「友情という絆ほど、固く、美しいものはないのよ!」
会長がいつものように名言をさも自分が考えたかのように語ろうとして----
「それは違うな」
語れなかった。
いきなり僕の後ろから声が響き、その直後にドアの開く音がした。僕は本能的に後ろを見る。
そこにいたのは、大層な「美人」だった。鍵の言葉を借りるなら、「攻撃的な美」というような感じの人だった。その美人さんは、まるで家に帰ってきたときの様に、なんのためらいもなく生徒会室へ入ってくる。あの藤堂先輩でさえ、一応ノック位はしてから入ってくるのに。
『・・・・・』
あまりに唐突な出来事に、僕らは全員言葉を発することも忘れてしまっていた。その美人さんは、部屋の中を一瞥すると、余っている椅子をひっぱり出してきて、僕の隣に座ってきた。
「・・・そうか、お前が、か・・・」
?なんだ?僕の方を見て小声でなんか言ってきたが、僕がどうしたというのだろうか。他の皆は全く聞こえてないみたいだし、声を発した本人の目線は既に僕を捉えて無く、周りの役員たちの顔を簡単に見て行っている。
・・・だからだろうか。僕たちは、慎重になってしまっていた。何故かは知らないが、彼女に流れを持って行かれるのはまずい、と本能が警告していたが、それに対する対処法が浮かばずにただ警戒するしか術を思いつかなかった。その結果・・・
「友情が固い?美しい?はは、久々に聞いたよ、そんな言葉」
「な・・・」
相手に発言の余地を与えてしまった。・・・まずい、流れを完全に持ってかれてしまっている。さっきの発言にしても、会長に向け放たれた言葉にも関わらず、その目線は僕や鍵や紅葉先輩の方を見ていた。完全に僕らの思考が読まれてるな・・・。この状況は非常にまずい。彼女が僕らよりも優位に立っていることの証明他ならない。昔の戦いにおいて、軍師という役目は非常に重要なものだ。軍師の策略ひとつで戦況が著しく変わってしまう事は、歴史において証明されている事実だ。そして、軍師が戦を仕掛けるのは、『勝てる』と考えてからではない。『勝った』と確信してから仕掛けるのだ。そして、彼女は明らかに『勝った』と確信できるタイミングで流れ込んできた。それは間違い無い。一方、僕らはこの状況を理解するために、わずかながらに遅れをとってしまっている。この「わずか」は、戦いにおいて有利不利を決めるのにはあまりにも長すぎる時間だった。
鍵や紅葉先輩も同じ考えに至ったからか、絶望ムードが漂っていた。椎名姉妹もそれを感じたからか、普段よりもずっと緊張感を覚えているだろう。会長もきっと・・・
「名言を薄っぺらいなんて言葉で済まして斜に構えている人間こそが、一番薄っぺらいのよ!」
・・・うん、忘れてた。この人は『空気を読む』っていうスキルが皆無でした。空気を目茶苦茶に引っ掻き回してくれました。
だけど、そのおかげで、僕らの空気が軽くなる。そして、思わず笑ってしまった。その女性は何故かそれを楽しそうに眺めると
「そうだな、お前の言うとおりだ。斜に構えてる人間ほどいけ好かないものはいない。悪かった」
「え・・・ええ!そう!分かればいいのよ!」
会長がえへん、と胸を張る。・・・その性格、うらやましく思うなぁ。いや、本心で言ってるよ?
そろそろ、会長と謎の女性にペースを握られているのも癪に感じていたので、取り敢えず動き出すことにした。
「それで?あなたは一体誰なんでしょうか?」
「取り敢えず俺らに分るのは、部屋に入る時はノックをするべき、っていう一般常識すら知らないような人間だってことくらいですかね」
年上への対応としてはかなり棘のある発言になるが、まあ許してほしい。僕たちにとって特別なこの空間に土足で入り込んだことにそれだけ苛立っているのだから。
その女性は、胸の前で腕を組み、僕ら二人を再度眺めまわす。
「副会長の杉崎鍵、それに庶務の楠木柊、か。<優良枠>で入った生徒とは聞いていたが・・・成程、投票メンバーと同等・・・いや、それ以上にクセがあるな。面白い」
「お褒めに預かり光栄です、って言えばいいところでしょうかね。」
「面白がってくれるところ大変恐縮なんですが、ここは関係者以外立ち入り禁止です。どうしても入室したいのなら、副会長たる俺のお眼鏡に適ってからにして下さい。」
「ふふ、いいじゃないか。自分で言うのもなんだが、私は美人で聡明だぞ。ここに入る資格は十分に持ち合わせていると思うが」
「俺のハーレムの基準は厳しいんです。ただ美人なだけで入れると思ったら大間違いですよ」
「そうか、それならほかの基準はなんだ。私はどんなものでもオールクリアしてる自信があるぞ」
「俺を好きである事ですよ、もちろん」
その瞬間に「私(あたし、真冬)もその条件満たしてない(ません)」っていう空気をガンガンに感じたが、今は何も言わないでおこう。ツッコミも時と場所を考えるべきだ。
一方、その女性は・・・何故か知らないが、微妙にうるんだ目で上目使いに鍵の事を見る。そして、少し服をはだけさせて、今までとは打って変わって猫なで声で一言
「鍵君、だぁい好き。私・・・この身をささげてもいいわ」
「よし、合格です」
その瞬間、僕を含んだ役員全員が思いっきりずっこけた。「な、なんだってー」と言うのすら非常に馬鹿馬鹿しく思える。
「合格したぁっ!?っていうか、今までの緊迫した空気はなんだったんだよ、おい!」
「いやぁ、美人にあそこまでされちゃあねぇ」
「軽く誘惑されただけだろ!お前の意思どれだけ弱いんだよ!」
「失敬な。俺の意思は、ヒビだらけのガラスをなんとか破れるくらいに強いぞ」
「限りなく貧弱じゃねぇか!」
「その俺の意思を一瞬で曲げるとは・・・恐るべし、謎の女性!」
「一番恐ろしいのはお前のその脆弱さだわっ!」
鍵と深夏がさっきまでのシリアス空気をぶち壊しながら会話を続けると・・・突然女性が「あっははははは!」と笑い始めた。今までの印象と明らかに別物のそれに、僕達は驚きながらその女性を見る。
しばらく、心底おかしそうに笑うと、女性は上機嫌そうに僕たちの方に向き直る。
「自己紹介が遅れたな。私は、臨時で雇われた新任の国語教師の
「な、なんだ。顧問の先生さんでしたか。誰かと思ってびっくりしちゃいました・・・」
「ああ、悪かったな」
真冬ちゃんはほっと胸をなでおろす。僕たちも警戒を解こうとして・・・
「まあ、そんな訳でこの生徒会は今日でおしまいだ。解散」
再び爆弾を投下した。
『・・・は?』
・・・今思えば、あの夏休みの出来事の根本は・・・ここだったのかもな。この後、真儀瑠先生にああいわれ無かったら、僕がそれについて悩むことがなく、昔の事を皆に言おう、となんて考えなかったかもしれない。そういう風にとらえれば・・・彼女とは、・・・まあ陳腐だが・・・『運命の出会い』というものだったのかもしれない。
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