狩人テペスの冒険   作:ヤングフンター

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 バベルは巨大なショッピングモールだが、何もオラリオの商業の全てがそこへ集中しているわけではない。テナント契約が結べなかったり、景観を考えていたり、自分たちのホームをそのまま店にしたりと、諸々の理由で街の中にもキッチリ商業地区が存在する。

 

「んだよ、銃あるじゃねーか」

 店先にこれ見よがしに飾られた大口径のラッパ銃。流麗な銃身が先にいくほど広がり、ニスが塗られた黒檀のストックがクールな黒の光沢を放っている。側面には公用語で「神の息吹」と刻印されている。あの時、武器屋の店主はオラリオで銃を扱う店はないと言っていたが、こういった所には置いてあるのだ。

 

 昼食を終え、商業地区の服飾店のエリアまでやってきたテペスとピーシャ。洒落た雰囲気漂うこの場所で、テペスの目に留まったのがその銃だった。

「ちょっと! そんなところで油売ってないでこっち来なさいよ!」

 ピーシャに呼ばれたテペスは玩具屋の前から去り、彼女の元へ足を運ぶ。

「あんた銃使うからって、いい歳してコルクガンを子供みたいに見てるんじゃないわよ」

「ほっとけ」

 ピーシャは揶揄うようにはにかみながらテペスの脇腹を突く。

 

「でもさ。本当に、何で銃なんて使っているの? うるさいし臭いし、だんだん通用しなくなってくると思うし。遠距離手段が欲しいなら弓とかの方がいいんじゃない? あんた馬鹿力だし」

「俺ぁ不器用なんだよ。弓なんて使いこなせる気がしねーや」

 以前、テペスは弓矢を手にしたことがあったが、技量不足により使いこなすことが出来なかった。矢を弦にかけるのも一苦労で、放っても明後日の方向に飛んでいくと言う有様。元の持ち主には悪いと思ったが、使い物にはならなかったので悪夢の貯蔵箱においてきた。

 

「いっそ大砲でも担いだら? 豆粒みたいな弾パンパンするよりはマシじゃない?」

「ありゃコスパが悪いから嫌だ」

「……何よ、本当に担いだことがあるみたいな言い方して」

 実際のところ、テペスは大砲を銃のように携行していたことがあったが、重たいでかいかさばるの三重苦に加え、真に恐ろしい獣と相対したときは殴るより多少は負傷させられると言った程度で、これなら距離が空いた時に差し込んだり、協力者への注意を引きつけられる銃の方がマシと思って貯蔵箱に置いてきた。

 もっとも、あの爆発と光は時として快感であったため、たまに引っ張り出して使うこともあったが。

 

「って、違う違う。何で服を買いにきたのにこんな野暮ったい話しなくちゃいけないのよ。この話は終わりにしましょう」

「同感だ」

 そうして二人は硝煙臭い話を切り上げ、取り止めのない雑談をしながら目的の店にたどり着いた。

 

「ここ、ここ」

 ピーシャが指差した店。看板には「ハゴロモ・フェザー・クローク」と機械的な字で記されている。中に入ると二人は明るい雰囲気に包まれた。日向のような光を放つ証明に照らされた、一面が白の壁に覆われた店内にはチェスの駒めいて整列する服を着たマネキンの数々。その間に畳まれた服が積まれた棚やハンガーのかけられたラック。客も多くおり、皆想い想いの服の前で考え込んでいる。

 

「流行が過ぎて買う人が少なくなった服が安く売られている所なのよ。

 でも新品ばかりで、種類も豊富だから流行にキョーミのない人とかは、ここで自分に合った服選びができるってわけ」

 そう言いながらピーシャはテペスとその辺のマネキンを見比べながら、店内を歩き回る。

「どうしようかしら。あんたの雰囲気的に落ち着いた黒や茶にしたほうがいいかしら? でも思い切って明るい色合いにするのも悪くないわね。派手すぎると浮いちゃうし。うーん、どうしようかしら?」

 

 ピーシャは次々に服を取ってはテペスに当てて見比べている。すっかり人形遊びの気分なのだろうか、時折オレンジと赤のまだら模様と言ったとんでもない物まで持ってきていた。

「なーんか、ヤクザっぽいわね」

「着せといてそれかよ」

 黒のスーツは却下された。

 

「あら、これいいんじゃない?」

 ピーシャが着せたのはベージュ色のスーツと、黄土色のベスト。特にベストは幾何学的なフラワーパターンであり、非常に華やかだ。

「派手すぎやしないか?」

「そう? でもすごく明るい感じよ? 親しみやすくはあるわね」

「そういうもんか?」

「ええ。似合っているわ」

「……そうかい。あ、ハットを頼む」

 テペスは最後に山高帽を頭に乗せる。これで完成した。陽気で親しみやすい紳士。今までのテペスとは真逆の印象を抱かせるファッションだ。

 

「じゃあ、次は私のを選んでもらおうかしら」

 そうピーシャが言い出した。

「え? 俺が?」

「そうよ。そろそろ新しい服が欲しいなって思っていたんだけれど、どうせなら他の人に選んでもらったほうが新鮮じゃない」

「だが自信がないぜ」

「変なの選んだらしばくからね」

 

 テペスはまいったなと、婦人服のコーナーを回る。その後ろではピーシャが悪そうな顔でニヤニヤしていた。ちょっとした意地悪のつもりなのだろう。

(勝気で活発的。じゃあ暖色系か? でも下手したらペアルックになりそうだな……)

 チラリとピーシャを見る。今彼女が着ているのは青色のワンピース。どちらかと言うと水色に近く、寒色系にしては温かみがあり、彼女の相貌と相まってやはり活発な印象がある。

 

「やり返しゃいいか」

「?」

 テペスがそうして選んだのは、袖口にフリルがあしらってあるふんわりとした白のトップスに、黒いロングスカート。腰回りには艶やかなベルト。そして厚底のサンダル。

 一変してピーシャの雰囲気が大人らしくなった。

 

「ち、ちょっと上品すぎないかしら?」

「似合ってると思うぜ」

「ふ、ふーん。まあ、せっかく選んでもらったし、これにしてあげてもいいわよ」

 テペスに見えないように顔をそらすピーシャだったが、そうすると体の後ろの方が彼の方に向くわけで、彼女の尾骶部、小さな切れ込みが入ったドレスから出ている尻尾は左右に揺れている。

 

「……」

「な、何か言ったらどう……って、どこみてんのよ変態!」

 ピーシャの叱責。

 

 ◆

 

 互いに選んだ服に身を包んだ二人が次に向かったのは大きな劇場だった。オラリオでは強力なモンスターが産まれてくるダンジョンがある関係でランクアップをし、神々から二つ名を授けられる冒険者が多いが、歴代の冒険者のランクアップに至るまでの過程は本や劇になったりする。

 

 この劇場「ライ・リューグ・ミーンゾグナ劇団」は特に人気だ。綿密な取材、複数の噂話、適当な憶測、過剰な脚色に基づいた派手な演出は若人たちのハートをガッチリと掴んでいる。一番人気はテペスたちロキ・ファミリアの団長、フィンの演目だ。(フレイヤ・ファミリアの面々の劇場化も同じくらい要望が多かったが、等の冒険者たちが怒ったためポシャとなった)

 

「『ダン・マチ〜英雄への軌跡〜』これ観たかったのよねー」

 ピーシャはワクワクしながら、テペスは初めて入る劇場の雰囲気に若干緊張しながら自分たちの席に腰掛ける。

「ほーら、ソワソワしないの。田舎者に見られるわよ」

「こういうとこ初めてなんだよ。多分」

「また多分? もー、自分のことなんだからハッキリさせなさいよ」

 それができるならやりたいよ、と、テペスは内心ため息をついて手元のパフレットに目を通す。

 

 気取り屋で功名心は高いが臆病な青年ダン・マチが困難に苛まれながらもレベル4に至るという、二百年前に活躍した冒険者を基にした英雄譚だ。アルゴノゥトに次いで人気の高い物語でもある。

 

「好きなのよねー。特に巨大なカニに追い回されるところとか、赤い殺人蜘蛛に立ち向かうところとか。ラストの邪悪な太陽に剣を刺すところとか!」

「ネタバレ」

「あっ、ごめん…」

 突然の不幸とはありふれたものなのだ。

 

 そうこうしているうちに幕が上がり劇が始まる。最初は主人公ダンの自己酔狂的な語りから始まり、ダンジョンで緑の女戦士と出会い、東洋から来たという雷使いのドワーフの影に隠れ、やたら強い野良犬に助けられる。

(情けない男だな……)

 と、テペスは最初こそ冷ややかな目で見ていたのだが、ダンは出会いと別れ、小さな勝利の積み重ねにより力を増していき、ついに階層主級モンスター「邪悪な太陽」を倒したのだった。これには素直な称賛の念を抱いた。

 

 チラリとピーシャを見ると、彼女は感動の涙を流していた。今はダンがオラリオに別れを告げてどこかへ旅立っていく、ラストシーンだ。仲間たちや出会った人たちと握手や抱擁を交わし、夕陽の中へと旅立っていく。

 

 実の所、ダンがオラリオを去った理由はわかっていない。この劇では世界を恐怖に陥れる強大なモンスターの討伐のためとされているが、それは脚本家が考えた架空の設定だ。真意は本人と当事者、今は彼の主神だったその神しか知らないが、その神は未だに口を閉ざしている。

 

 尋常ならぬ理由か、あるいは口にするのも馬鹿馬鹿しい理由か。背景を知らないテペスは考察すらできない。

 

 幕が降り、劇は終わった。

 

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