狩人テペスの冒険   作:ヤングフンター

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 ダンジョンはモンスターの巣窟であるが、所々モンスターが出現しない階層がある。第18階層「アンダーリゾート」。人間が摂食可能な植物が自生している他、豊富な水源、時間によって光が明滅するクリスタルが天井全体を覆っているため昼夜が存在し、更には冒険者たちが街を作っている。

 

「キャンプの設営は終わった! 明日の朝までは各自、自由行動を許可する! ただしくれぐれもトラブルは起こさないでくれよ?」

 ロキ・ファミリア遠征組は等の街から離れた広場にキャンプを築き、メンバーたちはそれぞれ違った方法で時間を潰し始めた。ある者は友人との談話に花を咲かせ、ある者は仮眠を取るためにテントの中へ入り、ある者は武器や防具の手入れをしている。

 

「ここまでだ。お二人さん、どうするんだい?」

 ネリスがピーシャたちに尋ねる。

「遠征組が出発するのに合わせて、あたしたちも地上へ戻るわ。今日はここで休憩」

 と、ピーシャ。自分たちのテントや物資を持ってきているので遠征組への負担はない。

「そうかい。んじゃ、あたしゃ酒でも飲むかね。気をつけるんだよ」

「バッカニアさんも、気をつけて」

 ネリスはそう言って去っていった。

 

「だが明日までどうやって時間を潰すんだ? 確かにここは快適そうだが、面白そうな物は何もないんじゃあないか?」

 テペスの疑問に答えるように、ピーシャはある方向を指さす。

「あっちに街があるのよ。友達が働いている店があるから挨拶に行くわ。ついでに掘り出し物でも探して」

「テペス」

 

 後ろから少女の声がテペスに投げかけられる。感情の抑揚が少ないようで、若干の怒気が混ざっているようだった。嫌な予感がしたテペスがゆっくりと振り向くと、そこにはアイズがいた。半眼でテペスを睨みつけている。

 

「……ドーモ、ヴァレンシュタインさん。テペス・ヴィーです」

「お疲れ様です、アイズさん」

「うん、おつかれ。ピーシャ、悪いんだけどテペスと二人で話がしたい」

「俺はしたくない」

「ちょっ、何失礼なこと言ってんのよ!?」

 背を向けて逃げようとするテペスのマントをアイズが掴む。テペスはその場で足だけしか動かせず、地面をズリズリと削る。

 

「お願い」「嫌だ」「お願い」「嫌だ」「……えいっ」「グワーッ!」

 アイズがテーブルクロスのようにマントを引っ張ると、テペスが後ろにひっくり返った。そして彼女は逃げようと上体を起こしたテペスの頭をロックする。

「は、離せっ」

「ダメ。降参するまで離さない」

 恐るべき腕力でテペスを拘束するアイズ。抵抗するテペス。今度は止めに入るロキはいないし、リヴェリアもどこか別の場所にいる。テペス危うし!

 

「あ、アイズさんそのくらいで許してあげた方が」

「きゃあああああああ!!!」

 その時、絹を裂くような少女の悲鳴がキャンプ地に響く。いち早く反応したアイズはテペスを離してその方向へ走っていく。

「げほっ! げほっ! な、何だったんだ……」

「今の悲鳴、レフィーヤじゃない? 何があったのかしら」

 

 続いてピーシャも悲鳴の元へ走っていく。テペスも締められていた首を押さえて追従しようとし、足を止めた。そして慌てた様子で懐やポーチの中を弄ると、クリスタルで覆われた天井を仰ぎながら兜を手で押さえた。そして嫌な予感に重くなる足を動かして現場に急行するのであった。

 

「オイオイオイ!」「ナンダナンダ!」「コロシカ? ヌスミカ?」

 キャンプ場の一角に人だかりができてきる。皆、レフィーヤの悲鳴を聞きつけて集まってきたのだ。気が重いながらもテペスは人だかりをかき分けるように前に進む。

「スンマセン。スンマセン。ちょっと通して」

 

 ようやく皆の視線が集まるところに抜け出せたテペスが見たのは、アイズとリヴェリアが腰を抜かして地面にへたり込むエルフの少女を介抱している場面だった。

「あわ、あわわわ……」

 レフィーヤが指差す先、人が腰掛けるにちょうど良さそうな岩があるが、その上には生き物がいた。

 

 ダンジョンにしては珍しくモンスターではないのだが、ジーザス……その恐るべき得体を見よ! 人間の握り拳大もある巨大なナメクジだ! 緑色の体表面からはぬらぬらとひかりを反射する粘液が絶えず分泌されているではないか! なんたる冒涜的生物か!

 

「またか……」「レフィーヤ、大丈夫?」

 リヴェリアは呆れたように顔を覆う。テペスは申し訳なさそうな風を装い、三人の前にすごすごと出ると、巨大ナメクジを掴んで懐にしまった。

 

「テペス……」

 非難がましい視線と、「ええ、マジかよ」という視線がテペスに集まる。するとレフィーヤがレイスのようにぬぅーっと立ち上がった。俯いた顔は前髪に隠れて見えない。

 

「テ! ペ! ス! さぁーん!」

 麗しのエルフの少女の顔が歪み、杖が振り上げられた!

「ペットの! 管理は! ちゃんと! しなさーい!」

「すんません! すんませんって!」

 何度も振り下ろされる魔法の杖が頭を庇うテペスに折檻を加える。立ち上がったレフィーヤのスカート、その尻のあたりにはぬらぬらとした粘液が付着しているのをアイズとリヴェリアは見た。

 

 あのナメクジはヤーナム医療協会の恐るべき研究の産物であり、本来彼にとっては唾棄すべきものなのだが、いつの間にやら懐に忍び込んでおり捨てるに捨てられなくなってしまったのだ。そしてオラリオに来てからは何故か活性化し、勝手に抜け出したりしている。そして不運なことに、レフィーヤは何度かこのナメクジと交通事故的接触をしているのだ。

 

「ガサツで! マナーも知らない! 気持ち悪い生き物を飼っているのはともかく管理もしない! 何考えてるんですか貴方はぁー!」

「すんません! すんませんって!」

 平謝りするしかないテペス。非力と思われがちだがレフィーヤはレベル3、ミノタウロスを殴り殺せるだけの筋力があり、テペスの鎧がベコベコと凹んでいく。

 

「そのくらいにしておけ」「フゥーッ! フゥーッ!」

 興奮するレフィーヤの杖を掴み、後ろから抱くように押さえつけるリヴェリア。

「テペス……」

 さしものアイズもナメクジを手掴みし、懐に仕舞い込んだテペスに再び接触しようなどとは思えなかった。寧ろ、ジリジリと距離を取り始めている。

 

「レフィーヤは私たちで押さえておくから、お前は取り敢えず離れておけ」

「レフィーヤ、どうどう」

「お馬さんじゃありませーん!」

 テペスは逃げるように退散した。

 

 ◆

 

 リヴィラの街。正面門両脇の外壁には「冒険者熱烈歓迎」「ようこそ同業者」「自治体」「治外法権」「命の保証はしない」など、歓迎を示す文言が書き込まれた垂れ幕がかかっているが、実際の中はというと。

「ポーション安いよー! 十本セットでお値段なんと30000ヴァリス!」

「お姉さぁん。ちょっとアタシと遊ばなぁい?」

「マジックアイテムあるヨ! ファイヤーソードと術反射のアミュレットだヨ!」

「食い逃げテメー! ツラの皮剥いでやろうかァーッ!?」

 

 飲食店、露店、宿泊施設、賭博場、性サービス。この街には地上に劣るものの様々な物があった。だが過酷なダンジョン下にある関係上、荒っぽい性質の者や後ろ暗い事情を抱えた者が多く集まっており、行政の目が入りにくい事もあってボッタクリやインチキ、美人局などが横行している。

 

 常に喧嘩の絶えない野蛮な街であるが、それでも存続しているのは中層より下、より過酷な下層へと赴く冒険者たちが英気を養うのには欠かせない存在だからだ。

 

 ロキ・ファミリアほどの大規模組織ともなれば街に入らずとも広場などで野営するが、知り合いへの挨拶や掘り出し物を求めて足を運ぶ者は少なくない。ピーシャもそうした事情で訪れており、キャンプ場にいては逃げ場がないと判断したテペスはついてきた。

 

「なんでナメクジなんて飼ってるのよ。気持ち悪い」

 心なしかピーシャが距離を取っているように見える。

「俺だって嫌だよ」

 曲がりなりにもナメクジは上位者の眷属であり、しかも怪しげな儀式を施されたとあれば自然界への放流は危険と言えよう。ダンジョンに離すのもマズイ。仮に誰かの回収し忘れの魔石でも拾い食いしようものなら何が起こるかわからない。

 

「瓶にでも入れて蓋しときなさいよ」

「やってるよ」

 投げやりなテペス。どう封じ込めてもいつの間にか逃げているので彼は半ば諦めて、いなくなったら探すという手段を取るしかないのが現状だ。

 

「もう、友達のところでは気をつけてよね」

 そうピーシャは念押しした。

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