狩人テペスの冒険 作:ヤングフンター
「ほら、口開けなさいよ」
ピーシャは左手のお椀からおかゆを一すくいし、それを差し出した。テペスは目だけを動かしてそれを確認すると、自動的に口を開いて受け入れる。食いでもかみごたえもない半ば液状化した麦粥を、口を濯ぐようにして細かく砕き、飲み込む。
「……」
「なんか言いなさいよ」
「……あざす」
短い、投げやりな感謝にピーシャは仏頂面になる。
「何よそれ。わざわざ看病してあげてるんだからもっと感謝しなさいよ」
「……ええ、感謝してますぜ。これ外してくれんなら靴を舐めてもいいってくらいにね」
ピーシャは顔を引き攣らせ「きっも」と呟いた。テペスは疲れたように天井を仰ぐ。別段ピーシャに対して何か思っているわけではないが、思っていたとしても今の彼では何もできない。何故ならベッドに拘束されているから。動くには苦労しないが、ベッドから出られないように手足に枷をはめられ、鎖がベッドの足に結ばれている。
「あんな大怪我しておいて、よくもまあ今日もダンジョンに行こうだなんて言えたわね。信じられないわ」
木スプーンをおかゆに浮かべ、ピーシャは眉間を抑える。
「いや、ホントにもう大丈夫だって……」
「どこに心臓までぶった斬られて大丈夫って言う馬鹿がいるのよ!? 頭脳がマヌケなんじゃないかしらッ!」
激昂したピーシャが立ち上がりテペスの額に指を立て、そのまま指の腹をぐりぐりと押し込む。
「少なくともあと二日は絶対安静! これはロキや団長からの指示でもあるんだから大人しく従いなさい!」
そう言ってピーシャはおかゆをすくい、テペスの口の中に強引に突っ込んだ。
「……」
「そういえば」
ピーシャの耳が立つ。
「あんた、あの時どさくさに紛れて私のこと呼び捨てにしたわね?」
非難めいて目を細めるピーシャ。テペスは(まずかったかな)と、ほんの少しだけビビる。
「……あん時は失礼しまし」
「それでいいわ」
ピーシャはおかゆでテペスの口を塞ぐ。
「さん付けはいらない、敬語もいらない。私の事はピーシャって呼び捨てにしなさい」
「え?」
「わかったらピーシャって呼んで」
「……ピーシャ」
名前を呼ぶ。それだけの事だったが、ピーシャは満足げに笑みを浮かべる。テペスが初めてみた彼女の笑顔だ。
「よろしい。じゃあ口を開けて。足りなかったらおかわりも持ってきてあげるから」
そうしてピーシャはおかゆをすくって差し出した。
◆
「テペスはどないしてる?」
「ベッドに縛りつけておいたよ。ガレスさんとレフィーヤが来なかったら俺たちを引きずってでもダンジョンに行くつもりだったな、ありゃ」
ロキの部屋でロイドは報告をしていた。ロキの隣にはフィンもいる。頬に絆創膏を貼り付けたロイドは疲れた様子で肩を落とし、ため息をついた。
「ごくろーさん! ロイドもゆっくり休んでな」
「ああ。それじゃあ失礼するよ。ロキ、団長」
ロイドが部屋から出て行く。それを見送ったロキは笑顔をを消し、頬杖をついて横目にフィンを見る。
「新種のモンスターとダンジョントラップ。それに強化種か。彼等も災難だったね」
「無事に帰って来れて何より……っちゅー話だけで、すみそうにもあらへんな」
報告を聞いたロキとフィンの考えは一致していた。レベル3のニックが敵わなかったレベル4相当のモンスターを相手取り、互角以上の戦いを演出したというではないか。神の恩恵、それがもたらす物の常識からしては考えられない。
「遠征がいよいよ明後日だというのが、本当に惜しいくらいだ。テペスの異常性を調べるには時間が足りない」
「戻ってくるまではウチに任しとき。なるべく聴きだすつもりやさかい、フィンは遠征に集中しといてや」
ロキはフィンから視線を外し、ちらりと彼の傍に立てかけられた鉈を見る。山羊頭の使っていた物であり、あのモンスターが消えて尚残った。ドロップアイテムだ。
(まあ、お土産の一つは持っていかんとかな)
それはテペスにこそ相応しいだろう。
【悪魔の大鉈】
モンスターの骨と肉で出来た、巨大な鉈
通常は大きさと質量を叩きつける斬撃武器だが、
柄頭を刺激することで筋繊維が緩み刀身がわかたれ
鞭のように扱うことができる
その性質は獣肉断ちに似ているが、
巨大なため変形後は両手で扱う必要がある
本来は人の手に余る代物だ