狩人テペスの冒険   作:ヤングフンター

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 斧の修理が叶わなかった代わりに新たな武器を手に入れたテペスが次に向かったのは服屋だ。服といっても以前ピーシャとのデートで訪れたような普段着の店ではない。「妖精のオーロラ」の店構えは森を連想させるような根っこや葉っぱの装飾が目を引く。

 

「いらっしゃ……いらっしゃいませ」

 店員はエルフ。彼はテペスを見た途端に言葉を詰まらせ、ガッカリしたような表情になってから言い直した。理由はすぐにわかる。店の中にいるのはエルフ、エルフ、エルフ。客も店員もエルフばかりだ。だが客のほとんどはレイピア、杖、弓矢、タケヤリなどで武装している。冒険者なのだ。

 

 ここは一見洒落た服屋にしか見えないが、実はエルフの冒険者向けに防具を扱っている店だ。金属の鎧を嫌っているのか、オーガニックな素材を好んでいるのかはテペスにはわからない。エルフの冒険者は危険なダンジョンに挑む時も服のような装備でいることが多い。鎧も革製を好む。

 

 山羊頭の悪魔、カーク、マスクド・ジャイアントなど、強敵との戦いにおける経験から金属鎧などまるでやくに立たないとテペスは感じた。故に狩人としての原点回帰、すなわち軽装での回避主体のスタイルをより重点することに決めたのだ。この「妖精のオーロラ」はエルフ向けにほとんど服に見える防具を提供しているため立ち寄ったわけだ。

 

「どうも、いらっしゃいませ。失礼ですが、お客様はヒューマンでいらっしゃいますよね?」

 やってきた店員は懐疑的な視線でテペスを見る。ヒューマンを差別しているのか、あるいは冷やかしだとでも思っているのだろうか?

「そうだが、入っちゃまずいか? それともエルフの紹介状でも必要か?」

「いえ! いえいえいえいえいえいえ、そんなことはございません。ただ同族以外のお客様は珍しかったもので、失礼しました」

 テペスの疑問が威圧的に感じたのか、店員は汗をハンケチーフで拭きながら否定した。

 

「よろしければ私めがおすすめの商品を紹介させていただきますが、いかがでしょうか?」

 テペスはぐるりと店内を見渡す。店内はそれほど広くはないが、品数は多い。全てを見るのは時間がかかりそうだ。ピーシャと夕食の約束をしているのであまり時間はかけられない。そうなれば、店員に案内させてある程度数を絞った方が良さそうだ。

 

「ああ、頼む。ダンジョンに潜るのに最適なのを選んでくれ」

「そうですかそうですか! ではまず、お客様が主に探索している階層をお聞かせください」

「中層だ。18階層まで降りたことはある」

「ほう! でしたら此方へどうぞ」

 店員はテペスを案内しはじめた。

 

「彼の名匠ジャネノレ・ゴムザの手による【黄金の夜明け、或いは暁の滅亡】でございます」

 最初に紹介されたのは燕尾服だったが、凄まじく下品な金一辺倒。金色以外が一切ない。高慢ちきだが奥ゆかしいエルフの店にあるのがとても違和感のあるデザインだ。

 

「更にこの服には機能がありまして……えい!」

「グワーッ! 目がグワーッ!」

 店員が服の袖を持って何やら力を入れると、まるでフラッシュバンのように爆破発光した。テペスは目を押さえてうずくまる。

「このように強烈な光を発してモンスターを怯ませることができます」

「先に言えバカ野郎!」

 

 痛む目が回復してきた所で見ると、店員は先んじてサングラスを装着していた。テペスは思わず殴りかかりそうになるのを我慢する。

「俺の趣味じゃねぇ! 次だ次!」

「そうですか……ではこちらなどいかがでしょう?」

 

 次に見せられたのはいかにもエルフらしい、緑色の装束だった。

「これはダンジョンバンブーをほぐして編んだ物にございます。我々エルフらしい植物由来のオーガニックな素材のみをふんだんに使用しております。感じますか? この爽やかな香り! ああ、故郷を思い出す……!」

 感極まり、涙を流す店員。テペスは半眼で睨みつける。

 

「……んんっ! 失礼しました。性能のほうですが、染色に使われているダンジョンヒノキの樹液の作用で虫系モンスターを寄せ付けない効果があります。上層では鬱陶しいキラーアントを、中層ではガンリベルラを避けることが期待できます」

「悪かないが緑は目立ちそうだな。黒とかに染め直せないか?」

「残念ながら、他の染料で染め直してしまうと香りの効果が失われてしまい、ただの頑丈な服になってしまうのです」

 

 テペスは考える。どうも先ほどから奇妙なギミックの仕込まれた装束を紹介されている。今の彼に必要なのはダンジョンに着て行っても申し分ない性能がある物であり、ビックリドッキリ装束は違うのだ。

「単純でいいんだよ。変な機能とかなくて、軽くて頑丈で、できれば黒色のが欲しいんだ」

「でしたら……こちらはいかがでしょう?」

 

 三番目に紹介されたのはこれまでとは一風変わったデザインだった。幅広の帽子、黒の礼服のようなデザイン、胸元には白のリボン。更にオプションでマントまである。ヤーナム狩人の昔の流行のようなデザインだ。

 

「デザインはいいな。性能はどんなだ?」

「柔軟で頑丈なダンジョンキャタピラーの絹糸をウォーシャドーの影体液で着色したものでして、中層までならかなりの防御効果が期待できます。また、マントは裏地にサラマンダーウールを使用しておりますので耐火性もバツグンです」

「悪くない。試着はできるか?」

「勿論ですとも」

 

 試着室に向かう途中、やはりエルフたちから視線を向けられる。好奇心や余所者を見る目が多い。改めてこの店に自分は異質な存在だと言うことを認識する。

「いかがなさいましたか?」

「あ、いんや……やっぱ俺みたいのは珍しいか?」

「ええ、そうですね。ヒューマンの方は金属鎧を好むものですから。我々からしたら、何故あんなに重たい物を纏っていられるのか不思議でなりませんよ」

「おっかないからな……」

 

 そうこうしている内に試着室の前に来たテペス。早着替えは彼の得意分野だ。一分も経たないうちに着替えを終え、カーテンを開ける。

「え!? はやっ! っと、失礼いたしました。いやはや、非常にお似合いでいらっしゃいますよ」

「フゥーン、中々良い着心地だ、悪くない。だが高いんじゃないか? 予算は五万前後と考えているんだが」

「その商品は7万5000ヴァリスです。分割払いのプランがございますが?」

 

 手数料込みの最終的な値段はかなりの額になりそうだ。貯金は13万前後なので一括で買えないことはないが、悩ましいと頭を捻るテペス。

「……いいか。一括で払うよ。その方が安く済みそうだ」

「毎度ありがとうございます!」

 普段着に着替え直した後、証文にサインをする。先触れがうねったような汚い字であるが、これでもリヴェリアとの勉強の成果だ。

 

「またのご来店をお待ちしております!」

 店員の見送りを背に、テペスは店を出た。

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