狩人テペスの冒険 作:ヤングフンター
読者の皆様に感謝を述べます。
いつもご愛読ありがとうございます。
そして素晴らしい原作と、原作者様製作者の方々にも感謝を。
「ニック! 大丈夫!?」
ピーシャは吹き飛ばされてきたニックに駆け寄る。
「あ、ああ。クソっ、しくじったぜ。ぐおぉっ……!」
強がって見せたニックであったが脇腹から出血している。しかしこの程度ならば手持ちのポーションで応急処置はできるだろう。
「俺はいい! それよりも、テペスの援護を! 体感だが、あのモンスターはレベル4相当の力がある! レベル1じゃ勝てない!」」
ジーザス! レベル4と言えば下層に足を踏み入れても十分通用する実力だ! レベル3のニックが倒されたことで言葉の重みが増す!
「シッ! シッ! オラァ!」
だが見よ! テペスはそのレベル4相当のモンスターに全く引けを取らない! 右! 左! 後ろ! 時には前! 瞬間加速的なステップを繰り返して凶悪な鉈の攻撃を紙一重で回避し、さらに隙を見て斧を叩き込もうとしているではないか! しかも斧が鉈に当たった瞬間、山羊頭の巨体を揺らしている!
山羊頭は防御で言えば堅牢。銃撃で体制崩しをする隙はない、全ての弾丸は弾かれている。だが素早さはテペスの経験の中では遅い方だ。そこに付け入る隙を見出そうとしている。
「オイオイ……あいつマジに新人なのかよ!?」
ニックの驚愕は誰もが共感するところだ。オラリオ、いや世界においてレベル差とは絶対。なんらかの武術の達人であってもレベル1であったのならば、レベル2の武術未経験者を倒すためには全力で挑まなければならない。ましてやテペスと山羊頭の差はニックの推定ではあるが、数字二つも差がある。常識的に考えるなら鼻息一つで消し飛んでもおかしくはない。
だがどうだ? テペスはレベル3の先輩冒険者よりも粘り強く戦っているではないか! これはロキさえも知らないことであるが、ヤーナムの悪夢に囚われた狩人は殺害した敵の血、その中に流れる意志を仲介を挟んで継承し、己の肉体を強化することができるのだ。
今のテペス、耐久力に関してはレベル3程度だが、筋力はレベル4! それもレベル5に近い値と考えていいだろう!
テペスはあのヤーナムを駆け抜けた。凶悪凶暴な獣だけではなく、気色悪い宇宙悪夢的ナメクジどもでさえ退けてきた。トラウマ級の犬ならともかく、この程度の敵にやられる道理はない!
「死ね!」
斧が鉈を弾く! そこへ追撃をかけようとするも、山羊頭は信じられないほど身軽なバク転で回避! 「チッ!」追撃の発砲! しかしそれも弾かれる! またも仕損じた!
(力、身軽さに加えて、あたまがいい。ウゼェな……まるで狩人を相手にしているみたいだぜ)
格子状兜の下でほくそ笑みながらテペスは毒づいた。心臓が高鳴る。
「しかたねぇ。こいつぁとっておきなんだぜ」
テペスは懐に手を伸ばすと、棒状の物を取り出した。もともとは白かったようだが、古ぼけた黄色に変色している。彼はそれを握りしめ、祈るように掲げる。するとテペスの足元から風が舞い、埃を波紋状に吹き飛ばした。
「!」
誰かが瞬きした一瞬のことだった。時間にして一秒にも満たない、本当に短い間に、テペスは山羊頭の鼻先まで肉薄していた!
「死ね!」
下から振り上げられる斧! 山羊頭はとっさに後方へ飛ぶ! だがその足が地面の土を踏んだのと同時に、山羊頭の腹筋から胸板にかけて一本の線が走るように血が吹き出した!
「アッハハハハ! どうしたぁ!? 出血したみてぇだなぁ!」
その鮮血を頭から被り高笑いを上げるテペス! 明るい赤色のサラマンダーウールが、赤黒く染まる! そしてまた誰かが瞬きした瞬間にテペスは移動していた。今度は山羊頭の右側だ!
「アッハハハハ! 血ィ見せろァッ!」
上段からの振り下ろし! またもバク転回避! だがやはり血が噴き出る!
「もう、何が何だか……」
ピーシャは疲れたように座り込んでしまった。テペスの動き回る姿が色付きの風にしか見えない。口が悪い陰気なレイシストかと思えば、高笑いしながら強力なモンスターと斬り合っている。あまりの豹変ぶりに脳の処理が追いつかない。
「うおおおい! 誰か手伝ってくれ!」
誰もが忘れていた。ロイドが未だにヘルハウンドと戦っていることを!
「っ! すぐに行くわ! ピーシャ! ニックをお願い!」
エーリアはロイドの救援に向かう。残されたピーシャは震える手でポーションを取り出し、ニックの口に注ぎ込む。
「ゲホッ! ゲホッ! あ、あんがと……」
「いいえ……何なのかしらね、あの新人」
ピーシャが遠い目で見つめる。テペスは更に高笑いを上げながら山羊頭を切り刻んでいた。
「どうしたよ!? やり返してみろよ!」
速度を上げ、山羊頭を翻弄する。このままでいればテペスの勝利は確実だ。子供が見てもわかるほどに一方的。
「!」
しかしここで山羊頭の骨の隙間に潜む目が赤く光った! 山羊頭はテペスから大きく距離を取ると、これまた大きく鉈を振り上げ、そして豪風のような一振りを繰り出した! 何故だ!? この距離ではテペスに当たる筈もない。血を流しすぎて朦朧としたか!?
「うごぉ!?」
何が起きた!? テペスの身体が吹き飛んだ! そして周りの岩壁が、天井が! 粉々になって飛び散る!
「!?」
ニック困惑! ピーシャ困惑! 状況が大きく一変した! 倒れ伏したテペスを見よ。ジーザス! 金属の鎧が引き裂かれ、傷口はみるも無惨な有様となっているではないか! 切り裂かれ、抉り取られ、肉片を辺りにぶちまけている!
何が起きたのか? よもや山羊頭は隠し球として魔法を有していたのか? 否! 刮目せよ、その大鉈を! 伸びていた! 刀身が伸びていた! 荒々しく、重たく、乱雑な刃が百足のように分割しており、さらに刃同士が肉の繊維で繋がっていた! 筋繊維か神経か、それらが振りかぶる勢いに乗って伸び、鉈の攻撃範囲を何倍にも増大させたのだ!
「クソがぁ!」
なんたることか、テペスは立ち上がった! 見るからに致命傷、エリクサーであっても助かるかは半々といった傷にも関わらず、テペスはまったくたじろいだ様子がない! 彼は懐から大きな注射器を取り出すと、それを自らの太ももに突き刺し、中の赤い液体を注入した。すると傷口がまるでなかったかのように消えた。
これこそが狩人! テペスを活かすのは肉体の反応などではない。生きる力、その活力が尽きぬ限り、例え内臓を抉り出され、脳を喰われたとしても戦い続けることができる! そして注射器の中身は生きる力がみなぎった輸血液!
「やってくれたなダボが!」
口調は勇ましいがテペスは攻めあぐねている。とてつもない威力の鉈が目にも留まらぬ速さ、そしてとてつもない範囲で遅いかかってくるのだ。無策で突っ込めば一瞬にしてミートパイにされてしまう。かと言ってまごまごしていても、山羊頭は攻めてくるだろう。そうなるとテペスごと後ろのニックとピーシャがミートパイだ。
残る手段は一つしかない。
「ハイマウスさん!」
「な、何よ!?」
ピーシャの声が上擦る。
「派手なのぶちかましてくだせぇ!」
「生き埋めになるわよ!」
「じゃあさっき使おうとしてたやつ!」
ピーシャは先程魔法を使おうとしていたがびびって中断してしまった。だがこのような閉所で使おうとしていたということは、エーリアの【スティングレイ】と同じく、鋭い攻撃である可能性が高い。テペスはそれに賭けた! 後はピーシャが奮い立つかどうかだ!
ピーシャは目を強くつむり、頭を抱え込む。
(「危険」「恐怖」そして「未知」! 神々が降臨するより前から、私たちの先祖はずっとそんなヤバいものと戦ってきた! 私の目の前にはその全部がある! 思い出せ! 私だってレベル2、一度全部を乗り越えてきたはずだ!)
ピーシャは震える足を立たせた! その手には杖!
「【火線 一閃 一番槍】」
詠唱開始! テペスは命を賭してこれを守らなければならない。さもなくば皆が死ぬ!