャー!」身長2Mを超える頭が豚の全裸の巨漢モンスター、オークが現れた! 巨体怪力に加え、このフロアに乱立する枯れ木を引っこ抜いた素晴らしい棍棒を武器として使う強敵だ!
「豚は大嫌いだ」振り下ろされる棍棒に合わせ、テペスがオークの腹に向けて銃撃! 体勢を崩して膝をついたオークの土手っ腹に空いた穴に手を突っ込み、力任せに内臓を引き摺り出して殺害!
「ウゲェーッ!」ラウル嘔吐! 「銃ってのはこうやって使うんですよ。……ちっ、デブのくせに血晶石はなしか」
テペスは更に奥へと降ろうとする。
「ちょ、ちょっと待つっす!」そこへラウルが立ちはだかる。口元はヨダレまみれだ。
「何か問題でも?」
「ち、ちょっと流されて階層を下げすぎたっすよ! 取り敢えず、今日は帰るっす!」
「俺はまだまだ殺したりない……アー」
突然テペスが頭を抱えてうずくまった。
「ど、どうしたんすか?」
「ちきしょう……違う、そうじゃあないだろ。落ち着け俺、冷静になるんだ」
ぶつぶつと、何かを呟くテペスは肩に置かれたラウルの手にも気づいていない様子だった。ようやく頭から片手を離したかと思うと、彼は懐から円柱状の瓶を取り出し、兜の格子の隙間から口の中へと内容物を流し込んだ。
「大丈夫すか?」
「アー、すんません先輩、口答えして。そうですね。今日は帰りましょうか」
「そ、そうすか。まあ、冒険者ならダンジョンには好きな時にこれるんすから。今日はゆっくり休んだほうがいいっすよ」
テペスは頷いて斧を背負い、ラウルと共に帰路に着くのだった。
「ところで、テペスさん嫌いな物多すぎない?」「あんなクソみたいな街で一晩過ごせばそうなりますよ」