狩人テペスの冒険   作:ヤングフンター

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ジャイアントキリング・デンジャラス・ハンター
1


 ダンジョン19階層。巨大な木の根や幹が絡まり合い、複雑な道を作り出している階層。注意深く進まなければ自分が上に登っているのか下に降っているのか、右か左かの方向感覚が狂って遭難しかねない場所だ。

 

「助けてください」

 そんな通路の影に人影が三つあり。いや、六つだ。地面に倒れ伏し、死んでいる三人を含めれば。

「そうはいかねぇーな、おチビちゃん」

「そうそう。お前はここで終わるんだよ」

 パルゥムの女冒険者を壁めいた根っこに押さえつけているのはエクトプラズム的物質で形成された赤黒の殺人鬼。一人は目が六つある髭の男を象ったレリーフのバケツヘルムをかぶり、もう一人は無数の捻れた角が生えた山羊骸骨を兜のように被っている。

 

 六つ目のバケツヘルムがパプテマス、山羊骸骨頭がリュース。二人してレベル3の危険な殺人鬼だ。

「俺は豊満で小さいパルゥムが大好きなんだ。ファックしてからバラすとしよう」

「ひぃっ!」

 ジーザス! 他者の尊厳を顧みず、踏み躙る残虐な性格! パプテマスは恐るべき殺人嗜好者!

「いや、バラしてからファックしよう」

「いやぁぁっ!」

 ジーザス! ジーザス! リュースのなんたる冒涜的提案! パルゥムの女冒険者はたまらず失禁!

 

「はぁ? だったらテメェは俺の後にやりゃいいだろ」

「ざけんな。テメェの汚ねぇモンぶち込んだ後なんざ使いたかねぇんだよ」

「ざけんな。そりゃこっちだって同じだ」

「あ? やんのかコラ」

 二人はいきなり睨み合い、女冒険者から手と目を離してしまう。

「ひぃぃぃっ!」

 当然、その隙に逃走!

 

「あ! テメェのせいだぞ! どうケジメ取る気ダッコラー!」

「テメェがケチケチするからダッコラー!」

 恐るべき罵り合いをしながら女冒険者を追跡する二人の邪悪存在! 逃げながらも女冒険者は死を覚悟していた。矮小なパルゥムという嘲りと罵倒に耐えながらなんとか食いつき、ようやくレベル3になったというのに最後は薄暗い穴の奥底で嬲られながら殺される。なんたる残酷な運命か!

 

「ふぎゅっ!」

 逃走に夢中だった女冒険者は目の前に現れた壁に対応できずにぶつかり、尻餅をついてしまう。いや、壁ではない。ぶつかったのは人間だ。幅広の帽子を目深く被り、擦り切れた黒のマントを纏う長身。右手には骨から削り出されたような大鉈、左手には大砲のような大口径の銃。そして威圧的オーラ。

 

「ひっ! ひぃーっ!」

 女冒険者は新たな邪悪存在と認識して再失禁! だが帽子の人物は女冒険者の脇を取り抜け、むしろ守るようにパプテマスとリュースの前に立ちはだかる。

「ピンクッションの次は骨とバケツか。次はなんだ? イノシシか? それとも宝箱か?」

「何だぁテメェー! ブチ殺されてぇーかぁー!?」

「ま、待て! その大鉈……もしやカークさんを倒したっていう冒険者か!?」

 

 そう、我々はこの大鉈の現在の持ち主を知っている! テペス・ヴィー! ヤーナムの夜を駆け抜け、ロキの元へ身を寄せた彼は装いを新たにダンジョンアタックに挑んでいた!

「実際のところ通りすがりのみたいなもんだ。だがテメェ等は殺す」

 威圧的オーラ! 残虐な殺人鬼二人も思わずたじろぐ!

 

「な、舐めるんじゃあねえ! 俺とこいつはレベル3! つまり3に3をかけてレベル12! 世界最強ダッコラー!」

「完璧な算数ッコラー!」

 恐るべき独自理論を展開しながら叫ぶパプテマスとリュース! 並の冒険者ならこれだけで失禁していたであろう! しかしテペスも声を張り上げる!

 

「俺ァレベル120だバカ野郎! そんでもってロキ様んトコの眷属だこの野郎! つまりレベル544だタコ野郎!」

 ダンジョン全体を揺るがすような圧倒的声量! 邪悪存在二人は自分たちが小さくなったような錯覚に陥る!

 

「ウ、ウォーッ! 何が544だコラー!」

 リュースが自分を奮い立たせるように飛び出した! 振り上げられた両手に握られているのはグラトニーアザラシというモンスターの背骨を加工して作った大鎌! 死神めいた装いだ!

 

「オラァッ!」「アバーッ!?」

 だがテペスの大鉈スイングにより鎌ごと胴体を切り裂かれて消滅!

「リ、リュース!?」

 相棒の一瞬の敗北に完全に戦意を喪失したパプテマスはテペスに背を向けて逃げ出した! しかもこの逃走にカークのような狡猾な策略は一切ない! なんたる臆病者か!

 

「フンッ!」「アバーッ!?」

 テペスは大鉈を鉈鞭に変形させ、縦スイングでパプテマスを真っ二つにした! パプテマスも相棒の後追い消滅!

 

「やれやれ……おい、大丈夫か?」

 テペスは振り向いて助けた女冒険者に手を差し伸べる。彼女はおずおずとその手を取って立ち上がると、吸い付くようにテペスに抱きついた。

「って、おい」

 小さな嗚咽が聞こえる。恐ろしい状況から脱したのだ。助けてくれた存在に縋りたくもなるだろう。だがここはダンジョン、どこからモンスターや新たな邪悪存在が現れるとも知れない。テペスは女冒険者を抱き上げて18階層までの道を辿り始めた。

 

(ダークレイスか……)

 その言葉を頭の中で何度もリピートした。

 

 ◆

 

 遡ること一週間前。

「イテェー!」

「我慢しなさいよ! 私だって痛いんだから!」

 黄昏の館の一室。テペスの悲鳴が上がった。ポーションの効果を最大限に活用するために脱脂綿に染み込ませ、傷口に直接塗っているのだがこれが痛むのだ。

 

 恐るべき襲撃者カークを撃退した二人は一旦リヴィラの街に戻って補給を済ませ、再度地上に戻る道に入った。途中までは順調だったが第8階層で新たな赤黒邪悪存在の襲撃を受けた。「マスクド・ジャイアント」なるそれを辛くも撃退し、ようやく地上に戻ってこれた。

 

 肩を貸し合いながら帰ってきた二人を茶化そうと寄ってきたロキであったが、二人して大怪我を負っているのを見て慌てて医務室に連れてきた次第だ。

 

「なんでテペスきゅんいつも大怪我してまうん?」

「……面目ないです」

 心配と非難が混じったロキの視線に肩を落とすテペス。

「まあ命があるだけ儲けもんや。二人とも、よう戻ってきてくれた」

 ロキはテペスとピーシャ、それぞれの手の甲に自分の手を重ね合わせる。包み込まれるような神聖な気配に二人の心に引っ掛かるように残っていた緊張がほぐれた。

(こういうのがあるから、ロキの所は離れられないのよね)

 ピーシャは照れ臭くなりながらもロキに対する認識を更に良いものとした。

 

「それで、二人を襲ったちゅーアホンダラのこと、教えてくれへん?」

 狐のようだったロキの目が鋭く開かれる。親愛に怒りが加わった。

「ああ。全身棘だらけの鎧で、持っている武器も盾も棘だらけだった」

「自分で【棘の騎士(マーダー・オブ・スパイク)】って名乗っていたわ」

 ロキは二人から手を離すと、顔を押さえて天を仰いだ。

 

「その名は知っとる。十五年程前、オラリオの転覆を目論んだ闇派閥の一つ、ロザリア・ファミリアに所属していたダークレイスや」

「闇派閥?」

 聞き慣れない単語に疑問符の浮かぶテペスだったが、ピーシャはむしろ合点がいったような顔をした。

 

「私はその当時はまだオラリオにはいなかったけど、酷い抗争だったって聞いたわ。何人もの罪のない冒険者が身勝手な理由で殺されたって」

「最終的にはウチとガネーシャと色ボケ……フレイヤの手で壊滅させたんやけどな、残党がまだおんねん。カークも生きとったんやな。そんで、どっか別の神のところに身を寄せたっちゅーわけや」

 

 苦虫を噛み潰したような表情で言うロキ。彼女はこの場では語らなかったが、カークにはロキの眷属も何人か殺されているのだ。

「ピンクッション野郎の事はわかりましたけど、その、ダークレイスってのは?」

「ん? ああ、ピンクッションって……まあええわ。

 ダークレイスは最悪のマジックアイテム【不吉な赤い瞳の鐘】を使う連中のことや。そのマジックアイテムを使うと肉体が一度溶け、別の場所で霊体として再構築されるっちゅー代物や」

 

 霊体の身で負った負傷は元に戻る時には全く残らない。これが厄介であり、ダークレイスは自身を一切顧みずに戦いに臨むことができる。命のリスクがないためランクアップこそしづらいが、通常の冒険者よりも過剰に経験値を獲得できる。耐久に関しては特に顕著といえよう。

 

「やっぱり死んでねーのか……」

「まぁな。でもな、霊体とはいえ死の経験は定命の精神が何度も耐えられるようなモノじゃないねん。だから、何回も経験していれば魂が壊れてまう。不吉な赤い瞳の鐘が最悪な理由の一つやね」

 壊れた魂は天界に行けたとしても次の生を受けることが難しくなる。バラバラの魂を繋ぎ合わせる事は神にも難しいのだ。だから後回しにされるのだ。

 

「対策は会っても戦わずに逃げること、一番は本体を見つけ出して鐘を奪い取ることやけど、まあどっちもむずいわな」

 参ったと両手を上げるロキ。よりにもよってフィンを始めとしたロキ・ファミリアの主力メンバーが全員いない時にダークレイスの復活だ。このタイミングを見計らっていたのか、それともただの偶然なのかはわからない。いずれにせよ、オラリオの争乱の予兆であることは確かだ。

 

「またダークレイスに遭遇したら……倒せるとは言わん。やばいと思ったら逃げてもいい、とにかく戻ってきてな」

 ロキは二人をそれぞれ抱きしめて額にキスをした。テペスは彼女を曇らせまいと決心し、ピーシャは恐るべき存在への不安に胸の内がざわつくのを感じていた。

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