狩人テペスの冒険   作:ヤングフンター

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 山羊頭が一歩踏み出す。先程の伸びた鉈の長さを考えると、後三歩踏み出されたらピーシャが射程距離内に入ってしまう。レベル2の彼女ではあの一撃を喰らえば一瞬でミートパイだ。山羊頭が更に一歩踏み出そうとする。

 

「させねえよ!」

 テペスが地面を蹴る! 真っ直ぐに山羊頭の懐に飛び込むつもりだ! そうはさせじと山羊頭がムカデ鉈を振り上げる! 来るぞ、目にも止まらぬ強烈な一撃!

テペスは身を低くしてくぐり抜けの体勢に入った!

 

 振り抜かれた! その瞬間に前ステップ! 同時に壁が破壊されるがテペスは無傷で通り抜けた! しかし、おお、ジーザス! 山羊頭はもう片方の鉈も振り上げているではないか!

 

「!」

 慌ててテペスは足を止めて斧を下から振り上げる。直後に天井が粉砕され、ガキンッという音と共にテペスが後ろに飛ばされた! 予想がつくだろう、もう片方の鉈も伸びる! ジーザスファック! 避けたところへ次の攻撃が叩き込まれるのであれば隙がないではないか! なんたる理不尽!

 

「クソが! ナメやがって!」

 頭に血が昇るテペス。だがそれで状況が良くなるわけもなし。山羊頭がまた一歩踏み出す。だからテペスは寝ているわけにもいかない。届かぬと分かっていても向かわなければ、後ろにいる仲間まで土の下に眠ることになるのだから!

 

「【速き獣 燃える闘志 飢える牙】」

 ピーシャの詠唱は中盤まで差し掛かる。あとほんの十秒の時間を稼げば良いのだが、その短い時間を確保するのがとんでも無く難しい。山羊頭がもう二歩踏み出し、ムカデ鉈から高速で強烈な一撃を繰り出すのには五秒もいらないだろう。そうなればピーシャは壁のシミとなる。

 

 一旦、テペスは血が昇る頭を振って落ち着かせる。懐から取り出した鎮静剤を乱雑に飲みながら考察した。一振り目は避けることができた。二振り目は咄嗟に弾こうとして逆に弾かれた。それは自分が軽く、脆いせいだ。ならばと、テペスは鎮静剤の瓶を投げ捨て、それとはまた別の瓶を取り出し、中身を飲み干した。オーバードーズ! この間一秒!

 

 その間にも山羊頭はまた一歩踏み出していた! これ以上は進ませられない。テペスは地面を何度も蹴ってステップを繰り返す! またムカデ鉈が振り抜かれた! その瞬間に前ステップ! 同時に壁が破壊されるがテペスは無傷で通り抜けた! しかし、やはり! 山羊頭はもう片方の鉈も振り上げている! ステップ回避は間に合わない! またも無様に吹き飛ばされるというのか!?

 

 だが見よ、テペスは回避も防御もする素振りがない。寧ろここを狙えと言わんばかりに左肩を差し出しているではないか! どういうことだ! 恐怖に呑まれて自殺願望でも生まれたか!? 当然の如く振り下ろされるムカデ鉈!

「うぐえええええ!」

 鉈がテペスの肩に刺さり、胸まで引き裂く! 夥しい量の血が活力と共に流れ出す。

 

「【は、ひ、はひへ……】」

 ジーザス! あまりにもショッキングな光景に詠唱を紡ぐピーシャの口が震える! そして彼女の太ももをつたい落ちる液体により、足元に水たまりができた!

 

「ファアアアアアックッ!!!」

 だが見よ。活力がまだあるテペスは生きている。そして左腕と右腕でムカデ鉈に組みついた! なんたる力技! これでムカデ鉈の片方が封じられた! さしもの山羊頭も大きく狼狽し、無理矢理引き抜こうと力を込めるが、まるでビクともしない! 巨大な鉛の塊に絡まったかのように、全くムカデ鉈を動かすことができない!

 

 テペスが鎮静剤の後に飲んだのは鉛の秘薬。謎めいた製法によって作られたこの薬は服用者の比重を高め、攻撃による退け反りを大きく軽減する代物だ。しかし防御力が高まるわけでもなく、自身の動きも鈍重になるためステップによる強引な移動しかできなくなるというデメリットも存在する。

 

「ピーーーシャーーーッ!!! 攻撃をしろォーーーーッ!!!」

 激痛と激動により叫ぶテペス! その瞬間に様々な感情が爆発したピーシャは涙の浮かぶ目を釣り上げ、怒鳴るように詠唱を再開した!

「【走れ! 凶気の野獣! 矮小な獲物を追い立て! 貪り尽くせ!】」

 魔法陣が強烈に光る! 詠唱完成!

「【ナルキネン・ススィ】」

 

 杖の先端から炎が飛び出す! 円弧を描くような軌道を辿りながら、それは狼の形となった! テペスの脇をすり抜け、山羊頭へと突撃していく!

「!?!?」

 山羊頭は大慌てでもう片方の鉈で炎の狼を斬りつけるが、実態のないそれを消す事などできない! 山羊頭は炎に飲み込まれた! 悲鳴だろうか、野太い雄叫びが洞窟内を何回も跳ね回る。ピーシャは思わず身を縮こませた。

 

 その悲鳴も徐々に小さくなっていき、最後には炎に飲み込まれた。その様子に息をついたテペスは鉈を肩から引き抜き、輸血液を取り出そうとする。だが脱力して膝をついてしまった。狩人と言えど疲労には弱いらしい。

 

 その時、炎が動いた。

「……!」

「ウグェー!?」

 テペスの首が炎の塊に掴まれる! ジーザス! 山羊頭は生きていた!

「そんな!」

 ピーシャは思わず駆け出す! 呪文を詠唱している暇などない! 杖で殴るより助ける方法はないと無意識のうちに悟ったのだ! だがレベル2の犬人とはいえ、彼女は魔術師。地面や壁に叩きつけられ、テペスミートパイ製造を阻止するには間に合わない!

 

 炎が消え失せ、黒焦げの山羊頭が姿を表す。 鉈はもはや手放し、右腕は肩口から完全に吹き飛んでいるが強靭な生命力を持って未だにテペスを殺そうとしている! テペスは鉈を掴むために斧も銃も手放しているため、抵抗ができない!

「は、離せ……!」

 

 ああ、なんたることか。ここまできてテペスは命を散らしてしまうのだろうか? 山羊頭がテペスを大きく持ち上げる! 地面に叩きつけるつもりだ!

「ダメえええええええッ!!!」

 ピーシャの悲痛な叫び! だが山羊頭は止まるつもりはない! 危うし!

 

 その時、山羊頭の胸から刃が生えた。バックスタブ!

「!?!?!?」

 狼狽する山羊頭。全身の火傷のせいで痛みこそなかったが、その腕から力が抜ける事だけは自覚することができた。

「なんとか……! ぶちのめしたぜ!」

 ところどころ焼け焦げたロイドだ! 後ろにはエーリアもいる! ヘルハウンドを倒した二人が間一髪割って入ったのだ! そしてピーシャの脇をすり抜け、落下するテペスを抱き止めたのは回復したニックだ! 彼はテペスを回収して素早く後ろに下がった!

 

 直後、山羊頭に変化が訪れる。周囲の光が山羊頭の身体へと吸収されていく。そして光が吸われた箇所からその体は色を失い、全身が真っ白になったところで山羊頭の身体は崩れ去った。モンスターの肉体から魔石を取り出した時の普段の灰化反応とは異なる、今まで見たこともないような死に様だった。

 

「む、無茶ですまねぇよ、新人……!」

 ニックはテペスを回収し、再び後ろに下がりながらその傷を見ていった。先程の輸血を見ていなかったため、もはやテペスは助からないと思っている。だが、それでも、遺体だけではなるべく綺麗な状態で回収しようと動いたのだった。

 

「死んでねぇし、死なねぇですよ。ニックさん」

「もういい……もう、喋らなくていいんだ!」

「テペス……最初は常識知らずのいけすかない奴だと思っていたけど、貴方の事、絶対忘れないわ」

 横たわったテペスを囲んで、歯痒そうに顔を歪める面々。激痛に苛まれながらテペスは(違うんだよなぁ)と一人ごちていたが、肝心の手に力が入らない。

 

 ふと、その時ピーシャが割って入り、テペスの顔をみつめる。

「ピーシャ?」

「さっきの、ポーション? それはどこにあるの?」

「……右側のポーチの中に」

「そう……」

 それだけ呟くとピーシャはテペスのポーチを弄り、輸血液の注射器を取り出した。

 

「お、おい。何を……」

「この辺りだったかしら?」

 ピーシャは少しも躊躇することなく、テペスの太ももに針を刺し、輸血液を注入した。

「ああ……いい」

「「「!?」」」

 一同は驚愕する。どう見ても心臓にまで達していた巨大な裂傷が、見る間にうちに治っていくのだから。

 

「よっ……とと」

「立った!? お、おい! 大丈夫なのかよ!?」

 よたよたと立ち上がるテペス。彼は人の輪から抜けると、埃を払う仕草をして調子を整えた。

「じゃあ、残りのヘルハウンドの牙を……」

「帰るのよバカ!」

 ピーシャの叱責!

 

 こうしてテペスたちは、

 悪魔を狩った。

 

 




 いつも応援ありがとうございます。

 どうやって倒すんだよと頭を抱えていました。
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