狩人テペスの冒険 作:ヤングフンター
ロキはカップに酒を注いでテペスに渡す。彼は喜んで受け取ったが、ピーシャはテペスの看護を理由に断った。そもそもまだ日は高い。飲むには早すぎる。
(タイミング悪いなぁ)
ロキはアイズと同じようにテペスからその強さ、過去について根掘り葉掘り聞き出そうとしていた。酒を持ってきたのも口が割れやすくなると思ってのことだが、それはダメで元々だ。ロキはテペスが酔った所を一度しか見たことがなく、それ以降はいくら飲ませてもケロリとしているのだ。相当の酒豪と見ている。
問題は、先ほどまでのアイズとの言い合い。大して親しくもない彼女がズケズケと入り込んでこようとしたのでガードが硬くなった可能性もあるが、それ以上に過去については何も話したくないという鋼の意志を感じ取れた。だがフィンに任せておけと言った手前、何も収穫なしというわけにはいかない。
「怪我はどうなん? 心臓までぶった切られたって聞いとる割には、元気そうに見えんねんけど」
「ええ……まあ。薬が良く効きましてね」
そう言ってテペスはポーチを自分の近くへ寄せ、布団の中に入れた。この行動がロキの目についた。
(薬ってのは嘘やない。せやけど、ポーチに手を当てたり目をやったりするでもなく、ウチから見えんように隠した? その薬も知られたくあらへん物ってことか……)
深まる疑念。ロキとしてはテペスが悪い奴だとは思わないが、なにやら良くない事を隠していることだけは感じていた。
「いやー! 結構けっこう! 頑丈な子に育ってウチ感動!」
あくまでロキはひょうきんに振る舞い、テペスの背中をバシバシと叩く。
「ちょっと! 怪我人よ!」
「まあまあ、そんな硬い事言わんで。ピーシャたんのお尻のようにやわっこく」
「ガルルル!」
ピーシャは犬そのもののように唸り声を上げ、杖を振り上げる。
「うひゃー! 冗談やて!」
頭を庇ってうずくまるロキ。
「はあ。まったく、そのセクハラにもいい加減うんざりしてるんだけど?」
「いやいや。きゃんわいい女の子を見ると、どうしても愛でたくなるのがこのロキなんやで」
「ハッ! その内訴えられても知らないわよ」
そう言うとピーシャは鍋からすくったおかゆで木皿を満たし、再びテペスに食べさせようとする。
「あ、あー、ピーシャちゃん。ちょっち、テペスにいいかな?」
「何よ?」
取り敢えずテペスと話そうかとピーシャを止めたが、やはり聞き出すのは難しいと判断したロキ。そうなると、テペスの事を知る方法は一つだ。
「ちょっちステイタスの更新がしたくてなあ。危ない経験の後やから、いい感じに伸びてると思うねんけど」
「うーん……テペスはどうなの?」
「たのんます」
そう言うことなら仕方がないと、ピーシャはテペスの両手首と片足の錠を解く。テペスが「全部じゃねーの?」と目で訴えると、ピーシャが「贅沢抜かすな」と睨み返した。
「はいはーい。じゃあ脱ぎ脱ぎしまちょうねー」
ロキがテペスの服を脱がそうと手をかけ、ピタリと止まる。頭を回して見るのはピーシャの方だ。彼女はテペスをじっと見ていた。
「……何よ?」
ロキが薄い目でよーく見ると、ピーシャの頬が若干ながら赤みを帯びていた。
「あー……ピーシャたん? テペスのエッチなお身体が見たいのはわかんねんけど、ステイタスの更新やねん、席を外してくれへんかなー、なんて……」
「へ、変なこと言わないでよ! ちょっと忘れていただけよ!」
ピーシャは乱暴に立ち上がると、ズンズンと足音を立てて部屋から出ていった。
「あのツンツンピーシャがデレたとはなぁ。どんな手品使うたん?」
ロキはニヤニヤと嫌な笑みを浮かべながらテペスの背に頬擦りをする。
「特に、何も……」
「カァーッ! とぼけおってからに!」
ガバッとテペスの服が脱がされる。日に焼けた、浅黒い筋肉質な体が露わになる。その肌を見て、心臓まで斬られたという怪我の痕すら無いことが気がかりだったが、今はステイタスの更新だ。
ロキは針を一本取り出して自分の指を刺し、膨れ上がった血の玉をテペスの背中に、まるで絵を描くように塗りたくる。
「んぐぅ……」
テペスは下唇を噛んで堪える。
「どないしたん?」
「いんえ……なんでも……」
【テペス・ヴィー】
【Lv.1】
力 :7→48
耐久:2→31
器用:4→38
敏捷:6→47
魔力:1→10
《魔法》
【】
《スキル》
【回血リゲイン】
・負傷直後、返り血を浴びる事で生きる力、その活力を取り戻す。
【意志継承】
・血を媒介として他者の意志を受け継ぐ。
【オドンの蠢き】
・内臓攻撃時、敵の内側より三つの水銀弾を見出す。
【爪痕】
・内臓攻撃の威力を高める。
【深海】
・発狂耐性を高める。
「いや、極端やな!」
「うお!?」
思わず叫んだロキに驚くテペス。ロキだって驚いている。今まで危険なソロ探索でロクにステイタスが上がらなかったにも関わらず、一度仲間と死地を経験したら考えられないほど高まっていたのだ。喜ばしいことではあるが、納得できるかは別だ。
(しかも偉業まで貯まっとる。相当やばい経験だったってことか)
偉業が一定以上貯まるとランクアップし、ステイタスが大幅に上昇する。それは強さの証であると共に、その者が試練を乗り越えたという証明なのだ。
このステイタスからはテペスがどのような戦い方をしているのかがわかる。彼は力と素早さを重視する一方で、手先の器用さが求められることもやっている。耐久が上がっているのは今回の戦いでは被弾が多かったためだ。
いままでロクにステイタスが上がらなかったため、テペスのスタイルがいまいち掴みづらかったが、これであらかた把握できたと見て良いだろう。
(後は……)
テペスの過去を聞き出すのみ。しかし、恩恵たる背中の道化師エンブレムに触れた時から、ロキはテペスの中の頑なな意思を感じた。戯けて聞き出すのは無理だろう。
ならば。
「なあ、テペス」
ロキはテペスの正面に回ると、両手で彼の頬に手を当てる。
「昔話をしてほしいんや」
細い目が、開かれており、その声は真剣そのものだった。
いつもご愛読ありがとうございます。
もうしばらくゆっくりとした展開が続くと思いますが、どうかご容赦を。