狩人テペスの冒険 作:ヤングフンター
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ダンジョン中層と呼ばれる領域がある。上層の適正レベルが1なら中層以降はレベル2以上。上層とは比べ物にならない程、強力なモンスターが現れ始めるのがこの階層だ。武器を使うのは当たり前、奇怪な能力を駆使し、魔法じみた恐るべき遠距離攻撃も行ってくる。上層を難なく往復できる強者達であったも、この階層に足を踏み入れた途端に死ぬという地獄めいた領域だ。
「ふむ」
そこにテペスは足を踏み入れていた。無論、ソロだ。上層で実質的な君臨者であるレアモンスター、インファントドラゴンを惨たらしく殺害し、継承した血の意志をじっくりと身体に馴染ませ、衝動の沸き立ちを緩やかにすることに成功したテペスは、より多くの金を稼ぐために、より危険なフィールドへと赴いた。
広く、天井が遥か高い場所にある洞窟。かつて盗掘した神々の墓場よりも尚広い空間だ。しかし上にばかり目をやると、そこら中に空いた大穴に落ちてしまうだろう。落下死は避けたい。
(さてと、行くか)
取り敢えず、歩き出す。斧は常に抜き身のまま、ピストルを左手に携え、猿縄は後腰に下げている。現状、ピストルと猿縄のどちらがこの階層に適しているかが不明であるため、取り敢えず使い慣れたピストルを最初に持っている。
「ピィーッ!」
早速モンスターの鳴き声が聞こえて来る。岩陰から飛び出した白い塊が三体、テペスの行手を遮るように立ちはだかる。
「はあ?」
テペスは目を疑った。現れたのはウサギだ。それも二足歩行の。頭頂部からは二本の角が生えていたため、モンスターだとわかるが、非常に愛らしい姿をしている。一見無害なように見えるが、その手にはテペスと同じように恐るべきトマホークを持っていた。
「ピィーッ!」
ウサギ型モンスターのアルミラージだ! 素早い身のこなしと重たい石のトマホークによる強烈な攻撃を有した厄介なモンスターだ!
アルミラージ三体はトマホークを振り上げ、テペスに襲いかかってきた!
「けっ」
痰を吐くように舌打ちをしたテペスはステップを踏む。後方へ? 否! 身をできるだけ低くして前に跳び、交差するトマホークの下を縫うように潜ったのだ! そして振り向きながら斧をハルバードへ変形させ、その勢いのまま三体とも背中からまとめて斬り伏せた!
(上の連中よりはちょっぴり硬いか……?)
テペスは斧の側面を撫でながら切り心地をじっくりと確かめる。柔らかい兎のようで、その実ゴブリンやインプよりは斬りづらかったように感じていた。成る程、これが中層か、と、新たな領域の実感を得ていたのだった。
「さて、魔石を……と」
手早く解体を行おうとしていたテペスの前に、更にモンスターが追加された。アルミラージが六体、そして謎めいた黒い犬が四体だ。黒い犬の口からは煙が溢れている。………煙? 煙と言ったか! テペスの背筋が凍りつく!
「ガウッ!」
「うひゃあっ!」
ジーザス! 犬が火を吹いた! テペスは情けない悲鳴を上げ、一目さんに逃げ出す! そして物凄い勢いで階層を駆け上がり、地上に出てきた。
「ゼェッ! ゼェッ! ゼェッ! ファッキンジーザス! 火を噴く犬がいるなんて聞いてないぞ!」
両手を膝につけ、息も絶え絶えになりながらもテペスは悪態を吐く。火を吹いて、色が黒くて、目の赤い犬は彼にとって大きなトラウマだ。盗掘に赴いた墓場にいた似たような番犬に、何度噛み殺され、焼き殺されたことか!
「ハハハ! 見ろよアイツ! ビビり上がってダンジョンから飛び出てきたぜ!」
テペスを嘲笑する声が聞こえて来る。顔を上げて一睨みすると、その冒険者たちは縮み上がってすごすごと退散した。それがテペスには情けなかった。笑われた事ではなく、あんなカスみたいな連中に対してイキっている自分がどうしようもなく情けなかった。
(クソ! 何か考えないと、あの階層の攻略ができないぞ!)
一先ず、今日のダンジョンアタックは止めにして、テペスは乱暴な足取りでバベルを後にする。
◆
ギルドの本社は白い万神殿だ。三角屋根を何本もの柱が支えている、古代ローマめいた古めかしい外観だが、内部は最新の設備が整っている。それもそのはず、ここはオラリオの冒険者を統括する機関であり、ファミリアの斡旋、レベルアップの把握、冒険者のサポート、魔石の換金、依頼の掲示など、様々な役割があるのだ。
「エイナ・チュールさんはいますかい?」
そこにテペスは現れた。威圧的な雰囲気の彼に声をかけられた小柄なギルド職員は、涙目になりながらガタガタと震えた。
「聞こえなかったか? エイナ・チュールさんはいますかい?」
前のめりになりつつ再度の質問。テペスの影がかかった職員はもはや一歩も動くことができなかった。
「待てい!」
「ああ?」
突如、テペスの背に声が浴びせられる。振り向いて見ると、気取ったフウなポーズをしたエルフの男がいた。鎧を纏い、剣を下げているため冒険者だとわかる。
「か弱き婦女子を脅しつけるとはなんたる蛮人か! この私、Lv.2にして【小宇宙戦士】の二つ名を授かりしケンドリル・フォルテスモークが直々に成敗ーーー」
「うるせぇ」
「ふげっ!?」
強烈な右ストレートがケンドリルの左頬に突き刺さり、その端正な顔立ちを潰しながら数Mもの距離まで吹き飛ばした!
「何だこのチンピラは……」
動かなくなったケンドリルを指で突きながらテペスは呟く。
「いったい何事……って、ヴィー氏!?」
そこへ眼鏡をかけたハーフエルフの女性が駆けつける。彼女こそエイナ・チュール。テペスのアドバイザーだ。
「ああ……どうも、チュールさん。黒い犬っころみたいなのが火を吹いてきたんですが、どうすればいいですかね?」
「それってヘルハウンドですか? 炎耐性のつくサラマンダーウールを装備するのがおすすめ……じゃなくて!」
エイナはツカツカのテペスににじり寄り、彼の胸に人差し指を立てて睨みつける。
「いったいこれはどういうことですか!? 職員を脅し付けている冒険者がいるって聞いたから慌てて駆けつけてみれば、どうしてフォルテスモーク氏が伸びているの!?」
「なんか喧嘩ふっかけられたんで」
「気絶するほど殴ることはないでしょうが!」
バツが悪くなったテペスは懐から回復薬を取り出し、ケンドリルの顔にダバダバと振りかける。するとみるみるうちに腫れ上がった頬が縮んでいき、端正な顔立ちが復活した。
「これでいいですかい? いいですね。成る程、サラマンダーウールとやら……情報あんがとした」
踵を返してその場を後にしようとするテペスの肩を、白魚のような細指が万力のような力で締め上げる。
「い、い、わ、け、ないでしょー! ちょっとこっちに来なさい!」
若いエルフの美女は、自分より背の高い黒ずくめの男をまるで荷物のように引きずり、連行していった。