----------------------------------前回から----------------------------------------
・・・空気が微妙だ。確かにさっきよりはマシだけど・・・これはこれでなんか変な感じだな、おい・・・。
でも、鍵・・・お前はこのタイミングでそれを言うってことがどういう意味なのか・・・分かってるのか?鍵の・・・自分自身の過去を言うってことなんだぞ?会長は「過去とか語り合えたら・・・」とは言っていたが・・・。あんな過去をこんなタイミングで言う事に問題を感じないのか・・・?
「ちょっと待ちなさい」
この空気を脱するためか、はたまた別の理由からか、会長が少々険しい表情で鍵に話しかける。
「なんですか?」
「なんですか?じゃないわよ!なにそれ!妄想とかじゃないわよね!」
「失礼な。俺はそんな妄想する人間じゃ・・・」
「そういうことする人間に見えまくるから聞いてるのよ!」
「・・・否定できませんね。でも、事実は事実ですからね・・・」
「ええと・・・キー君。それは、この場の空気をどうにかしようとしてついた嘘・・・では無いのよね?」
「さっきから失礼な発言が多いですね。俺はいつだって真面目ですよ!」
「そういう発言が信じられないのだけど・・・」
「信じてください、知弦さん!俺の発言は、政治家が選挙前に掲げる公約の実現率と同じくらい信用に足りますから!」
「逆に信じられなくなったわね」
「それにたとえそうだとしてもよ、お前それなら今更ハーレム作る努力するまでもなく、環境に・・・女に恵まれてるじゃねーかよ。だったらなんでハーレムなんて作ることを目標にしてるんだ?」
「あー、それはだな・・・」
「あ、いや、やっぱ言わなくていい。どうせフラれたんだろ?」
「違うわ!好感度MAXだわ!少なくとも片方は妹だぞ!家族だぞ!フラれてたまるかっ!」
「ええー」
「この際だから言っておこう!皆俺の事を低いレベルで見てるみたいだが、出るとこ出ればかなりモテるんだぞ!」
「オカマバーとかでか?」
「そんな特殊環境限定の魅力じゃないわ!」
「いや、ほら、あれでしょう深夏さん。美人局の方々ですよ」
「そんな悲しいモテ方でもないわ!というか言い張れることが悲しいがそれほど金持ってないし!」
「それじゃ熟年層とかか?」
「意味が分からんわ!」
「そうか、じゃあ幼女とかか?」
「だから意味が分からん!」
「え?だって常日頃から『俺は美幼女ハーレムを作る!』って言ってんじゃん」
「『美少女ハーレム』だ!法律に引っかかるような事なんもしてないから!」
「それ以外にも鍵前に『小さいころから美女になりそうな子供に好意持たせて、大人になったら完全無欠のハーレム作ってやるぜ』ってリアル光源氏計画立ててたじゃん」
「いや、そんな事一回も言ったことも考えたこともないから!」
『・・・・・・』
「今の俺すげぇアウェーですね!っていうか違うから!普通に同年代の女子にモテてたから!」
「・・・え、鍵いつの間にクスリやってたんだ・・・?」
「幻覚でも幻想でもねぇから!真実だから!」
「そ、その発想はなかったです・・・」
「無かったの!?一番最初に出てくるべき発想じゃね!?」
「世の中には科学では解明できない事が有るのですね」
「酷い!真冬ちゃん、相変わらずサラリと酷えよ!」
その後、鍵がいかにモテるかの講義を行っていたが、真面目に聞いていた生徒はゼロだった。
適当なところで会長が話を戻すために鍵の話に割り込む。
「で?杉崎がモテることは・・・まあ、百歩譲るとして。義理の妹と幼馴染の話はどうなったのよ」
「あ、忘れてました。ええと・・・なんでしたっけ?」
「そんな存在がいるならハーレム作るなんて言わなければいいんじゃないの、って話」
「ああ、そうでした」
そういうと、鍵は席を立ち、近くにある生徒会室備え付けのポットへ向かい、番茶を淹れた。生徒会長という職業を利用して会長が「会議のスムーズな進行には必要不可欠」といかにもそれっぽい適当すぎる理由をつけて置かれたものだ。職権乱用?気にしたら負けだ。
鍵はみんなの分淹れようとしていたが、僕以外はいらなかったらしく、僕と鍵だけ番茶を啜りながら話を再開する。
「まあ、確かに中学時代の俺はあんまり女性に興味が無い・・・こういうと語弊がありますけど、
「え?杉崎って、中学時代からそういう感じじゃなかったの?」
「えー、まあ、そうですね。今の俺からエロ要素と妙なテンションの高さを除いたら、中学時代の俺になりますね」
「なにその理想の杉崎。高校に入って以来、めきめきと堕落してるわね」
・・・いや、少なくともエロ要素を取り込む原因となったのは貴女なんですよ、会長?と心の中で突っ込んだが、声には出さないでおく。妙なテンションの方も会長が原因、というのはあながち間違ってないかね・・・。
「んで?鍵は幼馴染と義理の妹と二股かけて失敗した、と」
「言い方が若干適当な気もするが・・・まあ、そうだな」
「で、キー君はフラれたショックでエロゲに逃避をして」
「はい」
「今現在は、新たなハーレムを形成して張り切っている、と」
「その通りだね」
「典型的な駄目男じゃない!」
「・・・。・・・おおっ」
「今気付いたの!?」
「今気付きました」
「どこまで堕落すれば気が済むのよ、アンタは!」
「いやあ、何となく気づいてましたけど、事実だけを書き出してみると、中々に最低な人間だったんですね、俺」
「なにヘラヘラと!副会長が最低人間でどうするのよ!」
「懐の広い生徒会に乾杯しましょう」
「最低人間が番茶でなに気取ってるのよ!」
・・・鍵が目茶苦茶責められていた。確かに事実だけ簡単に言うと、鍵がひどい人間に聞こえるなぁ・・・。そこに至る過程を聞けば同じ風には思わないだろうけども。
生徒会室にいる皆の鍵に対する好感度が激減していた。空気からもそれを感じ取れる。・・・まあ、自業自得だろう。
それをわかっていたのか、鍵はもう一度番茶を啜ると、こういった。
「実際、俺は最低の野郎だったんですよ。なにせ・・・命よりも大切に思っていた女の子たちを、二人とも傷つけてしまったんですからね・・・」
『・・・』
・・・これ以上はやめさせた方がいいかもしれない。僕はそう判断し、鍵に対して口を開こうとするが・・・
「で、でも!真冬は・・・真冬は杉崎先輩がそんな酷い人には思えません!」
「真冬ちゃん?」
「その、確かに杉崎先輩は女の子に対してだらしないですけど・・・。で、でもだからって、いや、だからこそ女の子を傷つけるようなことは絶対にしない人だって真冬は思います!」
「・・・ありがとう、真冬ちゃん。でもね・・・傷つけたことは事実だから、さ。・・・俺にとって二人は両親以上に大事な存在だったんだ。家族の中でも特に大切な人、って括りでさ。そんな二人だったからこそ・・・俺が傷つけた、っていう事実は、うん、忘れちゃいけないんだよ」
「先輩・・・。で、でも・・・」
「鍵、あたしも真冬に賛成だ。あたしは・・・男子っていうのを信用してないし、お前のいい加減さも分かってる。けど、鍵が大した理由もなく人を傷つけるような下種とは違うって事だけは確信してる。」
「深夏・・・」
「別に深い理由は話さなくてもいいけれど・・・多少の言い訳くらい、してもいいと思うわよ?少なくともここにいるメンバーは、キー君の気持ち、汲みとってあげられるわよ?」
「知弦さん・・・」
・・・ああ。やっぱりどうしようもなくいい人たちだ。彼女たちは。何も聞かずに鍵の事を信用し。鍵の傷を埋めようとしている。彼女たちなら・・・きっと鍵の傷を・・・勿論全部とは言わないけど・・・少しでも埋められるだろう。・・・僕とは大違いだ。僕が鍵に近づいて親友になったのは・・・同じ『雰囲気』を感じたから。鍵に同情的になって自分の過去の罪の重さを少しでも減らしたかったから・・・。鍵が最低人間だというのなら、僕はもっと最低人間だ。鍵と違って罪と向き合うことをやめ・・・逃げてきたのだから。罪を他人にも背負わせてしまったのだから。大切な人を守ることをやめて・・・遠ざけてしまったのだから。
だったら・・・僕は何も言わないほうがいい。その方が・・・きっと鍵のためになるだろう。
それから、鍵は自分の過去、それから生徒会のメンバーに初めて会った時の事も一緒に話した。ついでに、会長の「今のあなたには主人公成分が足りないわ!」発言もしっかり話していた。その発言を聞いたとき、皆( ゜д゜ )←こうなっていた。うん、よく分かるよ。僕もそうなったから。
そして、会議の最後に、鍵は一言、こう言った。
「皆好きです。超好きです。皆付き合って。絶対に幸せにしてやるから」
・・・それは、鍵の意思表明。過去のようなことを二度と起こさないよう・・・悲しい思いをさせないよう・・・決意を持って言い放った鍵の生徒会室に入って初めての言葉であり、改めて決めた覚悟であった。
「・・・やっぱお前はすごいよ、鍵・・・」
僕は周りの皆に聞こえないようにつぶやいた。・・・僕もいつか彼みたいになれるだろうか?あんな風に・・・自分の決意と凛とした意思を持つ彼のような人間に・・・周りの事を悲しませたりしないと言い切れるような人間に・・・
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鍵の過去話をしていたら、もう結構な時間になっていたようだ。今日は雑務はやめにして、皆で帰ろうとしている。思えば、こうやって皆と帰るのは初日以来かも知れない。それ以降は鍵の雑務に僕が付き合っていたので、女性陣と帰ることはあんまなかったからな。
「なあ、柊」
「うん?なんだ、鍵?」
僕と鍵は女性陣の少し後ろで二人で話し始める。女性陣は会長以外の人達と鍵との出会いを会長が聞いてるようだ。
「お前はさ、自分の事凄い下に見てるみたいだけどさ、俺からしてみればお前も結構良い奴だと思ってるぜ?」
「・・・」
「初めて会ったとき、さ。俺は会長と出会う前の俺だったからお前の事拒絶してた。それでもお前は気にせずに話しかけてた。普通の奴だったらそんな事しないさ。よっぽどお人よしな奴じゃないとさ」
「・・・そんな事ないさ。それに、僕はこう見えてずるい奴だからな。」
「ずるい?」
「だって・・・お前と違って僕は過去の事をお前に話してない。お前は話してくれたのに・・・。それに、初めて会ったときだって、お前から同じ『雰囲気』を感じて気になったから会話しただけさ。あの姿・・・僕の昔とそっくりだった。だから、見たくなかったんだ・・・。誰であろうと、あんな姿、見たくなかったんだ・・・」
「・・・それでも、さ。お前は自分の意志でそうしようって思ったんだし・・・それに諦めずに話しかけてくれてたし・・・やっぱ感謝してるよ、お前にも。皆にも」
・・・僕が過去を言わないのは拒絶されることが怖かったから。僕の過去はきっと・・・言える人を選ぶ。世界で一番不幸とか、そんなこと考えてるわけじゃ今は無いけど、昔はそうだった。経験したこともない奴に・・・理解なんかできないやつに・・・何がわかるんだ、と。幸せな奴らが僕の理解もしてない過去を言いかけてくることが・・・何より嫌だった。だから、僕はそいつらに暴力をふるった。それ以上喋られるのが嫌だったから。
「ねえ、杉崎!」
「ん?なんですか、会長?」
「杉崎は話してくれるよね!出会いの話!」
「いや、他の皆から聞かなかったんですか?」
「聞いたわよ、勿論!でも、知弦は『81禁だから教えられない』って言うし、深夏は『霊力すらなかった奴がいきなり死神になっておまけに卍〇を習得していたって位大したことない』って言われたし、真冬ちゃんに至っては『男の子に触ったら腐るかもしれないと信じて疑わなかった頃のお話ですが、まあ、どうでもいい話ですよね』っていうのよ!」
・・・どれもこれもとんでもないものばかりなんだが、鍵と他の皆との出会いってそんなにすごいものなのか?僕は知らないから何とも言えないんだが・・・
・・・ああ、そうだ。会長に聞きたかったことが一つあったんだった。
「あのですね、会長?」
「え?なに、楠木?」
「一つ聞きたい事があるんですけど、いいですか?」
「いいけど・・・。何?」
「会長は・・・」
一度区切る。そして、
「会長は、こんな最低人間な僕達と一緒にいる生徒会、楽しいですか?」
会長は少し口を開けてポカン、とした後、最上級の笑みを浮かべながら
「当然じゃない!私が生徒会長の生徒会なのよ!楽しくないわけないじゃない!」
堂々と言った。・・・うん、そうだよな・・・。
「そうですよね。やっぱ、楽しくなきゃつまんないですもんね。せっかくの学園生活なんですから」
「そうよ、楠木!だから、そんな質問無意味よ!」
それから、鍵は会長に紅葉先輩達との出会い話を面白おかしくネタ120%で語っていた。
それを後ろから見ながら僕は思った。
皆がこんな風に笑っていて・・・こんな風に下らないけど、でも面白い話をしていて・・・その一員に僕がいる。これは、きっと素晴らしい事。今までの過去にはない、色のついた世界。・・・決して手放してはいけない世界。だから・・・
「鍵の様にはできないかもしれないけど・・・僕も絶対守って見せる」
碧陽学園生徒会。そこは、いつものように楽しい会話が繰り広げられている、そんな世界。