住み慣れた村の中を自分の家に向かって歩きながら俺は先程まで行われていた会合の事をボーっと思い返していた。
はぁ……やっぱりこうなったか。
この傷━━呪いを受けた時に大体予想はついていたけどさ。まぁ、呪い持ちが村に居るのは宜しくないしな。
当然か。
しかし、物事を曇り無き眼で物事を見定めろって言われてもなぁ……。
それに西の国か……どこまで行けばいいのやら。
とりあえず荷物を纏めるか。
「あ、兄様」
「うん?アヤか」
会合の内容を思い返し今後の身の振り方について、漠然と考えを巡らせていると自宅の少し前の曲がり角でアヤと擦れ違った。
「ヒイ様達とのお話はもう終わったのですか?」
「あぁ、まぁな。……カヤの様子はどうだ?」
そう言いつつ天真爛漫な笑みを浮かべるアヤに俺は笑みを返しながらそう言った。
タタリ神を仕留めた時は取り乱して話も出来ない状態だったが。
「今は落ち着いています」
「そうか。足を挫いたと聞いたが、そっちは?」
「軽く捻っただけみたいですから2〜3日で治るみたいです」
なら良かった。それにしても野盗に拐われたりタタリ神の前で転けたりとカヤはドジっ子属性でも持っているのか?
「そうか。なら大丈夫だな。で、アヤはどうだ?何ともないか?」
「私……ですか?私は何ともないですけど」
「お前さんは何かと表に出さないからな。ちゃんと聞いて確認しておかないと心配なんだ」
野盗にカヤが拐われた時に、野盗に斬り掛かられて受けた小さな切り傷を隠してたし。
あの傷、小さかったとは言え放っといたら化膿してたぞ。
病院も薬品も無いこの世界じゃ、ちょっとの怪我でも命取りだってのに。
「わっ!?……もう、こんな事するからカヤが焼きもちを焼くんですよ?」
お前さんの頭を撫でてるだけですが?
「これぐらいで焼きもちなんか焼かんだろ」
「……唐変木」
何かちっちゃい声で言われた。まぁ、こんな規模の小さい村にいたら自分より年下の子達なんか全員弟か妹みたいなもんだしな。カヤも姉妹同然のアヤに焼きもちなんか焼かないだろ。
「あ、そうそう。カヤが兄様の顔が見たい見たいって頻りに言ってましたから、後でカヤの所に行ってあげてくださいね?」
「……」
あーそれは……出来ないな。
「兄様?」
表情を曇らせて視線を落とした俺の顔をアヤが首を傾げて覗き込んでくる。
「そうしてやりたいのは山々なんだが……そうもいかんのだ」
「どうしてですか?」
「今夜中に村を出ていかなければいけなくなってな。その準備がある」
「え!?どういう事ですか!?」
「どういう事って、そりゃあ……まぁ、うん。いろいろあってだな」
言えねぇ……呪いのせいで出ていかないといけないなんて。
「……呪いのせいですか?」
濁した所をズバッと切り込んでくるんじゃないよ。
「あー……ま、そんな所だ。カヤには言うなよ?」
「兄様が……村から居なくなるなんて……そんな」
アヤさん?
おーい、聞いてます?
「で、話を元に戻すが顔を会わせりゃヒイ婆達との話も聞かれるだろう?」
「黙っていたら━━」
「あいつは勘が鋭いから隠し通せる気がしない」
アヤやサヤを構っていたりすると絶対に来るしな。
山奥だろうと。
……何で場所が分かるんだろ。白眼でも持ってんのかな?
「そうですね。カヤは兄様の事となると凄いですから」
「……ホントにな。でだ、その時に俺が村を出るなんて言った日にはカヤが付いて来かねん」
「でも……最後に一目ぐらい……」
「残念だが、このままカヤが何も知らない内に━━ッ!?」
「どうかしましたか?兄様」
「……いや、何でもない」
何だったんだ、今の刺すような視線は。
背筋に氷柱でも突き刺されたような凄まじい悪寒を感じた俺は辺りを見渡すも、その原因を発見出来なかった為アヤへと視線を戻す。
そのせいで少し離れた家の影から月明かりを浴びて爛々と輝く2つの光点の存在にはついぞ気が付く事が無かったのだった。
もっとヤンヤンさせたいけれど、技量が足りぬ