狩人テペスの冒険   作:ヤングフンター

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親愛なる読者の皆様。いつもご愛読ありがとうございます。突然ですがお知らせがあります。
製作委員会より「現状のサブタイトルがあまりにも投げやりではないか?」との意見が上がり、審議の結果サブタイトルのスタイルを変更することにしました。投稿済みの話のサブタイトルも相応しいものを考え次第随時変更していきます。
ご迷惑をおかけします。


5

 パチパチという音を立てる焚き火の前でテペスはアグラをかいていた。背筋を伸ばし、注意深く見ているのは炎の手前の串焼き肉。レア、ミディアム、ウェルダン。好みの焼き方にするには注意が必要だ。

 

 18階層は今は夜の時間。天井を覆い尽くす発光クリスタルは眠るように光を鎮めており、19階層から吹き込んでくる風の音がざわざわと木々を揺らしている。リヴィラの街の宿泊施設のぼったくり価格は高価な買い物をしたテペスには痛手なので今回はテントで野営だ。

 

 やがて、頃合いを見計らったテペスは串焼き肉を一つ取り出してかぶりつく。ウェルダン。真まで火が通っている。彼は本来ならば血の滴るレアが好みなのだが、仮に腹を壊してしまうと治療が大変なので病原が死滅するまで焼き尽くすようにしている。特に今は野営を共にする者がいるのだから。

 

「焼けたぞ」

 テペスは先程取った串焼き肉の隣の肉を取り、焚き火に向かって右側で正座しているパルゥムの女冒険者に渡す。「あ、ありがとうございます」彼女はそれを受け取って一口噛もうとして、震え、嗚咽し、地面に落とし、テペスに背を向けて吐いた。

 

「おい、大丈夫か?」

 テペスは近寄って女冒険者の小さな背を撫でてやる。彼女はポロポロと涙をこぼしていた。

「すいません、すいません。まだ、恐ろしくて、みんなが死んでしまったことが、信じられなくて……」

 女冒険者は頭を抱えて震える。

 

「落ち着け。……落ち着け」

 尚も背中を撫でるテペス。

「……すいません、せっかくのご飯を」

 多少精神が安定した女冒険者は姿勢を正して正座し、テペスに頭を下げた。

「いや、大丈夫だ。……無理に食えとは言わねーけどさ、取り敢えず腹に入れておいた方がいいんじゃあねーか?」

 テペスは木の器を取り出すと、そこに綿菓子めいた植物ハニークラウドを山のように盛り付け、その上に塩を振りかけ更に飲み水で溶かす。入道雲めいたハニークラウドはみるみる縮んでいき、最後には砂糖水になった。

 

「これはどうだ?」

「……」

 女冒険者は器とスプーンを受け取り、しばし水面を眺めた後に口をつけて大きく傾けた。ゴクゴクゴクゴクゴクゴク! 器はテペスが五回まばたきする内に空になる。

「すいません、お手数おかけしました」

「ああ、いや、いいんだ」

 テペスは空になった器と使われなかったスプーンを受け取って傍に置く。そして落ちて砂に塗れた串焼き肉を焚き火に放り込んだ。

 

 暫し、沈黙。テペスも女冒険者も自分から相手に話しかけるタイプではなかったので無言の時間が続いた。パチパチという焚き火の音が夜のアンダーリゾートに響く。女冒険者は漠然とした瞳で炎を見つめていた。

 

「あの、お名前を聞かせてもらってもいいですか?」

 ある時、女冒険者が切り出す。

「私はカート・ファミリアのクィネレイタと言います。是非お礼をさせてください」

「気にする必要ねーんだが……。ロキ・ファミリアのテペスだ」

 女冒険者、クィネレイタは驚いた表情になる。

「あの時仰っていましたね……。しかしロキ・ファミリアとは、道理でお強い」

 

 ここでクィネレイタに疑問が浮かんだ。あの恐るべきダークレイスを二人まとめて瞬殺したことから少なくともレベル4以上であるはずだが、テペスの二つ名どころか噂すら聞いたことがない、と。

(テペス……テペスさん。地上に上がったら、調べてみよう)

「あの、テペスさん。テペスさんは今日はどうしてアンダーリゾートに?」

 クィネレイタは恐る恐る尋ねる。

 

「ん? ああ、ちょいと個人的な用でな。運がよけりゃ明日の夕方までには帰れると思うんだが」

「クエストか、何かですか?」

「いいや、ランクアップを狙っている」

「え」

 クィネレイタは驚いた。ランクアップは神の眷属にとっては最大の目標であり、おいそれとできるものではない。身の丈に合わぬ試練を乗り越えた克服の証と言われているが、大抵の者は仲間と連携した小さな偉業の積み重ねによりランクアップを果たす。

 

 クィネレイタが見たところ、テペスの他に同行者はいない。単独でランクアップを目指すとなると自殺に等しい試練に挑戦することになりそうだが、そんな彼が狙う獲物とは何か?

 

「上の階に出るっつー、ゴライアスをぶちのめす」

「え」

 今度こそ言葉が出なくなるクィネレイタ。階層主とは数週間に一体しか出現しない強力なモンスター、主の名が示す通りその階層において最強の存在だ。ゴライアスの力は眷属のレベルに換算すると4相当と言われているが、実際のところ同じレベルの冒険者でも複数人で当たらなければならないほどの強敵。単独は自殺行為だ。

 

「じ、冗談ですよ、ね?」

「いいや、本気だ」

 全く感情を込めずに言い放つテペス。

「む、無茶ですよ! 階層主に一人で挑むなんて! 第一級冒険者の方ならともかく、死んじゃいますって!」

 レベル4のゴライアスを狙うということはテペスも同じくらいかそれ以下のレベルだとクィネレイタは推察する。

 

「デカブツの相手は慣れている」

 テペスは何もやぶれかぶれで挑むわけではない。それなりに勝算はある。神々の墓所の最奥聖域にはアメンドーズやローランの黒獣、獣血の主など巨体を誇るボスが数多く潜んでいた。そしてテペスはそういった自分の背丈よりも何倍もある敵を殺してきた。もっとも、そういった強敵一体を倒すためにテペスは何回も死んでいるのだが。

 

「俺はさ、今のままじゃまだ足りないんだよ。多分、これからもっとヤバくなる。だから力が必要なんだ」

 オラリオに来てからは共に戦う仲間が多くいたが、単独なら死んでいたというほどのギリギリの戦いが多かった。力をつけなくてはならない。自分が死なないことは大事だが、それ以上にピーシャや仲間たちを死なせてロキを悲しませることにはならないようにしたい。

 

「まあ、俺が死んだら骨くらい拾っておいてくれ」

「そんなこと、言わないでくださいよ……」

 クィネレイタは項垂れる。テペスはしまったと思う。また落ち込ませてしまったと。そして何か話題を変えるものはないかと辺りを見回した。

「あ、アー、良い剣だよな、それ」

 テペスはカルタの傍に横たえたグラディウス剣を指差す。彼女の体格的にまるでバスターソードだ。

 

「……はい。私がレベル3になった時にカート様からいただきました」

「そっか、いい神様だな。ウチのロキ様はさ、浮浪者同然だった俺を拾ってくれたし、一緒に肉食ってくれるし、かなり感謝している。でもさ、女の団員へのセクハラが酷くていつもぶっ飛ばされてるんだよ」

 クィネレイタはクスクスと笑った。

「カート様は慈しみ深い神です。他のファミリアから追い出された私をそっと抱き寄せて、眷属にしてくださいました。でも困ったところもあって、凄く泣き虫なんですよ。私が前にお料理中に指を切ったら、何故かカート様の方が大泣きしちゃって、この世の終わりみたいな顔してて、思わず笑っちゃいました」

 

 二人の談笑は眠気がやってくるまで続いた。

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