もののけ(ヤンデレ)姫   作:トマホーク

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道中

嘘だろ……一昨日の大雨のせいか、ここまで辿って来たタタリ神の痕跡が無くなっている。

 

里に別れを告げてから約2ヶ月。ヤックルと共に道無き道を進みタタリ神が残した痕跡を辿って山を越え川を渡り森を抜けと過酷な旅を続けていたのだが、深い森に覆われた山脈を抜けた先の大河に辿り着いた際、タタリ神の痕跡が忽然と消えてしまった事で俺は決断を迫られる事となった。

 

困ったな。数少ない手掛かりが早速1つ無くなったぞ。

 

残りの手掛かりなんて、西に行けって事だけだし。

 

さて、どうしたものか。

 

…………うん。しょうがないな。ここからは人里に降りて情報収集するか。

 

今まで最大限面倒事を避ける為に人里には近寄っていなかったが、こうなってしまった以上仕方ないしな。

 

思えば人と話すのも久し振りだな。

 

タタリ神の移動の痕跡が消えてしまった以上、旅を続けるために必要な情報を得るには今まで避けていた他の人間との接触が不可避であると判断した俺は人との久し振りの会話を楽しみにしつつヤックルの手綱を人里へと向けるのであった。

 

「えぇー……うわぁ……戦してるよ」

 

しかし、山奥の開けた平地に作られた人里に辿り着いた俺の期待はすぐに打ち砕かれる事となった。何故ならば眼前の人里で激しい合戦が勃発していたからである。

 

おいおい。

 

色々期待して人里に来たはいいけど、こりゃあ情報収集どころじゃないぞ。

 

巻き込まれない内に通り抜けるか。

 

「――居たぞ!!兜首だーー!!」

 

「勝負、勝負!!」

 

面倒事を避けるために情報収集は違う場所でしようと思い、コソコソと逃げようとしていた俺の背後から足軽達の大声が響き渡った。

 

言った側からこれかよ。

 

というか、頭巾と兜を見間違えるなよ。

 

チッ、撃ってきやがった!!

 

「ヤックル、GO!!」

 

興奮しているのか、よく確認もせずに矢を射ってきた足軽の矢をかわしながら内心で悪態を吐きヤックルを走らせる。

 

逃げるが勝ちだ。とっととずらかろう。

 

襲ってくる足軽達をあしらいながら戦場から離脱するべく急げ急げとヤックルと共に人里の外縁を進んで行く。

 

その道中、水田の畦道を通って逃げて来る百姓達の姿が視界に入る。

 

運が良かった者は命からがら山の中へと逃げ込み、運が悪かった者は追っ手に追い付かれ瞬く間に槍で貫かれ刀で切られ矢で射抜かれていく。

 

「チッ。胸糞悪いな、おい」

 

農民を……無抵抗の女まで殺す気か、あいつら。

 

そんな戦場の風景を横目に先を急いでいたのだが、進路上で粗末な鎧を身に付けた足軽が大量の荷物を背負ってヨタヨタと逃げている恰幅のいい女性を背後から日本刀で切りつけている光景を目の当たりにして流石に何もしない訳にもいかなくなった。

 

気に食わんな。弓矢で天誅してやろう。

 

「やめろーッ!!」

 

背負っている荷物ごと何度も切り付けられ、あと少しで刃が体に届くという絶体絶命の危機にある女性を助けようと俺が矢をつがえた時だった。

 

ッ!?何だ!?

 

弓矢を構えたら右腕が暴れッ!?

 

痣のある右腕が突然脈動し、俺の意思とは関係なしに矢に込める力を強めていく。

 

ぐっ、クソッタレ!!

 

予期せぬ事態に取り乱し、正確な狙いも定めきれぬ間に俺は矢を放つ。

 

「ぎゃ!?」

 

そしていつも以上に威力が込められ放たれた矢はまるで意思を持っているかのように、女性を襲っていた足軽の頭に命中した。

 

「何だ、この腕は……ッ」

 

右腕がいきなり暴れ出して手元が狂ったせいで、足軽の腕を狙ったのに頭に当たっちまった。

 

しかも、矢が頭に刺さるだけじゃなくて頭がぶっ飛んだぞ。

 

デュラハン状態になった足軽と襲われていた女性の間をすり抜け、チラリと背後を振り替えればようやく頭無しの足軽が地面に倒れ込む瞬間であった。

 

もしかしなくても……呪いのせいか?

 

異常な威力を誇った矢の一撃。

 

その原因はなんであろうかと思えば、思い当たる節はただ1つしかなかった。

 

「逃がさぬぞー!!」

 

クソッ、新手か。弓騎兵が2騎。

 

腕の事は後回しだ。

 

「押し通るッ!!邪魔するなー!!」

 

違和感の残る右腕を押さえながら新手の弓騎兵に向け叫ぶが、返答は矢が飛んでくる。

 

危ぶねぇんだよ!!

 

飛んできた矢の軌道を見切り、首を僅かに傾けて矢をかわす。

 

この野郎ッ、死ね!!

 

「命中!!」

 

問答無用の攻撃に応射すれば先ほど矢を射ってきた先頭の弓騎兵の頭が血飛沫と共に弾け飛ぶ。

 

また頭がぶっ飛んだな。

 

その光景を見て後続の1騎はスピードを落として追撃を諦める様であった。

 

「逃げ切れたか……」

 

は~やれやれ。

 

追っ手の姿が見えなくなった俺は距離を取ってから手綱を操りヤックルの速度を落とす。

 

そして、念のため警戒状態は維持しつつも騎上からヤックルの体に傷がないか確かめていた。

 

さて、もう戦場は抜けただろうけどなるべく早く別の所に行くか。

 

……いや、ちょっと待てよ。

 

「ヤックル、お前は森で待ってくれ」

 

この時代の金持ってないし、ヤックル1人だけに負担掛けるのもあれだし、手頃な足軽とか武将を数人狩って金と足を奪うか。

 

……最早、野盗だな。

 

戦場から離れヤックルの無事を確認し足早に先を急ごうとした俺だったが、これは色々と補給するチャンスなのでは?と、ふと思い付きヤックルから下りると自嘲しつつもゲスな笑みを浮かべ戦場へと舞い戻るのであった。

 

「待たせたな、ヤックル」

 

ちゃんと待っててくれたか。

 

お前はやっぱり利口だな。ちゃっかり沢を見付けて水飲んでるし。

 

「この馬達2頭もこれからの旅路の仲間だ。仲良くしてやってくれよ」

 

返り血を浴びつつも大量の戦利品を獲得してきた俺の姿を見てヤックルがドン引きしたように嘶くのを尻目に俺はあらためてモノを確かめる。

 

馬2頭にお金っぽいモノと刀と矢と、その他もろもろ。

 

かなりの収穫だったな。

 

うーん……荷物も増えたからリヤカーでも作って馬に曳かせるか?

 

いや、ダメだな。山奥じゃリヤカーなんて使えないし。

 

道の整備されていないこの世界じゃ、使える場面が限られる。

 

当初の予定通り荷馬として使うか。

 

「っ、そういや腕がおかしいんだった」

 

ホクホク顔で戦利品を検品した俺は忘れかけていた右腕の事を思い出し、沢へと向かう。

 

とりあえず水で冷して薬草でも貼っとくか。

 

「……?痣が……濃くなってる?」

 

この前より明らかに濃くなっているんだが…………うーん、あれか。マンガ的なあれか。

 

力を与える代わりに宿主?の命を削る的な。そう考えるとさっきの戦いの時の異常な力の説明はつくが。

 

……これってリアル中2病じゃないか?いや、邪気眼か?

 

くそっ、静まれ俺の腕よ!!とか言えばいいのかな?

 

まぁ何にせよ……荒事の時には便利だけど、考えて使わないと痣が身体中に回って旅の途中で死ぬんじゃないかな、これ。

 

まるで何かの物語の主人公みたいな力だな等と他人事のように考えながら俺は痣に薬草をペタペタと張り付けるのであった。




次でストックが切れます。

次の次も書きかけがあった筈なんですが、見付からないので暇を見て新規で書こうと思います。投稿はいつになるか分かりませんが。

ちなみに探している途中に主人公がクロトワに転生した「トルメキアのヤンデレ姫殿下」という書きかけの作品が発掘されました。

これもいつかやりたいな…(遠い目)

書けずに案の状態で放置の作品も多いし、連載途中で放置も多いから何とかしなきゃです。

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