狩人テペスの冒険   作:ヤングフンター

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 リヴィラの街は巨大な柱の集合体とも言うべき山の上にある。これらの壁面には洞穴がいくつもあり、基本的には家だがそこをテナントにして店を構える住民もいる。貸倉庫や宿屋がほとんどだ。

 

 そういった穴の一つ、ポップな字体で「メリーちゃんの暗黒雑貨店」と記された看板の洞穴があった。入り口の脇にはバウンサーだろうか、棍棒を持った巨漢が威圧的に腕を組み、店の前に来る者たちを見定めている。

 

「久しぶり。入っていいかしら?」

 ピーシャは巨漢を見上げてそう言った。彼はピーシャと後ろのテペスを交互に見ると、テペスに人差し指を向ける。

「え? ああ、いかにも怪しい感じだけど、あたしのボディガードみたいなものだから」

「おい」

 テペスの抗議をよそに、巨漢は数秒考えたのちに首を店の入り口に向けて振った。

 

「ありがと。あの子、元気かしら」

 入り口を塞ぐようにかけられたノレンを除けながらピーシャは洞窟の中に入る。テペスは巨漢をチラリと横目に見たが、巨漢の方は再び前方警戒に入ったようで見向きもしない。それほど気にすることでもないと、テペスはピーシャに続いてノレンを潜る。

 

 洞穴の中は存外に広く、魔石灯が吊るされた内部は薄暗い。棚には商品の代わりに品名が記された木製の札が重なっている。万引きや強盗の対策のために商品を並べておけないのだ。

 

「いらっしゃい。入用の物がありましたらなんなりと……って、ピーシャじゃあないか」

 カウンターからそう言ってきたのは年若く背の低い女性だ。顔立ちは美しいが猫背で薄汚れた服を着ている。だが不快な臭いはしないので染み付いた汚れが洗濯しても落ちないのだろう。

 

「久しぶり、メリー。大体一ヶ月ぶりくらいかしら。調子はどう?」

「ぼちぼちだねぇ。もうちょい顔見せとくれよ。あたしゃ寂しくて震えちまうよ」

「そんなに頻繁に来れないわよ。まだレベル2だしね」

 自嘲ぎみに笑うピーシャ。

 

「アンタなら更に階位を上げられるって信じとるよ。ところで……」

 メリーが視線を流し、テペスを見る。そしてニヤリと笑みを浮かべた。

「ツンケンしていたアンタにもとうとう春が来たんかい?」

「そ、そんなんじゃないって」

 ピーシャは視線を逸らした。尻尾がゆらゆらと揺れる。

 

「結婚するなら早めにしときなよ。歳取ってから子供なんてこさえたら大変さね」

「だ、だから違うってばもう!」

 顔を赤くして否定するピーシャ。テペスはその時怒ったレフィーヤとそれを宥めるアイズを思い出し、「どうどう」と両手でジェスチャーを取る。

 

「ヒヒッ……若いもんからかうのは楽しいねぇ」

 ケラケラと笑うメリー。

「ヒヒ……で、ここには挨拶だけかい? 何か買っていっておくれよ」

 途端、友人をからかう笑みが商人の笑みに変わる。このような場所に店を構えている関係上、友人とて特別扱いするわけにはいかないのだ。

 

「はいはい。で、何か面白い物はあるの?」

「そうさねぇ、珍しいドロップアイテムがあるよ。ゴブリンの鼻くそ、アルミラージのうんち、ミノタウロスの睾丸。ああ、そうそう。ゴライアスのすね毛なんてのも」

「きったないわね」

 ピーシャは顔を顰めた。

 

「ヒヒヒ……ところがこの手の品は欲しがる奴が多いのさ。

 鼻くそは軟膏系の傷薬の材料になるし、うんちは肥料に混ぜてまくと野菜がよく育つのさ。すね毛は硬くて柔軟だから防具の素材になるしねぇ」

 そして、とメリーがこれまで以上にいやらしく笑う。

「ミノタウロスの睾丸はね、煎じて飲むと男のあっちを元気にする効能が……」

「もういい! もう十分よ! まともな物売る気がないなら出て行くからね!」

 激しく噴火するピーシャ!

 

「冗談、冗談さ。あんたが欲しがりそうな物と言えば……これなんてどうだい?」

 メリーがカウンターの下から取り出したのは石だった。それも赤と黄色が渦を描きながら入り混じった、他にない輝きと美しさを持った宝石だった。

 

「……これって、魔宝石?」

 魔法使いであるピーシャはその石の正体を見抜いた。魔宝石は魔法使いが使用するワンドの中核を成すパーツであり、これの良し悪しや相性によって魔法の効果が左右される。この魔宝石は赤と黄色の混成、つまり火と雷の属性を持つピーシャとは相性が良い物だ。

 

「縁あって手に入れられてねぇ、あんたのためにとっといたんだよ」

「わぁ……傷一つない……でも高いんじゃないの?」

「そうさね、これ一つで本当は100万ヴァリスするよ」

「ひっ、やっ、くっ……!?」

 目玉が飛び出そうな金額だ。テペスの言葉が詰まる。彼の貯金は10万ヴァリスほどであるため、仮にこれを買おうものなら毎週のようにやっている一人バーベキューをやめた上で何ヶ月も貯金しなければならない。

 

 だがピーシャは半眼だ。

「魔法使いの私相手にぼったくるんじゃあないわよ。珍しさを加味しても、せいぜい10万ヴァリスじゃあないの? どうせ友人割引とか言って20万くらいには釣り上げてくるんでしょ」

 人差し指を立てて指摘するピーシャ。するとメリーは降参したと言うふうに首を振った。

 

「やれやれ、可愛げのない子だよまったく」

「友達じゃなかったら引っ叩いていたところだからね」

「世知辛いねぇ。だがここでやっていく為だから、ちょいと値上げさせてもらうからね。19万」「しつっこいわね。11万」「18万」「12万」「17万」「13万」

 なんたる価格交渉か! 振り回すのはレイピアではなく金! 物の値段がいい加減なリヴィラでこのようなマネーデュエルは日常茶飯事なのだ! 敬虔なクリスチャンなら顔を覆って嘆いていただろう。

 

 そして価格交渉は14万5000ヴァリスに落ち着いた。

「まったく、ババアいじめて楽しいのかい?」

「同い年くらいでしょ? 何アホなこと言ってるのよ」

「あー、あー、そうだったね。はいよ、証文」

 メリーが一枚の紙を差し出す。ダンジョンの中にある関係上、リヴィラの街ではかさばるヴァリス硬貨は持ち込まれない。物流の仲介は現金ではなく物々交換や証文だ。

 

「ありがと、いい買い物だったわ。明日地上に戻ったらさっそくつけてみよっと」

「毎度あり。ったく、あんたにゃ敵わんね」

 メリーはだらりと手をカウンターの下まで垂らして項垂れて見せた。だが今度は顔を上げ、今度はテペスに狙いを定める。

 

「で、ボーイフレンドくんは「違うって!」何か欲しい物あるかい? 何でもいいから買っとくれよ」

「あいにく貯金中なんでね。無駄遣いできねんだわ」

 話しているといらない物を買わされそうだと考えたテペスは会話をシャットアウトすることにした。

「世知辛いねぇ」

 メリーは更に落胆。

 

「まっ、顔が見れてよかったわ。今度会った時にはお茶でもしましょ」

「はいよ。元気にしときなよ。あ、ついでに外のオジェイに交代時間だって言っといておくれ」

 そうして二人は店を出る。

 

「変な女だったな」

「商売が絡まなきゃいい子なのよ。私の誕生日にマジックアイテムだって指輪をくれたし」

 そう言ってピーシャは左手中指にはめた銀色の指輪を見せる。蛇を象った凝った細工の指輪だ。

「マジックアイテム?」

「本人曰くね。何でも、経験値の取得量を増やしてくれるそうよ。あんまり実感はないけどね」

 

 経験値を増やすなど、それを聞けばオラリオ中の冒険者が欲しがるだろうが、ピーシャの口ぶりから察するにただのおまじないか、効果はあっても微々たる物なのだろう。

(これもマジックアイテムだったりすんのかな?)

 テペスは懐にしまってある薄汚い指輪を思い出す。神々の墓所を盗掘している最中に見つけた物だが、特別な力があるようには思えない。いずれ然るべき鑑定人に見せてもいいかもしれない。

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