狩人テペスの冒険   作:ヤングフンター

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「な、なんだこいつは。ミノタウロスなのか!?」

 ロイドの驚愕に、実際にミノタウロスを見たことのないテペス以外、誰もが否と考える。ミノタウロスは牛の頭と筋骨隆々の人間の身体を持ったモンスター。中層に出現する者の中では頭ひとつ抜けて怪力。だが、現れたモンスターはミノタウロスとは似ても似つかない。

 

 そのモンスターは異様な姿をしていた。細身であるように見えるが、胸板と腹筋が浮き上がった見事な身体をしている。ミノタウロスをボディビル体型とするならば、このモンスターはフィジーク体型。しかし身長は常人よりもずっと高い。2.5Mはありそうだ。

 頭は山羊のようだが、肉がない骨の状態。被り物なのか、それとも本当に頭だけ骨なのか、それはわからない。

 そして、その手に持つのはその高身長に届かんばかりの長さがある、幅広の大鉈。一振りで木を伐採できそうだ。しかも二振り!

 

「どうやらあのタフガイを血祭りにあげないと、ここから出れそうにありませんぜ」

 テペスは斧を一振りし、前に出る。

「な、何を言っているんだ!」

「そのクソムカつく壁、見たことあんですよ。大抵とんでもない化け物と一緒に出てきて俺の退路を塞ぐんですわ。そしてその化け物を殺さない限り、絶対に消えることがないっ」

 

 そう言うやいなや、テペスは地面を蹴って前に出る。それと同時に山羊頭とヘルハウンド二匹も駆け出していた。この手の連中は自分のフィールドに敵を引き摺り込んだ時点で様子見などしない。実に獣らしく、あるいはモンスターらしく獲物に襲いかかってくる。やはり、とテペスは内心呟いた。

 

(勝手に一人で飛び出したから後で文句言われっかな。

 とにかく、今はこいつらをぶち殺す! まずは犬だ!)

 削れるところから削る。集団戦における鉄則だ。ヘルハウンドはこの中では弱敵であり、しかも今のテペスはサラマンダーウールを纏っている。すぐさま犬の開きを作るべし。

 

「死ね!」

 左方のヘルハウンドに向けて銃撃! これで先程のように倒せる! そう確信していたテペスだったが、予想外のことが起きた。ヘルハウンドは眉間に弾丸が吸い込まれる直前、大きくよれた! 赤熱発光した水銀弾は後方の闇の中へと消えていく。

 

「ワッツ!?」

 まさか避けられるとは! だがテペスは素早く切り替え、今度はかつて交えたガスコイン神父のように斧を下から振り上げる。しかし、またも回避! 歪んだ刃は虚しく空を切り裂く。

 

「ガゥアッ!」

 飛びかかるヘルハウンド! ノコギリのような牙が、カミソリのような爪が! テペスに迫る!

「ジーザス!」

 テペスは斧をハルバードに変形させ、延長した柄を咬ませて防御! 鋭い爪が何度も目の前を上下する。だが凶器は目の前だけにあるのではない。テペスの右方からはヘルハウンドが、前方からは山羊頭が迫り来る!

 

「このぉ!」

 だが今回のテペスは一人ではない。ロイドが盾を前面に構えた状態で突撃し、テペス右方のヘルハウンドをふっとばす!

「俺もいるぜ!」

 ニックだ! 山羊頭に向かうはニックだ! 彼は火薬を詰め込んだ薬包を山羊頭に投げつける。山羊頭はそれを鉈の側面で弾く。後方の闇が爆発! だがニックは更に投げナイフを連続して投擲! それらも弾かれるが、山羊頭は足を止める。

 

「離せ駄犬!」

 テペスはヘルハウンドの腹を下から蹴り上げる。たまらず口を離したヘルハウンドの脳天をかち割るためにハルバードを振り上げるが、テペスが振り下ろすのを待たずにヘルハウンドは後方へステップ。さらに口の中に煙がみなぎる! 今度はインターセプトできない!

 

(回避! ……は、できねぇ!)

 ヘルハウンドの火炎攻撃は一直線であるためタイミングさえ掴めれば回避は可能。しかし、なんたる不運か!

「【穿ちの矢 曲がらぬ一閃 紫電の疾走】」

 テペスの後方には呪文を詠唱し始めている術者二人がいる! 彼が回避行動を取れば二人が火だるまになるのは明白だ! テペスはマントをキツく体に巻き付けて踏ん張る。

 

「ガウァッ!」

 殺人火炎弾がテペスを襲う! その衝撃たるや、彼の身体を吹っ飛ばしてしまうほどだった!

「テペス!」エーリアが叫ぶ! テペスは空中で一回転すると、ピーシャの目の前に叩きつけられた。「あ、ああ……」ピーシャ狼狽! 盾役がいなくなったことによる恐怖か、はたまた仲間が目の前で倒されたことにる驚きか。いずれにしても、彼女の足元から光が消える。爆発四散こそしなかったものの、せっかく構築した魔法陣が消えてしまった。

 

(何なの今の威力! 普通のヘルハウンドじゃない!)

 動揺しながらも詠唱を続け、更には考察までするエーリア。彼女の目算からすると今の火炎弾の威力はヘルハウンドのそれではない。

(強化種ね。厄介な)

 

 モンスターの強さは通常、生息している階層に合わせたものになる。浅い階層ほど弱く、深い階層ほど強い。しかし例外として、他のモンスターの魔石を食べたものは通常の個体よりも強くなる。そう言った個体は強化種とよばれ、過去に出現した「血塗れのオーガ」は何十人ものベテラン冒険者を血祭りに上げる怪物に成長してしまった。それこそ都市最強派閥のフレイア・ファミリアが名指しで討伐要請に駆り出され、ようやく討伐されたほどだ。

 

(このヘルハウンド二匹! 私の見立てではレベル3相当! そしてあっちの新種と思しきモンスターはその更に上!)

 エーリアはちらりと山羊頭の方を見る。ニックは様々な武器や道具を使いこなして敵と戦うスタイルだが、山羊頭はその悉くを退けており、徐々に距離を詰めてきている。一気に突進すれば勝敗を決するのも訳のないはずだが、見た目によらず慎重な性格らしい。ニックの種が切れるのを待っているのだ。

 

「痛ってぇ。だがスゲェなこのマント。熱くはなかったぜ」

 幸運なことにテペスは意識を失っていなかった。これでエーリアの魔法がインターセプトされる危険は減った。

「い、生きてるならさっさと起きなさいよね!」

 ピーシャの叱責! 理不尽!

 

(私だけでも、急いで詠唱を完成させないと!)

「【穢れた葉を射抜く 鋭い牙よ 腐れた枝を切り落とす 鎌爪よ】」

 紡ぐ言葉を急ぐ。ニックは長く持たない。ロイドはヘルハウンドに苦戦中。一刻も早くこの状況を打開しなければならない。

 

「ガゥ!」

 しかしここで予想外のことが起きた。詠唱を妨害するためにここにいると思われていたヘルハウンドが踵を返して飛んだ! ジーザス! その方向にいるのはニックだ! このままでは前衛が減る上、あの強力と思われる山羊頭が本格参戦してしまう!

 

「させるかよ!」

 テペスは無慈悲に引き金を引く! 弾丸が外れればニックに当たりかねない危険な軌道だ! しかし火薬の炸裂音は響かない。空を裂く飛翔音と、ヒュルヒュルとした縄の音だ。

「ガァ!?」

 猿縄だ! 吹き飛ばされながらもテペスは左手武器を銃から猿縄に変えていた! 飛翔した縄は蛇のようにヘルハウンドに絡みつき、そのまま引き金を離したテペスの元へと吸い寄せられる!

 

(いい! いいわ! その角度がスゴくいい!)

「【刺し 切り 八つ裂きにせよ】」

 詠唱完成!

「【スティングレイ】」

 エーリアの杖から放たれた光の矢がヘルハウンドに突き刺さる! 更にヘルハウンドの体内から光の刃が飛び出て全身をズタズタに引き裂いた! なんたるゴア魔法か!

「あんまり使いたくなかったのよね! 魔石もドロップアイテムも粉微塵にしちゃうから!」

 

 ようやくモンスターを一匹倒した。

 しかしその直後!

「ガバァっ!」

 ニックが吹き飛ばされ、テペスの足元に転がる! ジーザス! 突破された!

「調子付くなよタフガイ!」

 テペスはハルバードを振り上げて飛びかかる!

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