狩人テペスの冒険   作:ヤングフンター

26 / 37
2

「おい、どう言う事だ」

 熱気立ち込める鉄火場、ゴブニュ・ファミリアの店の前で言い争う者が二人。一人はテペス、もう一人は主神ゴブニュだ。斧の修理が終わった頃だろうと引き取りに来たテペスだったが、汚物でも扱うように台車に乗せられ差し出された斧はまったくの手付かずであった。

 

「どう言う事だと? そいつはこっちのセリフだ。こんな物よこしやがって」

 ゴブニュは明らかに怒気を孕んだ声を発する。それは所謂神の怒りという物で、いつ爆発してテペスが吹き飛ばされてもおかしくはないし、遠巻きに様子を見ていた見習い鍛冶職人たちは自分たちに向けられた怒りではないにも関わらず、恐れ、慄き、失禁した。

 

「俺は金を払い、そっちは仕事をする。そこに何の不満があるんだ」

 しかしテペスは全く怯まず、寧ろ食ってかかった。神の如き化け物たちを無数に叩きのめしたためか、あるいは単に頭脳がマヌケなだけか。

「こいつぁ、カースウェポンだろ? しかも相当に強力な呪い、殺意、怨念が込められている」

 

 何のことかと更に食ってかかろうとしていたテペスだったが、斧にねじ込んである血晶石を思い出した。呪われた墓所を何度も何度も往復し、無数のデブを惨たらしく殺害してハック・アンド・スラッシュした血晶石は感覚が鈍くなったテペスには単なる強化アイテムだが、常人には悍ましい呪いなのだ。

 

「……」

 途端にバツが悪くなり、顔を逸らすテペス。ゴブニュはフンッ! と鼻息を一つ鳴らす。

「ウチの眷属が倒れちまってな、本来なら慰謝料を請求したいところだが、ロキの所はお得意さんだ。今回は見逃してやる」

 ゴブニュはそう言って背を向けて鉄火場に戻っていく。

「だが次同じような物を持ち込んだら、お前で新しい武器の試し切りをするからな」

 

 残されたテペスは仕方なく斧を掴んで背負う。ダンジョン下層部への進出、新たな脅威であるダークレイスへの対応、その二つのために手に馴染んだ獲物の修理は急務であった。大鉈は強力だが血晶石が入っていない。

 

(トンカチでも買って自分である程度直すか……先延ばしにしかならねぇか)

 ヤーナムのような冒涜魔術的鍛冶ができない現状、テペスにできる事といえば工具を買って自分で簡単な修理をするくらいだ。

 

(新しい得物を考えねーとかなぁ)

 斧が完全に使い物にならなくなった場合を考えると、新しい武器が必要になる。しかし以前テペスが銃を探して街を練り歩いた時に彼のお眼鏡に叶うような仕掛け武器の類は全く見なかった。今更普通の武器を使わなくてはいけないのかと頭を悩ませ始める。

 

「ヘイ! ダンナ! ヘイ!」

 ふと声をかけられる。テペスが顔を向けると、一人の男がいた。若いが身なりに無頓着なのか無精髭が生えている金髪の白人だ。鍛冶用の分厚いエプロンを着用している事から彼が鍛冶職人だとわかる。

「何だ? 何の用だ?」

 不審がるテペス。

 

「ダンナ! 俺ァあんたの得物見たよ! あんなに面白いのは初めてだ! あれこそ俺に足りていないインスピレーションだったんだ!」

「そ、そうか」

 目を輝かせてテペスに詰め寄る職人。

「おっと、申し遅れたな。俺はインアドレってんだ! ゴブニュ様の所の職人だよ! それでさ、俺はあんたの斧から着想を得て独自に作ってみたんだ! 是非使ってみてくれよ!」

「お、おい!」

 

 インアドレはテペスの腕を強引に引いて連れ出し、自分の作業場に連れてきた。奇妙で派手なデザインの武器が乱雑に捨て置かれているが、作りかけのような半端な物が目立っていた。

「ええと、どこだっけな……あった!」

 

 インアドレがガラクタの山から引っ張り出したのは一振りのロングソードだった。デザインは無骨。カークの使っていた物から棘々を無くせばこのようになるだろうか、肉厚で幅広のロングソード。だが柄が太く長めだ。

 

「見ていてくれよ!」

 インアドレは柄の両端を握ると、後端部を強く引っ張る。するとどうだ、まるでテペスの斧のように柄が延びたではないか! これは剣が槍になる仕掛け武器だ!

「おお」

 これにはテペスも興味を惹かれた。模倣とはいえ紛れもなく仕掛け武器、テペスの求める物だ。

 

「少し持ってみてもいいか?」

「勿論だ!」

 インアドレは柄を元に戻してテペスに刃を向けて差し出す。「ん?」違和感を覚えつつも新たな仕掛け武器が目の前にあったので、テペスは受け取り、そしてみるみる表情が曇っていく。

 

「……」

 剣を光に向けて掲げたり、地面と水平にして刀身を見渡したり、ひっくり返したり、軽く振ってみたりして、インアドレを一瞥した。彼は自信満々といった表情だ。

 

ガシャンッ! ボキンッ!

「はあ?」「ああ! なんてことを!」

 事はテペスがインアドレがやったように柄を伸ばして変形を試みたところ、延長した柄が破壊音と共に剣本体からすっぽ抜けたのだった。

「折角の自信作だったのに! 弁償してくれよ!」

「ザッケンナコラー! こんなガラクタ持たせやがって。俺は自分でも怪力だとは思うが壊す程の力は入れてねーぞ! 仕掛けの作り込みが甘いんだよ!」

 

 だいたい、とテペスは続ける。

「普通の剣としてもクソだ! 十分に精錬していない鉄を使っただろ! しかも重心が変なところにあって、刀身はガタガタじゃあねーか! こんなん持っていたら上層すら突破できねーわ!」テペスは怒りのあまり壊れた剣を地面に叩きつけた。

「そ、それは……」

「何やってやがる!」

 

 と、そこへ第三者が乱入してくる。ゴブニュだ。手に布に包んだ何かしらを持っている痩せた老神は怒りの形相で作業場に入ってくると、テペスの横を通り抜けてインアドレの胸ぐらを掴んだ。

「小僧! お前はまだ客に品を出すなとあれほど言っているだろうが!」

「グェーッ! で、ですがゴブニュ様ぁ! 俺はインスピレーションを得たんだぁ! 才能が開花したんだぁ! すぐにでも作品を出して俺の名をオラリオ中に轟かせるんだぁ!」

 

 額に青筋を浮かべたゴブニュは大きく上体を退け反らせると、勢いよくインアドレに頭突きを食らわせた。

「アバーッ!?」

「そういうセリフは釘一本まともに作れるようになってから言え!」

 インアドレの胸ぐらを掴んだままゴブニュはテペスに向き直る。

 

「勝手に歩き回りやがって。話は終わってないわ」

「え? あからさまにあれで終わりって感じなような?」

「忘れ物を取りに行ってただけだ。ほれ」

 ゴブニュは謎の包みをテペスに投げ渡した。

 

「おっと。これは?」

 テペスが包みを開くと、そこには一丁の銃があった。全長40Cという大型、フリントロック式、大砲のような大口径、パインのストック。銃底には奇妙な文字が刻印されている。

 

「斧の修理をしなかったことは悪いと思わん。だが断った仕事の穴埋めをしないのはファミリアの沽券に関わる」

「そりゃあありがたいが、何故銃を?」

 斧の修理依頼をしたら銃が出てきた。穴埋めにしても一見脈絡がないように思える。

 

「少し前、オラリオで銃なんぞを探して歩き回っている狂人の噂が流れた。そしてこの間、たまたま工房から出て行くお前が腰に銃をぶら下げているのを見て確信した。こいつだと」

 どうやら猿縄を手に入れた日のテペスが噂になっていたようだ。

 

「その銃もカースウェポンだな?」

「……まあ」

 獣狩りの短銃にも血晶石がねじ込まれている。

「俺としちゃ、子供たちにそんなもん使って欲しくない。だが過酷なダンジョンで強い力を求めるのもわかる。なら俺たちが良い得物を作って渡す。これで何も問題ない」

 

 テペスはゴブニュと銃を見比べると、銃を所々見回して具合を確かめた。重心も安定しており、身も曲がっていない。実際に使ってみないことには性能は不明だが、それでもこれは良い物だと言う確信が持てた。

 

「だがあくまで斧の修理費用に見合った物でしかない。より性能を求めるならもっと金を持ってこい」

 そう言ってゴブニュはインアドレを引きずって作業場から出て行く。残されたテペスはまた銃を見回し、構え、引き金を引くフリをして自分で「ばーん」と言う。

 

「……ふむ、やっぱり悪くない」

 図らずも以前から望んでいた物が手に入ったので、彼は満足していた。

 




【槍剣一型】
ゴブニュ・ファミリアに属する若き職人インアドレによる「仕掛け武器」の1つ

通常は剣としてモンスターを薙ぎ払い、変形により槍とすることで状況適応力を高めるのが理想だった
しかし剣の作りは粗雑で、仕掛けの作りも甘いため
数回の変形で容易に破損してしまう

未熟な見習いが功名心に駆られて打った、稚拙で粗末な品だ
まともな冒険者ならば、これを使おうとは思うまい
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。