狩人テペスの冒険   作:ヤングフンター

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「こ、こんなことが……」

 ピーシャは狼狽する。モンスターとは人類に対して絶対的な敵対者であり、そこに善悪はない。献身的なシスターであろうと、悪虐の全てを尽くした大悪党であろうと、例外なくモンスターにとっては敵なのだ。

 

 だがカークはまるでモンスターの眼中から外れている。だが友好的なわけでもない。カークの存在が見えていないような、感じ取れていないような、そこにいないものとして扱っていた。

 

「チッ、ファッキンジーザス。薄々そんなことだろうと思っていたぜ!」

 テペスは大鉈を鞭鉈に変形させて横スイング! 一斉に襲い掛からんとしていたモンスターの前衛を一瞬でミートパイに変えた! しかし、数が多い! ミートパイの裏側から生まれるように更に無数のモンスターが殺到する! テペスのリターンスイングによりミートパイの追加オーダーが入るが、それでもまだ殺到してくる! 実際キリがない!

 

(ピーシャは……!)

 360度を敵に囲まれた状況であるため魔術師たるピーシャを守ることは叶わない。テペスは後方の敵への警戒も兼ねてピーシャの方を見る。

「イヤー!」

 だがなんたることか、ピーシャは杖を振り回してモンスターの群を蹴散らしていた! テペスほどの殲滅能力はないが自衛には十分!

 

 これは神々が降臨するよりも前、宗教戒律上刃物を武器として使用できないバトル・ビショップたちが編み出した殺人拳法の一つだ。現在はその手の宗教組織が絶滅したために教義こそ失われているが、その技術はオラリオの術師たちの一部に確かに伝わり、彼等彼女等の血肉となっていた!

 

「ガァーッ!」

 ヘルハウンドが背後からピーシャに飛びかかる! しかしテペスの銃撃により撃墜! 素早く身を寄せて背中合わせになる!

「お前一人で何とかできるんじゃあねーの!?」

「並行詠唱はできないのよ! この状況じゃ普通の詠唱もままならないわね!」

 並行詠唱は高速で移動しながら魔法を組み立てるテクニックだが、生半可な実力で行うと魔力が暴走して爆発四散しかねない。オラリオでもリヴェリアしか体得していない高等テクニックだ。

 

「こいつぁ、まずいな!」

「わかってるわよ! 一点突破で包囲から抜けましょう!」

 テペスはピーシャの言葉に従い、柱のない方向へ狙いを定めて鉈を振り回して前進する! しかし!

 

「いやはや、仲睦まじいようで大変結構」

 不意に聞こえた声! ジーザス! 二人はモンスターの処理に手間取りカークの接近を許してしまった! だがカークはすぐに切り掛かってこない。奇妙なことに、邪悪なほどに棘々した肉厚ロングソードを驚異的なまでに棘々したビッグラウンドシールドに挿した。

 

 すると驚くべきことが起きた。驚異的なまでに棘々したビッグラウンドシールドから保護カバーが飛び出し、刃を包み込む! そしてカークが天に向けて思い切り振り上げると、シールド表面が二つに割れて左右に展開!

 

 なんたることか、邪悪なほどに棘々した肉厚ロングソードと驚異的なまでに棘々したビッグラウンドシールドは二つで一つの仕掛け武器! 邪悪なほどに棘々した驚異的なビッグモーニングスターとなった!

 

「キェェェエエエエエッ!」

 甲高いシャウトと共に振り下ろされる邪悪なほどに棘々した驚異的なビッグモーニングスター! テペスは咄嗟にピーシャを蹴り飛ばして強制的に離脱させる!

「ぐげぇーっ!」

「テッ……テペス!」

 カエルのように叩き潰されたテペス! 棘々が鎧を貫いて全身に刺さり出血多量! ブラッドロス!

 

「いい声で泣くじゃあないか」

 恍惚により上体を逸らすカークが邪悪なほどに棘々した驚異的なビッグモーニングスターを持ち上げると、吸い付くようにテペスの血液が盛り上がる。

「さあて、お若いレディ。貴女は綺麗な姿のまま殺してあげますからね」

 カークが盾の持ち手を掴んで柄を引くと保護機構がチンアナゴめいて引っ込んで分離。さらに割れていた表面が再び合わさり邪悪なほどに棘々した肉厚ロングソードと驚異的なまでに棘々したビッグラウンドシールドに分かれた。

 

「君たちの舌は紐を通して合わせた状態で捧げるとしよう。恋人同士の舌合わせ……ああ、マイ・ファーストレディはさぞ御喜びになるだろう」

 ピーシャは立ち上がり杖を構える。レベル4か5相当の実力があるということはこの男も相応の力を持つ。到底ピーシャが敵うはずもない。それに周囲にはモンスターの群れもいる。絶体絶命だ。

 

「ウフフ……さあ、大人しくしていてくれれば痛みは少なくグワーッ!?」

 突如カークが叫び声を上げて前につんのめった! その背中から赤黒いエクトプラズムミストが血の代わりに噴出する! カークは驚異的なまでに棘々したビッグラウンドシールドを構えながら振り返ると、そこには大鉈を振り下ろしたテペスが立っていた!

 

「血が!」テペスは大鉈を振り上げ、飛びかかってきたモンスターたちに向き直り!「足りねぇ!」竜巻めいた回転スイング! 血飛沫が渦を巻き、テペスに覆い被さる! するとズタボロな鎧の下のズタボロな肉体が時間を巻き戻すように再生した! 敵の返り血で傷を癒す、これこそがリゲイン! 二十四時間戦えるテペスの能力!

 

「バカナー! あの負傷で生きていられる筈が……!」

「ハハハハハ! 今度は死亡確認するんだな! 死ね! ハハハハハ!」

 再びのインファイト! 血を浴びて昂ったテペスの猛攻! 怒りとは別の凶暴性がテペスを後押しする! カークの防御にも限界が近い! 一撃防ぐ毎に体幹が大きく削られる!

 

「ヌゥーッ! ここは一旦、サラバダー!」

 一瞬の隙をついて再びバク転逃走を図るカーク! しかし!

「ウォー!?」

 逃走経路上に大きな塊が次々と放り込まれる! それはモンスターの体! 生きていたり死んでいたりとまちまちで殺傷能力はまるでないが、カークの逃走を妨害するのにはうってつけ!

「逃がすわけないでしょうがッ!」

 怒れるピーシャが杖でモンスターを投げつけているのだ! ナイスサポート!

 

「オラァッ!」

 カークに襲いかかるテペスの大鉈! 咄嗟にガードしたものの、既に腕の疲労値は限界! 驚異的なまでに棘々したビッグラウンドシールドは弾き飛ばされ、驚異ではなくなった!

 

「この! クソカスどもがァーッ!」

 激昂したカークは邪悪なほどに棘々した肉厚ロングソードを恐るべきパワーとスピードで振るう。そしてそれが敗因だった。

「オゴォーッ!?」

 刃がヒットする寸前、テペスの銃が火を噴いた! 発射された水銀弾の衝撃がカークの体制を大きく崩し、棘だらけの膝を地面につかせた!

 

「オラァッ!」

 ガラ空きになった土手っ腹にテペスの腕が突き刺さる! 棘々が刺さるのも気にせず、そのままカークの腑の内側を強く握りしめた!

「ゴボッ! ゴボボボ……!」

 カークの兜の口のある辺りからエクトプラズムミストが零れ落ちる。

「何か言い残すことはあるか?」

 挑発的なテペス。

「つ、次に会ったら、ゴボボボッ……! かならず、ゴボッ! 殺ゴボボボッ!」

「気が合うな、次は必ず殺してやる、よッ!」

 

 テペスはカークの腑を力任せに勢いよく引き摺り出す! エクトプラズム物質の塊が飛び出し、カークは地面に倒れ伏した!

「殺してやるーッ!」

 その体は霧状に分解され、森を撫でる暴風のような音ともに消滅した。

 

「じゃ、残りは後片付けだな」

 テペスは大鉈を振り回した。

 

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