魔法戦記リリカルなのは New Generation 作:日月 咲
午前六時。
ユウヤ・タカナシは、二段ベッドの上段で、静かに目を覚ました。
かけられた梯子を降り、下段で眠るルームメイトの顔を見る。ルームメイトはまだまだ夢の中なのか、大きな鼾をかいている。当分目覚める様子はない。
「レイ、時間だ。早く起きろ、っと」
言い終えると同時に、部屋に鈍い音が響く。
――魔法総論。
千ページを超える魔導師のバイブルたるそれが、ルームメイトの顔面に直撃している。
もちろん、ぶつけたのはユウヤである。しかも、いっさいの躊躇いもなければ、妙に手慣れている。
輪郭が変わるような衝撃に、さすがのルームメイトも目を覚ます。
「痛ってぇ……。なんだユウヤか」
顔を、より正確に言えばその高い鼻を押さえながら、ルームメイト、レイ・タカナシは声を出した。
「なんだユウヤか、じゃなくて早く準備しろ」
ユウヤは悪びれる様子もなく、自身の身形をテキパキと整えていく。
「んんーっと。そういや、今日から教導隊に世話になるんだったな」
伸びをしているレイを尻目に、ユウヤはデバイスのメンテナンスを始める。最低でも三十分、毎朝欠かさずこの時間に充てている。
「……まだこんな時間か。おやすみ」
「二度寝するな。昨夜、トレーニングしてそのまま寝たんだろ? さすがにシャワー浴びてこい」
再び夢の世界へ突入しようとするルームメイトの首根っこを掴み、上方向に力任せに引っ張る。
「それに、担当は五番隊。お前憧れの高町一等空尉が所属してるとこだぞ?」
聞いた途端、レイは物凄い勢いで飛び起きた。比喩ではなく、本当に体が跳ね上がったため、二段ベッドに頭を打ち付けている。
「それを早く言え! すぐ準備する」
レイはシャワールームに走っていった。
「いや、教導計画に書いてあっただろ……いや、読むわけないか」
『ーーいつも、ご迷惑おかけします』
ユウヤの無意味な呟きに反応して、インテリジェントデバイスが発言する。
「おはよう、ユースティティア。まぁ、いつものことだから気にしてないよ」
ユースティティアはレイが所有するデバイスである。レイと違って、彼女は冷静で礼儀正しい。
「それより、どこか異常はない?」
ユースティティアを含むインテリジェントデバイスは、ある程度の自己修復機能を持っているが、限界は存在する。
『問題ありません。昨日、マスターがメンテナンスを』
「意外とマメなんだよな……」
ユウヤほどではないが、レイもデバイスには気を遣っている。
ユウヤも極端ではあるが、中にはデバイスが破損するまで何もしない魔導師もいる。
『まあ、それでも、ユウヤ様のデバイスは幸せだと思いますよ』
「戦闘中は一心同体。俺も命を預けるし、コイツ達の命を預かってるんだ。やれることをやってるだけだよ」
ユウヤがぐっと伸びをすると同時に、部屋の扉が勢いよく開いた。
「ユウヤ、先に食堂行ってるぞ。あまり遅くなるなよ」
早口で自分の言いたいことだけ言うと、足早にレイは去っていった。
「……よく一緒にいられるな」
『その台詞、そのままお返しします』