もののけ(ヤンデレ)姫   作:トマホーク

9 / 11
未知との遭遇

雨、止まないな。

 

胡散臭いオッサンから入手した情報を頼りに寄り道もしつつ歩くこと約2ヶ月。

 

そろそろシシ神の森と呼ばれる地域に踏み入ろうとしていたのだが、突然の豪雨で足踏みを余儀なくされていた。

 

「さて、とりあえず聞いた感じだと今日か明日にはタタラ場とやらに着くか」

 

木の下で脚を休める太郎と次郎にも予備の簑を掛け、自身は急造のシェルターを作って体温の維持に努めながら目的地までのおおよその道のりを計算する。

 

一先ずの行き先はシシ神の森であったが、そのシシ神の森のど真ん中にタタラ場という製鉄業を生業とする村があるという情報を寄り道の最中に追加で得ていた為、その村を目指していた。

 

「……?」

 

雷鳴?いや、銃声かこれ。

 

不意にピンっと耳を立て辺りを警戒し出したヤックルに釣られて耳を澄ませてみると、雨音に紛れて微かだが火薬が爆ぜる音が耳朶に届く。

 

やっぱりタタラ場がこれの生産元らしいな。だが何故こんな天気なのに撃ってるんだ?なんか獣にでも襲われたのかな?

 

ダーンッ!ダーンッ!と散発的な銃声を耳にしながらタタリ神の腹を食い破った鉛弾を右手でコロコロと弄び、銃声の度に僅かに胎動する痣を左手で押さえる。

 

そうしている内に銃声は聞こえなくなり、それから暫くして雨も止んだので移動を再開した。

 

「全く……酷い雨だったな。どこから渡れ──っておい」

 

さっきの銃声が関係してるのか?

 

森を抜け大雨の影響で濁流が流れる川に出くわし、どこを渡ろうかと川の流れを見ていると牛と人の死体が上流から流れて来る。

 

「あっ、おい。大丈夫か!?」

 

流れていく死体に釣られて視線を下流に向けた後、上流の方を見てみれば瀕死の状態の男が1人すぐ側の岸に流れ着いているのを見つけた。

 

「うぅ……」

 

「よし、まだ生きてる」

 

ヤックルから飛び降り男が生きているのを確かめ慌てて川から引きずり出す。

 

「頑張れよ、助けてやるからな」

 

まだ他にもいるんじゃないだろうな。

 

そう思い辺りを見渡して見ればすぐ近くで岩と岩の間に挟まっているもう1人の生存者を発見する事が出来た。

 

さてと。怪我の具合は──血の匂い?なんか他にもいるなこりゃ。

 

そうして2人を安全な場所に引き摺り上げ応急手当をしようと思った時だった。

 

ヤックルとほぼ同時に何かの存在の気配を嗅ぎとった俺は2人に予備の簑を被せると頭巾の面当てを引き上げ、警戒しながら川縁の岩々を伝って上流へと登って行く。

 

ここら辺に──いたッ!!

 

濃くなる血の匂いと大きくなる何かの存在の気配に警戒心を一段と強めた時であった。

 

大きな岩に引っ掛かって積み上がった木の根の隙間の向こうにその姿を捉えた。

 

デカイ!?体長何メートルだよあれ!!

 

まず目に飛び込んできたのは対岸の川岸に打ち上げられた状態で地面に倒れ伏す巨大な白い山犬の威容であった。

 

2頭増えた!!それに女の子!?

 

それなりに距離があるにも関わらず、一目見てその大きさが分かるほど巨大な山犬の姿に驚いていると比較的小さいがそれでも十分大きな山犬が2頭も現れた事に更に驚嘆する。

 

だが、その3頭の事よりも後から新たに現れた2頭の内1頭の背に女の子が騎乗しているのを目の当たりにして絶句する事となった。

 

あの3頭は親子か?まさかあれがシシ神の森の主なのか?しかし、あの女の子は一体……。

 

頭に幾つもの疑問符を浮かばせながら木の根の間から気配を消して様子を伺っていると女の子が大きな山犬に駆け寄る。

 

それに呼応するように大きな山犬が身を起こすと右前足付近の白い毛が鮮血に染まっていた。

 

あの傷……そうか、さっきの銃声はあの山犬に対してか。

 

大きな山犬の傷を視界に捉え、少し前に聞こえていた銃声の理由を朧気に理解する。

 

その一方で大きな山犬に駆け寄った女の子は銃創に気が付くと何の躊躇いもなく屈みながら傷口に頭を突っ込み、傷から流れ出る血を口で吸い出し始める。

 

あ、ヤバイ!!バレた!!

 

女の子が口一杯に血を含み、顔が血で汚れるのも厭わずに2回ほど傷口から血を吐き出した時であった。

 

女の子の処置にされるがままであった大きな山犬が俺の存在に気が付き唸り声を上げる。

 

ちょうど3回目の血を口にしていた女の子も大きな山犬の動きに気が付いて振り返り、俺の存在を認識すると警戒した面持ちで立ち上がり血を吐き出し口を拭う。

 

とりあえず挨拶だな。

 

完全に存在がバレてしまった事もあり俺は隠れ見ていた木の上に登って山犬達と少女の視界に身を晒す。

 

「我が名はアシタカ!!訳あって東の果てよりこの地に来た!!そなた達はこのシシ神の森に住まう古い神か!!」

 

「……去れ!!」

 

こちらの問い掛けに数瞬の間を挟んだ後、まず大きな山犬がのそのそと森の中へと姿を消しそれに続いて小さい方の片割れに騎乗した少女がただ一言そう叫んで森へと消えていく。

 

最後に残った山犬が流れ着いていた牛の死骸を咥えて引き摺りながら森へ入り、そうして彼女達は俺の前から姿を消すのであった。




毎度の事ですが、少々荒れて参りました。

ストックもほぼ無いので試しに今回はここで更新を止めてみたいと思います。

とりあえず今日完成した次話は、また気まぐれに投稿しておきます。

ではノシ

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。