狩人テペスの冒険   作:ヤングフンター

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ゴースティ・レッドブラック・マーダー
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 中層。テペスがあの日、初めてパーティを組んで赴いたあの階層にまた彼は足を踏み入れていた。

 

「オラァ!」

 巨大な鉈がアルミラージ5体を一度に無慈悲な肉塊へと変えていく! その背後から隙ありと飛びかかってくるアルミラージの腹に向けて銃撃! 体勢を崩したところへ、腹の穴に向けて手を突っ込み、内臓を引き摺り出して殺害!

 

「ガアァッ!」

 その間にヘルハウンド3体が距離を取ってテペスを囲んでいた! ジーザス! その口からは煙が立ち上っているではないか! すぐにもテペスを中世暗黒期の火炙りのように丸焦げにできる体勢!

 

「オォ……ルァッ!」

 テペスが大鉈の柄頭を刺激すると強固に張っていた筋繊維が緩み、骨の刃を幾つにも分割させた! 彼はその柄を両手で握りしめて、己の筋力のままに思い切り振りかぶる! 何倍にも伸びたリーチで離れたヘルハウンド3体はまとめてあの世へと旅立った!

 

「何度も言わせんな。犬は嫌いなんだよ」

 巻き上がる血の雨と肉片をたっぷりと浴びながら、テペスは鉈の先端を地面と垂直に叩きつける。その衝撃で緊張を取り戻した筋繊維は再び大鉈を一つの刃に締結させた。

「フーン。じゃああたしの事も嫌い?」

 と、ピーシャが犬耳をピクピクさせながら寄ってくる。

「え、あ、ん、や。んなことねーよ。つか、クソみてーな野犬と獣人を一緒にしねーって」

「アハハハ。冗談よ。あっちも片付いたわ」

 

 ピーシャが来た方向を見ると、両手に突撃槍という独特なスタイルのドワーフ「ネリス」と、その向こうに雷光により丸焦げになった無数のモンスターの死骸が散乱していた。

「まーったく、護衛って苦手なんだがね」

「無理言ってごめんなさいね。地上に上がったらお茶でも奢るわ」

「あたしゃ酒のほうがいいんだがね」

 

 そう言ってネリスは槍を両肩に担ぐ。彼女はレベル3であり今回の遠征に参加しているのだが、遠征組が18階層に行くまでは臨時パーティとしてテペスたちと組んでいる。離れたところには遠征組が遠巻きに見物していた。

 

「しっかしまあ」

 チラリとテペスを見るネリス。

「噂通りだねぇあんた。異常な強さ。あたしゃ自分がちっぽけに思えて涙が出てくるよ」

 ヨヨヨ、と鳴き真似をするドワーフ。テペスは「んなこと言われたってなぁ」とカブトの頭をポリポリとかいた。

 

「それに、よくそんな気色悪い武器使えるね」

 ネリスが槍の柄を振って示すのは悪魔の大鉈。あの山羊頭からの戦利品であり、テペスはロキに献上したが彼女はそれをテペスに下賜したのだ。山羊頭との激戦により耐久性が大きく減少した獣狩りの斧は修理に出し、代わりにこの鉈を持ってきたのだ。

 

「腕振り回すよりゃマシだ」

 かつて拾った気色の悪い腕を思い出すテペス。元の主は死んでいるだろうにも関わらず、その腕はまるで生きているかのように振る舞っていた。驚いたのは協力を要請して現れた狩人が同じものを武器として振り回していたことだったが、ついぞテペスは使うことはなかった。

 

「徒手格闘は苦手かい? 武器が壊れるなんてこともありえない話じゃあないからね。ちゃんと鍛えておきなよ」

 勘違いである。

 

 ◆

 

 ゴブニュ・ファミリアは商業系の派閥だ。建築、家具、彫刻、神棚、お仏壇と、手広い事業を展開しているが冒険者たちが注目するものと言えば、やはり武器や防具だろう。バベルに店を構えていないが、選りすぐりの職人たちが客に合わせて打ち出すオーダーメイド品はロキ・ファミリアやフレイヤ・ファミリアなど、都市最強派閥の冒険者たちからの人気が高い。

 

「オゴゴゴゴ」「アババババ」「ウゲェーッ!」

 しかし、そんなプロフェッショナル鍛冶職人たちが地面に散乱し、苦しんでいるではないか! まるでペストが流行したロンドンだ! 彼らは一様に自身の首を掴み、白目を剥き、泡を吹いている。何があったのか? 流行り病か? テロか? 食中毒か?

 

「こいつぁ……」

 痩せ型の老人、神であるゴブニュが長いトングでその武器をつまみ、離れたところに移動させた。ブードゥーめいた包帯が幾重にも巻き付けられた巨大な斧、テペスの得物だ。

 

 激戦により機構が歪んでしまった斧の修理にゴブニュ・ファミリアを紹介されたテペスが朝一番で置いていったのだが、最初こそ変形する武器とはと興味津々でいじくり回していた鍛冶職人たちだったが、ある時何人かがこのように倒れてしまったのだ。

 

 ゴブニュにはこの斧が何なのか一目で分かった。これはカースウェポン、呪われた武器の類だ。夥しい量の血と強い意志によって強化され、神々も恐れぬ邪悪な呪いが捩じ込まれており、恐るべき深淵に脈動的意志が潜んでいた。

 

 プロフェッショナル鍛治職人たちは武器の作り手や使い手の根底まで読み取ることができる。故にこの武器に込められた狂気と冒涜を備えなしに直視してしまい、このように発狂しているのだ。

 

 読者諸氏に神々の墓を盗掘した経験のあるベテラン狩人の方はおられるだろうか? 今すぐに自分の感覚が麻痺していないかを確かめてほしい。皆様が狂ったように求める血晶石は本来、存在そのものが冒涜。発狂し、精神病院に送られてもおかしくないような邪悪な代物なのだ。それを改めて認識してほしい。

 

「こりゃ無理だ。手に負えねぇ」

 鍛冶の神は匙を投げた。こんな代物のために大事な眷属たちをこれ以上発狂させるわけにはいかない。無論、自分もこの狂気と対話する気はない。この仕事は断るしかない。そうゴブニュはため息をついた。

 

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