天空の要塞ラピュタの方もついでに更新しています。
ヤンデレ姫殿下は間に合いませんでした。
※お知らせ※
ジブリシリーズの作品の更新はこれにて一時停止(再開時期未定)させて頂きます。
「ひゃああああああああッ!!」
「ッ!?」
こちらの言葉には応じず去れとだけ言って消えてしまった少女の姿をただ呆然と見送った直後、怪我人を置いてきた辺りから聞こえた悲鳴にハッと我に返り来た道を駆け戻る。
「どうした!!」
「ぁ……っつ……ああ……ッ!!」
慌てて怪我人達の元に戻ってみれば、川から引き上げた2人の内の1人が目を覚まし何かに怯えた様子で体を引き摺りながら後ずさっていた。
「……こだま?ここにもこだまがいるのか」
必死で何かを指差す男の視線を辿ってみれば、そこにはふるさとでもよく見た小さな人型の精霊──こだまがいた。
そして故郷のこだまと同じく、ぜんまい仕掛けのオモチャのように頭を振動させてカタカタと鳴らしていた。
「静かに、あまり動くと傷に障る。それに好きにさせておけば悪さはしない。森が豊かな印だ」
男の悲鳴で何か獣でも現れたのかと思い慌てて戻ったが、悲鳴の原因がこだまに驚いただけと分かった俺は歯をガチガチ言わせてこだまにビビりまくる男を宥める。
「こいつらシシ神を呼ぶんだ……」
「シシ神?デカイ山犬の事か?」
「違う!!もっと恐ろしい化物の親玉だ。あああぁ!?消え──ヒィィィィッ!!」
さっきの山犬が主じゃないのか。あれ以上に高位の存在がいるとか恐ろしい場所だ。
先ほどの山犬はまだ序の口だと言ってのける男の返事に、俺はシシ神の森に対する認識を改める。
「だから騒ぐな、ヤックルも平気でいる。シシ神がどんな化物かは知らんが近くに危険なモノはいないはずだ」
すぅっと消えるように姿を消したこだまが瞬間移動してまた現れたり、こだまの仲間がぞくぞくと集まってきたりする中で男に危険は無いと告げ、これ以上怪我の身で騒ぎ立てないように落ち着かせる。
「すまんが、この後お前達の森を通らさせてもらうぞ」
そして、ヤックルの背の上に現れたこだまに近付いて言葉を掛けた。
「とりあえず怪我の手当てだな」
恥ずかしがるようにくるりと背を向けてから消えたこだまの姿を見送り、怪我の男に向き直った俺はそう言って男達の手当てと周辺の捜索を再開するのであった。
「ふぅ……ッ」
中々に堪える……ッ。
怪我人2人の手当てをした後、少し下流の方を捜索して新たに2名の負傷者を回収した俺は最初に見つけた重症の男を背負いながら険しい山を多くのこだま達に囲まれつつ徒歩で進んでいた。
「すまねぇ、本当に何から何まですまねぇ。荷物まで置き去りにさせちまって」
「怪我の手当て、それに兄と私の代わりに弟を、雅矢を運んで下さり……このご恩は決して忘れません」
「気にしないでくれ、困った時はお互い様だ」
馬の太郎と次郎に跨がりしきりに感謝の言葉を述べてくる2人──後から下流で助けた一矢と勇矢の兄弟に言葉を返しながら歩を進める。
ちなみに背負っている重症の男も一矢と勇矢の兄弟であり、雅矢と言うらしい。
「だ、旦那ぁ……戻りましょうよ、向こう岸なら道があります。この森を抜けるなんて無茶だ」
脚や腰を負傷し自分で歩く事が困難な長男の一矢と次男の勇矢の2人が三男である雅矢を背負い山を進む俺に繰り返し頭を下げる一方で救助した4人の内の最後の1人、ヤックルに騎乗している男──甲六が辺りをキョロキョロと見渡しながら情けない声を出して引き返すように懇願してくる。
「甲六テメェ!!雅矢がどうなってもいいってのか!?」
「ヒィイイイッ!!で、でもよ!!石火矢衆のアンタらもこの森の恐ろしさは知ってるだろう!?」
「タタラ場に戻ったら甲六にも"お礼"をしないといけませんね」
「ヒィッ!?」
迂回路を通り安全を優先しようと言う甲六に対し、末の弟が重症で一刻も早く根城に戻る事を望んでいる一矢と勇矢の2人が甲六を睨み脅しをかける。
「余裕があればそうしたい所だが川は流れが強すぎて渡れないし、それに(ヒイ婆謹製の)薬を飲ませたから暫くは大丈夫だとはいえ、薬の効果が切れた時の事を考えたらタタラ場に急がないといかん。諦めてくれ」
血の匂いに釣られて獣がやって来ないとも限らんしな。
チラリと後ろを振り返り、4人の体から滲む血に視線を注ぐ。
「それにしても……道案内してくれているのか、迷いこませようとしているのか分からんな」
兄弟の射殺すような視線を浴びまくり竦み上がる甲六の姿に苦笑しながら視線を前に戻し、常に3歩先をトテトテと進むこだまの後ろ姿にもう一度苦笑を漏らして大人しくこだまの後に続いて一歩一歩山を登っていく。
「ハァ……ハァ……」
流石にキツいな……。
「旦那ぁ、コイツら俺達を帰さないつもりですよ。どんどん増えてやすぜ」
「クソッ、薄気味悪ぃな」
「何のために集まって来ているんでしょうか?」
「……」
そのまま暫く進んでいたが、流石に成人男性1人を担ぎ上げながら山中の道なき道を進んでいくのはこたえ、甲六達の言葉にも返事を返す事が出来なくなってくる。
「ハハッ……」
応援してくれているのか、嘲笑っているのか。まぁ、応援してくれているのだと思おう。
途中少しばかり斜面に手を付いて呼吸を整えていると、怪我人を背負う俺の真似でもしているのかこだまをおぶったこだまが次々と俺の横を通っていく。
その微笑ましい姿に元気をもらい再び歩みを進める。
「ふぅ……うん?お前達のお母さんか?立派だな」
こだま達の応援を受けながら進んでいると大量のこだまが引っ付いている荘厳な大樹に出くわした。
前世で見た事がある屋久島の縄文杉のように立派で神々しささえ存在している立派な樹形に少しばかり見とれる。
さて、行くか。……いや、ちょっと待てよ。
「甲六、ヤックルの左後ろ足辺りにある瓢箪を取ってくれ」
「へ、へい」
束の間の休憩を挟み再び歩きだそうとした俺だったが、ちょうどいいモノを持っている事を思い出し甲六に声を掛ける。
折れていない方の左手で掴み取った瓢箪を差し出した甲六に礼を言って受け取り、そのままその瓢箪をこだま達の母親の根元に置き一礼し歩き出す。
「だ、旦那?まさかとは思いますけど今の瓢箪ってもしかして……」
「酒だよ。お供え物にな」
俺の行動を見ていた甲六が恐る恐るという感じで問い掛けてきたので、言葉少なくそう答える。
「も、勿体ないですよ旦那ぁああ!!」
瓢箪の中身が酒だと知った途端に騒ぎ出した甲六にやっぱり騒ぎ出したと思いながら無視を決め込み、俺は先を急ぐのであった。