狩人テペスの冒険   作:ヤングフンター

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ファイナリー・クラウチングスタート・コレクトヒストリー
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 率直に言うと、テペスは暇を持て余していた。自室のベッドの上で憂鬱そうに、どこか上の空の様子で転がっている。窓の外の日は高いが、テペスは部屋から出る気になれない。と、言うよりも、半ば監視されている状態であるため、出るにしても面倒なのだ。

 

 ゴロリと、身体を横たえて見えるのは部屋の壁。そこには紙が貼っており、「ダンジョンはあぶない」「モンスターがいる」「いのちをだいじに」「やぶるとケジメ」などの、警告文が書き込まれている。

 これらはありがたい事に、主神ロキの直筆だ。世が世ならば神聖なコーデックスとして祭り上げられていただろうか? 今の世ではただの警告文でしかないが。

 

 ◆

 

 テペスからここ数日の仔細を聞いたロキの怒りは凄まじかった。

「バカハドッチヤー!」「グワーッ!」

 パラダイストビヘビめいて飛び上がったロキはテペスに組み付き、耳を塞ぎたくなる程の罵声を浴びせた。

「この! この! 歴史的ドアホ! どこに単独で階層主に挑むレベル1がおんねん! 頭脳がマヌケかオドレー!」「グワーッ! グワーッ!」

 

 ロキによる殴る、締める、噛み付く、くすぐるなど、筆舌に尽くし難い厳しい体罰を受けたテペスは彼女のベッドの上に倒れ込んだ。

「アイズたん2号や。間違いない。英雄的おバカ、或いはおバカ的英雄や」

 以前、ロキはフィンとテペスについて話した際、テペスとアイズは似ているようで違うと結論を出したが、根底が異なっていようが行動が同じならば同じなのだ。

 

「で、何でこない無茶したん? って、ここ最近事考えたら愚問か」

 ロキはテペスに組みついたまま問うが、すぐにその理由を察したために問いを下げた。

「でもダメや。流石に看過できへん。フィンたちが戻ってくるまでダンジョンに行くのは禁止や」

 ロキはテペスから離れると、ショドーセットを用意してサラサラと禁則事項を書き連ねた。

 

「ウチの見立てやと、あと一週間くらいでみんな帰ってくる。それまでは、まあ休暇と思ってゆっくりしとき」

 ロキはテペスに紙を渡した。

「罰としてステイタスの更新もその時まで延期な」

 テペスは一礼すると、すごすごと部屋から退出した。

 

 ◆

 

「……ウーン」

 テペスは寝返りをうつ。昼寝でもしようかと思ったが、眠れなかった。瞼を閉じると、オレンジ色の光と共に脳裏に刻まれた冒涜的知識群がリフレインするような気がするからだ。頭がどうにかなりそうだった。何か意識を変える事をやるべきなのだろうが、何も思いつかない。胸のモヤモヤと、体の不快なソワソワ感が異様なほどに膨らんでいくのを感じる。

 

 歓楽街にでも行こうかと思ったが、テペスは優良店の情報など知らないし、カエルの化け物が男を食ってしまうという噂を聞いたことがある。恐ろしい話だ。

 

 ふと、部屋のドアをノックする音が聞こえてきた。

「開いてる」

 物臭に言い捨てると、部屋のドアが開いた。入ってきたのはピーシャ。何やら不満げな様子でテペスを見下ろしている。

「忙しそうね」

「おかげさまでな」

 寝たままぶっきらぼうに言うテペス。こめかみに青筋の浮かんだピーシャはテペスの胸板に手を置き、反対の手で拳を振り上げ、彼の頬をぶにっと潰した。

 

「にゃにしゅる」

「……」

 ピーシャはテペスの頬に当てた拳をグリグリと捻る。

「ほんとは、ボコボコにぶん殴ってやりたいところだけど、また大怪我したみたいだからこれで勘弁してあげる」

 捻りながら言うピーシャ。やがて彼女は手を止め、拳を解くと、テペスの首周りに手を回して顔を胸に埋める。

 

「おい……」

「ムカつく。馬鹿な無茶したのもそうだけど、何で私を連れていかなかったのよ」

 ピーシャの叱責。今度は拳でなく、頭をグリグリと押し付けてくる。

「……これは一人でやるべきだって、思ったんだ」

「確かに、確実なランクアップを狙うならより厳しい試練が必要でしょうね。でも、私は嫌よ。あんたには死んでほしくない。それと同じくらい、あんたの死地に私がいないのが嫌」

 

 ピーシャは身を乗り出し、テペスと触れる面積を広げていく。

「色々ヤバい事態が連続したから、早く強くなりたいって気持ちはわかるわ。でも、あんたが前に言っていたように、独りぼっちでやる必要はないのよ。次は私も連れて行って。下層だろうが深層だろうが、どこにだってついていくから」

「お前、それ……」

 テペスが何かを言いかけたとき、ピーシャは顔を上げて体を浮かせ、テペスの顔を自身の胸に沈める。

 

「ふがふが」

「くすぐったい」

 ピーシャはテペスの頭を抱きしめ、彼の頭頂部に顔を埋める。そして、自分の何かを染み込ませるように、頬擦りをした。テペスの言葉を続けさせないだけではなく、別の意図があってのことだろう。

 

「……」「……」

 テペスは、ピーシャの背に手を回そうとする。女がここまでやってきていて、そうではないと言う事はないだろうと。その小さな体を抱きしめようとした。

「よっ」「え」

 だがピーシャは打って変わってテペスからパッと離れ、特に何もないといった表情で部屋の外へと向かう。

 

「外にお客さん来ているわよ。カート・ファミリアのクィネレイタさんですって」

 ピーシャは振り返りもせずにそう言うと、さっさと部屋から出て行ってしまった。

「……あれ?」

 テペスは見当違いだったのか、それともピーシャに弄ばれたのかわからず、ピーシャを抱こうとした姿勢のまま間抜けな声を上げる。

 

「参ったな、こりゃ」

 生娘と思いきや駆け引きというものを心得ているのか、それとも天然なのか、テペスの心の内にはピーシャの事がより深く刻み込まれる事となった。

「客ね。客」

 自分を誤魔化すようにベッドから降りた彼は、取り敢えず客に対応するために部屋から出た。

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