魔法戦記リリカルなのは New Generation 作:日月 咲
教導初日。
なのはから告げられた教導内容は、模擬戦であった。
しかも、想定する状況が、実力差がある相手と対峙した際に、味方の応援が到着するまで、如何に持ちこたえるかといったものである。
教導隊員一人に対し、訓練生二人で模擬戦を行う。
一定時間戦闘不能にならなければ訓練生の勝利というルールであるが、相手はなのはか、教導隊に異動したヴィータというから大変だ。
「一通りの訓練は終えてるはずだから、とりあえず、生き延びる術を身に付けてもらうね。模擬戦の毎日が続くから覚悟してね」
「他の組が戦闘中の間も、アタシかなのはが解説してるから気を抜くんじゃねーぞ」
「じゃあ、時間がもったいないから早速始めるよ」
なのはが言うと同時に、訓練用シミュレーターが作動する。
本日の最終組。ユウヤとレイの順番が回ってきた。
「改めてはじめまして。高町一等空尉です。何か質問はある?」
「レイ・タカナシ一等空士であります。問題ありません。よろしくお願いします」
「うん、元気だね」
「ユウヤ・タカナシ一等空士です。一つ質問よろしいでしょうか?」
「どうぞ」
「仮に、我々二人が高町空尉を撃墜した場合も、一定時間経過しないと勝利とならないのでしょうか?」
「おい、ユウヤ!」
ユウヤの発言に、レイが慌てて抑える。生意気言ってすいませんなどと、頭を強引に下げさせている。
「それは勝つつもりってことなのかな?」
「いえ、あらゆる状況を想定するのが癖でして。実力差のある相手と対峙したとして、例えば拠点防衛任務であれば、応援が到着するまで臨戦態勢をとらざるを得ません。撃墜したとしても一定時間経過しなければ勝利とはいえません。反対に犯罪者のアジトへの突入任務であれば、撃墜後の状況によっては撤退も可能です。すみません、興味本位のようなものです。レイの言うとおり、出過ぎた発言であったこと謝罪します」
まとわりつくレイを振りほどき、ユウヤは綺麗に頭を下げた。
「謝罪するほどのことでもないけど、そうだね。仮に撃墜出来たらその時点で勝利でいいよ」
なのはは笑顔で答えた。
「寛大な処置、ありがとうございます」
『話は済んだか? 始めるぞー』
シミュレーターの外のヴィータから通信が入る。
「二人はやる気まんまんだし、今日はこれが最後だから、私も本気で行くよ」
なのはは早くもレイジングハートを構える。にこりと微笑むと踵を返して所定の位置に戻る。
「おい、ユウヤ。この状況どうすんの?」
「安心しろ、撃墜しなくても一定時間経てば俺たちの勝ちに変わりはない。それに……」
ユウヤはやる気まんまんのなのはを見て微笑む。
「俺とお前なら勝算がある」
ユウヤはゆっくりと自身のデバイスを構えた。それに続くように、レイも慌てて構えをとる。
『始め!』
ヴィータの号令で、模擬戦が開始する。
同時に、なのはが突っ込みながらディバインシューターを発動する。
「さてと、レイ。俺は撃墜の準備に入るから、高町空尉の誘導弾は全てお前に任せる。可能な限り弾殻を破壊して欲しい」
「仕方ない。ユースティティア!」
『モードライブラ。起動します』
レイの声に反応して、ユースティティアが姿を変える。一般的な杖の形状から、一瞬のうちに天秤に似た形状となる。
「ブーストアップ、アクセラレイション」
レイの得意な魔法は、見た目に反して補助魔法。戦闘スタイルは自身を強化してのクロスレンジ。状況に応じて中距離戦闘もこなす。
「ブーストアップ、ディフェンスゲイン」
黒銀色の魔力光がレイを包む。
強化したのは速度と防御。
「んじゃ、多く見積もって五分が限界。なるはやでよろしく頼むぜ」
レイは強化を施すと、手短にユウヤに告げ、なのはに向かっていく。
「それだけ持てば上出来だ。さて、俺達も始めようか」
『了解です』
「久々に制限無しで暴れようか。ノーザンライト」
『マルチタスクモード』
ユウヤの愛杖、ノーザンライトが手を離れ宙に浮く。
形をリングに変えると、ユウヤの首に装着される。
「お前も頼むぞ、レーゲンボーゲン」
『了承』
今度は球体が、ユウヤの頭上に浮かぶ。ユウヤのもう一つのデバイス、レーゲンボーゲン。その名の通り、七色の光を放っている。
「待たせたな、セブン・シスターズ」
『あいあいさー』
懐から飛び出したのは七つの正八面体。握り拳大のそれは、ユウヤを取り囲むように周遊を始めた。
模擬戦開始直後。
「お、間に合ったみたいやね」
「ん、はやて? どうした?」
八神はやて。『海』の若き捜査司令だ。
「なのはさんに、面白い子がいるから時間があったら見学してとお誘い頂きました。」
はやての代わりに、隣のシャリオ・フィニーノが経緯を説明する。
「あいつが?」
ヴィータは違和感を感じた。
なのはは、基本的に教導内容を他人に見せることがない。もちろん新人や若手は別ではあるが。
それは自身の教導方針に基づくもので、個人の長所を徹底的に鍛える。
人の真似するくらいなら、自身の武器を磨くべきだといった考え方だ。
もちろん、部隊で戦う場合であって、捜査官や執務官のような単独で戦闘行為の可能性がある場合は、短所も補っている。
その実、魔力量の少ないティアナ・ランスターに自身の十八番である魔力集束の技術を教えている。
「それだけ期待してるってことやろ。なのはちゃん、久しぶりに凄い楽しそうやったし」
そう言うはやても楽しそうに笑う。
「珍しくなのはさんから動きましたね」
「新人は、威勢の良い方が対処するみたいだな」
ヴィータとシャリオはレイの動きを見ている。ディバインシューターにも怯まず向かっていき、一つずつ確実に破壊していく。
「なかなか良い動きだな」
ヴィータが呟く隣で、はやてはユウヤを静かに見つめていた。
「……シャーリー。あの子、何やっとるんか分かる?」
はやての意味深な言葉に、シャリオのみならずヴィータも反応する。
「あいつ、デバイス何個使う気だ? そもそも、同時にいくつも使えるのか?」
複数デバイスを所有することは変わったことではないが、ユウヤほどの数は類を見ない。
「シャーリーなら詳しいやろ?」
シャリオはデバイスマイスター資格を所有している。技術的なことは、この場では一番詳しい。
ただ、当のシャリオ本人は、我を忘れたようにユウヤを見ている。観察しているといった方がより適切だ。
「シャーリー、聞いてるのか?」
「すいません、失礼します!」
痺れを切らしたヴィータがシャリオに問い詰めようとした瞬間であった。
反対にシャリオがヴィータに飛びかかり、手にしていた教導資料を奪い取る。
「お、おい!」
あまりにも唐突な出来事で、ヴィータもはやても言葉が出せずにいた。
「……やっぱり」
シャリオは教導資料を見て呟く。ちなみにこの教導資料、ものによっては技能評価や人事評定が記載されていることもあり、教導官以外が無断で閲覧すると罰則の対象となる。
幸いにも、検索すれば誰でも調べられる情報しか記載されていなかったため罰則にはならないが。
「何が『やっぱり』なん?」
「ああ、すいません! いろいろ失礼しました。先程のご質問ですが、理論上は可能です」
シャリオは言った後、少し思案した。
そして、こう続けた。
「というよりも、今のところ彼にしか実現出来ません」
衝撃的な一言であった。