・・・え、待て。今この人は何て言った?「解散」とか聞こえたような・・・。はは、いや、そんなまさか・・・
「ん?この生徒会のメンバーは皆耳が悪いのか?そういう選抜基準なのか?ならもう一度言おう。私が顧問になった。私は自分の基準で生徒会を編成し直す。だから、現生徒会は今日を持って解散。以上。」
・・・どうやら聞き間違いではないらしい。この生徒会を解散?一体どういうつもりだ?
僕を含めた生徒会役員全員が全く反応できていないでいた。
「・・・ちょ、ちょっと待てよ!」
結構長い間があった後、なんとか深夏さんが声を上げる。一方、真儀瑠先生は表情を全く変えずに深夏さんを見る。
「待たない」
「どんだけゴーイングマイウェイなんだアンタ!」
「何故かは分からないが、お前にだけは言われたくない気もするな」
「と、とにかくちょっと待てよ!なんだよそれ!」
「不服そうだな」
「不服以外の何ものでもねぇよ!アンタ、何の権限があって・・・」
「教師だ。通常、生徒よりは教師の方が権限を持つと思うが」
「いいやっ!この学校においては、生徒会もそれなりに権限を持つさ!」
「ああ、それは私も知っている。この学校は中々興味深いな。愚鈍な教師に自分たちのことを丸投げにすることを良しとせず、自分達の事には自分達で責任を持つ。なるほど、立派なことだろう。しかし、その権限も結局は教師や学校から与えられたものだ。そして、私はそれらの権限を『容認している側』だ。これがどういうことか、分からないわけではあるまい?」
「で、でも!そんなの横暴だ!」
「横暴だな」
「なっ・・・」
「それで?それを私が認めたら何か変わるのか?」
「っ・・・」
深夏さんが悔しそうに俯いた。・・・まずい。これが只のアホ教師による暴走なのだとしたら、僕らはいくらでも対処できただろう。相手に権力があったとしても、だ。実際、今までにも教師を押さえ込むような活動をやったことはある。真儀瑠先生がその程度の存在だったら、一蹴、とまでもいかないにせよ、どうにか対応できただろう。
しかし、まあ、ある程度想定は出来ていたが、この人はそんな<r教師:凡人>とは全く違う。自分の立場、そして権限の使い方をしっかりと把握しているようだ。結論から言えば、顧問とやらに就任したこの人が今持っている権限を使えば、この生徒会の解散は容易だろう。それを分かっているからこそ、深夏さんはあんなに噛み付いたのだろうし。・・・しかし、この状況はやはりまずい。
そう思っていたら、会長が「待ちなさい!」と食いかかっていた。教師への対応ではないが、今の会長を見るに、そんなこと 完全に忘れてしまっているのだろう。
「わ、私の了解もなしにそんなことはさせないわよ!」
「いいや。君の了解なしに私はことを進めるぞ」
「だ、駄目に決まってるでしょう!そんなの、許さないんだからっ!」
「別に許してもらおうと思ってここに来たんじゃない。ただ告知しに来ただけだ」
「だからっ!そんなの、阻止してやるんだからっ!」
「ほう。それはそれで面白いことになりそうだな。で、具体的にどうやって私を止めてくれるんだ?」
「職員室に訴えて・・・」
「因みに、既に私は校長や教頭の許可を取っている。『生徒会を一任』するそうだ」
「そ、そんなっ!そんなの嘘よ!そんなことしたら伝統が・・・」
「おいおい。このご時世は伝統よりも効率だと思うぞ?実際、君らもよく知ってるんじゃないのか?美少女ばっかり集まってしまうこの生徒会選抜システムは、生徒達自身こそ納得しているものの、PTAにはとても評判が悪い」
「っ!そ、それは・・・」
・・・残念ながら、その通りだった。<優良枠>という救済措置があるものの、基本的に容姿のみで役員が決まってしまうこのシステムは、反発意見が非常に多い。ましてや、その救済措置が有名無実なものなのだから反発は更に加熱してしまう。生徒達自身からは不満の声は少ない(なんだかんだ言って結局楽しめているからだろう)ものの、外側から見ているPTAには、あまり理解を得られていないのが現実だ。
伝統、そして生徒達自身の自主性による学校運営という、たった二つの拠り所・・・しかも、どうしようもなく脆いソレになんとか頼って今までやって来たのだから。
会長はそのまま感情に任せて反論をしようとしていたが、袖を紅葉先輩に引っ張られ、そのまましばらく真儀瑠先生と睨み合った後、悔しそうにしながら着席した。
「なんだ、もう終わりか?」
真儀瑠先生がつまらさそうに呟く。
深夏さん、会長とこの生徒会における切込隊長たちが説き伏せられてしまった以上、強引な事は難しい。紅葉先輩にはできれば大将として最後まで考えを練って欲しい。ならば、次に出るべきは僕と鍵だ。時間稼ぎにしかならないだろうが、それでもしないよりはましだ。鍵も同じ考えに至ったようで、僕の方に視線を送ってきた。僕はそれに応じると、席を立とうとして・・・
「や、やっぱりおかしいと思います!そんなの、あんまりです!ま、真冬も認めません!」
真冬ちゃんの反論が飛んできた。普段大人しい真冬ちゃんがこういった行動に出たことに、僕たちは少なからず驚いていた。真儀瑠先生も予想外だったのか、キョトンとしている。
「真儀瑠先生のやっていることは・・・た、正しいけど正しくないです!」
「?」
「そういうのは、よくないです!いくら力があっても、下の意見を全く無視しちゃうのは・・・ぜ、絶対によくないです」
「ほう」
真儀瑠先生が真冬ちゃんの方に向き直る。真冬ちゃんは一瞬萎縮しかけたが、気力を奮い立たせるように立ち上がり、先生を睨みつけた。・・・まあ、手が震えているが、普段の真冬ちゃんからしてみれば、これまでの事だってそうとう無理しているようにも見える。
「そんなの・・・ええと、無理矢理なリストラと同じです!」
「無理矢理なリストラ、結構じゃないか」
「ふぇ?」
「別にそんな事珍しくはないだろう。ここにも一件リストラが増えた。ただ、それだけのことだろう」
「だ・・・駄目です!」
「椎名(妹)や桜野の意見はどうも要点をえないな・・・」
「ちがいます!そういう、論理的な考え方が全てじゃないと思います!そんなの・・・そんなの、人間としての温かさがないじゃないですか・・・」
「ふむ・・・」
ここにきて・・・そう、このタイミングで初めて真儀瑠先生の顔から笑みが消えた。顎に手をやり、本気で考え込み始めていた。こんな曖昧な反論が効くと思っていなかったからか、真冬ちゃん自身もすこしおどおどしていた。
真儀瑠先生は少しの間考えた後、真冬ちゃんに再び視線を向ける。
「確かに、指摘通りではあるな。温かみというものの欠如は、その通りだ」
「じゃ、じゃあ・・・」
「しかし、それを考慮した上でも、私は現在の方針を変えるつもりはない」
「な、なんで・・・」
「簡単なことだ。『人間としての温かみ』とやらと『ことを予定通りにすすめるメリット』とを比べてみた結果、後者のほうが分があると私は判断した。それだけだ」
「・・・冷たいです」
「人並みに冷たいことは自覚している」
「そんなの・・・間違っています」
「椎名(妹)の基準では間違っているのだろう。だが生憎、私の基準では全くもって正義だ。」
・・・やっぱり、そう簡単にはいかなかった。真冬ちゃんも俯いてしまう。悲しんでいるのかと思ったが・・・顔を見て驚いた。逆だったのだ。真冬ちゃんは、この生徒会の中で今まで一回も見たことのない・・・怒った表情をしていた。真冬ちゃんは、俯いたままぽつりぽつりと攻撃し始めた。
「・・・鬼です」
「鬼程度の存在と一緒にしては困るな」
「どんだけ上位の存在なんですか、あなた」
「・・・悪魔です」
「いい意味でな」
「いい意味で悪魔ってどういうことですか」
「・・・鬼畜です」
「よく知っているな」
「あ、鬼畜だって認めるんですか」
「・・・ぽっぽこぽーです」
「ぽっぽこぽーだな」
「ぽっぽこぽーってなんですか!先生、今、完全に流したでしょう!」
「・・・年増」
「ふむ。・・・ところで杉崎に楠木」
「はい?」
「一体なんですか?」
いきなり振られてきたので、とりあえず返答する。・・・一体何だって言うんだ。
先生はニコニコの表情で訊ねてきた。
「この学校では、殺人は可能か?」
「駄目に決まってるでしょう!」
「っていうか、真冬ちゃんの首にペンを突きつけながらそんな物騒なこと聞かないで下さい!」
まさに神速、ってやつだった。皆揃ってドン引きだ。真冬ちゃんに至っては泡を吹いて気絶している。
真儀瑠先生は「残念」と言いながら、ペンをしまう。僕たちはそれを見て、嘆息した。
「本当に先生なんですか、あなたは・・・」
「実は違う。私は生徒だ。女子高生だ。どうだ、そう言われれば、そう見えるだろう」
「いえ、全く」
「僕の目には完全に婚期を逃した三十路手前の教師にしか見えm(ヒュン!)・・・あ、あぶねぇ・・・」
僕の真横を投擲されたペンが通っていき、そのまま壁にあたって刺さっていた。・・・鬼以上っていうの、あながち間違ってないのかもしれない。
「見えるだろう」
『見えます』
これ以上下手なこと言ったら、次は一本では済まないかもしれない。ので、肯定しておいた。
「ふむ。私の美貌も、まだまだ現役だな。女子高生に間違われるとは」
『・・・』
「とても不満そうな顔をしているな、杉崎、楠木」
「いいえ、ただ、世の中理不尽だなーっと、改めて感じていたまでです」
「右に同じく、といったところです」
「それはそうだ。世の中は理不尽だぞ杉崎、楠木。・・・あらため、きなこ太郎、わさび二郎」
『理不尽なっ!』
命名の理由がさっぱり理解できなかった。理不尽すぎる。
真儀瑠先生はニヤリと微笑む。
「ところで、きなこ太郎」
「誰ですか、それ」
「僕らの中にそんな名前の人いましたっけ?」
「この生徒会の中で一番性欲を持て余している奴だ」
『会長、呼ばれてますよ』
「私じゃないよっ!」
会長が顔を真っ赤にして否定する。その様子を見て、真儀瑠先生が不敵な笑みを浮かべたまま、会長の方に振り返る。
「いや、お前だ。桜野くりむ改め、きなこ太郎」
「意外な展開っ!っていうか、理不尽よ!」
「世の中理不尽なんだぞ、きなこ太郎・・・改め、『くぁwせdrftgyふじこlp』」
「なんかあまりにも理不尽でテキトーな名前に改められたっ!っていうか、何て読むのよソレ!」
「まあ、冗談はさて置き」
「自分で始めたくせに、自分で仕切った!」
「『くぁwせdrftgyふじこlp』は、そんなに性欲が強いのか?先生はとても心配だ」
「冗談はさて置かれてないじゃない!しかもその設定、真儀瑠先生と杉崎と楠木が作ったものだったでしょうが!」
「事実は小説より奇なり。会長は想像より淫乱なり」
「まるで名言みたいに言うなっ!」
「いつでも相談に乗るからな、桜野。・・・まあ、あまり悩むな」
「悩んでないよ!そもそも、今一番の悩みの種は先生自身よ!」
「え?私にムラムラしていると?」
「言ってない!」
「困ったな」
「私がねぇ!」
「よろしくお願いします」
「受け入れるんかいっ!」
「若干百合だからな」
「どうして私の周囲はそんなのばかりなのよぉ!」
・・・この先生、出来る!会長をここまでいじれるなんて・・・敵でさえ無ければ一度酌を交わしてみたいな(注:未成年の飲酒は法律で禁止されてます)
「っていうかそこ!変な理由でこの先生を尊敬の目で見ないで!」
「でも、ここまで会長をいじれる逸材は・・・そうはいませんよ?」
「居なくて結構!」
「何を言ってるんですか。会長は、いじられてこそ輝くキャラなのに」
「そんな輝き方したくないわよ!」
「アカちゃん。出逢いは大切にしないといけないわ」
「なんでもかんでも大切にすればいいってものじゃないわよ!」
「桜野よ。先生は、お前と出逢えてとても嬉しいぞ。末永く宜しく」
「末永く宜しくされてたまりますかっ!っていうか何この状況!敵かっ!現在、生徒会は全員敵かっ!」
体力的に限界に達してしまったからなのか、それだけ叫ぶと、ぜぇぜぇ、と充電期間に入ってしまった。
・・・少々状況が乱れているな。場を整えるために、整理しよう。ええと・・・
「遂に杉崎は、一連の事件の犯人は親友の楠木であることを突き止めたのだった。親友に立ち直って欲しかった杉崎は楠木と話し合いを行おうとするも、楠木はそれを認めず、杉崎を撃ってしまうのであった・・・。杉崎の命の行方は!そして、生徒会に復讐しようと行動を始めた楠木と事件の行方は!」
「勝手にあらすじを捏造しないでください!」
「っていうか、なんで僕が犯人なんですか!しかも生徒会に復讐って!」
「こほん。とにかく・・・」
「そうそう、平行世界が関連してきたところだったな」
「折角鍵が仕切り直そうとしたのになんでまた話題を逸らすんですか!」
「貴女はどれだけふざければ気が済むんですか!」
「こち亀が終わるまで」
「果てしないですよ!」
「苦情は○元先生に言ってくれ」
「こち亀に罪はありません!」
「む、それではまるで、私に非があるようではないか」
「それ以外にどう受け取れるんですかねぇ!」
「不愉快だ。実に不愉快だ。杉崎の両親が、生まれ落ちたお前の顔を見た瞬間の感情くらい、不愉快だぞ」
「俺不憫すぎるわっ!」
「もう怒った。私帰る。プンプン」
「そんな年齢的にイタいノリで帰れると思ったら大間違いです!」
「っていうか、キャラを統一してください!」
真儀瑠先生がギャグに乗って本当に帰ろうとしていたので、僕らは慌ててそれを引き止める。・・・くっ、僕らがここまで遊ばれるなんて・・・どこまで上手なんだ、この人は。
まあ、それのおかげで、紅葉先輩に対策を練る時間を十分に与えられたはずだ。紅葉先輩を見ると、「任せて」というアイコンタクト共に、自身溢れた瞳で僕らを見ている。気絶したままの真冬ちゃんを除いて、生徒会役員全員の期待の視線が紅葉先輩に集中する。この人なら・・・もしかしたら、真儀瑠先生を打ち倒すことが出来るかもしれない。
真儀瑠先生もそれに気づいたからか、「ふふん」と、実に楽しそうに紅葉先輩に向き直る。
『・・・・・』
二人のあいだに緊迫した空気が漂う。僕は思わず、唾をゴクリと飲み込んだ。
しばらくの沈黙を経て・・・戦端を開いたのは紅葉先輩だった。そのトレードマークとも言うべき長い黒髪を手で梳き、満を持して彼女が反撃を開始した。
-------------------------------------続く--------------------------------